デイリー・アップデート

2025年5月19日 (月)

[エチオピア] 

5月14日、エチオピア選挙管理委員会(NEBE)は、同国北部ティグライ州を拠点とする「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」を同国内の政治政党リストから除外し、同党の政治活動の禁止を命じた。

 

TPLFは、2020~2022年まで2年間続いたTPLF軍(TPLFは政党でありながら独自の軍を有する)と連邦政府軍との紛争を仲介したアフリカ連合(AU)に対し、両者間で合意した和平プロセスである「プレトリア合意」においてTPLFは法的に承認されている存在であることから、NEBEの決定はプレトリア合意の違反だと強く非難している。

 

連邦政府は内戦中の2021年にTPLFを「テロ組織」として指定し、政党としての法的承認を剥奪した。その後に締結されたプレトリア合意を受け、テロ組織指定は解除したが、政党としての承認については宙ぶらりんとなっていた。その後、2024年に国会で選挙法が改正により除名政党の再登録を可能となり、政府はTPLFに対して法的地位の回復を促してきた。しかし、TPLF内の連邦政府派と急進派との間での内部抗争の激化により、再登録の条件となっていた党大会を実施できず、登録の期限だった5月13日を迎えてしまった形だ。

 

エチオピアの総選挙は2026年6月までに実施される予定で、アビィ・アハメド首相が率いる与党「繁栄党」が大勝する見込みが強い。TPLFの支持基盤であるティグライ人は全人口の約6%に留まるため、仮に来年の選挙への参加が認められたとしても獲得できる議席は僅かとみられる。しかし、連邦政府との間で緊張関係にある隣国エリトリア軍がTPLF軍支援に回っていることから、TPLFと連邦政府の対立激化が地域紛争に発展する恐れがあるとの見方もある。

[米国/サウジアラビア/カタール/UAE] 

5月13~16日の4日間、トランプ米大統領はサウジアラビア、カタール、UAEを訪問した。注目されたのは、米国と湾岸3か国との間で合意された投資合意の額の大きさと、米国とシリアの関係正常化に向けた制裁解除の発表である。

 

投資に関しては、米国とサウジアラビアとの間では6,000億ドルの投資がコミットされ(1,420億ドルの米兵器購入を含む)、カタールとの間では1兆2,000億ドルの経済交流に合意し(カタール航空がボーイング社から飛行機210機を購入する960億ドルの契約含む)、UAEは米国への10年間で1兆4,000億ドルの投資枠組みにコミットした。

 

シリアとの関係正常化に関しては、トランプ大統領はリヤドで行われた投資フォーラムでの演説中に、米国のシリアに対する制裁解除を発表し、サウジのムハンマド皇太子の立会いの下で(トルコのエルドアン大統領もオンラインで参加)、リヤドを訪問したシリアのシャラア暫定大統領との会談を実施した。米国とシリアの大統領が会談するのは25年ぶり。

[ルーマニア/ポーランド/ポルトガル] 

「スーパーサンデー」と形容されたこの週末に欧州で実施された選挙結果が出揃った。

 

ルーマニアではやり直しの大統領選挙の投票が行われた。極右とされるルーマニア統一同盟のシミオン氏と中道・親EUのブタペスト市長のダン氏の争いとなったが、地元メディアは選挙管理委員会の情報としてダン氏の勝利を伝えている。

 

ポーランドの大統領選ではトゥスク首相が率いる中道政党から立候補しているチャスコフスキ・ワルシャワ市長と保守系のナブロツキ氏による戦いとなっていたが、両候補とも過半数得票には届かず、6月1日に決選投票が実施されることになった。

 

ポルトガルでは3年で3回目の総選挙となり、モンテネグロ首相が率いる社会民主党を含む与党連合が勝利してはいるが、議席の過半数を押さえることはできなったため、政権運営は不安定な状態が続くと見られている。経済、移民、住宅問題などが争点となっており、解決のため政治的不安定性を終わらせる目的で有権者に委任を訴えかけたが信認を得ることができなかった。

 

トランプ政権の登場で欧州右派に対する支持が後退するのではないかとの見方もあるが、期待されているほど有権者の支持拡大には至っていないもよう。

[米国] 

