東北経済の現在地と、今後の成長を考える
2026年10月30日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
菊井 彩乃
経済部 チーフエコノミスト 鈴木 将之
シニアエコノミスト 菊井 彩乃
概要
- 東北経済は、激変する世界の荒波の中にある上、人口減少など日本経済が直面する課題にいち早く取り組む必要に迫られている。そのような東北経済だからこそ、今後の日本経済のあり方を模索する上で重要なヒントになる。
- 東北経済を生産・分配・支出面から見ると、30兆円超の資金が動いている。ただし、東北からの輸出は直接ではなく、関東を経由している。川上の原材料から加工生産物まで多くの品目が関東に向かい、供給網を深化させてきた。産業別に見ると、農林水産業や鉱業、電子部品、電力産業が競争力を持っている。地域内でも宮城県がハブの役割を果たしており、各県の競争力や魅力はこれまでの歴史や地理的な要因から異なっている。
- 東北経済がさらに発展するために、生産・分配・支出の循環の拡大が不可欠であり、地域内に流入した人材を活用して「支店経済」を強みに変え、関東をテコに国内他地域や北米など海外に打っていくことがますます重要になっている。
- 更なる成長を考える上で、東北経済の国際化の推進、とくにインバウンド消費も重要だ。訪日観光客は増加しているものの、国内他地域に比べるとまだ伸びる余地が大きい。広大な地域の移動や宿泊場所など課題はあるため、リピーター客のうち長期観光客が周遊できる仕組みづくりが成長のカギとなる。
- 足元の東北経済は、緩やかに回復している。ただし、物価高騰の悪影響が大きいことが懸念される。物価高騰に伴って実質購買力が損なわれ、個人消費が弱い状態が継続している。2026年2月末以降の中東情勢の緊迫化によって原油などの輸入価格は上昇しており、当面、個人消費への下押し圧力がかかり続けることが懸念される。
1.東北経済の現状
ここでは、東北経済の現状と今後の成長について考えてみる。
三面等価から見た東北経済
東北経済を三面等価の視点から整理すると、生産面では33.1兆円の原材料(中間投入)を使って、69.6兆円の財やサービスなどを生産する過程で、36.5兆円の付加価値を創出している(図表①)。その付加価値は、労働者の給料にあたる雇用者報酬が17.2兆円、企業の利益や自営業主の所得などが7.1兆円、減価償却に相当する固定資本減耗が9.5兆円、税金の支払いと補助金の受取の差額が2.7兆円となっている。これが東北経済を動かす原動力となっている。
分配面では、そうした所得に、東北の県内居住者が県外で受け取った所得を加え、県外居住者が県内で受け取った所得を差し引いた県民雇用者報酬は17.2兆円となる。そこに預貯金などの利息など財産所得などが加わり、年金給付など経常移転の純受取もあり、所得税や社会保険料を除いた県民可処分所得は31.6兆円となる。この県民可処分所得が支出に回る。
支出面では、この所得のうち一部は貯蓄に回り、残りは支出に配分される。もちろん、支出の資金源は所得の一部に加えて、貯蓄の切り崩しや借金も加わる。個人消費に相当する民間消費が21.0兆円、政府消費が6.8兆円、民間企業投資や住宅投資などの民間総固定資本形成が8.0兆円、公共事業にあたる公的総固定資本形成が2.7兆円、域内外の移輸出入は▲1.1兆円となる。こうした支出すなわち需要を満たすために、生産活動が行われており、生産、分配、支出に資金が巡り巡って、東北地域の経済活動となっている。
こうした経済活動は、東北地域のどこで行われているのだろうか。ここでは、市町村別の人口と旅客・物流の大動脈となる高速道路と新幹線の経路を確認してみた(図表②)。そもそも昔からの幹線道路(街道)の近くに人が多く住んでいるのか、それとも人が多く住んでいるからそこを道路や鉄道で結んだのか、その両面があることは事実だろう。しかし、人が多いということは、そこが消費などの需要地であるとともに、近くに工場や商店などの生産拠点や事業所がある可能性が高い。
人口100万人の仙台市のほかにも、各県には20万人以上の都市があり、そこは道路や鉄道で結ばれており、そこで経済活動が行われていることが改めて確認できる。例えば、東北では、新幹線が各県を通っており、人口が多い都市が結ばれている。東京から仙台も比較的近く、交通の利便性が高い。こうしたところで今後も経済活動が行われていく可能性が高い。人口減少が顕著な東北地域でも、こうした都市を軸に今後の経済・社会、ビジネスを考えていくことになるのだろう。
