世界の移民の現状と経済的影響
2026年10月26日
住友商事グローバルリサーチ 経済部 戦略調査チームリーダー チーフアナリスト
大井 二三郎
はじめに
米国ではトランプ政権下で不法移民の送還等移民政策が強化され、欧州でも移民政策が選挙の争点の一つとなっている。日本でも外国人との共生の在り方を巡る議論が高まっている。一方で、先進国を中心に、外国人労働者は労働力不足への対応として、既に不可欠な存在となりつつある。国際統計から移民の現状を整理してみたい。
1. 世界の移民の現状
世界の移民人口は、1990年から2024年にかけて倍増し、3億人に達し、世界人口の3.7%を占めている(図表1。UNDESA[国連経済社会局]による出生国以外に居住する人口。移民に関する数字は特に記載のない限り2024年。ストックベース)。経済のグローバル化に伴う労働移民の増加のほか、国内治安の悪化等による移民も少なくない。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、2025年には難民数は42百万人にも達しており、国境を越えて移動している人々の1割以上が難民ということになる。
送出国は南アジア、中南米を中心としつつ地域的に分散している一方、受入国は北米、西・北・南欧、西アジアに集中している(図表2。西欧:フランス・ドイツなど、北欧:北欧・バルト諸国・英国、南欧:地中海沿岸諸国・ポルトガル、東欧:ポーランド以東。南アジアはイランまで含む。中南米にメキシコを含む)。国別に見ると、主な送出国はインド(19百万人)、中国、メキシコ(各12百万人)、ウクライナ(10百万人)、ロシア、シリア、バングラデシュ(各9百万人)である。一方、主な受入国は米国(52百万人)、ドイツ(17百万人)、サウジアラビア(14百万人)、英国(12百万人)、フランス、スペイン、カナダ(各9百万人)と続く。
地域間の移動では、中南米から北米(27百万人)、中央・南アジアから西アジア(20百万人)、欧州域内の東欧から西・北・南欧(15百万人)が大きいほか、東・東南アジアから北米、アフリカから欧州、中央・南アジアから欧州も各々10百万人を上回る(図表3)。二国間では、メキシコから米国が最大(1,128万人)で、それを含めて14の二国間移動が2百万人を上回っている。メキシコから米国、インドからUAEのように雇用機会や経済格差が移動の主な理由と見られるケースだけでなく、アフガニスタンからイラン、シリアからトルコのように紛争などの政治・社会情勢によるものも少なくない(図表4)。
2. 主な地域間移動の内訳
(1)米国、欧州、西アジアへの移民
米国と欧州、西アジアの国外・域外からの移民受入数はそれぞれ52百万人、49百万人、33百万人に達するが、それらの移民の出身地域には大きな違いがある(図表5)。米国への移民の約半分は中南米からの移民であり、メキシコだけで2割強(1,128万人)を占める。中南米以外では、インド(317万人)、中国(249万人)、フィリピン(226万人)が多い。欧州への移民の出身地は多様であるが、小地域ごとに特徴が見られる。西欧はアフリカや西アジアから、北欧は南アジアから、南欧は中南米やアフリカから、東欧は中央アジアからの移民が多い。西アジアへの移民は、約6割が南アジアからの移民であり、インドだけで25%(833万人)を占める。バングラデシュ(497万人)、パキスタン(388万人)も多い。アフリカからの移民も2割を占め、エジプトは12%(188万人)を占める。
(2)欧州域内移動
欧州では域内移動も多く、地域人口7.5億人に対し、域内移民は45百万人にも達している(域外からの移民は49百万人。再掲)。欧州を4つの地域(東欧、北欧、南欧、西欧)に分けると、東欧が14百万人の送出超、南欧が1百万人の送出超、北欧が4百万人の受入超、西欧が11百万人の受入超となっており、東欧・南欧から西欧・北欧へ移動する傾向が見られる(図表6)。また、ロシア・ウクライナ間では双方向で6百万人が相手国に居住している。
主な送出国は、ウクライナ(870万人)、ロシア(619万人)、ルーマニア(416万人)、ポーランド(392万人)であり、逆に受入国は、ドイツ(860万人)、ウクライナ(384万人)、英国(368万人)、ロシア(348万人)、イタリア(320万人)である。なお、ウクライナからの欧州域内移民は2020年時点では342万人であり、ウクライナ危機を挟んで4年間で約500万人増加している。
3. 受入国経済への影響(労働力供給)
