2025年5月16日 (金)
[イラン/サヘル諸国/アフガニスタン]
5月13日、イランの首都テヘランで駐イラン・ブルキナファソ大使と駐イラン・アフガニスタン大使代行が会談を実施し、両国間の貿易、鉱業、農業分野などでの協力を約束した。 アルカイダ系テロ組織「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」などによる攻撃拡大により治安が悪化したブルキナファソは、治安回復を理由に2022年に軍がクーデターを実施。現在も軍事政権が続いているが、JNIMらによる攻撃は衰える気配を見せず、5月に入っても200名以上の国軍兵士が殺害されている。
JNIMの母体であるアルカイダは、2000年頃にスーダンからアフガニスタンに拠点を移転(当時の最高指導者がビン・ラディン氏)。これ以来、アルカイダは2021年にアフガニスタンを掌握したイスラム主義勢力・タリバンと密接な関係がある。そのため、ブルキナファソとしてはタリバンとの関係強化を通じてJNIMによる国内でのテロ行為を沈静化させたい狙いがあるとみられる。同様に、ブルキナファソの隣国ニジェールもJNIMやイスラム国系組織らによる攻撃が後を絶たないことから、タリバン政権との関係を強化する動きがみられる。
タリバンとしてはサヘル諸国との連携を通じて、国際社会からアフガニスタンを統治する正統性を得ると共に、サヘル諸国の金などの鉱物資源を確保したい狙いがあるとみられる。 他方、イスラム教シーア派国家のイランは、スンニ派のタリバン政権を公式には承認しておらず、アフガニスタンからの移民などの外交問題を抱えていたが、最近では両者の関係修復が進んでいる。イランもサヘル諸国のシーア派教徒の支援や、鉱物資源(金、ウラン)の獲得を目的として、サヘル諸国との経済・軍事的関係を深めていることから、今回のブルキナファソとアフガニスタンの会談を実質的に仲介する役割を担ったとみられる。
[中国/EU]
サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙の報道によれば、欧州連合(EU)北京代表部の貿易担当責任者であるマルユット・ハノネン(Marjut Honnonen)氏は、2025年5月14日に開催されたパネル討論会において、交渉が停滞しているEU・中国包括的投資協定(CAI)の再交渉を開始する意図はなく、既存の問題の解決に向けた取り組みを優先すべきであると強調した。同氏は、「既存の問題で進展を図るだけでもすでに十分困難な状況であり、EU側には、どこかに棚上げされているCAIに関して何らかの措置を講じる意図はまったくない」と述べ、中国政府による国内企業優遇策、貿易の「武器化」、過剰生産能力の問題に言及した。
中国政府はCAI交渉の再開を望み、EU側に対して働きかけを行っている。2025年4月には、欧州議会の5人の議員および人権問題小委員会に対する制裁を解除したが、EU内では依然として慎重な見方が根強いとみられる。
同じく5月14日、ドイツのメルツ首相は連邦議会での施政方針演説において、中国との関係を「システム競争とパワー・ポリティクスによって形成されている」と述べ、中国からの戦略的デリスキングを追求するという従来の立場を改めて表明した。また、「中国政策を地域的なアプローチに組み込み、安定した、自由で安全なインド太平洋」がドイツにとって戦略的に重要であるとした上で、ロシアと中国の接近については「重大な懸念」を示し、中国に対してウクライナ戦争の終結に向けた貢献を求めた。
[ウクライナ/ロシア]
ロシアとウクライナによる直接交渉は1日延期され、5月16日にトルコのイスタンブールで始まる予定である。ウクライナのゼレンスキー大統領は5月15日、ウクライナ代表団を会場に送ると表明した。同代表団は大統領府、外務省、軍などの高官で構成され、ウメロフ国防相がトップを務める。ウクライナはロシアに対し、米国が提案した30日間の無条件停戦の受け入れを求めているが、一方でロシアは、停戦期間でウクライナ軍が戦力を回復することを懸念している。双方の立場の隔たりは大きく、交渉は難航するとみられている。
[英国]
