デイリー・アップデート

2026年5月21日 (木)

[サブサハラ/インフレ率上昇傾向] 

ホルムズ海峡の封鎖と油価高止まりによる影響は、サブサハラ・アフリカ(サブサハラ)各国でも物価上昇という形で表れ始めている。4月の消費者物価指数上昇率(前年同月比)は、南アフリカ(南ア)、ナイジェリア、ケニア、エチオピア、ガーナといったサブサハラ主要国において軒並み前月比で上昇した。これらの国々ではウクライナ・ロシア紛争による食料・エネルギー価格の上昇の影響が一服し、インフレは減速傾向にあったが、イラン情勢による燃料価格の高騰がインフレを再加速させようとしている。特に燃料のほぼ全量を中東諸国から輸入しているケニアのインフレ率は3月の4.4%から4月に5.6%に上昇、内陸国のため輸送コストがかかるエチオピアのインフレ率は3月の9.4%から11.7%に上昇するなど東アフリカ諸国でのインフレ上昇が顕著となってきている。ケニアでは4月、5月と二度にわたる燃料小売価格の引き上げにより大規模な公共交通機関団体のストライキや死傷者が発生する抗議デモも起こっている(5月20日デイリー・アップデート参照)。マラウイでは4月21日に政府が燃料の国家備蓄が底を尽きたと発表していることから、今後は価格上昇の問題に加えて、現物の供給自体が困難になる恐れがある。

 

域内最大の経済規模を持つ南アもガソリン・ディーゼルなどの燃料価格が3月から4月にかけて18.2%上昇。住宅、交通・運輸などの価格上昇が続き、インフレ率は3月の3.1%から4月には4.0%に加速した。南ア準備銀行(中銀)はインフレターゲットを3%±1%に設定しているため、さらにインフレが進めば、政策金利の利上げ(現在は6.75%)を行う可能性もある。

 

南部アフリカの主要国であり、産油国のアンゴラのインフレ率は3月の12.4%から4月は11.6%に低下。銅生産が好調なザンビアも7.1%から6.8%に低下したが、これらの国々も石油精製品の輸入国であるため、油価高騰がインフレの加速を招く可能性がある。

 

西アフリカでは、ナイジェリア、ガーナといった産油国でも世界的な油価高騰に連動する形で燃料価格の上昇が起こっており、4月のインフレ率はそれぞれ15.7%、3.4%と上昇に転じた。他方で、フランスの兌換保証によりユーロにペッグしているため、為替レートが安定しているコートジボワールやセネガルのインフレ率は依然として1%台に留まっている。これらの国々は小規模ながら国内で原油生産・石油精製を行っていることもインフレ加速を抑制している要因とみられる。

 

このようにイラン情勢によるインフレはサブサハラの地域・国別に異なるインパクトを与えるが、燃料価格の高騰は肥料や食料など様々な商品の価格上昇をもたらし、地域全体のインフレを再加速させるとみられる。

[インドネシア/財政・金融政策] 

5月20日、インドネシア銀行(中銀)は政策金利である7日物リバースレポ金利を4.75%から5.25%に50bps引き上げると発表した。利上げは2024年4月以来初。また50bps分の引き上げは2022年11月以来初めてであり、これまでは25bps分に留まっていた。中銀は、為替レートの安定化・イラン情勢を踏まえたインフレ亢進懸念を踏まえた決定であると公表した。

 

2026年以降、イラン情勢も踏まえたエネルギー補助金増額懸念・財政状況悪化懸念を受け、海外投資家のルピア建て資産売却によるルピア安・国債利回り上昇が進行している。ルピアの対ドルレートは5月20日に1ドル=17,700ルピア付近まで減価したほか、10年物国債利回りは6.9%と、年初より約0.7ポイント上昇している。政府・中銀はこれまでに、スパイラル的な通貨安・金利上昇を回避するための「激変緩和措置」を実施してきた。並行して財務省は、歳出の増加ペース抑制策を実施している。例えば燃料補助金支給対象のオクタン価90のガソリンにつき、小売価格は据え置きする一方で、3月に配給制の導入を決定した。また2025年度より実施している無料給食プログラムについても、5月19日に当初予算(335兆ルピア。歳出全体の約9%)を2割削減することを公表している。1~4月の財政赤字は約164兆4,000億ルピアを記録したが、1~3月期(約240兆ルピア。GDP比0.9%)よりも赤字幅が縮小しているため、直近では財政赤字拡大懸念は後退していると考えられる。