移輸出入の構造
国内外のつながりという点から、東北地域の貿易動向を確認しておく(図表③)。2025年の東北地域の輸出額は8,245億円だったのに対して、輸入額は2兆5,029億円であり、貿易収支は▲1兆6,784億円の赤字だった。貿易赤字の構図が継続しており、2020年を除き2018年以降、1兆円を上回る赤字額が継続している。
輸出額では、電池(1,241億円)や原動機(876億円)、ゴム製品(797億円)、石油製品(563億円)、非鉄金属(490億円)などが多かった。それに対して、輸入額では、金属鉱・くず(3,984億円)や原油・粗油(3,940億円)、石炭(3,929億円)、液化天然ガス(2,092億円)、魚介類・同調整品(1,146億円)などが多く、エネルギー関連が目立っている。輸出では加工品、輸入では川上の原材料が多いという特徴がある。また、魚介類・同調整品など水産品を輸入し、加工して国内に移出、海外に輸出する産業の大きさはこの地域の特徴の1つだろう。
港別に見ると、隣接する工場の影響が色濃く見られており、例えば、仙台塩釜港から電池(1,051億円)やゴム製品(752億円)、石油製品(544億円)が輸出され、原油・粗油(3,940億円)や魚介類・同調整品(843億円)、液化天然ガス(773億円)が輸入されている。小名浜港から電池(189億円)や非鉄金属(150億円)が輸出され、金属鉱・くず(2,870億円)や石炭(1,219億円)が輸入されている。相馬港から原動機(687億円)が輸出され、石炭(1,628億円)や液化天然ガス(928億円)が輸入されている。酒田港からは電算機類の部分品(196億円)や半導体等電子部品(49億円)などが輸出され、電算機類(433億円)や石炭製品(201億円)などが輸入されている。
ただし、これらの輸出入はそれぞれの港で計上されるため、例えば、東北で生産されたものが関東など他地域に輸送され、そこから輸出される場合もある。また、東北で生産されたものが他地域で加工されて、輸出される場合もある。そのため、東北地域の貿易収支が赤字であっても、供給網の一部を切り取ってみており、全体像を見誤っている可能性がある。
実際、貨物の動きを見ると、自地域内の流動が大きい中で、「関東から東北へ」や「東北から関東へ」など地域をまたぐ動きも見られる(図表④)。東北から関東への純流動(始点から終点まで、間の経由地を除く流動)において構成比が大きい品目として、例えば、米や野菜・果物、水産品など食料品関連、石灰石や木製品、製材、紙などの原料品、産業機械や電気機械、自動車部品など加工製造品など幅広い品目が挙げられる。
川上から川下まで幅広い品目が東北から関東に輸送される供給網が構築されている背景には、東北に非鉄金属精錬所や半導体工場、セメント工場などが立地しており、生産拠点になっていることがある。そこで生産された製品が、最終製品として消費財や投資財、生産過程で投入される中間財として、関東の港から輸出されている。
また、生産地別・船積港の構成比を見ると、東北で生産されたものが、そのまま東北の港で船積みされているわけではないことも分かる(図表⑤)。例えば、秋田県で生産された製品は同県内で船積みされる傾向が強い一方で、その他の県で生産された製品は東京港や横浜港で船積みされる場合が多い。
例えば、大型タンカーなどで海外に輸送される場合、そもそも大型船が寄港できる岸壁の大きさや水深を持つ港が必要になる。また、まとめて輸送する方がコストを抑えることができるため、時間をかけて輸送できるものについては船でまとめて送ることになる。それらの輸送上の観点から、東北から関東に製品が輸送されることも少なくない。そうした点を踏まえると、例えば、数量が増えれば東北から直接輸出する方がコストを削減できることもある。関東よりも東北から輸送した方が合理的ならば、その手段がとられるはずだ。そうした意味において、東北からの輸出にはまだ成長の余地がある。
産業の競争力
地域の産業競争力を測定することは難しい。ここでは簡便的に県内総生産の構成比を計算し、東北と関東で比べてみた(図表⑥)。東北の産業構成比が関東よりも大きければ、その産業が競争力を持っていたため、大きな構成比となっているとみなして、その東北の産業が関東の産業に比べて競争力を持っていると考えた。
