「イラク議会、ザイディ首相率いる新内閣を承認」 中東フラッシュレポート(2026年5月前半号)
調査レポート
2026年05月26日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2026年5月21日執筆
1.米国/イラン:停戦・和平交渉の進展は限定的
5月10日、イランは米国から提示された停戦・和平案への回答を、仲介国パキスタンを通じて送付した。しかし、トランプ大統領はこれを自身のSNSで「全く受け入れられない」と批判し、即座に拒否した。
報道によれば、イラン側は、①戦争終結と再発防止の保証、②ホルムズ海峡の海上安全保障と新たな管理体制、③核問題および高濃縮ウラン備蓄に関する協議、という段階的交渉を提案している。一方、米国側は、少なくとも12年間のウラン濃縮停止に加え、60%濃縮ウラン約440kgの引き渡しを要求しており、双方の立場には大きな隔たりがある。
米国によるイラン港湾封鎖はイラン経済に深刻な打撃を与えているものの、イラン側は一定の経済的耐久力を背景に譲歩を拒否しており、逆にホルムズ海峡封鎖を戦略カードとして活用している。米中央軍はイラン向けタンカーへの攻撃を実施しており、イラン側も外国船舶への通航規制や報復警告を強化していることから、海上衝突リスクは依然として高い状況が続いている。
また、湾岸諸国周辺ではドローン関連事案も相次いでいる。カタール、クウェート、UAEはいずれも自国領空内で複数のドローンを確認したと発表しており、カタールでは5月10日、領海内で貨物船にドローンが衝突し火災が発生した。短期的には、全面的な緊張緩和よりも、限定的な衝突を伴う「管理された対立」が継続する可能性が高い。
2.米国/サウジアラビア:米軍船舶護衛作戦が短期間で停止した背景
5月4日、米国がホルムズ海峡で船舶護衛作戦「プロジェクト・フリーダム」を開始したが、開始からわずか36時間で事実上停止に追い込まれた。
背景には、米国と湾岸諸国との深刻な意思疎通不足と、地域諸国の対イラン戦争への強い警戒感があったとされる。米報道によれば、トランプ大統領は湾岸同盟国への十分な事前調整を行わないまま、自身のSNS上で突然作戦開始を発表した。
これに対し、サウジアラビアのムハンマド皇太子兼首相が強く反発し、米軍による国内基地使用や領空通過を認めない方針を通告。クウェートも同様の対応を取ったという。
トランプ大統領は「交渉に大きな進展があったため作戦を停止した」と説明したが、実際には、サウジ側の協力拒否によって必要な空域アクセスを失い、作戦継続が困難になったことが主因だったとの見方が強まっている。
3.イスラエル:ベネット元首相が政権奪還を目指す
5月12日、イスラエルのベネット元首相は、新たな政党連合「Together」の立ち上げ集会で演説を行った。
同連合は、4月26日に中道政党「イェシュ・アティド」のラピード党首を副代表に迎えて発足した中道・右派連合であり、ネタニヤフ政権打倒を目指している。
両氏は2021年にも、それぞれの政党を含む8党連立政権を率いてネタニヤフ政権から政権を奪取したが、連立内部の調整難から約1年で崩壊した経緯がある。
もっとも、現在の世論調査では、「Together」が単独過半数を獲得する可能性は低いとみられており、政権樹立には2021年同様、アラブ系政党などの協力が必要になる可能性が高い。
4.UAE/イスラエル:ネタニヤフ首相が戦争中にUAEを訪問していたことが判明
5月13日、イスラエル首相府は、米・イスラエルとイランが交戦していた時期に、ネタニヤフ首相がUAEを極秘訪問し、ムハンマド大統領と会談していたことを明らかにした。
報道によれば、両者は3月26日、オマーン国境に近いUAE東部アル・アインで数時間にわたり協議を行ったという。また、イスラエルの情報機関モサドやシンベトの長官も複数回UAEを訪問していたとされる。
これに対し、UAE外務省は「全く根拠がない」として全面否定した。一方、イランのアラグチ外相は、「イラン治安機関が把握していた内容と一致する」と述べ、「イスラエルと結託した者は責任を問われることになる」と自身のXに投稿した。
報道では、UAE側はネタニヤフ首相の訪問およびムハンマド大統領との会談について秘密保持を求めていたとされるが、ネタニヤフ首相は選挙を控えた国内政治上の事情から公表を決断したとの見方が出ている。
