「ホルムズ海峡を巡る米国とイランの攻防と軍事衝突が再燃」 中東フラッシュレポート(2026年7月号)
調査レポート
2026年08月21日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2026年8月10日執筆
1.米国/イラン:ホルムズ海峡を巡る攻防と軍事衝突が再燃
7月7日、イランがホルムズ海峡を航行するカタールのLNG船やサウジアラビアの原油タンカーなどを攻撃したことを受け、米軍は6月の米・イラン間の覚書(MoU)への重大な違反として、イランに対する大規模な報復攻撃を実施した。イラン南部のバンダル・アッバースやゲシュム島などで、防空、沿岸監視、対艦ミサイル、ドローン関連施設など80か所以上を攻撃した。米国は同日、6月のMoUを受けて認めていたイラン産原油などの販売許可も撤回。イランも湾岸諸国にある米軍基地などへの報復攻撃を開始し、6月に成立した暫定的な停戦枠組みは事実上崩壊した。さらに米国は7月14日、イランの全港湾に対する海上封鎖を再開した。
米軍はその後も約2週間にわたり攻撃を継続し、イランも報復を続けた。また、イランがフーシ派に対し、米国がイランの電力インフラを攻撃した場合にバーブルマンデブ海峡を封鎖する準備を進めるよう求めたとも報じられた。米軍では攻撃対象が限られてきたことに加え、弾薬・迎撃ミサイル在庫の減少への懸念も強まり、またサウジアラビアなど湾岸諸国も、戦火の拡大や自国への報復を警戒し米国に自制を要請したため、トランプ大統領は7月末に検討していたイランのエネルギー施設などへの大規模な追加攻撃を直前で見送った。
今後はオマーンやカタールなど仲介国を通じた交渉が焦点となるが、ホルムズ海峡の管理権や制裁解除、戦争再開を防ぐ保証などを求めており、協議が停滞すれば軍事衝突が再燃する可能性も残る。当面は軍事的圧力と外交交渉が並行する不安定な状況が続く見通しである。
2.米国/イスラエル:第2次トランプ政権で8回目の首脳会談
7月28日、イスラエルのネタニヤフ首相が訪米し、トランプ大統領と非公開で会談した。両首脳の対面会談は、2025年1月の第2次トランプ政権発足以降、今回で8回目となる。最大の焦点はイラン問題で、ネタニヤフ氏がイランへの強硬姿勢を求める一方、外交的解決も模索するトランプ氏との間には温度差がみられる。トルコへのF-35戦闘機売却の可能性を巡っても両者の立場には隔たりがあり、ネタニヤフ氏の対米影響力の低下も指摘されている。
ただし、トランプ氏は中東政策においてイスラエルとの連携を引き続き重視しており、10月27日に総選挙を控えるネタニヤフ氏にとっても米国との関係は重要で、両者の相互依存関係は続くとみられる。米国内では民主党支持層に加え、MAGA支持層の一部でもネタニヤフ氏への反発がみられる。前回2月の両首脳の会談後に米・イスラエルによる対イラン共同軍事作戦が始まった経緯もあり、今回の会談が今後の対イラン政策や地域情勢に与える影響が注目される。
3.米国/サウジアラビア:民生用原子力協力協定に署名
7月22日、米国とサウジアラビアは、約30年間の民生用原子力協力協定(123協定)に署名した。しかし翌23日、トランプ大統領は、協定の承認はサウジアラビアがアブラハム合意に参加し、イスラエルと国交正常化することが条件だと表明した。この条件は前日の協定発表には盛り込まれておらず、サウジ側とも事前に合意されたものではなかったと報じられている。パレスチナ国家樹立への道筋をイスラエルとの国交正常化の前提としてきたサウジとの立場の隔たりは大きく、協定の先行きは不透明となっている。
今回の協定は、米国とUAEとの協定で採用された、ウラン濃縮・再処理を放棄する「ゴールド・スタンダード」を採用しておらず、国際原子力機関(IAEA)による未申告施設への査察を可能にする追加議定書への加入も義務付けていない。協定はサウジ国内での将来的なウラン濃縮・再処理の余地を残しており、米国内では核不拡散体制の弱体化や、中東での核開発競争につながりかねないとの懸念が出ている。ただ、米国との協力協定が発効しなければ、サウジがロシアや中国との原子力協力を模索する可能性もある。
4.サウジアラビア/イエメン:緊張の再燃
イエメンでは2014年にフーシ派が首都サナアを制圧し、翌2015年にはサウジアラビア主導の連合軍が軍事介入した。その後、戦闘は長期化したが、2022年の国連仲介による停戦以降、停戦自体は同年10月に失効したものの、大規模戦闘は概ね抑えられてきた。しかし7月13日、サウジが支援するイエメン政府側が、イラン機の着陸を阻止するためサナア国際空港の滑走路を攻撃したことを契機に緊張が再燃。フーシ派は報復としてサウジ南部のアブハ国際空港をミサイルやドローンで攻撃した。7月20日にはサウジアラビアに対する「海上封鎖」を宣言し、バーブルマンデブ海峡を通じたサウジの海上輸送を標的とする姿勢を示した。その後、紅海上のサウジ原油タンカーや石油関連施設への攻撃も相次いでいる。
今回の緊張再燃は、イランを巡る地域対立によってホルムズ海峡の通航が大幅に制限され、サウジアラビアが原油輸出を紅海側へ大きくシフトする中で起きた。サウジは東西パイプラインを通じて原油を紅海沿岸のヤンブーへ輸送しており、紅海とバーブルマンデブ海峡は、世界のエネルギー供給にとって重要性を一段と増している。こうした中、フーシ派による海上封鎖宣言は、ホルムズ海峡に続く主要なエネルギー輸送路を不安定化させるリスクを高めている。経済の安定を重視するサウジにとって、石油施設と輸出ルートを守りつつ、フーシ派との本格的な軍事衝突への回帰を避けられるかが大きな課題となっている。
