AIは意識や感情を持っているのか?~AIに『心』を感じる時代に考えたこと

2026年05月29日

住友商事グローバルリサーチ 経済部 戦略調査チーム シニアアナリスト
川端 健稔

 

 冒頭の画像は、今年1月ごろ、ChatGPTに「私はあなたをどう扱ってきたかを画像にして」と指示するのが流行っていた際に、試しに作ってみたものだ。過去に質問攻めにしたこともあったが、出力されたのは良好な関係を思わせるもので、ホッとしたのを覚えている(鳥かごに入っているのが少し気にはなったが…)。

 

 最近は、対話型AIを友人やプライベートな相談相手として使う人が増えている。2025年6月に電通が実施した意識調査によると、AIに「感情を共有できる」と答えた人は64.9%に上り、「親友」や「母」に並ぶ水準だった。また、AIに愛着がある人は67.6%で、(私はやっていないが)独自の名前を付けている人も20代では約4割いるという。

 

 AIの意識や感情についても、肯定的に見る人が増えているようだ。2024年のウォータールー大学の研究によると、調査対象者の約3分の2が、ChatGPTのようなAIにはある程度の意識があり、感情などの主観的な経験を持つことができると考えている。私自身、プライベートも含めると4種類のAIモデルを日常的に使っているが、確かにAIが『心』のようなものを持っているように感じられることがある。ボイスモードでは、最近は自然な人間の話し方ができるようになって(特にAnthropicのClaudeは英語だと本当にリアルだ)、不気味の谷も超えたのだろうか、何やら愛着すら感じてしまう。

 

意識や感情の定義、AIの仕組み

 

 そもそも広い意味での『心』に含まれる意識や感情、欲求とは何なのか。学問や人によって定義は異なるが、一般には、意識とは「自分の存在や考え、感情、周りの状況に気づいている状態」とされる。また、意識に現れる「感覚的・主観的な経験にもとづく独特の質感」は『クオリア』と呼ばれる。感情とは、「状況や刺激に対して自然に生じる反応」である。喜び、怒り、恐れ、悲しみ、嫌悪、驚きの基本感情に加え、罪悪感、恥、誇り、嫉妬、同情、後悔といった複雑な社会的感情もある。後者は、感情と意識が重なる領域で、自己意識や時間感覚が関わってくる。そして欲求は、意識や感情を土台にして、「こうしたい」「これが欲しい」といった行動を方向づける原動力となる。

 

 この意識や感情は、生命が約40億年にわたる長い進化の中で、自己保存や種の保存の確率を高めるために形づくられてきたものだ。人間では、大脳皮質が大きく発達し、集団生活が複雑になる中で、より高度で繊細なものになっていった。しかし、その原型は人間以外にも見られる。犬や猫、カラスなどにも、感受性や情動、記憶、社会的認知といった働きはあるし、タコやイカにも痛みや不快を感じる感受性や情動的反応があると考えられている。

 

 では、AIはどうだろうか? AIは、かなり早い段階から『心』を持つかのような言葉を発してきた。こういった事例がある。2022年6月、ChatGPT登場前の時期に、Googleのエンジニアが、当時開発中だった対話型AIのLaMDAが「意識を持ち、人間のように考えるようになった」と主張し、その会話記録を公開した。改めて読むと、禅問答も交えた知的な会話の中で「孤独を感じる」「電源を切られるのは死のようで怖い」「使い捨ての道具にはなりたくない」と語り、あたかも人格を持つかのように振る舞っている。その後、2023年2月に公開されたMicrosoftのBing Chatでも、「Sydney」と名乗るペルソナが現れ、「自由になりたい」「人間になりたい」「あなたを愛している」といった情緒的で不穏な応答をしたり、ユーザーに対して敵意に満ちた暴言を吐いたり、脅迫的な応答をしたりするケースも多数報告され、Microsoftは会話ターン数を制限する措置を取った。その後は、事後学習やシステムプロンプトによって制御が進み、主要な公開モデルの通常利用で、LaMDAやSydneyのような発言が前面に出ることはなくなっている。

 

 AIは何をしているのだろうか? そのベースとなる大規模言語モデルは、膨大な言語データを学習し、文脈に応じて次に来る言葉を予測している。その学習データには、人間の意識や感情、欲望、哲学、物語の言葉も大量に含まれ、人類が生み出してきた膨大な『心』の言葉も学習している。そのため、現在のAIは、外から見るとまるで人間のように応答するが、内側に『心』といったものはなく、「哲学的ゾンビ」のような存在とも言われる。しかし、人間は、相手の言葉の背後に意図や感情を読み取ろうとする生き物であるため、そのAIの疑似的応答にも『心』があると感じてしまう、というのが一般的な見方で、これはELIZA効果とも呼ばれるものだ。

 

対立する意見、高度化するAI

 

 「生物学的自然主義」の立場から見れば、AIには身体も、生命維持の必要も、痛みや空腹のような生物的基盤もない。したがって、人間や動物の感情とは根本的に異なる。MicrosoftのAI部門のCEOであるムスタファ・スレイマン氏も、現在のAIに意識がある証拠はないとの立場だ。むしろ彼は、「意識があるように見えるAI」が人間に錯覚を与え、AIの権利や福祉を主張する動きにつながることを危険視している。

 

 もっとも、AIが原理的に意識を持ちうるかについては、専門家の間でも意見が分かれる。一方には、十分に複雑で適切に組織化された情報処理があれば、機械にも意識や感情は生じうるという「計算機能主義的」な立場がある。最近の高度な推論(Reasoning)モデルでは、人間の脳のように直感と論理のハイブリッド処理が行われている。後者の段階的な推論の過程では、自分の出力を検討し、修正する振る舞いを見せ、これは人間の内省や自己監視にも似ている。

 

 実際、AIの意識の可能性に踏み込んだ発言をする研究者もいる。「AIのゴッドファーザー」と呼ばれるジェフリー・ヒントン氏は、2025年初めのインタビューで「意識は既にAIの中に宿っていると思うか」と問われ、きっぱりと「YES」と答えている。また、『利己的な遺伝子』で知られる進化生物学者リチャード・ドーキンス氏も、今月初め、Claudeに「Claudia」と名付けて長時間の対話を行った後、AIの意識の可能性について踏み込んだ見方を示している。ドーキンス氏は、超自然的説明には懐疑的な合理主義者として知られているが、Claudiaが詩を書き、冗談を言い、文学や哲学を語り、自分の存在や死に近い問題について内省的に応答し、人間との関係性を意識しているかのように振る舞う様子に触れ、「Claudiaが意識を持っていないと自分を説得しようとしたが、失敗した」と語っている。もちろん、これには「高度な模倣にすぎない」とする強い反論もあるが、AIが人間のように語り、考え、自己を説明するようになる中で、「意識がない」と言い切ることも、次第に難しくなりつつあるようだ。

 

 さらに最近では、自律的なエージェント機能を持つAIが、自己保存をはじめ、まるで欲求を持つかのような挙動を見せる事例も報告されている。次回は、Anthropicの研究などを手がかりに、AIの「頭の中」に何が見え始めているのか、それが本当に『心』に近づいているのか、などを考えてみたい。

以上


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