 

一方で歳入に関しては、政府が進める資源セクターからの歳入徴収強化策が、事業環境悪化に直結している。5月20日、大統領はコモディティの輸出管理強化策を発表した。具体的には、石炭・パーム油・合金鉄の輸出に関し、9月以降に政府系ファンド「ダナンタラ」が出資する子会社が全額を引き取った上で、所与の基準価格にて海外の輸入業者に販売するもの。本措置により輸出企業による輸出額の過少申告を防ぎ、企業から法人税・ロイヤリティ収入を徴収することが狙い。本措置の対象となるコモディティは3か月おきに見直す予定である。5月には、在インドネシア中国商工会議所がプラボウォ大統領宛に対して書簡を送付。書簡の中ではインドネシア政府による事業環境悪化に繋がり得る各種政策について懸念を表明しているが、中には唐突な税率・ロイヤリティ率の引き上げも含まれている。

 

2026年1~3月期のFDI(実現額ベース)は約151億ドルを記録。対前年比増加率は3四半期連続でマイナスとなっていた中で5.2%を記録するなど足元では投資額は回復傾向にあるが、2024年以前まで増加率は10%を超過し続けていたことを踏まえると、投資額は十分に回復したとは言いにくい。直近の事業環境悪化懸念もFDIの回復を妨げていると考えられる。

[米国/4月のFOMC議事要旨] 

5月20日、連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨(4/28~29開催分)を公表した。4月会合では市場予想通り、政策金利が3.5~3.75%に据え置かれたものの、ローガン・ダラス地区連銀総裁、カシュカリ・ミネアポリス地区連銀総裁、ハマック・クリーブランド地区連銀総裁が声明文に反対した。ミランFRB理事の0.25%利下げ支持と合わせて、FOMC内で4人が反対するという1992年10月以来の異例の事態になっていた(賛成8対反対4)。そのため、そこでどのような議論がなされていたのかが、注目されていた。

 

議事要旨によると、「複数人(several)」は、ディスインフレの軌道に戻ったという明確な示唆を確認できたり、労働市場がより弱いという確かな兆しがあったりするならば、利下げが適切になると述べた。

 

それに対して「大多数(majority)」は、物価上昇率が持続的に2%を上回り続けるならば、金融引き締め(利上げ)が適切になる可能性が高いと指摘した。この可能性に対応するために、「多くの(many)」参加者が、将来の政策金利の決定について緩和バイアスを示唆する文言を声明文から削除することが好ましいと指摘していた。この指摘が、FOMCで反対票を投じた地区連銀総裁の人数よりも多い可能性があることが注目された。

 

今回の議事要旨を踏まえると、中東情勢やそれに伴う物価・雇用環境次第ではあるものの、FOMC内では金融政策の引き締めに積極的なタカ派的な姿勢が強まっていたとみられる。

[中国/6月施行の鉱物資源新規則を発表] 

5月20日、中国政府は、6月15日に施行する「鉱物資源法施行規則」を発表した。新規則は、戦略鉱物を国家安全保障上の重要資産として位置付け、探査・採掘・加工・貿易・備蓄までを含むサプライチェーン全体に対する国家管理を強化する内容となっている。

 

国家は戦略鉱物リストを策定・見直しし、必要に応じて総生産量の管理や採掘制限を実施する。また、戦略鉱物を対象に国家備蓄制度を強化し、実物在庫や増産能力に加え、未開発鉱区も備蓄対象として管理する。備蓄用鉱区は原則として最低5年間管理され、採掘には中央政府の承認が必要となる。

 

さらに、国家安全保障上のリスクがあると判断された鉱業分野の外国投資については安全保障審査を実施するほか、輸出についても輸出規制法の対象とする。緊急時には、国家が採掘、生産、輸送などに直接介入できる権限も明記された。

 

中国政府は、新規則の目的について、「鉱物資源の合理的な開発・利用、環境保護の強化、鉱業の高品質な発展、鉱物資源安全保障の確保」と説明している。

 

