2025年5月29日 (木)
[メキシコ]
6月1日に、最高裁判所判事から地方裁判所判事まで、約900のポストを対象とした司法選挙が実施される。これは、2024年アムロ元大統領が行った司法改革の一つであるが、選挙で選ばれた裁判官の導入を意図している。しかし、司法改革による不確実性の高まりは、特に海外の投資家にとって司法の信頼性を損なうものであり、メキシコに対する投資の熱意を弱めるものととらえられている。また、犯罪グループが、特定の候補者を支援することで司法選挙に影響を与ることも懸念されている。
今回の選挙に対し、シェインバウム大統領は、メキシコ国民に対し投票を促し、これほど広範な司法の選択を直接選挙で実施するのは「世界に模範を示すことになる」と主張している。政府は、選挙の正当性を高めるために、投票率を上げることに注力している。
しかし、最新の世論調査では、投票率は23%弱にとどまるとみられ、総選挙の約60%の投票率を大きく下回っている。回答者の86%が選挙について知っていると答えた一方で、選挙がいつ行われるかを正確に知っていると答えたのは48%に過ぎず、候補者が誰であるかを知っていると答えたのは23%に過ぎなかった。投票率の低さは、政治的および犯罪への影響に対する選挙の正当性を弱める可能性がある。
今回の選挙では、選挙当局の有効性、評価プロセスの完全性、選挙の透明性など、最終的にこの改革がメキシコの司法を強化するか、その独立性と機能に新たなリスクをもたらすかに注目が集まっている。しかし、投票率に関係なく、最高裁判所、司法規律裁判所などにおいて政府が推す人物が多くのポジションを獲得することになるとみられている。
[エチオピア]
5月24日、エチオピア統計局(ESS)は2025年(エチオピア歴2017年)4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+14.4%だと発表した。インフレ率は国内のティグライ紛争やロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた2021/22年度の33.8%をピークに低下が続いていたが、3月の13.6%からやや上昇に転じた。非食料インフレ率は6か月連続の上昇となる前年同月比+17.9%だった。食料インフレ率は1年以上低下傾向にあったが、3月の+11.9%から4月には12.2%に微増した。
国内の金融市場や経済改革を続けるエチオピア政府は、2024年に変動相場制への移行や政策金利の導入などの各種改革を行い、国際通貨基金(IMF)からの35億ドル規模の融資の扉を開いた。中銀(NBE)の政策金利は15.0%で維持されていることから、引き続き実質金利はプラスの状態にある。中銀は中期的にインフレ率を一桁台にする目標を掲げており、2026年には10%まで低下するとの予測を示している。しかし足元のインフレの状況から、6月末に予定されている金融政策委員会(MPC)において政策金利を維持する可能性が高いとみられる。
ティグライ紛争時の政府による人権侵害から国際社会からの援助が一時停止したエチオピアは深刻な外貨不足に見舞われたが、IMFや世界銀行からの融資再開を受けて2025年に輸入の1.6か月程度に回復している(UNDP)。変動相場制への移行を受けて、通貨ブルは移行前の1ドル=57ブルから、1ドル=133ブル(5月28日中銀仲値)まで下落したが、これにより主要輸出品のコーヒーの価格競争力が上昇。2024年6月~2025年4月のコーヒー輸出額は前年同期比で87%増の18.7億ドルとなり、政府が輸出の公式ルート化を進める金と共にエチオピアの重要な外貨獲得源となっている。しかし依然として貿易赤字は対GDP比で7.0%(2023/24年度)と高いことが経常赤字の要因となっており、産業の多角化・国内での付加価値化が求められる。
[ノルウェー]
政府は、1990年から2005年の間に生まれた10万人のミレニアル世代とZ世代を対象に、実験的な減税を実施する計画を進めている。無作為に選ばれた対象者は、3~5年間にわたり年間27,500ノルウェークローネ(約2,700ドル)の税控除を受けられる。政府は、社会保障費の増加や労働者不足への対策として、労働市場への参加を促進する方法を模索しており、この計画はストルテンベルグ財務大臣とブレンナ労働大臣によって提案され、減税が雇用の増加を促進できるかどうかを測ることを目的としている。そして、この10万人の中から、減税措置を受ける層と受けない層を比較する点で学術研究の対象となる。
なお、ノルウェーではこうした目的での政策実施は初めてではない。2024年には非課税枠を7万クローネから10万クローネに引き上げた際に、政策担当者は「若者が10万クローネまで税負担を負わずに稼ぐことができるようにしたい」と述べている。欧州では、ポルトガルのように若年層の個人を対象とした税優遇プログラムが導入されている例や、フランスでは国外で働いた後に帰国する個人に税制上の優遇を提供している例もみられる。ノルウェーでは、この措置を実施するには毎年5億クローナ(4,900万ドル)程度の予算が必要とされているが、ノルウェー財務省は、「この税控除が本当に若者の雇用を促進するかどうか、そしてすでに職に就いている人々がどれだけ多くまたは少なく働くかについての強力なデータを得ることができる。」と、メディアに対して述べている。経済的な理由だけで若年層が労働市場から離脱しているのか、といった疑問もあり、得られるデータは今後政策に貢献することになる可能性がある一方で、不公平感も生み出してしまうことも危惧される。
