金融市場からの警鐘~日本経済2026年7月
2026年07月28日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之
概要
- 長期金利は7 月9 日、1996 年9 月以来30 年ぶりとなる一時2.9%まで上昇した。対ドルの円相場は7 月21
日のNY 市場で、1986 年12 月以来約39 年7 か月ぶりの円安・ドル高水準となる1 ドル=163 円台まで下げ
た。金融市場は、日本経済の先行きの見通しを受けて、約30 年、約40 年ぶりの変化を見せている。 - 日本経済は、足踏みが一部に残る中で、緩やかに回復してきた。実質賃金の回復によって、個人消費が想定以上
に底堅く推移しており、日本経済の成長を下支えしている。先行きについては、緩やかに回復すると期待されるものの、
下振れリスクが大きい。金利のある世界での財政リスクや円安・ドル高などが、実質賃金の回復を遅らせることが懸念
される。
1.トピック:約30年ぶりの金利水準、約40年ぶりの円安水準
長期金利は7月9日、1996年9月以来30年ぶりとなる一時2.9%まで上昇した(図表①)。また、対ドルの円相場は7月21日のNY市場で、1986年12月以来約39年7か月ぶりの円安・ドル高水準となる1ドル=163円台まで下げた。もちろん、中東情勢の悪化懸念や、フーシ派による紅海の海上封鎖宣言などが重なり、ドル買い圧力が高まっていた中とは言え、財政規律を軽視したかのように市場で受け止められた高市政権の政策姿勢への警戒からの円売り圧力も否定し難い。こうした中で、金融市場が日本経済の先行きの見通しを受けて、約30年、約40年ぶりの変化を見せている点も見逃せない。
これまで緊縮しすぎていたとは必ずしも言えない財政支出が、これから拡大する。財政赤字はこれまで先進国並みに拡大している。コロナ禍前の財政黒字に転じていたドイツはさておき、財政収支よりもハードルが低い基礎的財政収支の黒字すら達成が難しかった日本の財政が緊縮だったとは言い難い。もちろん、財政支出がそれほど拡大していなかったことは事実だ。そのような状況に陥っていたのは、消費税率引き上げなど増税を避けてきたことで歳入が十分に増えていなかったことが主因だった。そうした中で、高齢化する中で社会保障関連支出を維持するために、その他の支出を切り詰めざるを得ず、一部では緊縮に見えていたからだった。仮に緊縮しすぎていた財政支出を拡大するのであれば、その対になる税収など歳入も拡大させて、バランスをとることが財政規律を堅持することにつながり、後者を議論しなければ財政規律を重視しているとは言えない。
財政赤字を縮小せずに、債務残高GDP比を削減させたいのならば、財政健全化が名目GDPの成長により依存することになる。名目GDPの物価と実質GDPの2つのうち、後者の重要性を高めておく必要がある。仮に物価上昇率によって名目GDPを成長させるならば、事実上物価上昇によって債務負担感を軽減することになるからだ。そのような債務が目減りするような状況で、国債を購入する動機付けは乏しい。そのため、物価上昇率は欧米目標並みの2%程度を前提に、実質GDPを増やしていくことが重要になる。
その実質GDPの増加のために、勝ち筋の見える投資を増やすことは確かに一案だ。しかし、勝ち筋が見えるならば、なぜ民間企業がすでに取り組んでいないのか疑問が残る。その勝ち筋がつかみにくいものだから、取り組んでいないのであって、政府の投資が呼び水になるかは不透明だ。大切な税金を投入するのだから、相応の成果が求められることと矛盾しかねないリスクもある。勝ち筋がつかみにくい原因となる制度や仕組み、協業体制の構築などに尽力した方が効率的に見える。
企業が国内投資を減らしてきた理由はその収益性の低さであり、結果として、これまで収益を確保できる案件が国内に残されてきた。従来あまり考慮する必要がなかった経済安全保障などの制約条件を前提にせざるを得ないため、供給網の最適化の解が変化していることは事実であり、新たな供給網を構築するために、投資を促すことに意義がある。そうした部分に支援策を講じ、仕組みづくりを行うことが、経済成長を促すための政策になると考えられる。
2.現状の確認と見通し
【概観】 日本経済は、足踏みが一部に残る中で、緩やかに回復してきた。2026年第1四半期(Q1)の実質GDP成長率(前期比年率+1.8%)は2四半期連続のプラス成長だった。経済全体の需給バランスを表すGDPギャップはプラス(需要超過)で、いわゆる「デフレ脱却の4条件」も6四半期連続で満たされ、デフレ脱却がまた一歩近づいた。後からみれば、デフレ脱却していたと判断されるのだろう。
実質賃金の上昇率は2026年に入ってから5か月連続のプラスになった。2026年度の賃金交渉を経て名目賃金が上昇していることに加えて、ガソリンの暫定税率の廃止の影響などから消費者物価指数の上昇率が1%台半ばまで鈍化しているためだ。実質賃金の回復によって、個人消費が想定以上に底堅く推移しており、日本経済の成長を下支えしている。ただし、2022年以降マイナスが長きにわたって続いてきただけに、実質購買力の回復はこれからが本番だろう。
【見通し】 日本経済は当面、ゼロ%台半ばから1%程度の潜在成長率並みで成長し、景気は緩やかに回復すると期待されるものの、下振れリスクが大きい。原油について、7月以降の供給確保のメドが立ったものの、割高になっている面は否めない。これまで中東依存度を下げようと努力してきた中で、十分下がっておらず、国内の産業構造も中東産原油に依存する形で最適化されていた。仮に今後、ホルムズ海峡の通航が回復したとしても、閉鎖リスクが以前よりも高まっていることを踏まえると、経済安全保障の上で、供給網を組み替えておく必要がある。また、代替調達先としてエネルギー調達の米国依存度の高まりも、新たなリスクになっている。調達先をある程度分散させておくことがリスク軽減につながるため、代替調達の見直しも段階的に行わなければならない。
金利がある世界で、財政リスクが今後さらに大きくなる恐れがある。そのため、一段の金利上昇とそのコスト増を前提条件として考えておいた方が賢明だろう。その一方で、金融政策の独立性が維持される中で、日銀は緩やかなペースであっても追加利上げを実施し、金利のある世界により踏み込むことになる。しかし、貿易赤字の拡大懸念が燻る一方で、財政懸念が払しょくされないため、円安・ドル高が反転する見通しは立ち難い。こうした状況が実質賃金の回復を遅らせる要因になりかねないことにも注意が必要だ。
<SCGR調査レポート>
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以上
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