「中東における軍事的応酬の拡大と停戦への道筋」 中東フラッシュレポート(2026年3月号)
調査レポート
2026年04月23日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2026年4月17日執筆
1.米国/イラン/イスラエル:攻撃の応酬と停戦への道筋
2月28日、米国とイスラエルがイランの軍事・核関連施設に対する攻撃を開始したことを契機に、両者間で本格的な戦闘が始まった。米・イスラエル側は政権・軍の要人の殺害に加え、イラン国内のミサイル関連施設や指揮統制拠点、軍需インフラへの攻撃を継続し、軍事能力の低下を図った。これに対しイランは、弾道ミサイルやドローンを用いてイスラエル領内および周辺諸国に所在する米軍関連施設を標的とした報復攻撃を実施し、攻撃の応酬は急速に激化した。
戦闘は早期に湾岸地域へと波及した。湾岸諸国は戦争に巻き込まれることを回避するため、自国内の米軍基地を対イラン攻撃に使用させない意向を事前に示していたが、イランはこれら諸国の港湾施設やエネルギー関連インフラに対する攻撃を実施した。湾岸諸国はイランを非難する声明を発出したものの、対応は主に攻撃や防御にとどまり、対イラン攻撃には踏み切らなかった。また、イランはホルムズ海峡を通航する船舶への攻撃を強化し、実質的な海峡封鎖に近い状況を生じさせた。この影響により、原油やLNGの輸送のみならず、ナフサやヘリウムなどの石油・ガス関連製品の供給にも支障が生じ、エネルギー市場や化学産業のサプライチェーンに広範な影響が及んだ。
3月22日、ガソリン価格の上昇を懸念したトランプ米大統領は、「48時間以内にホルムズ海峡を開放しなければ、イラン国内の発電所を破壊する」と警告し、イランに対して強い圧力をかけるとともに交渉を開始した。その後、複数回にわたる期限延長を経て、4月8日には米国とイランが2週間の一時停戦に合意した。停戦発効直後には違反とみられる行為や停戦条件に関する認識の齟齬が表面化したが、現時点では停戦は維持されている。停戦の期限は日本時間4月22日の午前9時だが、停戦延長に関しての議論も進んでいる。
2.イエメン・イスラエル:フーシ派による対イスラエル攻撃
イエメンのフーシ派は、米・イスラエルによるイラン攻撃開始から約 1か月を経て、イスラエルへのミサイル攻撃を開始した。3月28日にはイスラエル南部エイラット近郊を攻撃し、その後も巡航ミサイルやドローン攻撃を継続すると表明している。フーシ派の行動はイラン主導の「抵抗軸」の一部とされるが、独自判断での限定的な「警告行動」との見方もある。ホルムズ海峡に続いて、紅海の要衝バーブ・アル・マンデブ海峡封鎖の可能性が懸念され原油価格は急騰したが、フーシ派はサウジの石油施設への全面攻撃は避け、海峡封鎖という奥の手を残しつつ、現時点では選択的行動にとどめる可能性が高いとみられている。
3.イスラエル:議会が2026年度予算案を可決
3月30日、イスラエル議会は、徹夜に及ぶ長時間の審議の末、2026年度予算案を可決した。修正予算案は賛成62、反対55で成立した。イスラエルでは3月末までに予算が成立しない場合、議会は自動的に解散され総選挙が実施される仕組みとなっており、今回の可決により期限のわずか2日前で早期選挙は回避された。
予算総額は8,506億新シェケル(NIS)(約2,710億ドル、43兆円)と、過去最大規模となった(前年度6,196億NISから約37%増)。このうち国防費(国防省予算)は、当初案の1,120億NISから310億NIS増額され、1,430億NIS(約458億ドル、約7.3兆円)に達し、全体の約17%を占める過去最高水準となっている。
政府は2025年12月に2026年度予算案(イスラエルの会計年度は暦年)を閣議決定し国会に提出したが、2月末に開始された対イラン攻撃を受け、国防費などを増額した修正案を再提出し、審議が続けられていた。国防費増大の主因の一つは、防空・迎撃システムの多用であり、イランおよびレバノン両戦線での戦費は、1日平均約10億NIS(約3.3億ドル、約530億円)に上ると試算されている。財務省によれば、戦費を確保するため、すべての政府省庁の予算に対して一律3%の削減措置が講じられている。