[米国]
5月28日、連邦制度理事会(FRB)は、5月5~7日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。FOMC参加者から、今後数か月で、物価高騰と雇用悪化という難しいトレードオフに直面する可能性があるという認識が示されていた。米国の関税引き上げに伴って、物価上昇率が拡大する一方で、景気減速などから労働需要が減少し、失業率が上昇するリスクが高まっているという見方だった。また、景気減速と同じくらい景気後退リスクがあるという見通しも示されていた。関税政策に加えて、移民対策など各種の政策の不確実性が高いため、政策効果が明確になるまで、慎重なアプローチをとることが適切という点で一致していた。ただし、これらの議論は、米中関税率引き下げ合意前の議論である点に注意が必要だ。
また、あわせて金融政策の枠組みの定期的な見直しについて議論された。前回の2020年に導入された「柔軟な平均物価目標」は、物価上昇率が2%を持続的に下回った状態を穴埋めするために、2%からの上振れを許容する内容だった。それは、政策金利のゼロ金利制約のリスクが高い時や、物価上昇率が目標から持続的に下振れているときに、長期の期待インフレ率を低水準で固定させないようにする上で有用な戦略だった。しかし、足元のように、物価が2%を上回って上昇している場面では、その効果は低減している。そのため現状では、2%目標を目指す「柔軟な物価目標」が適切になっているという認識が共有されていた。
[タイ/カンボジア]
5月28日、タイとカンボジアの両軍がタイ東北部ウボンラチャタニ県とカンボジア北部プレアビヒア州の国境地帯で衝突し、銃撃戦となった。衝突は10分程度で終わったが、カンボジア軍の兵士1人が死亡した。両国は係争中の国境線を共有しており、2008~11年には断続的に交戦が発生していた。タイ湾における海上の国境紛争や両国が進めている石油・ガス資源の共同開発への影響が懸念される。
[イスラエル/パレスチナ]
2023年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲をきっかけに開始された、イスラエルによるガザ攻撃開始から、2025年5月28日で600日が経過した。イスラエル最大都市テルアビブの広場では、数千人がガザでの即時停戦と、ガザに捕らわれている58人の人質の解放を求めてデモを行った。一部デモ隊は、ネタニヤフ首相の政党リクードの本部へ侵入し、数十人が1時間にわたって同事務所を占拠した。イスラエルでは、任務に就かない予備役兵が増える中、世論調査では、人質解放と引き換えに戦争の終結を望む声が増加している。
イスラエルによる攻撃および封鎖によるガザの惨状は世界中に伝わり、イスラエルの外交的孤立が深まっている。トランプ米政権とネタニヤフ政権の間の亀裂も報じられている中、欧州各国も次々に対応をみせており、英国はイスラエルとのFTA交渉を中断、フランスはEUのイスラエルとの協定見直しを支持し6月にパレスチナ国家を承認する可能性に言及、ドイツの首相はイスラエルのガザでの軍事作戦を「理解不能」と発言、アイルランドはパレスチナのイスラエル入植地で生産された物品の輸入を禁止する法案をまとめるなど、各国がイスラエルとの関係縮小の方向で動き始めている。
[米国]
5月28日、国際貿易裁判所は、トランプ政権による一連の追加関税が、根拠法の規定に反すると判断を下し、差し止めを命じた。トランプ政権は、控訴する意向を示しており、今後、案件は連邦巡回区控訴裁判所、そして最終的には連邦最高裁判所に判断が委ねられる。
国際貿易裁判所による差し止め命令は、トランプ関税のうち、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動されたものが対象となり、具体的には違法薬物の流入を理由にカナダ、メキシコ、中国に対して発動された関税、そして4月5日から賦課されている相互関税が含まれる。米国が輸入する鉄鋼、アルミ、自動車に対する追加関税は別法(通商拡大法232条)が根拠となっているため、今回の差し止め命令は該当しない。
[ロシア/ウクライナ]
5月28日、ロシアは、6月2日にトルコ・イスタンブールでウクライナと新たな直接協議を行い、和平案を提示する意向を表明した。同日28日、ウクライナのウメロフ国防相は、同国の立場を反映した文書をロシアに既に渡したと明らかにした。双方は5月16日にもイスタンブールで、約3年ぶりの直接協議を行い、6月2日にも2回目の直接協議を行うかどうか、注目される。
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