5.フランス/シリア:マクロン大統領がシリアを初訪問
フランスのマクロン大統領は、トルコ・アンカラでのNATO首脳会議に先立つ7月6日、シリアを訪問し、シャラア暫定大統領と会談した。2024年のアサド政権崩壊後、EU加盟国首脳によるシリア訪問は初めてで、フランス大統領のシリア訪問も2009年以来となった。翌7日には、マクロン大統領が宿泊していたダマスカスのホテル付近で2つの爆発が発生し、18人が負傷した。マクロン氏はすでにホテルを出発していたため、被害はなかった。
今回の訪問は、シリア新政権の国際社会への復帰を後押しする動きとみられ、両国は外交関係の正常化や経済・安全保障分野での協力強化を進めることで一致した。ただ、シャラア氏が過去にアルカイダ系組織を率いていた経歴などから、西側諸国にはなお警戒感が残る。トタルエナジーズなどフランス企業の幹部も同行し、復興支援や投資も主要議題となったが、治安や制度面の不透明さは引き続き投資上の課題となっている。シリア国内では情勢が一定程度安定しているものの、宗派間の衝突やクルド勢力との緊張、ISによるテロの脅威など、不安定要因も残っている。
6.イラク情勢
- イランの故ハメネイ最高指導者の一連の葬儀が7月3日に始まり、7月7~8日には棺が隣国イラクのシーア派聖地ナジャフ、カルバラーへ運ばれ、葬送行事が行われた。イランからはペゼシュキアン大統領、アラグチ外相、革命防衛隊幹部らが同行し、イラク側からもザイディ首相、フセイン外相、マリキ元首相らが参列した。
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7月13~18日、ザイディ首相は就任後初の外遊として米国を訪問。14日にはホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、石油・ガス・電力分野への米国からの投資や安全保障協力について協議するとともに、9月30日までの米軍撤収方針を確認した。17日の米・イラク・ビジネスサミットでは、両国の政府機関や企業などが48件、総額600億ドル超の協定、覚書(MoU)、協力文書などに署名した。
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7月23日、ザイディ首相は就任後初めてイランを訪問し、ペゼシュキアン大統領らと会談した。二国間関係、経済・エネルギー、安全保障、地域情勢などについて協議し、複数の協定やMoUの署名にも立ち会った。訪米直後にイランを訪問したことは、米国、イラン双方との関係を重視するイラクのバランス外交を示す動きとなった。
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7月28日、ザイディ首相はトルコを訪問し、エルドアン大統領と会談した。安全保障、貿易、エネルギー、交通、水資源管理などの分野における二国間協力の強化について協議した。
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7月28日、サウジアラビアは、イラク領内から飛来し同国東部の石油施設を標的とした複数のドローンを迎撃したと発表した。同日、米軍とサウジ軍は、攻撃に関与したとされる親イラン武装勢力の拠点をイラク国内で共同攻撃した。米中央軍は、これらの勢力がイランの革命防衛隊の指示を受けて米軍やサウジのエネルギー施設への攻撃を計画していたと説明している。なお、ザイディ首相は同週に予定していたサウジアラビア訪問を延期した。
7.リビア情勢
- 米国は、リビア東西勢力の統一に向けた動きを積極的に後押ししている。西部トリポリのドゥベイバ首相を留任させ、東部のリビア国民軍(LNA)を率いるハリファ・ハフタル氏の息子でLNA副総司令官のサダム・ハフタル氏を大統領評議会議長に据える案が検討されている。米国によるリビアの石油・ガス分野への関与拡大や、ロシアの影響力を抑制する狙いもその背景にあるとみられる。ただし、西部では激しい内戦を戦ったハフタル陣営への反発が根強い。また、東部ではハフタル一族内の権力争いも懸念されている。統合が進めば投資拡大が期待される一方、中央銀行や国営石油会社などの支配権を巡り、新たな対立を招く可能性もある。
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7月下旬、40度を超える猛暑の中で長時間の停電が続き、リビア西部や首都トリポリで若者を中心とする抗議活動が発生した。28日には抗議者の一部がメリタ石油・ガス複合施設に一時侵入し、エル・フィール、ワファ両油田の生産や発電所向けガス供給が停止した。その後、治安部隊が施設を確保し、生産・ガス供給は再開したが、停電など公共サービスへの不満から始まった抗議は、ドゥベイバ政権の退陣を求める動きにまで発展した。
- リビア国営石油会社(NOC)によると、7月の原油生産量は日量約134.5万バレル(b/d)、石油収入は22.6億ドルだった。6月の原油生産量139.6万b/d、収入32.6億ドルと比べ、生産量、収入ともに減少した。
以上

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