これによると、農林水産業や鉱業、電子部品・デバイス、電気業などの構成比が相対的に大きく、競争力が高い可能性がある。前述のように、農林水産業や鉱業に関連する製品は相対的に多く東北から関東に流動していた事実も、競争力を裏付けている。また、電子部品・デバイスに関連する製品については、山形(鶴岡・酒田地域)や秋田(本荘・由利地域)、宮城県(北地域)に生産拠点があり、輸出も確認できるため、これも競争力を持っていると言える。その他、輸送用機械が宮城県(仙南地域)に、化学工業が福島県(郡山地域やいわき地域)や山形県(山形地域)に集積している。電気業については、秋田県の風力発電の拡大などもあって、秋田県や宮城県、福島県は需要量を上回る発電を行っている。AI・データセンターには、多くの電力が使用されるため、電気業の役割はこれまで以上に大きくなるだろう。
また、各県別に移輸出入からも、それぞれの産業構造や競争力が見えてくる(図表⑦)。例えば、宮城県では、商業や輸送・郵便などで移輸出超過額が大きい。広義のサービス業で東北地域をはじめとして県外にサービスが移輸出されている様子がうかがえる。宮城県、特に仙台市が東北地域の中心的な都市であるため、そうした機能を担っていると考えられる。また、青森県の非鉄金属や飲食料品、岩手県の一般機械や輸送機械、秋田県の電子部品、山形県の電子部品や化学製品、福島県の情報通信機械や業務用機械など製造業の生産拠点になっている姿も読み取れる。産業の集積地となっており、それが県内需要を上回る生産活動に従事し、他地域との分業を行っていると言える。また、秋田県や福島県の電気・ガス・熱供給の大幅な移輸出超過も特徴として挙げられる。
その一方で、宮城県では化学製品や鉱業、金融・保険などでは移輸入超過となっている。移輸入超過では、石油・石炭製品や化学製品、情報通信、対事業所サービスが目立っている。石油・石炭製品では例えばガソリンなどの製油所が県内にないため、移輸入せざるを得ないことや、化学製品などでは医薬品など県を超えて分業を行っている一面もある。その一方で、対事業所サービスの移輸入超過には、本店などがその機能を担い、支店などが購入している姿が想定され、県外に本社を持つ企業の支店・支社の地域経済における存在感が大きい「支店経済」の側面も表れている。これらの競争力を持つ産業を中心に、関東の生産や経済力を利用して、東北経済が成長していく視点で考えることも重要になるだろう。
各県の産業構造に特徴を見出すために、産業連関分析に基づいて、産業ごとの影響力係数(他産業の生産に及ぼす影響力の相対的な大きさ)と感応度係数(他産業の生産活動から受ける影響力の大きさ)を計算してみた(図表⑧)。
まず、右上(影響力係数と感応度係数がともに1より大きい領域)には、電気・ガス・熱供給や金融・保険、運輸・郵便・情報通信が存在していることは各県で共通している。この領域に位置している産業は、供給網において他産業との関連が深いと言える。異なっているのは、農業(山形)、林業(山形と岩手、福島)、パルプ・紙・加工品(宮城、山形、福島、青森)、電子部品(青森)、建設(福島)、対事業所サービス(宮城)があることだった。農林業が山形や岩手、福島で盛んであること、福島で復興事業が進んでいることなどから建設業の存在感が大きいこと、宮城が対事業所サービスの東北地域のハブになっていることなどがうかがえる。
左上(影響力係数<1、感応度係数>1)の領域の産業は、他産業の生産に影響されやすい特徴がある。県によって状況が異なっている中でも、似ている点も多い。この領域の産業として、建設(宮城、山形、青森、秋田)、商業(山形、福島、岩手、青森)、不動産(宮城、福島、岩手、青森、秋田)、対事業所サービス(宮城以外)が挙げられる。建設や不動産が多く位置している。建設や不動産の最終需要は設備投資であり、これらの産業が生み出すサービスが他の産業の生産過程に投入される構図を表している。また、商業では、卸売や小売マージンなどであり、財やサービスが取引される部分では必ずと言ってよいほどマージンがつく。対事業所サービスは、そもそもサービスであるため、その生産工程に投入される原材料は少ない一方で、対事業所サービスが他産業の生産活動に付随する中で投入されているため、他産業からの影響を強く受けることになる。
