人口減少下の地方創生と集積の利益
2026年8月25日執筆
はじめに
2026年1月の日本人人口は17年連続で減少し、1億2,000万人を下回った。人口の自然減は全国共通の課題であるが、社会増減(人口の移動)の影響は地域により様々である。地方では人口減少が早くから問題となっており、地方創生が政策課題となって既に久しい。人口減少下で企業活動が継続していくためにどのような環境整備、仕組みづくりが望まれるのか考えてみたい。
1. 人口動態概観
住民基本台帳に基づく日本人の人口は2009年をピークに減少しており、今年、約40年ぶりに1億2,000万人を割り込んだ。減少幅は年々拡大し、減少ペースも加速している(図表1)。地理的にも全ての地域で減少しており、都道府県別では東京都以外の46道府県で減少となった。
人口の増減要因は出生と死亡による自然増減と人口移動による社会増減に分けられるが、自然増減については全ての都道府県で減少しており、少子高齢化が地域を問わない社会問題であることを示唆している。一方、社会増減については地域間で大きな違いが見られる。地域別に見ると、南関東(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)では流入超が続いているのに対して、その他の地域では総じて流出超が続いている(図表2)。
人口移動の規模は景気動向とも一定の関係があるように見える。景気が強い時期には地方から南関東への移動が大きいのに対し、バブル経済崩壊後の1990年代や世界金融危機後の2010年前後、コロナ危機の発生した2020年前後には人々の移動が小さくなっている(図表2)。景気の拡大が人々を都市部へ引き寄せていると見られる。
2. 人口密度と人口増減
地域間の人々の移動の要因は必ずしも景気変動だけではない。人口密度や人口そのものも人口動態と関係があるように見える。市区町村(区は東京都の特別区ならびに政令指定都市の区)の人口増減(2015年から2020年までの人口変化率)を人口密度別にグループ化して比較すると、人口密度が低いグループほど人口の減少幅が大きく、過疎地域では自然減を上回る人口減少圧力がかかっている様子がうかがえる。一方、人口密度が3,000人/km2を超えるグループでは人口は増加している(図表3。市区町村グループの属性は図表4)。
また、高齢化の進行も、人口密度によって違いが見られる。人口密度10,000人/km2以上のグループ(例えば東京都区部は15,511人、川崎市は10,756人)では平均年齢は45歳であるのに対し、人口密度20人/ km2未満のグループ(例えば東京都檜原村は19人)では55歳となっている。高齢化率(65歳以上人口比率)も、前者の22%に対し、後者は41%にも達しており(図表3)、若年層人口の社会移動が過疎地域の高齢化にも影響していると見られる。
3. 集積のメカニズム
高い人口密度がさらなる人口流入を招き、人口減少がさらなる人口減少を招くメカニズムとはどのようなものであろうか。
ビジネスには、各々、事業成立に必要な商圏人口がある。おおよそのイメージを掴むためにいくつかのサービスについて一事業所当たりの人口(総人口を各々の事業所数で除した数字)を比較すると、美容業の約800人から動物園・植物園・水族館の約30万人まで大きな幅がある(図表5)。美容室や歯科医院などが比較的少ない商圏人口でもビジネスが成立する一方、動物園・植物園・水族館や映画館は多くの商圏人口を必要とすることを示唆している。
食料品等を扱う商店を考えても、食品スーパー、百貨店、専門店では必要な商圏人口の大きさは異なる。人々の購買頻度が高い日常品を扱う食品スーパーでは商圏人口が比較的少なくてもビジネスが成立する一方、購買頻度の低い高級品や専門用品を扱う百貨店や専門店では多くの商圏人口が必要になる。そのため、人口密度の高く、人口規模の大きい市場、もしくは広域から集客の可能なアクセスに優れた立地が必要になる。
人口密度が高く、アクセスに優れた地域では、ビジネスが必要とする商圏人口を確保できるため、多くの企業が立地する。企業の集積は、財・サービス・情報の集約による取引費用の低下につながり、それがビジネスをより有利にする。また、企業の集積は人々に多様な雇用機会をもたらすため、さらに多くの労働力を引き付けることになる。労働力の増大は企業にとっては消費者需要の増大を意味し、さらに多くのビジネス機会をもたらす。一方、このスパイラルが逆転すれば、企業の減少が、労働力、需要、そして企業のさらなる減少を招き、域内の企業、労働力、需要の多様性の維持・回復は困難になる。
