
- [チェコ共和国]10月3~4日、議会選挙(下院200議席、任期4年)が実施され、バビシュ前首相率いる最大野党の右派「ANO2011」が第1党となることが確実となった。チェコ統計局によると、得票は「ANO2011」が34.5%(80議席)、フィアラ首相の中道右派連合「SPOLU」が23.3%(52議席)だった。与党に参画する「無所属および首長連合(STAN)」が11.2%(22議席)、リベラル派の野党「海賊党」が9%(18議席)、一方、極右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)が7.8%(15議席)で、今回初めて議会選挙に立候補した右派政党「モトリスト」が6.8%(13議席)だった。投票率は68.95%だった。今回、過半数の議席を獲得した政党はなく、今後は「ANO2011」を中心とした連立交渉が始まる見通しである。「ANO2011」を軸とする政権が成立すれば、フィアラ現政権が進めた親EU路線からの転換は避けられない。バビシュ氏は、不法移民の締め出しや気候変動対策の見直しを掲げ、ハンガリーやスロバキアのEU懐疑派と連携する方針である。
- [韓国]韓国は、超高速インターネットと高いブロードバンド普及率で世界的に有名だ。グローバルテックブランドを擁するデジタルイノベーションのリーダー国でもある。
しかし、クレジットカード会社、通信事業者、テック系スタートアップ、政府機関を標的としたハッキング被害に直面している。サイバーセキュリティを担当する政府機関が縦割り構造で活動しており、デジタル防衛体制の構築や熟練労働者の育成がしばしば見落とされるとの指摘もされている。
今年(2025年)だけでも重大なインシデントが発生しており、1月にはコンビニエンスストアチェーンのウェブサイトが攻撃を受けて9万人の顧客データが侵害された。4月には通信大手SKテレコムが大規模なサイバー攻撃を受け、韓国の人口のほぼ半数となる2,300万人の個人データが侵害された。このサイバー攻撃の余波は5月まで長引き、情報漏えいを受けて顧客に新たなSIMカードの提供を余儀なくされる事態となった。7月には北朝鮮関連組織と言われる「Kimsuky」グループが、防衛関連機関を含む韓国組織に対し、AI生成のディープフェイク画像を用いたサイバー攻撃を仕掛けたと報じられている。
9月になって、国家安保室は大統領府主導の省庁間計画を通じ、包括的なサイバー対策を実行すると発表した。規制当局はまた、企業が報告していなくてもハッキングの兆候があれば政府が調査を開始できる法的変更を示唆した。両措置は、韓国のサイバー防衛を長年阻害してきた初動対応機関の不在に対処することを目的としている。しかし、全ての権限を大統領府のコントロール下に集中させることは「政治化」や権限の乱用リスクを伴うリスクもあり、より権力を抑制する独立した監視機関を組み合わせるハイブリッドモデルが必要との意見もある。
デジタル化の進展で、政府、企業、家計が負担する有形無形のベネフィットとコストは、韓国のみならず全世界的に求められる時期と言える。
- [原油]10月5日、2023年4月と11月に追加自主減産を発表したOPECプラス有志8か国(サウジアラビア「以下サウジ」、ロシア、イラク、UAE、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン)は月例会議をオンラインで開催した。2023年4月に発表した日量165万バレルの生産調整から、2025年11月に日量13万7,000バレルの調整(減産緩和)を実施することを決定した。OPECプラスは声明で、この決定は「石油在庫の低さに反映される、安定した世界経済見通しと現在の石油市場の健全なファンダメンタルズ」に基づくものだと述べた。
この会合に先立ち、一部メディアは2025年11月に最大で日量50万バレルの増産案も出ていると報じ、原油先物価格は値下がりしていた。結果的に、10月と同規模の減産縮小にとどめたことで、週明けの原油価格は反発した。
OPECプラスは4月以降、生産割当を日量267万バレル増やしているが、実際の増産幅はそれに届かず、中国の戦略備蓄向け原油購入が余剰を吸収していることもあり、原油価格は比較的安定した推移を続けている。しかし、増産加速の憶測報道が価格を押し下げたことに鑑み、OPECプラスは増産を急がず、慎重スタンスを採ったとみられる。ブルームバーグは、サウジは増産加速に前向きだったが、ロシアは価格維持を主張、アルジェリアは需要悪化の可能性に警鐘を鳴らしたと報道。
サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は11月にワシントン訪問を予定しており、サウジが増産加速を主張したのは、トランプ大統領の増産要請を意識していた可能性もある。
- [マダガスカル]9月25日に発生した全国的な反政府抗議デモが、収束する気配がみられない(2025年9月29日デイリー・アップデート参照)。
「Z世代」の若者らを中心とする団体「Gen Z Mada」は、電力・水道供給の改善、そしてアンドリー・ラジョエリナ大統領の辞任を求め、FacebookやTik Tokといったソーシャルメディアを活用して抗議活動を継続している。治安部隊との衝突により、国連の発表によるとこれまで22人が死亡し、100名以上の負傷者が生じているが、マダガスカル政府はこの数字を否定している。
事態収束のため、マダガスカル政府は首都アンタナナリボを含む主要都市での夜間外出禁止令を継続するとともに、9月29日にラジョエリナ大統領は内閣総辞職を発表。しかし、「Gen Z Mada」の活動に対する支持は拡大し、国内最大の労働組合「マダガスカル労働組合連盟(FMM/CTM)」や、「国営電力・水道公社(JIRAMA)」などもストライキを決行。また、市民社会団体のほか、主要な野党指導者であるシテニー・ランドリアナソロニアコ氏や、マーク・ラヴァルマナナ元大統領も共同声明で抗議に支持を示している。10月3日にも、アンタナナリボなどでデモ隊と治安当局との衝突が起こった。
ラジョエリナ大統領は「国民の意見に耳を傾ける用意がある」と対話の姿勢を示しているが、辞任の意向は示していない。また、同氏はFacebook上で発表した演説において、「国内の政治家がクーデターを引き起こそうとしている」と非難するとともに、「外国勢力が、選挙ではない方法で私を追放するためにこの抗議活動に資金を提供している」と主張し、「我が国はサイバー攻撃、大衆操作の犠牲者だ」と強調している(10月3日、仏ル・モンド紙)。
ラジョエリナ氏の発言の背景には、2025年に入ってからもZ世代の若者らによるSNSを活用した抗議デモが、インドネシア、ネパール、ペルー、モロッコなどでも立て続けに発生していることを背景に、こうした諸外国の活動家たちがマダガスカル国民と連携し、影響を及ぼしているとの疑念があるとみられる。
今回の抗議活動は、2009年に、当時のラヴァルマナナ大統領を、軍事クーデターを率いたラジョエリナ氏が追放したとき以来の大規模な混乱となっている。ラジョエリナ氏は、2023年の総選挙で、野党候補がボイコットする中で再選したが、今後はクーデターの波がラジョエリナ氏自身に襲いかかってくる可能性もある。英調査会社エコノミスト・インテリジェンス・ユニットは、マダガスカル国軍は比較的規模が小さく(正規兵:約13,500人、憲兵隊:約8,100人)、若年層の兵士の割合が多く、また、軍指導部は内部分裂を起こしていることから、若者らの抗議活動に同調する可能性が高いと予測。ただし、ラジョエリナ氏によるクーデターの際にマダガスカルが経験したとおり、軍事政権の維持は諸外国からの制裁などにより孤立化したときのコストが高いため、あくまで暫定政権以降までの短期間のみラジョエリナ氏に代わって権力を掌握する可能性がある(すなわちラジョエリナ氏の退陣を迫る)との見方を示している。
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