左下(影響力係数<1、感応度係数<1)の領域には、漁業や繊維製品、石油・石炭製品、非鉄金属、金属製品などの素材型製造業や、電子部品(青森以外)、一般機械、輸送機械など加工組立型製造業が多く位置している。また、公務、教育・研究、医療・福祉などのサービス業もある。異なる点としては、農業(青森)、林業(宮城と青森)や不動産(山形)などが位置していたことだった。
右下(影響力係数>1、感応度係数<1)の領域には、鉱業や飲食料品、窯業・土石製品、水道、対個人サービスが位置している。農業(宮城、福島、岩手、秋田)、畜産(宮城、岩手、青森)、鉄鋼(青森)、事務用機械や電気機械(青森)などがある。このように、宮城が東北地域のハブとしての役割を担っていることや、農林業やパルプ・紙など加工品、青森の産業構造が他県とはやや異なっているように見える。
この話は、供給網をどのように構築していくのか、という点と関連している。例えば、農林水産品をそのまま移輸出するのか、それを加工して食料品として付加価値を域内に生み出した上で移輸出するのかということが挙げられる。外から組立工場を誘致しても、その工場が原材料を東北域外から移輸入していては、東北地域の供給網は深化しない。東北の企業が生産した原材料や部品が、組立工場で使われるようにならないと、供給網は広がらない。影響力係数や感応度係数が高まるように、域内供給網の中にいかに組み込んでいくのか、東北の企業が生産工程にいかに関与していくのかという視点も、今後の東北経済の成長にとって欠くことのできない視点だと考えられる。
2.東北経済の成長
次に、今後の東北経済の持続的な成長について考えてみる。
三面等価から成長を探る
生産面では、設備投資の蓄積と人材の活躍が重要となる。半導体などを中心に設備投資が増加している一方、地元企業がそうした供給網に上手く関与できないケースも少なくない。大規模な生産・輸出拠点となれば、その工場では納入される原材料・部品の品質と量が問われるためだ。グローバル企業の工場を誘致しても、地元経済への波及効果が限られることになりかねず、地元企業もともに成長していく仕組みが必要となる。例えば、国際卓越研究大学の東北大学をはじめ、国公私立大学、高等専門学校があり、産学連携を強化し、スタートアップ企業を育成し、地元企業を巻き込んでともに成長していくことだろう。もっとも、スタートアップ企業など最先端技術を活用する部分と、その供給網にあるはん用的な技術を活用する部分などが同時に成長するわけではないため、支援策や投資は息の長いものとなる。
生産面が充実することで、それは分配面にも反映される。前述のような取り組みが進展すれば、大学入学のために東北地域に流入した若年層を逃さないような給与・待遇を確保できる企業が増えるだろう。東北地域ですでに女性の就業率が高い中で、飲食や介護など生活に密着し、必要不可欠な産業の重要性はもちろんのこと、高い給与を稼げる産業も重要となる。これまで東北地域で大学が多い宮城県に大学入学などをきっかけに若者が流入しているにもかかわらず、それ以上の人数が卒業時に宮城県から流出し、関東地域など東北地域外に向かっていることが課題だった。例えば、対事業所サービスの移輸入が多かったことを踏まえると、それらの分野のビジネスを東北に移管することが一案だろう。しかし、顧客数を含めて市場の厚さなど課題もある。働き手も減少している中では、AIなどのデジタル技術を積極的に導入していく実験場として、活用していく視点も重要になる。そこでつかんだヒントを他地域に展開する、という移輸出ビジネスにつながることもありうる。
分配面が充実すると、それが個人消費をはじめとする支出の拡大につながる。付加価値がどの支出項目によって誘発されているのかを見ると、県内需要がおおむね6~7割程度、県外需要(移輸出)がおおむね3~4割となっている(図表⑨)。移輸出には県外といっても東北地域内の県も含まれているものの、移輸出、とくに輸出を考えていくことが欠かせないだろう。また、AIやデジタル技術の導入には関連する設備やソフトウェアへの投資が欠かせず、それが支出の拡大の一翼を担うこととなる。その支出(需要)を満たすための供給(生産)も拡大することになり、三面等価から見て資金が東北経済を駆け巡ることになる。
