ワシントン訪問記:遠のく平和と中東の「ニューノーマル」

2026年08月05日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

月夜に輝くホワイトハウスとリンカーン記念堂(2026年筆者撮影)

 

2025年10月、私は約2年間続いたガザ紛争の停戦に安堵し、エルサレム赴任中に訪れたガザで目にした瓦礫の記憶とともに、対話と共存への願いをコラムに記した。さらに、2026年2月に湾岸諸国を訪問した際には、「ポスト石油時代」を見据えた前向きな活気すら感じていた。しかし、その後、米国・イスラエルとイランの軍事衝突を経て、現在は米国とイランの間で交渉と軍事攻撃の応酬が繰り返される状況が常態化し、中東は再び先行きの見えない不安定な局面に入っている。

 

7月下旬、こうした中東情勢の変化を受け、私は米国・ワシントンD.C.を訪れ、主要シンクタンクの研究者やコンサルタントらとの面談を重ねた。面談相手に共通していた認識は、今回の危機は一時的な軍事衝突ではなく、中東の安全保障や世界のエネルギー市場のあり方を変える「構造的な転換」であるという点だった。

 

私が3月のコラムで最大の懸念として取り上げたホルムズ海峡を巡る情勢は、その後さらに悪化している。6月に米国とイランは一時停戦に合意したが、米国による制裁緩和の撤回や凍結資産解除の約束が履行されなかったことへの不満を背景に、イランは海峡での妨害行為をエスカレートさせ、再び米国との軍事的応酬へと発展した。ワシントンで面談したある専門家は、イランによるホルムズ海峡の実効支配は、もはや「新たな常態(ニューノーマル)」となっており、海峡がかつてのように自由に通航できる状態へ戻ることはないとの見方を示した。さらに、イエメンのフーシ派によるバーブルマンデブ海峡の封鎖宣言が重なり、中東の二つの海上交通の要衝が同時に機能不全に陥る「パーフェクト・ストーム(複合的危機)」のリスクが高まっているとも指摘した。

 

こうした危機の連鎖に対し、トランプ政権の対応方針は依然として定まっていない。政権内では対イラン政策を巡って意見の相違がみられ、一貫した戦略を欠いているように映る。また、米国内では対イラン戦争への支持が低く、若年層を中心にイスラエルへの無条件の支援に疑問を呈する声が広がっているという現地での説明も、強く印象に残った。これまで揺るぎないと思われてきた米・イスラエル関係にも、変化の兆しが現れ始めていることを実感した。

 

一連の面談を通じて改めて認識したのは、関係各国の利害が複雑に絡み合う中、もはや「危機が収束すれば元の状態に戻る」という発想は通用しないということだった。中東では、長期的な不安定化が新たな常態となりつつある。エネルギーを中東、特に湾岸諸国からの輸入に大きく依存する日本にとって、この変化は決して対岸の火事ではない。終わりの見えない危機の中で、私たちは中東情勢の不安定化を前提に、エネルギー安全保障やサプライチェーンの強靭化に向けた備えを、これまで以上に進めていく必要がある。

 


<執筆者・アーカイブ>

NATO首脳会合の「成功」――欧州・トルコ・ウクライナの思惑(2026/7/10)

「米国とイランが停戦延長とホルムズ海峡再開で合意」 中東フラッシュレポート(2026年6月前半号)(2026/7/9)

「トランプ大統領、アラブ・イスラム諸国にアブラハム合意への参加を要請」 中東フラッシュレポート(2026年5月後半号)(2026/6/12)

「イラク議会、ザイディ首相率いる新内閣を承認」 中東フラッシュレポート(2026年5月前半号)(2026/5/26)

 

 

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