デイリー・アップデート

2026年8月24日 (月)

[EU6か国/石油会社への超過利得税導入要求] 

中東情勢に伴う原油供給の混乱と石油会社の収益拡大を受け、ドイツ、イタリア、オーストリア、ポーランド、ポルトガルの財務相とスペインの経済相は、石油会社の超過利得に対するEU共通の課税枠組みについて議論を開始するよう求めた。6か国の閣僚は、EU理事会の輪番議長国アイルランドの財務相に共同書簡を送り、翌月にダブリンで開かれるEU財務相会合の議題に本件を加えるよう要請した。

 

書簡は、石油会社が原油価格の上昇を上回る収益性と石油製品の精製マージンを享受していると指摘した。その上で、世界がここ数十年で最大級の供給ショックに直面し、生活費上昇への不満が広がっているとして、「超過利得を課税するEU全域の枠組み」を議論するよう呼びかけた。ドイツのクリングバイル財務相も、現在の混乱に乗じてエネルギー企業が消費者を不当に搾取してはならないとの立場を繰り返し示している。

 

背景には、2026年2月28日に始まった米国とイスラエルによる対イラン軍事攻撃と、ホルムズ海峡を通じたエネルギー輸送の混乱がある。原油価格の上昇と市場の変動は欧州石油大手の収益を押し上げ、2026年第1四半期にはShellの利益が前年同期比24%増加し、TotalEnergiesの純利益は同51%増の58億ドルとなったほか、BPも増益を記録した。

 

6か国が参照しているのは、ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー危機を受け、EUが2022年に導入した化石燃料企業への一時的な「連帯拠出金」である。欧州委員会によれば、同措置は約280億ユーロの追加歳入をもたらした。今回の6か国書簡は、この経験から得られた教訓を踏まえ、EU全域での超過利得課税の枠組みについて議論するよう求めている。

 

これに先立つ2026年4月には、ドイツ、イタリア、オーストリア、ポルトガル、スペインの5か国が、より強固な法的基盤を備えたEU共通措置を欧州委員会に要請し、多国籍石油企業が国外で得た利益も対象に含めるよう提起していた。欧州委員会は当時、2022年の措置に類似する超過利得課税を検討していると説明したが、域外利益を対象とする提案を受け入れるかは明らかにしていなかった。

 

少なくともドイツでは、超過利得税を巡って政府内の立場が一致していない。クリングバイル財務相が所属する中道左派の社会民主党(SPD)が導入を支持する一方、フリードリヒ・メルツ首相率いる中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)は反対している。EUレベルで具体的な制度を構築するには、こうした加盟国内の意見の相違も調整する必要がある。

 

企業にとっては、現段階で課税導入を前提視するのではなく、EU財務相会合で正式な検討に進むかを見極めることが先決となる。その上で制度化に向かう場合には、課税対象となる企業・利益の範囲、EU域外で計上された利益の扱い、適用期間、各国の燃料減税や価格抑制策との関係が、企業負担とエネルギー投資の予見可能性を判断する上での確認点となる。4月の提案と8月の共同書簡には参加国と確認できる内容に違いがあるため、今後の議論では、欧州委員会が具体的な制度案を示すかどうかを注視する必要がある。(国際部 濱嵜隆吏)

[日本/貿易統計(7月)] 

8月20日に財務省が発表した7月の貿易統計(速報)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は▲6,345億円と、3か月連続の赤字となった。輸出額と輸入額のどちらも、比較可能な1979年1月以降で過去最大額となった。

 

輸出額は11兆5,118億円で前年同月比+23.2%と11か月連続のプラス、輸出数量指数は+5.2%と5か月連続のプラスとなった。金額ベースの内訳では、自動車が+19.5%、半導体等電子部品が+49.1%、半導体等製造装置が+40.9%伸びた。

 

輸入額は12兆1,463億円で+27.8%と6か月連続でプラス、輸入数量指数は+1.2%と2か月連続のプラスとなった。金額ベースの内訳では、原粗油が+87.8%、半導体等電子部品が+79.7%、非鉄金属が+67.7%伸びた。