新たな供給網の構築を見据えて
そのように変化していくきっかけはあるのかと問われると、現在はまさに変化の時期にあると考えられる。例えば、2月末からの中東紛争の激化をきっかけに、ホルムズ海峡が事実上封鎖されるなど、供給網を見直さざるを得なくなっている。これまでも、米中貿易摩擦に加えて米国の関税政策などもあり、経済安全保障が注目されて、「ヒト・モノ・カネ・情報」を確保し、ビジネスを継続するために供給網を見直さなければならなくなった。
この経済安全保障という制約が加わったことで、ビジネスの最適解は変化しており、新たな供給網の構築が模索されている。ビジネスのルールが大きく変化する状況では、従来競争力を持っていたものがそれを失ったり、反対に競争力がないと思われていたところが見直されたりするなど、ビジネスのあり方自体が変わってしまう可能性がある。これは大きなチャンスであるのと同時に、大きなリスクであり、状況判断や意思決定がこれまで以上に重要になっている。
こうした中で、東北経済の特徴である「支店経済」を上手く活用していくことが成長のための1つの鍵となる。主要な都市の純付加価値額(減価償却を除く)を見ると、仙台市は支所・支社・支店の割合が7割弱と、他地域に比べて高い(図表⑩)。関東との距離が近いことから、支店が多くなっているようだ。単独事業所や本店であれば、自ら判断する一方で、支店では本店の意向を聞いた上で判断するケースもある。それゆえに意思決定に時間がかかる場合も少なくない。
その意思決定スピードの遅さは、支店経済の欠点とも指摘されている。しかし、見方を変えれば、本店との距離感が近く、意思疎通をしやすいという長所とも言える。支店から本店への情報共有のためには、東北が主体となって、日頃の情報共有体制とともに、本店の力を活用できるような支店の人材、支店の力を理解している本店の人材を確保しておくことも重要になる。東北地域の支店が単体で行うよりも、本店を巻き込むことで力強い対策をとることができる可能性があり、それが三面等価から見た成長を揺り動かすきっかけになり得る。
視点を変えて考える
このような観点から、東北経済を振り返ってみると、アジアに隣接している九州に対して、米国やカナダなど北米に相対的に近いという地理的な状況が長所に見えてくる。東北地域の地図は北に青森県、南に福島県を配置したものが多い。それは現状を表していると言えば、そうであるものの、東北地域の可能性の見方を狭めている恐れがある。そこで、別の視点から東北地域を見て考えを巡らせることも一案だろう(図表⑪)。ここでは、主要な海外需要先や輸入元として北米や南米を想定して、それらの市場が眼前に広がるように地図を回転させた。また、右手には豪州やNZが位置しており、そこからの資源とエネルギーの輸入や、日本からの加工製品の輸出が見えてくる。また、日本国内に目を転じると、左手にある北海道と、右手にある関東地域を結び付ける役割を東北地域が担うことになる。言い換えると、これらの国・地域の供給網の中に東北地域があり、それらの中で成長していくことを意識したものと言える。
太平洋で隔たっており、距離がある。しかし、その間にはチョークポイントなどヒト・モノ・カネ・情報にとってリスクになるものが少ない。もっとも、関税政策などをはじめとして、その米国自体がリスクの根源とも言える現状ではあるとはいえ、今後とも成長が続く有望な市場であることは間違いないだろう。また、カナダやメキシコは米国との関係を見直す中で、日本との関係をより重視する可能性がある。そうした北米需要を取り込んでいく上では、東北地域を起点として北米との輸出入の重要性はますます高まりそうだ。
そのときの意思決定において、支店経済であり、本店との距離感が近いという長所を生かし、本店を巻き込んでより強力な供給網の構築を急ぐこともできるはずだ。課題先進地域で必要とされるビジネスは、日本国内の他の地域でも必要とされるはずだ。日本よりも急速に高齢化が進み、社会保障制度が完備されていない海外でも需要が強いはずだ。そうした製品やサービス、ビジネスモデルを構築するためにも、東北経済から見ると関東経済をテコに使いつつ、海外経済などにも目を向けていくことも重要なのかもしれない。
3.トピック1:東北経済の国際化