スターマー首相が、来週5月19日ロンドンで、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、コスタ欧州理事会議長らを迎え、関係の発展を目的とした英国とEUの首脳会談を開催する。
英国の漁業水域へのEU漁船のアクセスをめぐっての駆け引きは続いているものの、採取的には妥結できる見通しで、これによりEUの安全保障・防衛政策への英国の参加への道が開けることになる。スターマー首相がEU 基準への整合性確保と、紛争解決における欧州司法裁判所の判断を受け入れる意向を示したことから、農産品の貿易摩擦を解消する合意も確実視されている。また、若者の移動に関する制度や、エネルギー政策と炭素国境税に関する協力の進展も期待される。
英国国内では、対ロシア・ウクライナなど地政学的な問題もあり、ブレクジットの揺り戻しの声が高まってきている。最新の世論調査においても、大多数の人々が、ブレグジットが間違いだったと考えていることが示されており、10人のうち7人は、貿易、経済、防衛、安全保障についてEUとの協力が望ましいと考えている。
一方で、ブレクジットを主導したナイジェル・ファラージ氏の英国改革党が地方選で躍進するなど力を強めており、スターマー首相の立ち位置はさらに困難になっている。首相は2024年の労働党の公約で掲げたレッドライン(既存の関税同盟、単一市場、人の自由な移動への復帰は認めない)を堅持する見通しであり、安全保障と防衛以外に、このサミットが英国とEUの協力に大きな改善をもたらす可能性は低いとみられ、ほかの政策分野でのさらなる議論のためのロードマップを示す程度と考えられる。
[原油]
国際エネルギー機関(IEA)が月報を発表。2025年第1四半期の石油需要は、前年比日量99万バレル増と堅調だったが、年内残りの期間は同65万バレル増に減速し、2025年平均は同74万バレル増の日量1億0390万バレルに留まると想定。但し、米国の関税発表直後だった4月時点の予測と比べると、米国と英国・中国との合意を受けてわずかに上方修正している。IEAの需要増加幅の予測は米エネルギー情報局(EIA)の日量97万バレル増、OPECの同130万バレル増より低い。
IEAは需要低下の一因にEV普及を挙げているが、前日発表のEV Outlookでは米国のEV普及ペースが当初想定より遅いとして、2030年までにEV普及により失われる石油需要は日量540万バレルと、前年の予測600万バレルから下方修正している。
IEA月報では供給側予測にOPEC+の減産縮小と米国シェール生産見通しの下方修正を織り込んだ。油価低迷で米国産油量の見通しは2か月連続で下方修正し「減少」の予測に転じている。それでも深海油田など、米国シェール以外の非OPEC+の生産が増え、世界の石油供給量の伸びは需要の伸びを上回るとして、需給は緩むと想定している。
[日本]
内閣府によると、2025年Q1の実質GDP成長率は前期比▲0.2%(年率換算▲0.7%)と、4四半期ぶりのマイナス成長になった。内訳を見ると、内需(寄与度+0.7pt)は2024年Q4(▲0.1pt)からプラスに転じた一方で、外需(▲0.8pt)は2024年Q4(+0.7pt)からマイナスに転じ、実質GDP成長率を押し下げた。内需では、個人消費(+0.0%)は横ばいで、食料品価格上昇の影響などから、2024年度後半はほぼ横ばい圏にとどまった。民間設備投資(+1.4%)は、研究開発やソフトウェア投資などにけん引されて、4四半期連続で増加した。民間住宅(+1.2%)は2四半期ぶりにプラスに転じた。輸出(▲0.6%)は、4四半期ぶりに減少した。内訳をみると、自動車など、財(+0.4%)が増加した一方で、知的財産権等使用料の減少や研究開発サービスの大幅増加からの反動減などから、サービス(▲3.4%)が2四半期ぶりに減少した。サービス収支の動きが、実質GDP成長率に大きな影響を及ぼしたと言える。また、輸入(+2.9%)は2四半期ぶりに増加、財(+2.4%)、サービス(+4.5%)ともに増加した。
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