「中東・北アフリカ経済:IMFが最新見通しを発表」 中東フラッシュレポート(2026年10月前半号)

2026年10月28日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2026年10月26日執筆

1.中東・北アフリカ経済:IMFが最新見通しを発表

 国際通貨基金(IMF)の2026年10月時点の見通しによると、中東・北アフリカ(MENA)地域の実質GDP成長率は、2026年の▲(マイナス)2.0%から、2027年には+(プラス)7.0%に回復する見込みである。最大の下押し要因は、米国・イスラエルとイランの戦争に伴うホルムズ海峡の航行障害である。原油・天然ガスの生産・輸出が滞り、海運、物流、製造業、観光などにも影響が波及している。特にエネルギー輸出への依存度が高い国の落ち込みが大きく、2026年の成長率はクウェートが▲16.7%、イラクが▲16.0%、カタールが▲15.6%、バーレーンが▲11.3%と予測される。サウジアラビアは東西パイプラインを活用して輸出の減少分を一部補うものの、成長率は▲3.3%にとどまり、UAEも▲3.9%となる見込みである。

 

 ただし、域内のすべての国がマイナス成長に陥るわけではない。ホルムズ海峡への依存度が比較的低いオマーンは+4.1%、エジプトは+5.1%、モロッコは+4.5%、チュニジアは+2.4%、ヨルダンは+2.7%の成長が予想される。エジプトは、紅海情勢の影響でスエズ運河収入が減少する打撃を受ける一方、為替制度の柔軟化、海外からの資金流入、観光、インフラ投資、国内消費などが成長を支えるとみられる。

 

 2027年の高成長予測は、海上輸送やエネルギー生産が正常化し、前年の落ち込みから反発することを前提としている。したがって、回復の時期と規模は、ホルムズ海峡の航行再開、米国とイランの交渉、石油・ガス施設の復旧状況に大きく左右される。危機が長期化すれば、湾岸諸国では財政収入や投資がさらに減少し、輸入物価の上昇が地域全体に広がる恐れがある。一方、航路が段階的に正常化すれば、エネルギー輸出国を中心に急回復する余地も大きい。

 

 

2.サウジアラビア/イエメン:フーシ派によるサウジ空港への攻撃が相次ぐ

 10月10日、サウジアラビアの首都リヤドにあるキング・ハーリッド国際空港が攻撃され、13人が死亡、300人以上が負傷した。死者にはサウジアラビア人4人や米国人などが含まれ、同国では過去10年以上で最悪規模の攻撃となった。翌11日にも同空港が攻撃され、パキスタン人1人が死亡、11人が負傷した。フーシ派は同空港などへの攻撃を認め、サウジアラビアによるイエメン空爆への報復だと主張している。

 

 同空港は10日の攻撃後に運航を停止し、多数の国際便が欠航したが、25日に一部の運航を再開した。リヤドでは世界石油会議(WPC)が11~15日に開催されたものの、BP、シェル、エクソンモービルなどの最高経営責任者が出席や登壇を取りやめた。また、26~29日に予定されていた「未来投資イニシアチブ(FII)」は、2027年への延期が決まった。同会議は、外国投資の誘致と経済多角化を掲げる「ビジョン2030」を象徴する行事と位置付けられている。このほか、各種スポーツイベントなどでも中止や延期の発表が相次いでいる。攻撃が続けば、安全なビジネス・観光拠点としてのサウジアラビアの評価にも影響を及ぼす可能性がある。

 

 情勢緊迫化の背景には、フーシ派による紅海沿岸の戦略地域への進出と、これを受けたサウジアラビアの支援下にあるイエメン政府軍の反攻、サウジアラビアによる空爆の強化がある。フーシ派には、サウジアラビア本土への攻撃を通じて、イエメンで受ける軍事的圧力を弱める狙いがあるとみられる。サウジアラビア側は米国に支援強化を求めており、トランプ大統領は10日、フーシ派への攻撃に参加することを検討すると表明した。ただし、9月にはムハンマド皇太子からの空爆要請を拒否したと報じられており、直接介入に踏み切るかは不透明である。

 

 

3.イスラエル:総選挙展望

 10月27のイスラエル総選挙では、ネタニヤフ首相率いるリクードと、元軍参謀総長のアイゼンコット氏率いる新党ヤシャルが接戦を繰り広げている。世論調査では、ネタニヤフ支持陣営と主要野党陣営のいずれも過半数の確保を見通せず、アラブ系政党や小政党の動向が連立交渉を左右する可能性が高い。アイゼンコット氏は、2023年10月7日の襲撃を防げなかった経緯の調査や、ユダヤ教超正統派男性への兵役義務の拡大を訴えている。ネタニヤフ氏は安全保障面での実績を強調する一方、襲撃を防げなかった責任や戦争の長期化をめぐる批判に直面している。

 

