「米国とイランが停戦延長とホルムズ海峡再開で合意」 中東フラッシュレポート(2026年6月前半号)

2026年07月09日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

2026年6月29日執筆

 

1.米国・イラン:停戦延長とホルムズ海峡再開で合意

 6月14日、米国とイランは、カタールおよびパキスタンの仲介の下、停戦を60日間延長し、ホルムズ海峡の再開に向けた枠組み合意に達した。6月17日には、トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領がこの「了解覚書」に正式署名し、6月20日にはスイス・ビュルゲンシュトックで初の米・イラン高官による対面交渉が実施された。

 

 同交渉には、米国側からバンス副大統領、ウィトコフ特使、クシュナー氏が、イラン側からはガリバフ国会議長とアラグチ外相が参加した。また、仲介役としてパキスタンのシャリフ首相とカタールのムハンマド首相も同席した。

 

 今後60日間で詳細を詰めるための技術協議が行われ、イランが保有するとされる高濃縮ウランの処分方法、核開発計画の凍結・監視体制、米国による対イラン制裁の解除、凍結資産の一部利用再開などが主要議題となる見通しである。ただし、ホルムズ海峡でのタンカー攻撃や米軍による対イラン空爆も発生しており、交渉の先行きは依然として不透明である。

 

2.米国・イラン:両国が合意した14項目の了解覚書(MoU)の内容

①全面停戦:米国、イランおよび同盟国はレバノンを含む全戦線で軍事行動を恒久的に停止する。

②相互不可侵:双方は互いの主権と領土保全を尊重し、内政不干渉を約束する。

③最終合意交渉:60日以内に最終合意を締結する。期限は双方の合意により延長可能とする。

④米国の措置:米国は30日以内に海上封鎖を解除し、最終合意後は周辺地域に展開する部隊を撤収する。

⑤イランの措置:イランはホルムズ海峡における商船の安全航行を60日間無償で保証し、30日以内に機雷除去を実施する。また、他の湾岸諸国とも協議しつつ、将来の海峡管理および海上サービスの枠組みを定めるため、オマーンとの対話を行う。

⑥イラン復興支援:米国は地域諸国と連携し、3,000億ドル規模の復興・経済開発計画を推進する。60日以内に実施メカニズムを確定し、関連する金融取引に必要なライセンスや許可を付与する。

⑦制裁解除:国連、IAEAおよび米国による対イラン制裁を段階的に解除する。

⑧核問題:イランは核兵器を保有しないことを再確認し、濃縮ウランの処分や核活動の扱いについて協議する。

⑨現状維持:最終合意まで、イランは核活動を拡大せず、米国は新規制裁や追加派兵を行わない。

⑩石油輸出再開:米国は、イラン産原油・石油製品の輸出および関連金融取引を認可する。

⑪凍結資産の解除:イランの凍結資産を段階的に利用可能とする。米国はそのために必要なすべてのライセンスおよび認可を発行する。

⑫履行監視:MoUおよび最終合意の履行を監視する共同メカニズムを設置する。

⑬交渉開始条件:本MoUの第1、4、5、10、11項の履行開始後、残りの各項に関する最終合意交渉へ移行する。

⑭国連承認:最終合意は、拘束力を有する国連安保理決議によって承認される。

 

3.UAE:対イラン戦争で米・イスラエルを軍事支援か

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、UAEが米国・イスラエルによる対イラン軍事作戦に参加し、2月28日に始まった戦争初期から4月の停戦直後まで、イラン国内に対して数十回の空爆を実施していたと報じた。また、UAEはサウジアラビアやカタールなどに協調した軍事行動への参加を呼びかけたものの、両国は外交的対応を優先して軍事行動への参加を拒否したとされる。この結果、湾岸諸国の間で対イラン対応をめぐる姿勢の違いが鮮明となり、UAE側には不満も生じたと報じられている。

 

 さらに、イスラエルは戦時中、UAE防衛のため迎撃システム「アイアン・ドーム」と運用部隊を派遣したほか、ネタニヤフ首相、モサドおよびシンベトの長官、イスラエル軍参謀総長ら政府・安全保障当局の高官が秘密裏にUAEを訪問し、イラン情勢への対応について調整を行ったとされている。

 

 一方、停戦後には、UAEとイランの双方が安全保障担当者を相互に派遣し、極秘の高官協議を実施したと報じられている。戦争勃発前、UAEはイランにとって最大級の貿易相手国の一つであり、制裁下のイラン経済を支える重要な経済・物流の窓口でもあった。UAEは、イランとの対立長期化が自国経済やエネルギー安全保障に及ぼす影響を重視し、停戦後は対話を通じた関係安定化に力点を置いているとみられる。イラン側もUAEとの関係修復を重視しており、最近の軍事衝突ではUAEを攻撃対象から外すなど、両国は対立の管理と現実的な共存に向けた動きを強めている。

 

4.サッカーW杯とMENA諸国:スポーツが映す政治と外交

 2026年サッカー・ワールドカップ(W杯)では、中東・北アフリカ(MENA)地域から過去最多となる10か国(アルジェリア、イラク、イラン、エジプト、カタール、サウジアラビア、チュニジア、トルコ、モロッコ、ヨルダン)が出場した。

 