 

為替レートは1ドル161.83円で、前年同月比11.2%円安(2025年7月:145.56円)。

 

原粗油に関しては、中東紛争の影響を受けて代替調達が進み、輸入量は1,211万キロリットルと+5.5%増加した一方、輸入額は1兆4,089億円と+87.8%増加し、輸入単価は11万6千円と上昇が続いている。地域別では、中東からの輸入量は718万キロリットルと▲32.8%減少した一方、輸入額は8,423億円と+20.7%増加した。中東からの原粗油輸入量は2026年1月では1,264万キロリットルだったが、中東紛争の勃発以降、4月には384万キロリットルまで落ち込んだ。その後徐々に回復を続け、7月は718万キロリットルとなったが、輸入総量に占める中東の割合は、中東紛争前の約9割から約6割まで低下した。

 

代替調達先として、米国からの輸入量は439万キロリットルと+814.5%増加した。さらに輸入額は5,084億円と+1,489.2%に達し、米国からの輸入総額の3割弱を占めた。米国からの原油輸入増加などにより、対米貿易黒字は6月3,393億円(▲49.1%)、7月2,804億円(▲50.7%)と、2か月続けて前年同月比半減となった。

ASEANからの原油輸入量は5万キロリットル(▲46.0%)と減少した。

 

原油価格はあらゆるものの価格に影響を及ぼす。企業間のモノの取引価格動向を示す企業物価指数は7月で前年同月比+7.2%に上昇しており、輸入原油価格の高騰が波及し始めている。政府による電気・ガス料金支援が7~9月で実施されることで一時的な負担軽減にはなるが、エネルギー価格上昇が企業収益への下押し圧力や、個人消費の落ち込みに繋がらないか懸念される。(経済部 菊井彩乃)

[イラン制裁強化と米中関係] 

8月19日、トランプ米大統領は自身のSNSに、イランに対する軍事作戦に続き、同国を国際経済から徹底的に孤立させる「経済Dデー」に乗り出すと書き込んだ。イランに経済的な「生命線」を提供する国には「甚大な経済的結果」が待っていると警告し、石油密輸や通貨スワップ、現金送金、両替、船舶登録、フロント企業などを通じた支援を直ちに停止するよう要求した。


その後、ベッセント財務長官も、米政府のあらゆる権限を動員した「史上最大の金融攻勢」によってイランの経済的生命線を断つと強調し、テヘランとの関係を維持する国も経済的な打撃を免れないと威嚇している。


第三国への警告という形をとっているが、念頭に置かれているのは明らかに中国である。中国はイラン産原油の最大の買い手であり、米国がイランを経済的に孤立させるには中国との取引を遮断することが不可欠となる。ベッセント氏も、中国がエネルギー供給の約半分を湾岸地域に依存しているとして、ホルムズ海峡の再開や対イラン圧力で米国に協力するよう求めた。


ただ、こうした威圧的なメッセージとは裏腹に、米国が実際に中国へ強力な二次制裁を発動できるかは疑わしい。9月には米中首脳会談が予定されており、また、中国が対抗措置としてレアアース輸出を再び絞れば、米国産業への影響が大きい。さらに米中の経済戦争が再燃し、物価上昇や金融市場の混乱を招けば、11月の中間選挙を控えるトランプ政権・共和党にも打撃となり得る。このため、「経済Dデー」による対中措置がとられたとしても、限定的なものにとどまる可能性が高い。(国際部 前田宏子)

[米国による対イラン経済攻勢] 

トランプ米政権は、軍事攻撃に加え、イランを国際的な金融・貿易網から切り離す大規模な経済圧力を強めている。スコット・ベッセント財務長官は、イランを金融的に孤立させる史上最大規模の「経済的Dデイ」と称する金融攻勢を打ち出し、8月24日に詳細を発表するとしている。狙いは、イランの石油収入や海外からの資金流入を遮断し、核開発や軍事活動を支える経済基盤を弱体化させることにある。

 

