英国のEU離脱(Brexit)

2016年02月29日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
アントン ゴロシニコフ

1.国民投票は2016年6月に実施

 2015年5月に行われた総選挙で保守党のキャメロン首相は、英国の欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)を問う国民投票を2017年までに行うことを選挙公約として掲げていたが、2016年6月23日に実施されることに決まった。投票日まで約4か月となり、残留派と離脱派それぞれのキャンペーンがスタートした。

 

 

2.改革案の合意、その主なポイント

 EU離脱を求める一派を説得するためキャメロン首相はEU改革案を提示していたが、2月中旬の欧州首脳会議でこれが承認され、その主なポイントは、【図表1】の通りである。

【図表1】英国のEU改革案

【図表1】英国のEU改革案
(出所:各種報道資料を基に住友商事グローバルリサーチ作成)

   ①が主権の強化で、EUが目指す欧州統合の深化から英国を適用除外することや、各国議会にEU法案の撤回制度を導入することである。②は欧州で現在、大きな問題となっている移民対策である。移民が急増した場合、緊急措置として最長で7年間、社会保障などを制限する権限が英国に認められた。③は経済ガバナンス強化である。英国は通貨ポンドを採用しているが、ユーロを採用していないEU加盟国が、通貨危機対策で負担を強いられないことを保証させた。④はビジネスの阻害要因となる様々な規制を緩和し、EUの競争力を高めることで合意に至った。これらの合意に基づき、キャメロン首相は英国がEU内で「特別な地位」を獲得した成果を強調し、英国民に残留するよう呼びかけた。

 

 

3.二分される世論

 しかし、欧州域内の移民問題やテロ、治安悪化の影響を強く受け、英国民はもとより閣内の意見も残留と離脱に割れている。キャメロン政権を支える30人の閣僚のうち、6人がEU離脱を支持することを表明したほか、国民的な人気を誇り、次期首相候補の1人とされるロンドン市長ボリス・ジョンソン氏まで離脱支持を宣言したのはキャメロン首相にとって誤算だったと思われる。

 

【図表2】割れる与党:残留派と離脱派

【図表2】割れる与党:残留派と離脱派
(出所:住友商事グローバルリサーチ作成、写真はWikimedia Commons、著作権者は写真下に記載)

 

 

4.カギを握るのは態度を決めてない有権者

 Financial Timesの「複数の調査機関が発表した世論調査結果の過去1年間の平均値推移」によると、残留派と離脱派の両勢力がきっ抗していた時期もあったが、ここに来てわずかだが残留派がリードしている。しかし、投票日まで4か月あり、予断を許さない状況である。2015年5月の総選挙の結果が事前の世論調査とかなり食い違ったこともあり、「さすがに離脱はないだろう」とたかをくくるのは危険だろう。態度を決めていない有権者が2割近く残っており、どちらに転ぶかまだわからないためだ。

 

 

5.英国離脱のリスク

 国民投票の結果、EUを離脱するとなれば、英国経済を巡る不透明感が高まるほか、金融市場も激しく動揺することが予想される。その影響は英国のみならず全世界に広がる恐れがある。

 さらに、スコットランドの独立問題が蒸し返されることが容易に想像できる。2015年の総選挙で議席を大幅に伸ばしたスコットランド国民党はEU残留を望んでいるため、英国がEUから離脱すれば、住民投票で否決され、いったん収束していた独立問題が再燃するだろう。

 また、英国以外でもEU懐疑論者が勢いを増しているが、もし、フランスの極右政党「国民戦線」のルペン党首が2017年の大統領選で勝利を収めることになれば、今度はフランスのEU離脱(Frexit)の是非を問う国民投票に発展する可能性が出てくる。英国の離脱がドミノ現象を引き起こすことをEU首脳は恐れ、英国が突き付けたEU改革案を受け入れたが、今後の4か月間の展開を見守りたい。

 

以上

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