各国を所得階層別に分類して移民の受入れ・送出し状況を比較すると、高所得国では大幅な受入超である一方、それ以外では送出超であり、人々がより所得水準の高い地域を目指して移動していることが表れている(図表7)。そのような動きは、各地域の労働市場における外国人労働者の比率でも確認できる。外国人労働者比率は所得水準の高い国々で高く、アラブ諸国では38%、北米で20%、北・南・西欧では17%に達している(図表8)。
経済的には、移民は受入国の経済を押し上げる要因と考えられている。IMFは世界経済アウトルック(2020年、2025年)の中で、移民との競合により一部の労働者がマイナスの影響を受ける可能性も指摘しつつ、移民受け入れは労働者数の増加や労働生産性の向上により受入国の経済成長を高めると分析している。また、グローバルな視点でも労働生産性の低い国から高い国への労働力移動は成長を押し上げるとし、一方で、移民・難民政策の厳格化は生産性向上と生産拡大の機会を妨げるとの見方も示している。
OECDは2025年の国際移民アウトルックで、新規移民の賃金は受入国の同年齢・性別の労働者に比べて34%低いという分析を示し、主な理由として賃金の低い産業・企業への就業割合が高いことを挙げている。このことは、そのような産業・企業において移民労働者への需要が強いことを示していると見ることもできる。
OECDは同じレポートで健康・医療分野にも焦点を当てており、これらの分野で外国人労働力の存在が大きくなっていることも指摘している。OECD諸国(19か国)では2021年時点で医師の28%、看護師の18%が外国生まれであり、特にオーストラリアでは外国生まれの医師の比率が5割を超え、英国でも4割に達している。また、別のレポートでは、OECD域外からOECDへの移民において、高等教育修了者(大学卒業以上)の比率が2000/01年の28%から2020/21年には38%に上昇していると指摘しており、移民の高学歴化が進んでいることが示されている。
外国人労働者は、低賃金の職種だけでなく、専門性が必要とされる分野においても、存在感を高めつつあると推測される。
4. 送出国経済への影響(労働者送金)
移民送出国では、移民は労働力の減少につながるものの、労働生産性(一人当たりの生産)の上昇につながる可能性がある。また、新興国・途上国にとっては生産性向上という経済的メリットと並んで、海外からの労働者送金が国際収支に与える影響も重要である。
海外労働によって得られる所得の国際移転は、国際収支統計では雇用者報酬と個人間移転の項目に含まれる。前者は越境労働による対価(国境を越えた通勤や短期的な海外での労働)、後者は海外居住者による送金(移民労働者から家族送金に限らない)を表すもので、2024年には各々約3,000億ドル、約6,000億ドルに達した。個人間移転(受取)の大きな国は、インド(1,294億ドル)、メキシコ(650億ドル)、パキスタン(347億ドル)、フィリピン(308億ドル)であり、50億ドル以上を受け取る国は24か国に達する。
ただし、経常収支(受取)に占める個人間移転(受取)の比率が高ければ、国際収支が移民からの送金の影響を受けやすくなる。特に経常収支(ネット)が赤字の場合には、特定の資金ソースへの依存は、国際収支の脆弱性を高める。個人間移転(受取)が50億ドル以上の国々について、経常収支(受取)に占める個人間移転(受取)の比率、経常収支(受取)に対する経常収支(ネット)の比率を比較すると、南アジアや中米の国々では個人間移転への依存度が高い(図表9)。これらの国々では移民受入国の景気悪化や移民政策の変更などを通じて送金が減少した場合には経常収支に影響が及ぶ可能性がある。
5. まとめ
世界では移民は既に3億人を超えている。移民には多様な背景があるが、経済的動機による移動も大きな割合を占めている。低・中所得国から高所得国への労働力移動と、それに伴う高所得国から低所得国への所得還流は、受入国の経済にも、送出国の経済にも重要な要素となっている。また、人々の移動は知識や技能の移転という経路を通じても世界をより豊かにする。
しかし、欧米を中心に一部では移民受入れに反発する動きも見られる。こうした動きが急激な政策変更や社会受容性の変化につながれば、受入国には労働力の不足を、送出国には国際収支上の問題をもたらしかねない。南アジア、中南米などは欧米や西アジアとの結びつきが強く、移民受入れを取り巻く環境変化の影響が国境を越えて波及する可能性もある。移民問題を考える際には、その背景にある国境を越えた経済的な相互依存関係についても留意しておくことが重要であろう。
以上
<執筆者・アーカイブ>大井 二三郎
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