デイリー・アップデート

2026年8月25日 (火)

[サウジアラビア/政府支援型の船舶保険検討] 

サウジアラビアが、船舶や海上貨物を対象とした政府支援型の戦争・政治リスク保険制度の導入を検討している。8月24日付英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)によると、サウジ政府はロンドンの保険ブローカーなどと政府支援型の保険プール創設を協議しており、1事故当たり最大7億リヤル(約1.86億ドル)の民間保険を提供する案が検討されている。サウジ再保険(Saudi Re)やリヤド再保険(Riyadh Re)が主導するコンソーシアムが再保険を担い、サウジ輸出入銀行が追加的な保証を提供する構想だという。

背景には、フーシ派によるサウジ関連船への攻撃激化と、それに伴う民間保険の引受縮小がある。フーシ派は7月20日にサウジに対する海上封鎖を宣言した。7月25日付FTによると、その後、ロンドンのLloyd's市場の主要な戦争保険会社の一部が、紅海を航行するサウジ関連船(サウジ船籍だけでなく、過去にサウジ港へ寄港した船舶も含む)への保険引受を制限・拒否する動きがみられた。一部保険会社は既存契約の解除も検討したという。

8月24日付Lloyd's Listによると、サウジ関連船への保険提供が全面的に停止しているわけではないものの、再保険会社の警戒を背景に保険料は高騰している。同日には、紅海のヤンブー沖でサウジ国営海運会社Bahri保有の石油タンカーAmzan号が攻撃を受けた。フーシ派は本件を含め、サウジに対する3つの作戦を実行したと表明している。

ホルムズ海峡の通航制約が続くなか、サウジにとって国内を横断する東西パイプラインを経由し、紅海沿岸のヤンブー港から原油を輸出するルートの重要性は高まっている。同国の戦前の原油輸出量は日量約700万バレルで、東西パイプラインは最大日量約500万バレルを紅海側へ輸送できる。ホルムズ海峡ではAIS(船舶自動識別装置)を停止して通航する船舶も増えており、実際の通航状況は把握しにくいが、戦争前の水準には遠く及ばない。一方、紅海側でもフーシ派の攻撃や保険引受の厳格化が続いており、ホルムズ海峡・紅海の双方で異なる輸送リスクが生じている。

米国もホルムズ海峡を航行する船舶向けに最大400億ドルの補償能力を持つ政府支援型保険制度を設けたが、FTによると、これまで利用実績はない。サウジも、民間保険の引受縮小を政府支援で補完し、紅海側の輸出ルートを維持する狙いとみられる。(経済部 鈴木直美)

[米/シリアのテロ支援国家指定撤回] 

8月24日、米財務省など米政府機関は、シリアに対する制裁・輸出管理の緩和措置をまとめた文書を公表した。今回の措置の柱は、シリアの「テロ支援国家」指定の撤回である。あわせて、旧反体制派の有力組織シャーム解放機構(HTS)に対する特別指定国際テロリスト(SDGT)指定も解除されており、アサド政権崩壊後に米国が段階的に進めてきた対シリア制裁の解除をさらに前進させる措置となる。

 

トランプ政権は2025年5月、シリアの復興と経済発展を後押しするため、長年続けてきた制裁を解除する方針を表明した。同年6月には包括的な対シリア制裁を終了し、7月にはHTSの外国テロ組織(FTO)指定を解除した。11月にはアフマド・シャラア暫定大統領ら個人に対するテロ関連制裁も解除され、12月には外国企業によるシリアへの投資を阻害してきたシーザー法も廃止された。通信、発電、民間航空など、復興に必要な分野を中心に輸出規制の緩和も進められている。

 

今回、とりわけ象徴的なのが、1979年以来続いてきたシリアの「テロ支援国家」指定の撤回である。シリアは制度発足時からイラク、リビア、南イエメンとともに指定され、アサド政権による武装組織への支援などを理由に、約半世紀にわたって対象となってきた。過去にはイラクやリビアなども、政権交代や政策転換を受けて指定を解除されており、今回も米国がアサド旧政権の行動と現在のシリア国家を切り分けたものと見ることができる。