今後の成長源の1つとして、人口減少によって需要縮小が見込まれる東北では、「サービスの輸出」として、インバウンド需要の取り込みも期待される。東北は豊かな自然をはじめ、伝統的な祭り、日本酒や農林水産物などの食、地域ならではの体験など、多種多様な地域資源を有している。
昨今の円安基調を背景に日本全体のインバウンドは活況で、東北も同様に伸びてはいるものの、全国に占める割合は2025年でも2019年のコロナ禍前と同じ1.6%と低水準にとどまっており、成長の余地は大きい(図表⑫)。2025年の東北への訪日外国人延べ宿泊者数は282万人泊と、2024年比で+23.8%増加し、過去最多を更新した。一方、日本人も含めた東北の延べ宿泊者数は3,838万人泊で、その内インバウンドは7.3%に過ぎない。この割合は、全国10運輸局区分で最も低い(最も高いのは近畿で38.3%、次いで関東で35.8%)。
初回来日時には東京・大阪・京都などを訪問先に選ぶことが多い一方、東北には日本への来訪回数が3回以上の旅行者が2025年で71.7%を占め、この割合は東北が全国で最も高く、リピーターが多いことが特徴として挙げられる(図表⑬)。さらに、2025年に東北を訪れた外国人の38.9%が旅館またはリゾートホテルに滞在しており、この割合は沖縄(36.8%)を上回って最も高い。都市部に比べて宿泊先の選択肢が限られるという点はある一方、都市部とは異なる体験を望むリピーターの訪日客などに対し、東北への訪問が提供できる価値は大きい。
2025年の東北のインバウンド旅行消費額(全目的)は1,063億円で、2024年比+43.1%と大幅に増加した。県別では、宮城県が475億円と東北全体の44.7%を占め、秋田県が45億円と最も少なかった(図表⑭)。仙台空港という起点があり、日本三景の松島などの観光地を有する宮城県への集中が顕著で、他県への波及が課題となっている。
インバウンド旅行消費額の内訳を三大都市圏と比べると、東北各県では飲食費(旅館での宿泊費に飲食代が含まれているケースもある)や買物代の割合が小さい傾向がある(図表⑮)。そのため、東北の豊富な地域名産品を打ち出すことで、飲食費や買物代への支出を増加させ、消費額全体を押し上げることが期待される。実際、観光・レジャー目的に絞った場合の2025年の東北の1人あたりインバウンド旅行消費単価は9万8,321円(2024年比+18.9%)(図表⑯)と、他の運輸局区分と比べると中ほどの額にとどまっていることから、さらなる拡大の余地がある。
2026年に民営化から10年が経過した仙台空港には、台湾や香港との国際定期便が就航していることから、東北へは台湾、香港からの訪日客が多い。2026年1~7月の延べ外国人宿泊者数における市場別の割合では、台湾が45.7%、中国が10.2%、香港が6.6%で、この3市場で6割以上を占める。ただし、距離的に近い東アジアからの訪日客の滞在期間は短く、それに伴い滞在中の消費額が少ない傾向がある。東北は広大な土地に観光地が点在しているため、周遊するのに時間がかかり、各地を短期間で効率的に観光したい人にとって訪問先として選ばれづらい。欧米豪などからの長期旅行者を呼び込むことに加えて、複数の地域を周遊しやすい仕組みづくりによって観光客を増やし、消費額を拡大させることが期待される。
なお、「サービスの移出」の一部となる東北への日本人延べ宿泊者数は、2025年に2024年比で39万人泊(▲1.1%)減少した。この減少は2025年の東北への訪日外国人延べ宿泊者数(282万人泊)の13.7%に相当する。2025年は市街地でも熊の出没が相次ぎ、旅行先として敬遠された影響もあるとみられる。登山や温泉など、豊かな自然の中のアクティビティを強みとする東北にとって、旅行者に対しても、熊出没に関する正確な情報発信と危機管理が求められる。
4.トピック2:東北経済の足元の景気
以下では、足元の東北経済の状況について確認しておく。東北経済は、緩やかに回復している。東北地域の実質GDPに相当する実質域内総生産はならしてみれば、日本全体とおおむね同じような動きをしている(図表⑰)。復興需要が一服したところでコロナ禍に直面し、その後の物価高騰に見舞われた中で、経済は底堅く推移している。