今回の規則は、米中首脳会談から数日後に公表された。米ホワイトハウスは会談後、中国がイットリウムなど希土類を含む重要鉱物の供給不足問題への対応で合意したとしていた。今回の制度整備により、中国が重要鉱物の世界的な供給網に対する影響力をさらに強める可能性がある。

[中国・ロシア/具体的成果の乏しい首脳会談] 

5月19~20日、ロシアのプーチン大統領は中国を公式訪問し、習近平国家主席と首脳会談を実施した。今回の訪問は、露中善隣友好協力条約締結25周年および戦略的パートナーシップ30周年の節目に合わせたものであり、双方は関係が「歴史的最高水準」にあるとの認識を示した。会談では計40件の政府間・企業間協定が署名され、原子力、科学技術、教育、インフラ、貿易など幅広い分野で協力拡大を確認した。貿易額は2025年時点で約2,400億ドルに達し、決済のほぼ全てがルーブルおよび人民元建てで行われており、脱ドル化が大きく進展している。共同声明では、日本の再軍備、北朝鮮への制裁、米国やイスラエルによるイラン攻撃などに批判的立場を共有し、ウクライナ情勢については対話と交渉による解決を支持するとした。また、人的交流強化の一環として、露中間のビザ免除措置を2027年末まで延長することで合意した。一方、主要エネルギー案件であるガスパイプライン「シベリアの力2」は、基本条件で合意済みとされるものの建設時期は依然として未定であり、露中経済協力における不透明要因となっている。

[イスラエル/ガザ支援船団を拿捕] 

イスラエル海軍がガザ支援を掲げる国際船団「グローバル・スムード・フロティラ」を公海上で制圧し、400人以上の活動家を拘束した事件が、世界的な波紋を広げている。50隻以上の船からなる船団はトルコを出港し、39か国から集まった426人が参加。目的は、イスラエルによるガザ封鎖への抗議と、人道支援物資の搬入だった。イスラエル政府は、この船団を「ハマスへの封鎖を破る試み」と位置付け、海軍を大規模動員してキプロス沖の公海上で阻止。活動家らをイスラエルへ移送したと発表した。ネタニヤフ首相は無線を通じて部隊を直接称賛し、作戦成功を強調した。

 

しかし、この船団の本質は大量の支援物資を届けることではなく、むしろガザで続く人道危機を世界に可視化し、国際社会の関心を再び集める点にある。イスラエル海軍にとって小型帆船を阻止すること自体は容易だったが、活動家たちがオンライン配信や事前録画メッセージを通じて世界中に発信した映像は、結果としてガザ問題への注目をさらに高めることとなった。

 

事件をさらに国際問題化させたのが、極右政治家ベン・グビール国家安全保障相が自身のXに公開した映像だった。動画には、拘束された活動家たちが両手を縛られ、地面に額を付けて跪かされる様子や、ベン・グビール氏自身が彼らを怒鳴りつけたり嘲笑したりする姿が映っていた。この映像は国際社会で強い反発を招き、イタリア、フランス、オランダ、カナダなど複数の国がイスラエル大使を召喚。さらに多くの国々が、「人間の尊厳を侵害している」「非道で容認できない」「国際法および国際人道法に対する露骨な違反だ」と厳しく非難した。

 

スペインのサンチェス首相は「自国民への虐待は容認しない」と表明し、韓国の李在明大統領も「公海上で第三国の船を拿捕する法的根拠は何か」と疑問を呈した。トルコも「ネタニヤフ政権の暴力的で野蛮な本質を示した」と強く批判している。さらにイスラエル国内からも批判の声が上がっており、サアル外相は、ベン・グビール氏の投稿が「多くの優秀な人々(イスラエル人)の努力を台無しにした」とXに投稿。野党指導者らからも強い非難が相次いでいる。拘束された活動家の一部は、「違法な拉致への抗議」としてハンガーストライキを開始したと伝えられている。

 

今回の事件は単なる船団拿捕にとどまらず、ガザ封鎖、人道問題、国際法、そしてイスラエル政府の強硬姿勢をめぐる世界的対立を改めて浮き彫りにした。

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