 背景には、48チーム制への大会拡大がある一方、各国が近年進めてきたスポーツ投資や選手育成の成果も大きい。サウジアラビアは、2034年W杯開催を見据えた「ビジョン2030」の一環としてサッカーを国家戦略に位置付け、ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドをはじめとする世界的スター選手を国内リーグに招致するなど競技レベルと注目度の向上を図り、国際的なプレゼンス強化を進めてきた。カタールも、2022年大会開催後も継続してきた育成投資の成果を示す機会となった。モロッコは2022年大会でアフリカ・アラブ勢として初めてベスト4入りを果たし、世界ランキングでも7位まで上昇したほか、2030年W杯のスペイン・ポルトガルとの共同開催を控えるなど、地域を代表する強豪国として存在感を高めている。

 

 一方、戦争やテロ、政治的混乱を経験してきたイラクにとって、40年ぶりのW杯出場は、宗派や民族を超えた国民統合を象徴するとともに、復興を進める国家の姿を世界に示す機会となった。また、ヨルダンにとっても初のW杯出場は、国民の自信と一体感を高める歴史的な出来事となった。

 

 さらに、イラン代表は、開催国である米国との関係悪化の影響を大きく受けた。停戦下ではあったものの、代表チームは大会直前に拠点を米国・アリゾナ州からメキシコへ移転せざるを得なかったほか、革命防衛隊との関係が指摘されたサッカー連盟会長や一部スタッフの入国が認められなかった。選手についても、試合当日のみ有効なビザが直前に発給されたため、試合のたびにメキシコから米国へ移動する対応を余儀なくされるなど、スポーツと政治の関係を象徴する事例として世界的な注目を集めた。

 

 MENA諸国にとってサッカーは、単なるスポーツを超え、国家の近代化や国民のアイデンティティ形成を促すとともに、国際的な影響力や国家ブランドを高めるソフトパワーとして重要性を増している。一方で、こうした人気スポーツへの積極的な投資については、権威主義的な政治体制や人権問題に対する国際社会の批判を和らげ、自国イメージの向上を図る「スポーツウォッシング」であるとの批判も根強い。

 

5.イラク情勢

  • 5月に就任したザイディ首相は、7月中旬に就任後初の外遊として米国・ワシントンを訪問し、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定。その後は、トルコ、イラン、サウジアラビアなど地域諸国を歴訪する方針を示している。

  • 6月7日、OPECプラスの7か国は、自主減産を7月から日量18.8万バレル緩和することを決定した。これにより、イラクの原油生産割当量は日量437.8万バレルとなる。次回会合は7月5日に開催される予定。

  • 6月10日、ハルブーシ国会議長はヨルダンへの公式訪問を終えて帰国した。滞在中は国王、首相、上下院議長らと会談し、バスラ・アカバ石油パイプライン(BAOP)の推進や電力相互接続計画などについて協議した。

  • 6月12日、格付け会社S&Pはイラクの格付けを据え置く一方、見通しを「ネガティブ」とした。同社は、ホルムズ海峡の混乱により2026年のイラクの原油生産が前年比約28%減少し、実質GDPは約15%縮小すると予測している。また、2026年の財政赤字はGDP比7.5%まで拡大すると見込んでおり、公務員給与や年金などの経常支出は優先的に維持される一方、公共投資などの裁量的支出が削減対象になると指摘した。なお、6月16日には、鉄道プロジェクトおよびバグダッド国際空港開発プロジェクトの中止が報じられた。

  • 欧州復興開発銀行(EBRD)は、イラクの実質GDP成長率見通しを下方修正し、2026年は▲1.5%と予測した。一方、世界銀行は最新見通しで▲8.9%と、より厳しい見方を示している。

  • ホルムズ海峡の混乱によりイラク南部からの原油輸出が大幅に減少する中、数少ない代替輸出ルートであるトルコ向けパイプラインの使用期限が7月27日に迫っている。トルコは協定更新の条件として、通過料の引き上げやエネルギー分野での協力拡大をイラク側に求めており、交渉は難航している。

    イラク電力省によると、国内の発電量は現在約2万2,000メガワットに達している。

 

6.リビア情勢

  • 6月4日、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)の後援・調整の下、チュニジアで「4+4小規模対話委員会」の会合が開催された。参加者は、合意に基づく選挙枠組みの構築と実行可能な選挙実施スケジュールの策定を目的として、選挙法をめぐる協議を再開した。同会議の開催は4月、5月に続き3回目となる。

  • 6月4日、首都トリポリの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)前で反移民デモが発生した。数百人が参加し、「リビアはリビア人のものだ」とシュプレヒコールを上げ、UNHCR事務所の閉鎖を求めた。国際移住機関(IOM)の推計によると、リビアには約90万人の移民・難民が滞在しており、その多くを内戦から逃れてきたスーダン人難民が占めている。

  • 6月14日、リビア国民軍(LNA)の副司令官サダム・ハフタル氏はフランス・パリを公式訪問し、マクロン仏大統領と会談した。翌15日にはアテネを訪問し、ギリシャのミツォタキス首相とも会談した。父であるハフタルLNA司令官(82歳)の高齢化を背景に、将来的な後継を見据えた外交活動を積極化させることで、自身の存在感を高めている。

  • 6月15日、リビア投資庁(LIA)は、現金保有分を含む金融資産が2025年末の509億ドルから2026年第1四半期には518億ドルへ増加し、1.7%の伸びを記録したと発表した。

  • リビアの原油生産量は現在、日量約140万バレルで推移している。原油輸出量は5月に日量107万バレルとなった。輸出先は引き続きイタリアが最大で、ギリシャ、スペイン、トルコがこれに続いている。

     

    以上

     

    OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

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