海峡と関税~米国経済2026年7月
概要
- 連邦準備制度理事会(FRB)は7月29日までに連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利(FF金利の誘導目標レンジ)を3.5~3.75%に据え置くことを決定した。ただし、次回以降の利上げの可能性も残った。
- 通商代表部(USTR)は7月23日、60か国・地域を対象に通商法301条に基づく新たな関税措置を公表し、適用した。強制労働産品の輸入規制措置などを理由に、10~12.5%の関税を課す内容となった。今後も追加関税が課されることが十分想定されるため、関税を巡る不確実性は引き続き高い。
- 米国経済は、緩やかに回復している。先行きについても、緩やかな成長が続くと期待されるものの、中東情勢を巡るリスクがくすぶっている。成長期待が高いAIや半導体を巡って金融市場の調整も警戒される。
1.トピック:金利据え置き
FRBは7月29日までにFOMCを開催し、政策金利(FF金利の誘導目標レンジ)を3.5~3.75%に据え置くことを決定した。据え置きは5会合連続で市場予想通りだった。注目されていた利上げについては、3人の地区連銀総裁が0.25%利上げを主張して、据え置きに反対した。
ウォーシュFRB議長は、FOMC内で白熱した議論が展開されて、家族げんかのようだったものの、大多数が据え置きを支持する結果となったと好意的に受け止めたようだった。なぜなら、経済状況の綿密な検証が行われ、今後の準備を見極める作業だったと説明したからだ。
また、ウォーシュ氏は物価目標について「目標はただ1つ、2%だ」と語るなど、改めて2%を上回る上昇率を許容しない姿勢を示した。物価安定の信認を維持していくとして、「FRBは揺るがない」と強調した。足元の物価上昇率が縮小しつつあるものの、単月のデータに過度に依存しないとしつつ、「必要かつ適切な場合には、ためらわずに行動する」として、今後利上げの可能性を残した。
前回6月の会合で公表されたFOMC参加者の経済見通し(中央値)では、2026年の政策金利見通しが3月時点の年内利下げ1回から、年内利上げ1回に修正されていた。ただし、その内訳を見ると、9人が利上げ、8人が据え置き、1人が利下げと見通しが割れていたこともあり、経済・物価動向を慎重に判断する姿勢を示している。
一方、トランプ大統領はウォーシュ氏を持ち上げつつ、利下げを実施しなかったFRBを政治的だと批判した。しかし、ウォーシュ氏自身、一貫して利下げを支持してきたミラン元理事とは異なり、2会合連続で据え置きを支持している。また、7月14日の議会証言でも明らかなように、物価抑制の姿勢を示している。そのため、ウォーシュ氏が批判の対象になるのか、それともウォーシュ氏は利下げをしなくても批判されないのか、疑問が残る。また、ウォーシュ氏自身の2%物価目標を堅持する姿勢との整合性も問われることになる。こうしたことが、FRBに対する市場の信認を低下させる恐れもある。
2.トピック:新たな関税
USTRは7月23日、60か国・地域を対象に通商法301条に基づく新たな関税措置を公表し、適用した。強制労働産品の輸入規制措置などを理由に、10~12.5%の関税を課す内容だ。税率10%(特例措置あり)の対象はEUと台湾、税率10%の対象はアルゼンチンやカナダ、メキシコ、インドなど17か国、税率12.5%(特例措置あり)は日本と韓国、スイスの3か国、税率12.5%は中国やオーストラリア、ブラジルなど38か国・地域だった。日本やEUなどは特例措置として、他の既存関税と合わせて10%または12.5%の税率を超えないようになっている。また、この新たな関税は、鉄鋼やアルミニウムなどの個別関税とは重複しないようにしている。
日本に対して、2025年4月に導入された相互関税は基本税率10%とされ、同年8月以降は国別に新しい税率が導入されて15%になった。5500億ドルの対米直接投資を含む日米の貿易協定によって、税率はEUと同様に最大で15%(基本税率込み)となった。そのため、例えば、自動車は基本税率(2.5%)に相互関税を加えても15%となったため、自動車への追加関税は当初の25%から相互関税部分は12.5%へ半減した計算だった。その後、2026年2月の連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を違憲と判断したため、米政権は通商法122条に基づく10%関税に変更し、その期限である150日を迎える段階で、今回7月24日以降、通商法301条に基づく12.5%の関税措置に再度切り替えた。
そのほかの関税について、米政権は7月20日、カナダに対して、1930年関税法(スムート・ホーリー法)338条に基づく50%の追加関税を課すことを発表している。これは差別的な待遇に対して最大50%の関税を課すものであり、実際に使われたことはなかった。米政権は、カナダが米国産の自動車や乳製品の輸入量を制限しているほか、バーボンなど米国産酒類の流通を規制していることなどを、差別的な待遇と判断している。ただし、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)交渉を巡る圧力という見方もある。