制裁の対象は、イラン産原油の輸送を担う「影の艦隊」や海上保険会社、デジタル資産関連事業者に加え、イラン産原油の最大の購入国である中国の独立系製油所や金融機関にも及ぶとみられている。米国はさらに、イランとの取引を続ける第三国にも制裁を科す構えを示し、国際的な包囲網の構築を進めている。これに対し、中国は制裁による圧力に反対し、外交による解決を主張している。これとは対照的に、イランの主要貿易相手国であるUAEは、イランとの貿易・金融取引の停止を発表しており、米国が目指すイランの経済的孤立に向けた動きもみられる。

 

イランは米国の政策を「経済戦争」と位置づけ、強く反発している。アラグチ外相は、軍事行動や封鎖が成果を上げられなかったため、米国が再び経済的圧力に頼ろうとしていると批判し、解決にはイランを尊重した対話が必要だと訴えた。さらに、最高国家安全保障会議のレザーイー事務局長は、米国の制裁に加担する国を「敵」とみなし、経済戦争が続けば、ホルムズ海峡やペルシャ湾から石油を「一滴たりとも」輸出させないと警告。米国の石油関連施設などを攻撃する可能性にも言及している。

 

こうした緊張は湾岸諸国にも波及している。イランの強硬派議員は、米軍機が展開するカタール、クウェート、UAEを名指しし、これらの国の基地がイランへの攻撃に使用された場合、報復対象となる可能性を示唆した。こうした強硬姿勢が目立つ中、ペゼシュキアン大統領は屈服を拒む姿勢を維持しながらも、長期化する戦争や制裁がインフレや失業、投資の減少などを通じて国内経済に深刻な影響を及ぼしていることを認め、経済の安定化と外交による事態打開の必要性を強調している。(国際部 広瀬真司)

[エチオピア/債務再編] 

8月20日、エチオピア財務省は、中国とフランスが共同議長を務める「公的債権者委員会(OCC)」が、10億ドルのユーロ債(国債)の返済条件について合意したと発表した。


2024年満期の同ユーロ債(クーポン利率:6.625%)の利息(3,300万ドル)の支払いを拒否したことにより、2023年12月に「債務不履行」に陥ったエチオピアは、「G20共通枠組み(注)」のもとで設立されたOCCと、ユーロ債の45%を保有する「債券保有者委員会」とともに、二国間債務およびユーロ債の債務再編を進めてきた。両債務の再編にあたり、OCCは、二国間債務もしくはユーロ債の債務再編の条件がどちらかに有利・不利にならないよう、G20共通枠組みが定める「取扱いの比較可能性の原則(principle of comparability of treatment)」が担保されるべきだと一貫して主張してきた。6月29日にエチオピア政府と債券保有者委員会がユーロ債の再編・返済に関する「暫定合意(AIP)」に至った後も、政府とOCCはこの「待遇の同等性」の評価を続けていた。


今回のOCCによる承認により、エチオピア政府はAIPで定めた条件に沿ってユーロ債の返済を行うことが可能になる。AIPでは、発行済みのユーロ債は10億ドルから8.8億ドルの新債権に割引(ヘアカット)され、2026年7月15日から2029年7月15日にかけて4回に分けて、1回あたり1~3億ドルの元本を返済するスケジュールとなっていたが、OCCの承認に時間を要したため、当初案より後ろにずれ込むとみられる。また、エチオピアは未払いの利息(9,940万ドル)や、新債権にかかる利息(6.15%)のほか、既存の債券保有者に対して、将来エチオピアが発行するユーロ債(最大10億ドル)を購入する権利を与える「ニュー・マネー・ワラント」を提示している。しかし、OCCは同新規金融商品に関しては民間債権者に過度な利益をもたらす可能性があるとして警戒しており、これまで二国間で合意している二国間債務の再編条件を見直す可能性があると言及している。


エチオピアは引き続き二国間での債務再編に関する協定締結を完了させる必要があるが、今回のOCCの承認に伴うユーロ債保有者への未払い利息や元本支払いの開始は、市場からの信頼回復に向けた大きな一歩となりうる。現在、格付け大手2社は同国の外貨建て国債の格付けを「選択的デフォルト」としているが、引き上げが行われれば、対外資金調達はさらに容易になるだろう。