2023年度の東北地域の成長率が跳ね上がっているのは、資源エネルギー価格の上昇が主因だった。資源エネルギー価格の上昇に伴って原材料高に直面した中で、販売価格の引き上げが遅れたことなどから、電気業のデフレーターが大幅に低下した影響が大きかった(図表⑱)。全体の域内総生産のデフレーターが上昇する一方で、県によって異なっており、電気業では4~8割程度低下した。これも東北地域における電力産業の存在感の大きさを示している一例と言える。このような域内総生産はGDPと同様に成長を含めて経済を総合的に把握できるけれども、速報的ではないという欠点を持っている。そのため、他の月次指標などによって地域経済の状況を把握しなければならない。
月次の経済指標を見ると、生産活動は持ち直している(図表⑱)。AI・半導体が世界的に盛り上がる中で、東北地域の電子部品・デバイスや半導体等製造装置が含まれる生産用機械の生産が拡大してきた。自動車も変動が大きかった中で、2022年半ばごろから生産水準を切り上げている。なお、化学・石油製品については、農薬や重油、軽油などの生産が足元にかけて増加してきた。
雇用・所得環境は、改善している。生産に伴って労働需要も緩やかに持ち直してきたこと、その一方で労働供給の制約が強まっていることもあって、需給バランスから賃金には上昇圧力がかかりやすくなっていた。また、2022年以降の物価高の中で生計費を確保するという社会的な要請が高まり、企業は賃金引上げに前向きな姿勢をとるようになった。さらに、行政も最低賃金の引き上げとともに、人件費のコスト転嫁などを促す制度設計を進めてきたこともあり、賃金の上昇ペースが速まった。依然として東北地域の名目賃金の水準はやや低い傾向にある。しかし、上昇率はならしてみれば全国平均とそん色ないものになっている(図表⑳)。言い換えると、賃金水準の差が残っていることになるため、今後はこの部分を埋めていくことが重要な課題となっている。最低賃金の引き上げが進んでいる一方で、ここ数年引き上げペースが急であるため、人件費の増加分の販売価格への転嫁なども課題となっている面もあるため、今後の推移が引き続き注目される。
こうした中で、個人消費は力強さを欠いた状態が続いていることが注目される(図表21)。全国の個人消費は2024年ごろから持ち直す動きを示していた一方で、東北の個人消費は緩やかに減少し、足元にかけて足踏み状態となっている。この点が、東北の景気に脆弱性をもたらす一因として懸念される。
個人消費が弱い要因として、物価高による実質購買力の低下が挙げられる。そこで、東北地域の消費者物価指数の上昇率の寄与度を全国平均と比べてみた(図表22)。2021年ごろから東北地域の物価上昇率が全国を上回り始め、2023年から2024年にかけて1%ポイント弱も高い時期が続いた。
内訳を見ると、光熱・水道や食料などが全国を上回る物価上昇の原因となっていた。光熱費の上昇に加えて、暖房用途などのための支出割合が多いことなどが、物価押し上げへの影響力を大きくした。物価上昇ペースが一服した後も、全国との物価上昇率の差は必ずしも縮まっておらず、物価高による実質購買力の低下の影響は、東北地域の方が全国よりも大きく残っていると言える。また、自動車利用が多いことも、物価押し上げ要因となる。現在は、ガソリン価格を1Lあたり170円に抑制する政策がとられており、それがなければ200円を超える小売価格になり得ることも懸念材料の1つとして挙げられる。
そうした影響もあって、景気の現状判断指数は鈍い動きを見せてきた(図表23)。2023年ごろから現状判断指数は全国を下回る動きを見せており、前述の物価高騰と時期がおおむね一致している。ガソリン価格が高止まりしてきた2026年以降も全国に比べて、東北地域の現状判断指数の持ち直しのペースは緩やかなものにとどまっている。これらを踏まえると、実質購買力が損なわれる一方で、消費者マインドも悪化することで、個人消費に対する下押し圧力が強まったと解釈できる。
域内総生産の半分以上を占める個人消費は実質購買力の低下から押し下げ圧力を受け続けており、なかなか回復していない点が、現在の東北経済にとって脆弱性として残っている。中東情勢が緊迫化してから、輸入する原油価格などが上昇しており、改善の兆しが見えないため、当面こうした傾向が続くことも懸念される。長期的な東北経済の成長を目指す一方で、物価高騰に伴う個人消費の弱含みという足元の課題にも同時に取り組んでいかねばならない。
以上
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