デイリー・アップデート

2026年5月14日 (木)

[インド/Coal-to-gas支援・金輸入関税引き下げ・砂糖輸出禁止] 

インドは、エネルギー輸入や中東依存の高さから、中東紛争の影響を強く受けており、株式市場や通貨ルピーは軟調に推移している。こうした中、インド政府は5月13日、商品・エネルギー分野で国内安定化に向けた措置を相次いで打ち出した。

 

①インド政府は石炭・褐炭ガス化推進策として総額3.75兆ルピー規模の支援制度を承認した。2030年までに石炭ガス化1億トンを目指し、国内石炭から合成ガス(syngas)を生産することで、LNG、尿素、アンモニア、メタノールなど輸入依存度の高い分野の代替を進める。設備投資額の最大20%を補助するほか、石炭供給契約期間を30年へ延長するなど、約2.5~3兆ルピーの民間投資誘発を見込む。

 

②また、ルピー防衛と貿易赤字抑制を目的に、金・銀の輸入関税を6%から15%へ引き上げた。2024年7月の関税引き下げ以降、金投資が過熱し、2026年3月末までの年間金輸入額は720億ドル、銀輸入額は120億ドルへ急増していた。中東紛争開始後、ルピーは対米ドルで約5%下落し、外貨準備高も1か月で約400億ドル減少した。

 

③政府は国内供給確保とインフレ抑制を目的に、2026年9月30日まで砂糖輸出を禁止すると発表した。生産見通しの下方修正や、2026/27年度のエルニーニョによる減産懸念を背景にした措置で、発表後はNY粗糖先物とロンドン白糖先物が急騰した。

 

インド政府は、エネルギー、通貨、食料の各分野で経済安全保障を重視する姿勢を一段と鮮明にしている。

[エチオピア・米国/外交関係] 

5月11日、エチオピアのゲディオン・ティモティウォス外相が米・ワシントンを訪問し、米国との間で「二国間構造化対話(BSD)枠組み」に署名した。同枠組みでは、両国が「防衛・安全保障」、「貿易・投資」、「地域の平和と安定」を3つの柱として互いに協力していくことが約束された。同外相は米・ルビオ国務長官とも会談を実施した。

 

米国は2020~21年にエチオピア北部のティグライ州で発生した紛争においてエチオピア連合軍が大規模な人権侵害に関与したとして、エチオピアを「アフリカ成長機会法(AGOA)」の適用国から除外した。今回の二国間会談は、それ以降に初めて行われたハイレベルでの協議となった。

 

エチオピアがこのタイミングで米国との関係改善を進めようとしている背景には、アフリカの角地域におけるエチオピアの存在感に対する米国の不信感が高まっているためとみられる。BSDでは3つの柱が示されたが、実際には米国が最もエチオピアに対して懸念している「地域の平和と安定」に重きが置かれているとみられる。紅海へのアクセスを希求する内陸国エチオピアの姿勢は、隣国エリトリアとの軍事的緊張を生じさせている。これが大規模な紛争に発展すれば、イラン情勢の緊張が続く中、代替路となる紅海の不安定化を招く要因となるため、米国はこの動きを警戒している。

 

米国は先のティグライ紛争に加担したエリトリア国防軍らにも経済制裁を課したが、最近のエチオピアのエリトリアへの挑発をけん制するために、同制裁を解除する動きを示している(4月24日付、米WSJ紙)。そうしたタイミングで今回の対談が行われたことは、米・エリトリア間の一方的な関係改善を防ぎたいエチオピアにとって、米国との対話再開を急ぐ理由となったとみられる。

 

また、米国は自身が仲介を進めてきたスーダンの内戦にエチオピアが関与しているとみられること、そして同じく米国の仲介が失敗に終わったナイル川の水資源問題をめぐってもエチオピアの対応に不信感を抱いていることから、エリトリア問題含め今回の会談で取り上げられたと報じられている(5月13日付、Africa Report紙等)。

[ブラジル/ガソリン補助] 