ネタニヤフ首相は、2020年のアブラハム合意以降、複数回にわたりUAE訪問を模索してきたが、さまざまな事情によりこれまで実現していなかった。
5.イラク情勢
- 5月7日、石油省は、ナジャフ近郊で推定埋蔵量88億バレルに及ぶ巨大油田が新たに発見されたと発表した。
- 同日、米財務省は、イランによる制裁逃れの石油密輸を支援したとして、イラクのアリ・マアリジ・アル=バハドリー石油副大臣を制裁対象に指定した。米側は、同氏がイラン産原油をイラク産として輸出する密輸ネットワークに関与し、親イラン武装組織や革命防衛隊とも関係を有していたと主張している。今回の制裁は、イラク新政権に対し、イラン系勢力を国家中枢から排除するよう圧力を強める姿勢を示したものであり、石油相候補として名前が挙がっていたバハドリー氏をけん制する狙いもあったとみられる。
- 5月9日には、イスラエルがイランへの空爆支援を目的として、2月から3月にかけてナジャフ東部の砂漠地帯に秘密の軍事前哨基地を設立していたと報じられた。同基地については、地元住民が不審な動きを通報し、現場に向かったイラク軍部隊がイスラエル軍から激しい攻撃を受け、イラク軍兵士1人が死亡したとされている。
- 5月14日、イラク議会は新首相アリ・アル=ザイディの内閣を承認した。石油、財務、外務など主要ポストを含む14人の閣僚が承認され、フセイン外相は留任した。石油相には石油省出身の技術官僚バシム・モハメド氏が起用され、エネルギー政策および財政運営の安定継続が重視された。一方、内務・国防など9ポストについては政治対立が続いており、採決は5月下旬の犠牲祭休暇後へ先送りされた。ザイディ新政権に対しては、米国とイランの双方が支持を表明している。米国は、イラン系武装勢力の影響力抑制を条件に協力姿勢を示し、対テロ支援継続の方針を明らかにした。一方、イランのアラグチ外相も祝意を表し、イラクとの関係強化を「外交上の最優先事項」と位置付けた。ザイディ政権は今後、米国とイラン双方との関係維持という難しい舵取りを迫られる見通しである。また、クルド自治政府も新政権発足を歓迎し、バグダッドとの関係改善に期待を示した。
- ホルムズ海峡封鎖の影響により、イラクの原油輸出・生産は大幅減少している。代替輸出ルートは、クルド自治区からトルコへ向かうパイプラインやトラック輸送に限られており、電力・ガス供給や財政への圧力が強まっている。貯蔵容量の逼迫に伴い、平均原油生産量は4月時点で日量130万バレル、5月中旬には日量65万バレルまで減少したと報じられている。米イラン関係が改善しない場合、経済悪化が長期化する可能性が高い。
- 4月の原油輸出詳細: 輸出額 10.9億ドル、輸出量は日量 32.9万バレル、平均単価は109.98ドル/バレル
- 犠牲祭に伴い、すべての政府省庁および公的機関は5月26日から30日まで休業となり、5月31日から業務を再開する予定。
6.リビア情勢
- 国民統一政府(GNU)のドゥベイバ首相は、5月6日から7日にかけてローマを訪問した。メローニ首相との会談では、密輸、不法移民、組織犯罪対策に加え、エネルギー安全保障などについて協議が行われた。
- 5月6日、石油省は、2030年までにガスフレアリング(石油採掘時に発生する随伴ガスを燃焼処分する行為で、環境負荷が大きいとされる)を終了することを目指す、世界銀行主導の国際的取り組みに参加すると発表した。リビアでは2024年、採掘時に発生した天然ガス約63億立方メートルがフレアリングによって廃棄されており、その経済損失は推定で約6.5億ドルに上る。
- 5月8日、トルコのギュレル国防相はイスタンブールで、リビア東部のサダム・ハフタル・リビア国民軍(LNA)副司令官と、GNUのアル・ズビ国防省次官の双方と会談した。トルコは近年、リビア東西勢力との軍事関係強化を進めており、両陣営は4月から5月にかけてトルコで実施された国際戦術演習「EFES 2026」にも参加した。
- 国営石油会社(NOC)によると、4月の原油総生産量は約4,160万バレル(日量約139万バレル)だった。また、同月の輸入燃料費は9.17億ドルに達し、前年同期比で約56%増加したと発表した。
以上

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