4.イラク情勢
- 2月28日に米国・イスラエルによるイラン攻撃を契機に戦争が始まって以降、イラクでも米国・イスラエルによる親イラン民兵組織(PMF)への攻撃と、PMFやイランの革命防衛隊による米軍基地や米国大使館などへの報復攻撃がほぼ毎日のように行われ、情勢は急速に悪化した。米軍基地などへの攻撃は迎撃により比較的被害が抑えられている一方で、PMFに対する米国・イスラエルの攻撃では、多数の死傷者が発生している。
- 3月12日、イラク西部で米軍の給油機(KC-135)が墜落し、乗員6人全員が死亡したと米軍が発表した。米軍はあくまで「事故」と主張しているが、イラクの「イスラム抵抗組織」はこれを撃墜したとの犯行声明を出している。同日、北部エルビルではフランス軍が駐留する基地が攻撃を受け、仏軍兵士1人が死亡した。
- 3月24日、イラク西部のPMF軍事基地への攻撃で、指揮官を含む15人が死亡。翌25日には同基地が再び攻撃を受け、7人が死亡した。イラク国防省はこの攻撃を「あらゆる国際法と規範に違反する凶悪な犯罪」と強く非難し、イラク政府はPMFに対して「反撃する権利」を認めた。PMFは民兵組織で独自の指揮命令系統を有するが、2016年に形式上はイラク正規軍に統合されている。3月28日には、北部キルクークのPMF本部に対する2度の攻撃で、イラク軍兵士やPMF戦闘員など13人が死亡した。
- 3月28日、イラク北部クルド自治区のバルザニ大統領の自宅がドローン攻撃を受けた。
- 3月31日、イラクが2026年年6月から北米で開催されるFIFAワールドカップへの出場を決めた(40年ぶり、2度目)。
- 2月の原油輸出詳細:輸出額 68.1億ドル、輸出量 日量 356.7万バレル、平均単価 68.23ドル/バレル
- イラクの石油輸出公社(SOMO)は、ホルムズ海峡封鎖の影響により、3月の原油輸出が前月比で7割減となったと発表した。イラクは政府収入の約9割を石油収入に依存しており、輸出の大幅な減少は同国経済にとって大きな打撃となる。
5.リビア情勢
- 3月3日、ロシア船籍のLNG船「Arctic Metagaz」が地中海で爆発・火災を起こし、航行不能となった。乗組員30人は全員救助された。「幽霊船団(ゴースト・フリート)」の1隻である同船は、ロシア北部のムルマンスクからスペインを回って地中海をエジプトへ向かっていたとされ、約6万トンのLNGを積載していたと報じられている。ロシア側は、ウクライナによるドローン攻撃を受けたと主張しているが、真相は不明。海洋汚染の懸念からリビア当局は曳航を試みたものの、悪天候のため失敗し、同船はその後も漂流を続けている。
- 国連世界食糧計画(WFP)の報告書によると、リビアでは1月に実施されたディナールの14.7%切り下げを受け、2月に食料価格の上昇圧力が強まった。輸入依存度の高い経済構造に加え、輸送コストの上昇も重なり、米、植物油、砂糖、加工食品など主要品目の価格に影響が及んだ。
- 3月30日、在リビア・トルコ大使は代表議会(HoR)のサーレハ議長とベンガジで会談し、二国間関係や地域情勢、協力強化について協議した。この席で、サーレハ議長はトルコ訪問への公式招待を受けた。また同日、同大使はリビア国民軍(LNA)のサダム・ハフタル副司令官とも会談し、双方の関心事項や各分野での協力強化について意見を交わした。
- 国民統一政府(GNU)は、中国向け輸出品について、2026年5月から関税が撤廃されると発表した。もっとも、これはリビアとの個別協定ではなく、中国が外交関係を有するアフリカ53か国を対象に、5月1日から輸入関税をゼロにする方針の一環。これにより、リビア産品は中国市場に無関税で参入できる見通し。
以上

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