実際、市区町村の産業別就業人口は、人口密度の高低により構成割合が大きく異なっている(図表6)。人口密度の低い地域では、政策需要や高齢者向けの需要に対応する公務、建設業、医療・福祉や、広い土地を必要とする農林水産業の割合が高い。人口密度が100人~1,000人/km2程度のグループでは、工業用地と労働力双方が必要となる製造業の比率が高くなる。さらに高度に集積が進み、人口密度が3,000人/km2を超えるグループでは、情報通信、金融、学術研究・専門サービス、商業・運輸など、専門的なサービスを含む多様なサービス業の比率が高くなる。これらは、各々の産業立地が地域の需要や比較優位を反映していること、人口密度が高まるにつれて産業の多様性が高まることを示している。
4. 国土政策・地域政策に対する示唆
地域別の就業人口構成を人口密度順に並べると、先に見たように、人口密度等に応じた産業構成の違いが見られる。人口密度の高い東京都や南関東(東京都を除く)では情報通信やサービス、小売等の就業人口比率が高い。一方、北陸・東海や北関東・甲信では製造業の比率が高く、北海道・東北、四国、中国、九州・沖縄では農林水産・鉱業、公務等、建設、医療・福祉への依存度が高い(図表7)。
高度に集積が進む東京では、稠密で大きな需要に加え、日本の交通システムの中心であることも、商品・サービスの実質的な商圏を大きなものにし、大きな商圏が専門的な財・サービスの供給を含む多様な産業の立地を促している。そして、多様な就業機会が人口流入につながっていると推測される。
東京都・南関東への長期的な人口移動(流入)が企業や個人の経済的動機を反映したものであるならば、政策的にこの動きを反転させることは容易ではない。対策としては、人口の流入を抑制する政策ではなく、人口の流出を抑制する政策の方が望ましいだろう。人口の流出を抑制するには、地域における企業・産業の存立可能性を高めることが重要であり、具体的には、人口密度の確保(集住の促進)や、交通インフラの整備(バス路線やコミュニティ・モビリティの地域の中核エリアへの連結等)による商圏の広域化を通して、様々な産業が必要とする商圏人口を確保することが考えられる。また、規制・制度が企業の商圏や行政サービスの提供範囲を分断しているような場合は、規制緩和等によってその圏域を拡大することも事業の採算性や効率性を向上させ得る。このような取り組みは地域内の人口移動を助長しかねないが、日本全体で人口の自然減が続く中では、需要の集約を通して供給サイドの取引コストを低減することは、地域におけるビジネスの存立可能性を高めるための重要なアプローチでもある。
集積の利益を地方創生に結び付けようとする考え方はこれまでの国土政策にも見られる。2015年の第2次国土形成計画では人口減少に立ち向かう地域構造・国土構造として「コンパクト+ネットワーク」というコンセプトが打ち出された。また、2023年の第3次国土形成計画では、人口減少がもたらす地域の危機への対応として、市町村界にとらわれない圏域全体で地域生活圏を形成するという考え方が示されている。いずれも需要とリソースを集約することにより、さもなければ維持が難しくなる機能やサービスを維持しようとする動きと捉えられる。
また、2026年7月に閣議決定された地域未来戦略では、産業クラスターの形成を通じた強い地域経済の構築が目指されている。これは政策的に供給サイドの集積を促し、取引コストの低減、競争力向上を図る取り組みと捉えることもできる。近年、地域の大学や高等専門学校等の教育機関も巻き込んだ産学官連携も加速している。地域に既に存在している人的資源、知的資源のさらなる有効活用という点で、これも集積の利益を最大化しようとする取り組みと言える。
5. まとめ
均衡ある国土の発展は長く政策課題であり続けているが、東京・南関東への一極集中の流れを食い止めるには至っていない。そして、今後、人口減少が加速する中、「地方創生」の難しさが一層増していくことは想像に難くない。
地域が企業、労働力、需要の減少のスパイラルを回避し、地域経済の持続可能性を高めるには、集積の利益を活かし、地域にある企業、労働力、需要を最大限活用することも一つの道筋であろう。具体的には、分散している需要の集約(交通網の整備も含む)による商圏人口の確保や、企業間連携・産学官連携の促進を通じた取引コストの引き下げなどを通して、企業・産業の存立可能性を高め、経済の多様性を維持・確保することである。これまでに打ち出されてきたコンパクトシティ、広域連携、産業クラスター形成などの政策も、集積の利益を活かす政策とみなすことができる。
企業には、人口減少が国内需要の伸びを抑制する現実を直視しつつ、地域の需要密度を高め、地域のリソースを有効に結び付けることで、事業の存立可能性を高める構想力が問われる。但し、これまでの地域活性化に向けた取り組みを踏まえれば、その実現は容易ではない。制度的な見直しや手当てが必要な場合には、政府、地方自治体、地域コミュニティと協力し、構想を実行可能な仕組みとして具体化する力も求められよう。
以上
<執筆者・アーカイブ>大井 二三郎
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