 

ただし、米国が対シリア制裁をすべて撤廃したわけではない。アサド前大統領とその関係者、人権侵害者、麻薬密売関係者、IS(イスラム国)やアルカーイダ系勢力、イランとその代理勢力などに対する個別制裁は維持される。今回の措置は、シリア国家全体を広く対象とする制裁から、問題のある個人・組織を対象とする制裁へと軸足を移すものであり、シャラア政権の国際社会への再統合と外国投資を通じた復興を後押しする米国の政策転換を鮮明にしたといえる。(国際部 広瀬真司)

[米国/対中関税追加の報道] 

トランプ米政権が、中国の過剰生産能力を問題視する通商法301条調査に基づき、中国製品に7.5%の追加関税を課す方向だと『ブルームバーグ』が報じている。2026年7月には、強制労働への対応が不十分だとして12.5%の関税を導入しており、合計すると第2次トランプ政権による対中関税は20%となる。中国側は、米中経済貿易協議にて、米国側が従来の関税を別の法的根拠で置き換える場合も、20%を上限とすることで合意したと説明しており、今回の措置はこの水準を超えないことになる(第1次トランプ政権以来の301条関税などは別途残っている)。


9月24日には、ワシントンで米中首脳会談が予定されている。米政権は会談前に過剰生産能力に関する調査結果を公表する方針だが、より高い税率を設定して一部を停止し、実効税率を7.5%に抑える案も検討していると報じられている。11月10日に期限を迎える米中の貿易休戦の延長も米中間で協議されており、中国に圧力をかけつつ、関係を大きく悪化させたくない意向がうかがえる。


同様の慎重さは、8月24日にベッセント財務長官が「経済的Dデー」と位置づけて発表した対イラン制裁にも表れている。約60の個人・団体を対象に、海運や金、暗号資産などを通じたイランの資金調達網を狙う一方で、イラン産原油の最大の買い手である中国に対しては、大手銀行などへの大規模な二次制裁を見送った。ベッセント氏はイランと取引を続ける国にさらなる措置の可能性を警告したものの、現段階では中国への打撃は限定的な内容となっている。(国際部 前田宏子)

[タンザニア/水力発電・電力連携] 

8月21日、タンザニア東部のルフィジ川流域に建設された「ジュリウス・ニエレレ水力発電所(JNHPP)」の開所式が行われた。タンザニア初代大統領の名を冠した国内最大級の発電容量(2,115MW)を持つ同発電所の開所式には、タンザニアのサミア・ハッサン大統領のほか、エジプトのムスタファ・マドブーリー首相も参加した。


2019年にエジプトのエルセウェディ・エレクトリック社とアラブ・コントラクターズらによるコンソーシアムがタンザニア政府から受注した同プロジェクトは、総事業費28億ドルの全額をタンザニア政府が負担する形で建設が進められてきた。中国電力建設集団(Power China)と東方電気も下請け企業として主要構造物の工事やタービン供給などに参画した。発電所の運営はタンザニア電力公社(TANESCO)が行う。


開所式においてエジプトのマドブーリー首相は、5年近くを要した建設期間において12,000人の労働従事者のうち1,700人のエジプト人技師らが従事したと説明。同発電プロジェクトの成功は「エジプトのナイル川流域諸国の開発に反対しているというこれまでの主張を覆すものだ」と述べたうえで、「ナイル川における自国の権利を守りつつ、共通の利益に資する形で流域諸国の開発を支援する」と強調した。タンザニアはナイル川の流域を構成する11か国のひとつだが、JNHPPが建設されたインド洋に面するルフィジ川流域はナイル川流域に属していない。今回のマドブーリー首相の発言は、下流にあるエジプト側の意見を十分にくみ取らない形で2025年9月にナイル川上流に5,000MW級の「グレート・ルネッサンス・ダム(GERD)」を開業し、さらに3つのダム建設を検討するエチオピアをけん制したものにほかならない。エジプトとエチオピアの両国がナイル川の利権について外交上の舌戦を続ける中で、エジプトがタンザニアをナイル川流域の関係国として重視したい意図が表れている。