米政権は7月22日、ブラジルに対して25%の追加関税を発動した。2月に連邦最高裁が無効とした50%関税の代替措置であり、通商法301条に基づく措置となる。米政権は、ブラジルの決済システム(PIX)の優遇や米テック企業への規制などについて不公正な貿易慣行にあたるとして、制裁関税を実施した。ただし、コーヒーや牛肉、航空機などを含む2,000品目超について対象外になっている。
イェール大学予算研究所の試算によると、米国の実行輸入関税率は2025年初頭の約2.7%から2026年7月末には約11.1%へ上昇した(図表②)。7月末時点で影響が大きいのは、232条による鉄鋼やアルミニウム製品への関税(11.1%のうちおおよそ半分の約5.5ポイント相当)と23日に発表した新しい関税が含まれる301条の関税(同約4.3ポイント)の2つだった。物価上昇率が3~4%ならば、12.5%の新たな関税は3~4年分に相当する。すでに2025年からさまざまな関税が課されているので、残りの負担感は2~3年分相当になる。もちろん、輸出元・輸出商品によって状況は異なるので、関税の影響がもっと大きいものもあれば、小さいものもあるため、見た目以上の影響が大きくなる恐れもある。
今後も、過剰生産などを理由に関税率が引き上げられる可能性もある。そのほかの個別商品に対する関税の適用や関税率の引き上げもありうる。さらに、米国の貿易赤字が縮小しないならば、追加の措置が取られることも十分想定されるため、関税を巡る不確実性は引き続き高い。
3.現状の確認と先行きの見通し
【概観】 米国経済は、緩やかに回復している。2026年第1四半期(Q1)の実質GDP成長率(前期比年率+2.1%)は、4四半期連続のプラスだった。個人消費(+0.5%)は増加基調を維持したものの、2四半期連続で減速した。これまで底堅かったサービス消費(+0.5%)も1%弱に減速した。企業設備投資(+10.6%)は5か月連続で増加した。機械装置(+15.8%)や研究開発投資に相当する知的財産生産物(+13.8%)が増加した一方で、構築物(▲4.7%)は減少基調にある。脚光を浴びるAI・半導体、データセンター投資が底堅い一方で、そのほかの投資の勢いは弱いのかもしれない。前期比年率+2.1%の成長のうち、内需の寄与度は1.72ポイントであり、おおむね内需、特に設備投資主導の成長だった。
しかし、足元では、下振れリスクも大きくなっている。中東紛争に伴って物価上昇圧力が強まったことで、実質賃金が目減りし、消費者マインドが悪化している。低所得者の消費が伸び悩む一方で、株高など資産効果から高所得者の消費が堅調さを保つ中で、中間層の消費は横ばい圏を推移する構図が強まった。また、設備投資をけん引してきたAI・半導体では、投資規模が巨額化する中で借入や出資への依存度が高まりつつあり、将来の資金回収への懸念も度々くすぶっている。
米国とイランは戦闘終結に向けて6月17日に合意を署名したものの、7月にはホルムズ海峡の通航管理を巡って対立し、双方が攻撃を再開し、合意も事実上破綻した。中東情勢の悪化を受けて、ガソリン価格が再び1ガロンあたり4ドルを超え、消費者の負担増を想起させやすくなっている。
【見通し】 米国経済は、緩やかに成長すると期待される。2026年の経済成長率は2%台前半と、潜在成長率(2%)を小幅に上回ると予想される。
ただし、依然として下振れリスクも大きい。低採用・低解雇とは言え、雇用環境の底堅さがこれまで米国経済の下支え役になってきた。そうした中で、中東戦争に伴うエネルギー価格の上昇が、個人消費に下押し圧力をかけやすい。また、新たな関税措置による悪影響も懸念される。7月23日に公表された新たな関税政策(10%または12.5%)は、強制労働対策などを理由にして、国によって異なっている。今後の追加関税も予想される中、悪影響がどこまで広がるか見通し難い。
こうした状況下で、中間選挙前に発表される経済指標が悪化する可能性が高まっており、政権としても困難な局面に直面するだろう。これまで有事のドル高が見られてきた中、今後の投資マネーの流れの変化にも注意が必要だ。たびたびAIや半導体に関連した株価で調整が見られていることもある。過度な成長期待が調整されている面とともに、巨額となった設備投資に関連する資金回収への懸念や、使用電力の増加に伴う電気代の上昇や電力確保の課題なども大きくなっているからだ。八方ふさがりとなれば、米政権が支持率の回復を狙って、関税政策に加えて南米関与を拡大させるなど、結果として地政学リスクがさらに高まることも懸念される。
<SCGR調査レポート>
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以上
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