「UAEによるOPEC脱退と揺らぐ産油国協調」 中東フラッシュレポート(2026年4月後半号)
調査レポート
2026年05月22日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2026年5月12日執筆
1.UAE:OPEC脱退と揺らぐ産油国協調
4月28日、アラブ首長国連邦(UAE)は、5月1日付でOPECおよびOPECプラスから脱退すると発表した。サウジアラビア、イラクに次ぐ主要産油国であるUAEの離脱は、OPECの結束や市場調整能力に影響を及ぼす可能性がある。
UAEは、2027年までに日量500万バレル規模への原油生産能力拡大を進めており、OPEC脱退によって増産戦略の柔軟性を高める狙いがあるとみられている。また、増加した石油収入を活用し、AI、宇宙開発、先端技術など「ポスト石油時代」を見据えた非石油分野への投資を加速させる方針を打ち出している。一方、サウジアラビアも「Vision 2030」の下で脱石油依存を進めているが、豊富な埋蔵量と低い生産コストを背景に、原油市場における長期的な市場主導権の維持を重視している。このため、増産余地の拡大を志向するUAEとの間で、ここ数年にわたり駆け引きが続いてきた。
近年、両国は内戦が続くイエメンやスーダンに加え、情勢が不安定なソマリアへの対応を巡っても、異なる勢力を支援するなど政策の違いを鮮明にしている。また、サウジアラビアは首都リヤドを地域の物流・金融ハブへ育成する方針を掲げ、外資系企業に対して地域統括拠点をリヤドへ移転するよう強く求めている。これにより、これまで湾岸地域のビジネス・ハブとして地位を築いてきたUAEとの経済競争も加速している。
加えて、従来の協調関係から競争色が強まる中、両国指導者間の関係変化も背景に、地域政策や経済戦略を巡る立場の違いが徐々に鮮明になっている。こうしたサウジアラビアとUAEの戦略的な温度差が表面化する中、今回のUAEによるOPEC脱退が突然表明された。今後、産油国間で「自国優先」路線が強まれば、GCC諸国内の政策協調にも影響を及ぼす可能性もある。
2.米国/イラン:停戦延長下で続く圧力と交渉
4月11~12日に行われたイスラマバード協議では、ホルムズ海峡と核問題を巡る対立が解消されず、包括合意には至らなかった。これを受け、米国は4月13日、イラン向け海上輸送に対する監視・規制措置を強化し、イラン側もホルムズ海峡における対抗措置を拡大した。イランはホルムズ海峡を国家安全保障上の核心的利益と位置付け、米国による規制措置の解除を強く求めている。これに対し、米国はウラン濃縮活動の全面停止や高濃縮ウラン備蓄の引き渡しを要求している。
その後も、パキスタンやオマーンを仲介役とした間接的な意思疎通は継続された。イラン側は一定期間のウラン濃縮制限や海峡通航の安定化に言及し、米国側も制裁緩和や凍結資産解除を交渉材料として提示するなど、双方とも一定の妥協余地を探る姿勢を示した。しかし、最終的には実質的な譲歩には至らず、4月下旬に予定されていたイスラマバードでの米・イラン再協議も実現しなかった。
こうした中、トランプ大統領は4月8日から2週間としていた停戦期間の延長を一方的に表明したものの、イラン港湾に対する海上監視・規制措置は継続している。米国は引き続き、長期的なウラン濃縮停止や厳格な核開発制限をイラン側に求めているが、イラン側も制裁解除や損害賠償を要求し、ホルムズ海峡における影響力維持を譲っていない。ホルムズ海峡を巡る軍事的緊張や海運の混乱も続いており、原油市場や世界経済への影響は拡大している。現在も双方は新たな条件を提示しながら交渉継続を目指しているが、短期的な対立解消の見通しは依然として不透明な状況が続いている。
3.米国:対イラン戦争が露呈した米軍ミサイル在庫問題
4月21日、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、「イラン戦争停戦時における主要弾薬の状況」と題する報告書を公表した。同報告書では、2月28日から4月8日の停戦までの約40日間で、米軍が大量のミサイルを消費した実態を分析している。精密打撃ミサイル(PrSM)は保有数90発のうち40〜70発が使用され、弾道ミサイル迎撃用のTHAADは360発中190〜290発、防空用パトリオット・ミサイルは2,330発中最大1,430発が消費されたと推定された。
また報告書は、米国防総省が2026年1月以降、ミサイル生産能力の拡大を進めているものの、実際の納品までには最大5年程度を要するケースもあると指摘している。そのため、今後数年以内に台湾海峡や中東などで新たな大規模紛争が発生した場合、米軍が深刻なミサイル不足に直面する可能性があると警告した。
4.中国/中東:イラン情勢下における中国の対応
中国は、米国とイスラエルによる対イラン軍事行動に反対する姿勢を示しているものの、全面的な介入を避けつつ限定的な関与姿勢を維持している。その背景には、サウジアラビアやGCC諸国との良好な関係維持、ホルムズ海峡を通過する海上物流の安定確保、さらにイランとの関係や将来的な対イラン・ビジネスの余地を残したいという複数の利害が存在する。また、中東で米国の軍事的負担が増大することは、結果としてアジアへの関与低下につながり、中国にとって相対的に有利に働く可能性があるとの見方も出ている。
