エチオピア/ティグライ情勢緊張

2026年09月24日


髙橋 史

9月23日、エチオピアのゲタチウ・レダ東アフリカ担当大臣兼首相顧問は、北部ティグライ州の空港を「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」らが制圧したと発表した。

報道によると、連邦政府の管轄下にあった同州の州都メケレの空港を含む3つの空港が、TPLF率いる「ティグライ防衛軍(TDF)」に占拠された。現在、エチオピア航空はこれらの空港への国内線の就航を停止している(9月23日、ロイター通信など)。また、同日にティグライ州南部のアムハラ州、アファール州との州境付近で、エチオピア国防軍(ENDF)とTDFとの間で軍事衝突が発生したとも報じられている。TPLFは、連邦政府による「公然たる侵攻と攻撃」を受け、「防衛戦争(Defensive combat)」に移行したとの声明を出した(9月23日、Addis Standard)。


連邦政府とTPLFとの間の軍事衝突(ティグライ紛争)は、2022年11月の「プレトリア合意」の締結によって一時的に終結した。しかし、1991~2018年まで政権の中枢を担っていたTPLFが政治空間において弱体化していく中で、連邦政府との間の軋轢が深まった。特に8月初旬以降、ティグライ州西部などでの軍事衝突やドローン攻撃の応酬がたびたび繰り返されるなど、再び緊張が高まっていた(2026年8月4日デイリーアップデート参照)。欧米諸国やアフリカ連合(AU)などは事態のエスカレーション回避のため、両者に自制を求める声明を発出した。8月24日にはオバサンジョAU特使(元ナイジェリア大統領)がメケレを訪問し、TPLF幹部と対話を行うなどの働きかけを行ってきた(2026年8月29日デイリーアップデート参照)。


しかし、その後9月20日にTPLFをはじめ、連邦政府と衝突を続けている国内の武装組織7グループが反政府統一戦線「エチオピア人民生存のための勢力同盟(注)」の結成を発表。それからわずか3日後のTPLF・TDFによる軍事行動となった。


TPLFのこのタイミングでの行動の背景には2つの要因が考えられる。1つ目は米国によるエチオピア・エリトリア向けの経済制裁の解除だ。米国はティグライ紛争時の大規模な人道危機の発生を受けて、エチオピアに対して2021年9月に「国家非常事態」を宣言するとともに、人権侵害に関与した企業・団体に対して経済制裁を課していた。しかし、この国家非常事態宣言が5年後の9月17日に自動失効したことを受け、米財務省外国資産管理局(OFAC)も主にエリトリア軍関係者を対象とした制裁を一部解除した。さらに、米国務省は「国際武器取引規制(ITAR)」の対象国リストからエチオピアを除外すると発表。これにより個別審査付きではあるものの、米国からエチオピア向けの商業用防衛品の輸出が可能となる(9月19日付、The Reporter)。米国の制裁解除の動きは、イエメンのフーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡周辺を掌握したことを受けて、紅海周辺地域の安定を望んでの判断もあったとみられる。しかし、こうした米国のエチオピア政府に対する寛容な姿勢は、TPLFら反政府武装勢力の焦りをかき立てている可能性がある。


2つ目は国連総会がニューヨークで開催されているタイミングであることだ。実際にTPLFによる空港の制圧や軍事衝突は、タイエ・アツケセラシエ大統領が国連総会で演説を行う数時間前に発生した(9月23日付、ロイター通信)。TPLFとしては国際社会の場でエチオピア政府の信用を傷つける狙いがあったとみられる。また、かつてTPLFの幹部を務めていたレダ氏も国連総会のミッションに同行し、米国との安全保障および経済協力の強化を約束している。そのレダ氏自身がTPLFからの攻撃に関する声明を出していることは、現在のTPLF体制とレダ氏ら旧TPLFとの対立構造を示しているとも言える。

エチオピア国内の反政府武装勢力グループの連携は、過去にも度々繰り返されては時に敵対し合ってきた。また、地理的にも分散しているため、ENDFに対して全面的に対抗する能力はないとの見方もある。一方で、ENDFは散発的に発生している各武装勢力への対応や、エリトリアなどとの対立が続く中で手いっぱいの状態にあることから、反乱が活発化すればENDFが疲弊していく可能性があるとの指摘もある(9月23日、ACLED)。また、この混乱がエチオピアの周辺国を含む「アフリカの角」地域に拡大していく懸念もある。(国際部 髙橋史)


(注)ティグライ人民解放戦線(TPLF)、アムハラ・ファノ民族運動(AFNM)、オロモ解放軍(OLA)、オガデン民族解放戦線(ONLF)、アファール民族統一革命戦線、ベニシャングル人民解放運動、グムズ人民民主運動

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