他方で、エチオピア北部ティグライ州では、エチオピア国防軍(EDF)とみられる軍事組織によるドローン攻撃が8月に入ってから散発している。同州で民間人十数人が死亡したことを受け、「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」は8月21日に政府による攻撃を非難する声明を出すなど、国内では治安悪化への懸念が再び高まりつつある。(国際部 髙橋史)

(注)低所得の債務問題を解決するためにG20とパリクラブらが共同で合意した債務再編のルール

[米国/ドクターカッパー] 

銅は「ドクター・カッパー」と呼ばれ、世界景気の先行きを映す代表的な指標とされてきた。LME銅先物価格は8月24日のアジア時間にトン当たり1万4,000ドル台で取引されるなど高値圏での推移が続いているが、景気に過熱感はみられない。
米ミネソタ州では銅・ニッケル鉱山開発を巡り、環境保護を重視する立場と中国依存の低減を求める立場の間で対立が生じている。他方で銅鉱山生産で世界第2位のコンゴ民主共和国では、エボラ感染の危険下でも鉱山労働者が働き続ける状況をAl Jazeeraがこの週末に報じている。感染症や労働移動の制約は、鉱石から地金に至る供給網全体のリスクとして意識される。


さらに、米国とカナダの通商摩擦も無視できない。両国は資源、エネルギー、製造業で深く統合されてきたが、相互関税の応酬は、友好国間の供給網でさえ政治から自由ではないことを示した。米国は精鉱からスクラップまで銅の調達でカナダと強い協力関係にあったが、中国依存を減らして同盟国から調達するフレンドショアリングにも限界があることを示している。


8月23日付のAl Jazeeraは、水を巡る紛争が世界で増加していると伝えている。水不足やインフラ破壊は生活だけでなく、鉱山や精錬所の操業にも影響する。同日付のFox Newsは、ホルムズ海峡の航行が正常化しても、停止した油田の再稼働には時間がかかり、従来の生産水準に戻らない可能性を指摘した。資源は地下に存在するだけでは供給できず、水、電力、設備、労働力、物流がそろって初めて市場に届く。


こうしてみると、銅や原油、ニッケル、コバルトは単なる「重要鉱物」ではなく、経済、軍事、エネルギー供給を維持するための「安全保障財」と考えた方が実態に近い。銅価格は世界景気だけでなく、鉱山開発規制、水不足、感染症、物流障害、関税、同盟関係、地政学リスクまで映しており、ドクター・カッパーは景気の体温だけでなく、安全保障の緊張度も測る指標になりつつある。そう考えると、価格から発せられるメッセージはより複雑であることが分かる。ドクターの「診療科目」は変わりつつある。(経済部 本間 隆行)

[カザフスタン新議会選、与党系新党が圧勝へ] 

8月23日、カザフスタンで新憲法に基づき新設された一院制議会「クルルタイ」の初の総選挙が実施され、トカエフ大統領を支える与党系新党「アディレト」が圧勝する見通しとなった。出口調査では同党が得票率約70~72%を獲得し、定数145議席のうち110議席前後を確保する勢いだ。アディレトは、旧与党アマナトが合流して2026年6月に登録されたばかりの政党で、トカエフ政権の「公正なカザフスタン」路線を支える政治基盤と位置付けられている。
今回の選挙は、3月の国民投票で承認された新憲法により二院制から一院制へ移行した後、初めて実施された議会選であり、制度改革の総仕上げとしての意味合いが強い。同時に、新憲法には副大統領職の復活や大統領任期の扱いの見直しも盛り込まれており、トカエフ氏が2029年大統領選に再出馬できる余地も生じている。
政治制度の刷新と議会機能の強化が掲げられる一方、実態としては大統領与党の圧倒的優位が改めて示されており、トカエフ体制の長期安定化に向けた権力基盤の再編が進んだといえる。(国際部 ゴロシニコフ アントン)

 

 

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