さまようユーロ圏経済~ユーロ圏経済2026年7月

2026年07月28日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

概要

  • 欧州中央銀行(ECB)は、7月23日の理事会で政策金利を2.25%に据え置くことを決定した。次回9月会合での利上げに含みを持たせた結果と、市場では受け止められている。
  • 2026年第1四半期(Q1)の実質GDP成長率(前期比▲0.0%、年率換算▲0.0%)は、小幅ながらマイナス成長だった。個人消費が小幅に増加したのに対して、設備投資や輸出が減少していた。中東情勢など、先行き不透明感から企業が慎重な動きになっていたようだ。ユーロ圏経済は今後、インフラや防衛投資などが下支えとなって緩やかに回復すると期待されるものの、下振れリスクが依然として大きい。現状では、2026年の経済成長率は1%弱と、2025年の1.4%を下回る見通しだ。

1.トピック:ECB据え置き

 欧州中央銀行(ECB)は7月23日の理事会で、政策金利(中銀預金金利)を2.25%に据え置くことを決定した(図表①)。6月の会合で2023年9月以来となる利上げを実施しており、今回は2会合ぶりに据え置きとなった。足元の物価上昇率がやや鈍化したことに加えて、企業の価格設定行動や賃金交渉など二次的な効果の兆しが確認されておらず、状況を見極める上での時間的な余裕があると判断されたとみられる。足元の物価上昇によって短期的な期待インフレ率が高まっている一方で、中期の期待インフレ率が落ち着いていることも、据え置き判断を後押しした。

 図表①ECBの政策金利その一方で、市場では、次回9月会合で追加利上げがあり得るという期待が広がっている。例えば、 ラガルドECB総裁は会合後の記者会見で、最終的に据え置きが全会一致で決定したとしつつも、「利上げしない方がよいかを自問する参加者がいた」と明らかにした。ECB内には、利上げという意見が全くなかったわけではないと言える。また、ラガルド氏は、エネルギーなどの供給ショックの強度や持続期間、波及効果などを考慮した結果、「当面(for the moment)」政策金利を据え置くことになったとも述べた。「当面」という言葉を受けて、敏感な市場参加者は、今回の政策金利の据え置きが一時的なものだと受け止めた。ラガルド氏が7月初旬に示していた物価上昇率の上振れリスクと経済成長率の下振れリスクがより均衡しているという認識について、均衡は取り除かれたとも述べたことも、市場参加者が追加利上げ観測を持ち続けることにつながった。6月の米国とイランの戦闘終結に向けた合意が事実上崩壊したことで、物価の上振れと経済の下振れリスクが一段と強まり、追加利上げの必要性が7月初旬時点に比べて高まったとも解釈できるからだ。

 もっとも、ユーロ圏の経済・物価動向は中東情勢に伴うエネルギー価格の動向次第という側面が依然として強い。そのため、今後もその状況を注視する必要があることに変わりない。

 

2.現状の確認と先行きの見通し

 【概観】 ユーロ圏経済は、減速している。2026年第1四半期(Q1)の実質GDP成長率(前期比▲0.0%、年率換算▲0.0%)は、小幅ながらマイナス成長だった。その内訳を見ると、個人消費が小幅に増加したのに対して、設備投資や輸出が減少していた。中東情勢など、先行き不透明感から企業が慎重な動きになっていたようだ。主要国を見ると、ドイツやイタリア(ともに+0.3%)、スペイン(+0.6%)が成長した一方で、フランス(▲0.1%)は不調であり、経済成長の方向は異なっていた。2026年Q2には、中東情勢に加えて、熱波の経済に及ぼす影響も懸念される。人々の活動が大幅に制限される上、山火事など災害対策も欠かせない。渇水によって水運が滞ったり、冷却水の確保難から発電量が低下することも懸念されている。

 こうした中で、メルツ独政権は7月2日に経済改革パッケージを公表した。中低所得者向けの減税が改革の柱であり、可処分所得を増やす狙いがあるようだ。これまでドイツ経済の成長期待はメルツ政権発足時の防衛・インフラ投資に集中しており、言い換えれば、それくらいしか好材料を見いだせないような厳しい状況だった。実際、ロシアのウクライナ侵攻後、エネルギー価格の上昇に直面し、化学産業などエネルギー集約型産業は不調に陥った。また、米国の対中国規制強化に加えて、不動産不況など中国経済自体の減速もあって、自動車をはじめとした輸出型産業にも停滞感が漂っていた。欧州経済研究センター(ZEW)の現況指数がマイナス圏に沈んだままであるなど、足元の景況感は厳しい状態にあった。今回の改革には労働市場改革なども含まれているものの、実際の生産性の向上につながるかなど、その実効性も問われている。

 労働市場は安定している一方で、2022年のような物価高騰が懸念される中で、6月の消費者物価上昇率は前月から縮小した。これは、ユーロ圏経済の中東産エネルギー依存度がそれほど高くないことが一因として挙げられる。ただし、中東情勢がエネルギーの国際価格を押し上げる傾向があるため、冬場に向けたLNG備蓄も欠かせない中で、その影響に注意が必要だ。

図表②

【見通し】 ユーロ圏経済は今後、インフラや防衛投資などが下支えとなって緩やかに回復すると期待されるものの、下振れリスクが依然として大きい。現状では、2026年の経済成長率は1%弱と、2025年の1.4%を下回る見通しだ。

 エネルギーの中東依存度はアジア諸国に比べて高くないものの、価格上昇の影響を受ける。また、冬場に向けてLNGの備蓄なども必要であり、例年に比べると備蓄が思うように進んでいない面も重なり、価格上昇の影響が広がる恐れがある。中東紛争に伴う不確実性に加えて、物価抑制のために利上げも実施されているため、設備投資や個人消費など内需には下押し圧力がかかりやすいことにも注意が必要だ。

 デジタル戦略や安全保障政策など、米国依存度を低下させる取り組みを進める一方、その成果が表れるには時間がかかることも事実だ。特に現在のAI・半導体ブームに、ユーロ圏経済は上手く乗れていない。米国は巨大テック企業など、生成AIを生み出す企業が集積しており、そのためのデータセンター建設も進んでいる。アジア諸国ではデータセンター建設に必要な半導体やその部材・原材料を生産している。そうしたAI・半導体の供給網にユーロ圏経済は上手くはめ込まれていないように見える。

 また、ロシアや中国との関係を見直す中で、域内結束の重要性が増している。2026年4月の総選挙で、ハンガリーで政権交代が起き、域内結束の強化が進むと期待された一方で、ブルガリアの総選挙では親ロシア派が勝利し、EUとの距離感が生じ、引き続き域内の意見集約が課題になっている。2027年のフランス大統領選に向けて極右勢力が支持を広げており、域内主要国であるフランスがEUに反対する行動をとる可能性もある。コロナ禍に加えて、2022年の物価高騰によって政権が交代した例が少なからずあったこと、足元の物価上昇がそうした社会・政治情勢の変化につながる可能性があることから、それらの動向が注目されている。このように、明確な先行きの姿が見え難く、落ち着きどころを見出す中で、ユーロ圏経済はさまっているようにも見える。

 

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