5月13日、ルーラ政権は、燃料価格の上昇に対応するため、新たな暫定措置(MP1358)を発表した。ガソリン1リットル当たり最大0.89レアルの補助金を認め、その上限は連邦ガソリン税(PIS/CofinsおよびCide)の合計額とした。また、3月に出されたディーゼル補助政策(MP1340)が失効した場合には、ディーゼルについても1リットル当たり最大0.35レアルの補助金を継続できるようにしている。これらの補助金は特別信用(臨時の財源措置)によって賄われ、有効期間は原則2か月だが、中東情勢の緊張が長引けば延長される可能性がある。

 

この新たな措置により、国営石油会社ペトロブラスには、近くガソリン価格を引き上げる余地が生まれるとみられる。同社は、国内価格と国際価格の差が大きくなっている(2026年5月現在、10~15%のディスカウント)ことを理由に、近い将来ガソリン価格を引き上げる必要があると発表していた。政府が値上げに先立って補助政策を打ち出した背景には、燃料価格の上昇がそのまま消費者負担の増加につながる事態を避けたいという狙いがある。

 

現在議会では、原油価格の上昇による税収増を活用して連邦税を引き下げる補完法案(PLP114/2026)が審議中だが、下院での審議は停滞しており、今回の暫定措置によって、政府はガソリン価格が家計に与える影響を一定程度コントロールできる体制を確保したといえる。ただし、特別信用を財源とした補助金制度は、財政運営の健全性という点での懸念が残る。

 

ガソリン補助金の上限は、0.89レアルに設定しているが、当面の補助額は1リットル当たり0.40~0.45レアル程度になるとされており、この場合、ガソリン補助の月間コストは約10億?12億レアルとなる。ここにディーゼル補助を加えると、燃料補助全体の月間コストはおおむね27億?30億レアルに達する見通し。政府は、原油価格の上昇に伴う石油関連収入の増加を補助金に充てることを見込んでおり、主要な財政目標は維持できると説明しているが、5月22日に公表予定の連邦財政の四半期報告書が注目される。

 

仮に燃料補助が長期化する場合には、原油輸出税も延長されるとみられる。10月に大統領選挙を控える中、燃料価格はインフレや有権者心理に直結する重要な要素であり、今回の暫定措置により、政府は燃料価格を巡る緊急対応を継続できる体制を整えたが、ルーラ大統領は優勢を維持するため、燃料価格の上昇が政治的リスクになると判断すれば、追加的な介入策を講じる可能性も指摘されている。

[米国/川上の物価上昇] 

労働省によると、4月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+6.0%となり、上昇率は3月(+4.3%)から拡大した。2025年11月~2026年1月(ともに+3.1%)、2月(+3.4%)から拡大しており、川上からの物価上昇圧力は高まっている。これは、2023年12月(+6.4%)以来の大きさだった。

 

前月比の上昇率は+1.4%であり、2月(+0.7%)から倍増した。2022年3月(+1.7%)以来の上昇率になった。内訳をみると、財は+2.0%で3月(+1.9%)から小幅に加速、サービスは+1.2%と3月(+0.2%)から大幅に加速した。財のうち、エネルギーが+7.8%と3月(+10.1%)から続伸した。特にガソリンが+15.6%となり、3月(+19.2%)に続き大幅に上昇した。また、食品・エネルギー以外の財も+0.7%と1月(+0.7%)以来の伸び率になった。サービスでは、貿易マージン(+2.7%)や輸送・倉庫(+5.0%)が大幅に上昇率を拡大させた。後者は貨物輸送サービスの上昇が目立った。燃料価格の上昇などが反映されているとみられる。

 

川上の物価上昇圧力が高まっているため、今後川下の消費者物価の方にそのコスト増が転嫁されていくと予想される。2022年の物価高騰局面ほど円滑に転嫁されないかもしれないものの、消費者物価指数の上昇率が拡大することになるだろう。市場では、連邦制度理事会(FRB)が年内据え置きという見方が広がっており、一部には利上げもあり得るという予想もある。中間選挙を控え、これ以上の物価上昇を避けたいという思惑も米政権内にはあると考えられる。そのため、中東情勢次第であるものの、物価上昇がどこまで進むかが注目される。

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