一方で、中国は中東地域での影響力拡大を着実に進めている。4月には習近平国家主席とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が電話会談を行い、その後、UAEのハーリッド・アブダビ皇太子が北京を訪問した。中国とUAEは、金融、AI、インフラ分野を中心に24件の協定・覚書を締結し、人民元建て取引や金融協力の拡大を進めている。中国は、石油取引を通じた人民元の国際化や、SWIFTに依存しない決済システム「CIPS」の利用拡大を推進しており、湾岸諸国との関係強化を通じて、経済・金融面での存在感の拡大を図っている。特に、通信インフラやAI、港湾開発などの分野における中国とUAEの協力拡大については、米国が安全保障上の懸念を繰り返し示してきた経緯がある。
また、十分な事前調整を行わずに空爆や海上輸送規制措置を実施したトランプ政権に対し、一部GCC諸国では不満も広がっており、中国にイランとの停戦仲介で一定の役割を期待する見方も出ている。中国は2023年、当時国交が断絶していたサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した実績を持つ。ただし現時点では、中国は積極的な仲介役を担うというよりも、イランやGCC諸国との外交を通じて、水面下で静かな調整を続ける立場を維持している。
もっとも、中国は米国のような軍事同盟網や大規模な軍事展開能力を持たず、GCC諸国も依然として駐留米軍やパトリオット・ミサイル防衛網など、米国主導の安全保障体制に大きく依存している。中国としても、安全保障面での本格的な関与より、経済・エネルギー・金融分野での関与拡大を優先しているとみられ、中東では引き続き「安全保障は米国、経済は中国」という構図が維持されている。
5.イラク情勢
- 4月16日、イラク・トルクメン戦線の指導者モハメド・サマン・アガ氏(44歳)が、同国北中部キルクーク県の県知事に選出され、約100年ぶりにトルクメン系人物が同職に就任した。トルクメン人は人口約300万人とされるトルコ語系言語を話す少数民族であり、トルコ政府は同地のトルクメン人保護や支援を繰り返し訴えるなど、一定の影響力を有している。石油資源が豊富で、クルド自治区との境界に位置するキルクークは、アラブ人、クルド人、トルクメン人などを巡る複雑な民族問題に加え、領有権問題も絡む戦略的要衝であり、今回の人事は重要な政治的節目と受け止められている。
- 4月17日、世界大手格付会社の一つであるMoody's(ムーディーズ)は、「中東紛争に起因するイラクの信用力リスクの高まりを反映した」として、イラク政府の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」へ引き下げた。
- 4月26日付の現地紙Rudawによると、イラクの観光振興協会は、米国とイスラエルによる対イラン戦争の影響を受け、イラク全土のホテルやレストランの約60%が営業停止を余儀なくされていると発表した。空域閉鎖による旅行の中止などにより、観光・ホテル業界が深刻な低迷に直面しており、同国経済への大きな打撃となる可能性を警告している。
- 4月27日、5か月に及ぶ政治的膠着の末、実業家出身のアリ・アル=ザイディ氏(40歳)が新首相候補に指名された。同氏は銀行・金融学の修士号を有し、イラク弁護士協会の会員でもあるほか、豊富なビジネス経験を持つ。政治経験のない人物が首相候補に指名されるのは異例であるが、米国・イランのいずれからも強い反発を招きにくい「妥協型候補」とみられている。5月1日にはトランプ米大統領から異例の直接電話を受け、ホワイトハウスへの招待を受けたほか、西側諸国や主要アラブ諸国も同氏への支持を表明している。今後は、5月末の期限までに組閣にこぎ着けられるかが注目される。
- 米国は、親イラン民兵組織の影響力拡大を受け、イラクへの圧力を強化している。米国務省は、親イラン民兵組織指導者2人に関する情報提供に対し、それぞれ最大1,000万ドルの報奨金を設定した。これらの民兵組織は、2月末以降、イラク国内の米関連施設や湾岸諸国に対する攻撃を繰り返しているとみられている。さらに米政権は、イラク政府に対し親イラン勢力の弱体化を促す圧力の一環として、イラク向けのドル送金約5億ドルを停止したと報じられている。
6.リビア情勢
- 米・イラン対立の激化とホルムズ海峡情勢の悪化を背景に、リビア産原油への需要が急増した。4月の原油生産量は日量約143万バレルと10年以上ぶりの高水準に達し、リビアは欧州向け代替供給源として存在感を強めている。イタリア政府もリビアのガス部門への関与を拡大するなど、エネルギー分野での協力強化を進めている。
- 4月24日、リビアのアブ・シハ経済相は日本の新村駐リビア大使と会談し、エネルギーやインフラ分野を中心に、日本企業に対して今後の公共入札への参加を呼びかけた。双方は、経済・商業関係の強化に加え、アジア太平洋市場との連携拡大について協議したほか、投資環境の安定化や透明性向上に向けた覚書締結の可能性についても意見交換を行った。
- 4月26日、リビア中央銀行は商業銀行の経営陣との合意を受け、5月3日から約10年ぶりに個人向け米ドル現金直接販売を再開すると発表した。中央銀行による為替市場正常化策や外貨税廃止、統一予算合意などを背景に、闇市場におけるリビア・ディナール(LD)相場は急回復しており、対ドル相場は3月中旬の1ドル=11LD前後から、4月下旬には約8LDまで約40%上昇した。さらに、イラン情勢を受けた原油価格の上昇も輸出収入を押し上げ、外貨流動性の改善に寄与している。
以上

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