これまでタンザニアの電源の約7割が天然ガスだったが(IEA、2023年)、JNHPPの本格稼働により水力発電が電源の約6割を占めることとなる。タンザニアのンデジェンビ・エネルギー大臣は、JNHPPにより同国の総発電容量は約2倍の4,646MWに達し、ピーク需要の2,271MWを上回るため、2,375MWの余剰電力を輸出に回せるとの期待を示している(8月22日、ロイター通信)。タンザニアの電化率はサブサハラ平均の55.1%を下回る52.4%のため(世界銀行、2024年)、国内の電力インフラの整備も必要となる。一方で、世界銀行は「東アフリカパワープール(EAPP)」への電力供給能力強化に向けたウガンダ~タンザニア間の400kV高圧送電線の整備に加え、「南部アフリカパワープール(SAPP)」向けのタンザニア~ザンビア間の330~400kVの高圧送電線の整備を支援している。2026年2月にSAPPとEAPPは「クロスボーダー電力取引」に関する協力覚書(MoU)に署名していることから、将来的にはタンザニアを介してアフリカ南部と東部の電力網が連結するとの期待が高まっている。(国際部 髙橋史)

[米国/「肉事情」] 

米国で牛肉価格の高騰が政治問題化している。8月24日のFox Newsによると、トランプ大統領は90日間で30万トンの輸入牛ひき肉を市場に投入し、価格を25%程度引き下げる考えを示した。背景には、牛ひき肉が1ポンド当たり約7ドルまで上昇する一方、牛の飼養頭数が歴史的低水準にあることがある。つまり、牛肉高は一般的なインフレだけでなく、国内供給力の不足という構造問題でもある。

ここには、トランプ政権の政策が抱える矛盾が凝縮されている。「食料価格を下げたい」「米国農家を守りたい」「輸入依存を減らしたい」「関税で外国に圧力をかけたい」という四つの目標は、必ずしも同時には実現できない。安価な輸入牛肉を増やせば消費者価格には下押し圧力がかかるが、国内牧畜業者の収益を悪化させ、将来の増産を遅らせる可能性がある。実際、農業州の共和党議員からも、輸入拡大への反発が出ている。

この矛盾をさらに際立たせるのが、カナダ、メキシコとの関係だ。米国は一部カナダ製品に50%の追加関税を課したが、牛肉の主要品目は対象外で、USMCAの原産地要件を満たすカナダ産牛肉は原則無税のままである。カナダからは、2025年に約30億ドルの牛肉・牛副産物と18億ドルの生体牛を輸入した。メキシコもまた重要で、2020~24年には米国が輸入する生体牛の約62%を供給していた。カナダとメキシコは単なる外国ではなく、米国の飼育、肥育、食肉加工を支える北米一体の供給網の重要な構成員だ。

それにもかかわらず米国は、物価を下げたいときには北米や海外からの供給を利用しながら、通商交渉では関税を武器に相手国へ譲歩を迫る。農産物輸入でも2025年はメキシコとカナダだけで800億ドルを超え、この二国が米国の最大の供給源となっている。強硬な関税政策を唱えられるのも、食料では必要な輸入経路を残しているからだともいえる。

アメリカの「肉事情」が示すのは、世界最大級の農業国であっても食料市場は一国では完結しないという現実だ。国内農家を守り、輸入依存を減らし、外国には関税で圧力をかけながら、同時に食料価格も下げる――その四つを追えば、どこかで矛盾が表面化する。北米市場の統合を利用しながら貿易相手には強硬姿勢を取る米国の政策は、自国の食料インフレによってその限界を試されている。(経済部 本間隆行)

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