 政権交代によって極右政党への依存度が低下すれば、米国や周辺国との関係改善や、ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植者による暴力の抑制が進む可能性がある。ただし、アイゼンコット氏もイランに対して強硬姿勢を取り、パレスチナ国家の樹立にも反対しているため、安全保障政策が根本的に転換するとは限らない。選挙後の組閣が行き詰まれば再選挙となり、ネタニヤフ氏が暫定首相として数カ月にわたり続投する可能性もある。実際、2019年から2022年にかけては、組閣の難航や連立政権の崩壊などにより、約3年半の間に5回の総選挙が実施された。今回も同様に、政治的な混迷が長期化する可能性がある。

 

 

4.UAE/イスラエル:旅客機ハイジャック未遂事件が発生

 9月30日、乗客乗員約170人を乗せたドバイ発テルアビブ行きのフライドバイFZ1073便で、副操縦士が機長を襲撃し、機体が急降下する事件が発生した。UAE検察の発表によると、容疑者はオマーン人で、操縦室内の非常用の斧を使って機長を襲った。搭乗者の多くはイスラエル人だった。襲われた機長が何とか操縦室のドアを内側から開けると、乗員や乗客らが副操縦士を制圧した。その後、同乗していた復路便担当のパイロットが操縦を引き継ぎ、同機はサウジアラビア北西部のタブークに緊急着陸した。乗客は同日、フライドバイが手配した代替便で目的地のテルアビブへ向かった。容疑者の副操縦士はサウジアラビア当局に拘束された後、UAEに移送された。

 

 10月9日、UAE検察は、容疑者が2001年9月11日の米同時多発テロに着想を得て、機体をイスラエルのベングリオン空港の旅客ターミナルに突入させる計画を実行に移そうとしたと発表した。

              

 

5.イラク情勢

  • 10月7日、イラク政府は、自国通貨ディナールを再び切り下げ、国民向けの公式ドル販売レートを1ドル=1,320ディナールから1,520ディナールに変更した。背景には、対イラン戦争やホルムズ海峡の混乱に伴う石油輸出と国家収入の減少、財政赤字の拡大がある。切り下げにより、政府は石油収入1ドル当たりで得られるディナールを増やし、国内支出を賄いやすくなる。一方、食料や医薬品などを輸入に頼る同国では、輸入物価の上昇と家計の購買力低下が懸念される。議会では切り下げの撤回や政府への説明を求める声が上がり、各地の市場や商店では混乱が広がった。

  • 10月14日、ザイディ首相はサウジアラビアの首都リヤドを訪問し、ムハンマド皇太子と会談した。両者は地域情勢や二国間協力について意見を交わし、特に安全保障面での連携強化について協議した。イラク領内からサウジアラビアへの攻撃が行われた事案などを踏まえ、首相は、自国領内を同国への攻撃拠点として利用させないと約束した。

  • 10月15日、イラク議会はザイディ首相が指名した副首相3人と大臣11人の任命を承認した。政府の施政方針は5月の政権発足時に承認されていたが、多くの閣僚ポストは空席のままとなっていた。イランが支援するアサーイブ・アハル・アルハック(AAH)幹部、ライス・アル・ハザリ氏の副首相起用に対しては、米共和党のウィルソン議員が反発した。米政府は、AAHを外国テロ組織(FTO)に、ハザリ氏を特別指定国際テロリスト(SDGT)に指定している。

  • イラク財務省の会計資料を引用した現地報道によると、2026年1~7月の石油収入は約200億ドルと、前年同期の427.6億ドルから約53%減少した。ホルムズ海峡の閉鎖に伴い、3月以降の石油輸出が激減したことが響いた。一方、非石油収入は前年同期の約46.7億ドルから約57.2億ドルに増加した。総収入に占める石油収入の割合は約90%から約78%に低下したが、これは主に石油収入の急減によるものであり、経済多角化の取り組みの成果とはいえない。なお、ホルムズ海峡の封鎖により3月以降に激減していた石油生産量は、9月には日量440万バレルまで回復した。

 

6.リビア情勢

  • 10月6日、リビア東部を拠点とする代表議会(HoR)は、サーレハ議長の後任として、トブルク選出のアル=オベイディ氏を選出した。前日には、議長および副議長の任期を1年とする制度変更が承認され、2014年以降約12年間にわたったサーレハ氏の議長在任に終止符が打たれた。ただし、同氏は、制度変更の手続きに法的効力はないと主張している。交代の背景には議員らの不満があり、東部で意思決定の集権化を進めるサダム・ハフタル氏(リビア国民軍副総司令官)らハフタル一族の影響力拡大を反映した人事との見方もある。東部の権力構造や、国家機関の統一に向けた交渉に及ぼす影響が注目される。


  • 10月8日、リビア中央銀行(CBL)は2026年1~9月の歳入・歳出などを発表した。外貨収入176億ドルに対し、外貨利用額は223億ドルとなり、外貨収支は47億ドルの赤字となった。また、外貨資産は2025年末の994億ドルから950億ドルに減少した。

     

    以上

    OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)


<執筆者・アーカイブ>広瀬 真司 
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