米ミシガン大学の「消費者調査」によると、5月の消費者信頼感指数(1966年Q1=100)は50.8となり、4月(52.2)から低下した。低下は5か月連続で、市場予想(53.4)を下回り、2022年6月以来の低水準になった。内訳を見ると、共和党支持者が84.2(前月から▲6.0pt)へと低下した。共和党支持者のマインドの低下は、2024年11月の大統領選後初めてのことだった。

 

その一方で、民主党支持者の消費者マインドは33.9(▲0.5pt)となり、引き続き低水準を推移している。消費者マインドの悪化に拍車をかけたのは、物価上昇への警戒感だろう。例えば、1年先の期待インフレ率は7.3%であり、4月から0.8pt上昇し、1881年11月以来の高水準になった。2024年11月には2.6%だったため、関税政策の影響を織り込んで、期待インフレ率は大幅に上昇してきた。

 

また、5年先の期待インフレ率も4.6%と、4月から0.2pt上昇した。2024年11月には3.2%だったため、これにも上昇傾向が見られる。関税引き上げの物価への影響は一時的であるため、本来であれば1年先の期待インフレ率を押し上げる一方、5年先への影響は限られる。しかし、足元では、5年先の期待インフレ率も上昇しており、物価高騰の影響が長引くという見方も、消費者の中には徐々に広がりつつあるようだ。

 

コロナ禍後の物価高騰による痛みを経験した中で、米国の消費者が関税に伴う物価上昇にどこまで耐えられるのかが、今後の個人消費や経済成長の先行きを見通す上で注目される。

[ロシア/ウクライナ] 

5月16日、ロシアとウクライナの両代表団は、ウクライナ和平に向け、トルコ・イスタンブールで3年ぶりに直接交渉を実施した。最大の焦点だった停戦合意には至らなかったが、両国は1,000人対1,000人の最大規模での捕虜交換について合意した。また、将来の可能な停戦のあり方を、今後それぞれから提示することでも合意し、交渉を継続する意向も見せた。ウクライナ側が要請した、プーチン・ゼレンスキー大統領の首脳会談については「考慮する」と応じたと明らかにした。

[米国/中国] 

米国による輸出規制の強化により、米エヌビディア半導体製品の中国での売上が伸び悩んでいる。こうした状況の中、同社は中国市場での競争力を維持するため、上海に研究開発センターを設立する計画を進めていると、フィナンシャル・タイムズ紙が報じた。この報道を受け、米国内では懸念の声が上がっている。これに対し、エヌビディアは「(米国の)輸出規制に準拠するため、GPUの設計を中国に送って変更を加えることはない」との声明を発表した。

 

2024年度、エヌビディアの中国での売上は全体の約14%(約170億ドル)を占めており、米国に次ぐ第2の市場となっている。同社のジェンスン・フアンCEOは、数年以内に中国市場は500億ドル規模に成長すると予測している。

 

そのような中、米国の輸出規制や中国の半導体企業の技術力向上により、エヌビディアが中国市場で競争力を失うことをフアン氏は懸念しており、規制は同社にとって大きなビジネス機会の損失につながっていると訴えている。

 

上海に設立予定の研究開発センターは、中国企業との競争、中国市場の顧客ニーズへの対応、中国国内の優秀なAI人材の確保を目的としており、上海市はこの計画を初期段階から支持していたと報じられている。

 

また、トランプ政権はバイデン政権下で導入された「AI拡散規制」を撤回したが、それにより、「ティア2」(サウジアラビアやUAE、インド、ブラジルなど約120か国)の国々への半導体輸出の数量規制が撤廃されることになった。今回トランプ大統領の中東訪問に同行したフアンCEOは、サウジアラビアに対して、データセンター用に18,000個以上のAIチップを販売する計画を発表した。

 

東南アジアや中東を経由して同社の半導体が中国市場に流用されているのではないかとの疑念に対し、フアン氏は「そのような証拠はない。我々の顧客である国や企業は、転用が許されないことを認識しており、自らを厳しく監視し、非常に慎重に対応している」と述べた。

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