デイリー・アップデート

2025年5月27日 (火)

[米国/石炭] 

4月8日、トランプ米政権は、「アメリカの美しいクリーンコール産業の再活性化」に関する大統領令を発布。石炭は米国の国家安全保障と経済安全保障に不可欠であるとし、石炭生産を阻害する連邦政府の規制障壁撤廃・エネルギー需要増大への対応として石炭利用奨励・石炭輸出増加などによる米国石炭産業の支援を掲げた。

 

これに伴い、エネルギー省(DOE)は5月23日、製鉄に使われる原料炭を2020年エネルギー法に基づく「重要原材料」(Critical Material)に指定したと発表。鉄鋼はエネルギー技術・輸送・防衛システムに不可欠で、鉄鋼生産の原料は米国の利益にとって重要だとして、戦略資源として原料炭生産を促進する。ただし、原料炭の国際価格は現在4年ぶり安値圏で低迷しており、政策支援により業界再編の先送りや供給過剰悪化につながりかねないという一部報道もある。

 

また5月24日付New York Times紙は、環境保護局(EPA)が米国の石炭・ガス火力発電所からの温室効果ガスに関する制限を全廃する計画を起草したと報じた。EPAもこの内容を認めている。EPAは、世界の電力部門の排出量に占める米国からの割合が2005年の5.5%から2022年には3%に低下しており、たとえ米国の発電所が温室効果ガス排出をなくしても公衆衛生へのリスクは「有意に」改善されないと主張。前政権の取り組みは行き過ぎで、国内における手頃で信頼性の高い電力供給を閉ざすものだと述べた。EPAは5月2日に草案をホワイトハウスに送り、おそらく6月の正式発表前に修正が加えられる見込み。EPAの計画が最終決定した場合、訴訟に直面するのは必至と思われる。

[メキシコ] 

メキシコの2025年の第1四半期の外国直接投資(FDI)が過去最高の214億米ドルに達した。 2024年第1四半期の203億米ドルから5.4%の増加となり、2012年以降では2023年を除いて一貫してFDIが上昇を続けている。経済省のプレスリリースによると、詳細については公表されていないものの、新規FDIは前年同期比+165%で、2024年第1四半期の6億米ドルから15億9,000万米ドルに拡大、全体の7.4%を占めた。

 

経済大臣は、2024年は再投資が多かったが2025年は新規の投資が増えたことに対し、メキシコの経済の安定性、良好なビジネス環境、競争上の優位性、および貿易および投資協定によって提供される法的確実性が成長の原因であると強調している。前AMRO大統領、現シェインバウム大統領は自らの政権を、スペインからの独立戦争、レフォルマ(自由主義改革)、メキシコ革命に続く「第4次変革(4T)」と呼び、それ以前の腐敗したエリートによる政治によって国内の社会格差が拡大したと、1980年代以降のネオリベラリズムと区分しているが、ネオリベラリズム時代の同期間のFDIは最大で95億ドルであったとことも強調している。また、投資元は米国(39%)とスペイン(15%)の2か国からが大きく、半分以上が製造業(43%)と金融サービス(24%)の2つのセクターに向けられていた。FDIの促進は、経済成長と「繁栄の共有」を促進することを目的とした戦略である「プラン・メキシコ」の柱となっており、政府は政策が順調に進んでいると主張している。

 

第1四半期の数字は、特に米国の貿易政策によって引き起こされた世界的な不確実性を考えると、シェインバウム政権にとって朗報となるが、それでも、対米関係の不確実性は依然として高く、引き続き、「プラン・メキシコ」の成功への脅威となり、メキシコの経済発展全般に重くのしかかっている。

[南アフリカ(南ア)/米国] 

5月26日、シリル・ラマポーザ大統領は、南ア国民向けニュースレターを通じて、「南アと米国が緊密な関係を築くことでお互いが利益を得ることができる」とのメッセージを発した。5月21日にホワイトハウスで実施された両国の首脳会談において、トランプ大統領は「南アで白人農家が虐殺されている」と公の場で非難したが(2025年5月22日5月23日デイリー・アップデート参照)、ラマポーザ氏は「誤った情報を正し、真実を伝えるために米国政府と直接対話することが重要だった」と同会談の目的を振り返った。

 

ラマポーザ氏は、両国間の認識のすれ違いが二国間関係に課題をもたらしてきたが、今回の対話を通じてトランプ氏は、米国がG20議長国を南アから引き継ぎ、また11月にヨハネスブルグで開催されるG20首脳会議に米国が出席することに同意した、と関係の改善と訪米の成果を強調した。

 

5月25日に、南アのクブンゾ・ンシャベニ大統領府相は、ラマポーザ氏の米国公式訪問の内容が成功裏に終了したことを報告。首脳会談やトランプ大統領主催の昼食会での両国の代表の接触は親密かつ尊重に満ちたものであったとし、一部のメディアが報じているような緊張はなかったと強調。トランプ氏に対して南アのアフリカーナー(主としてオランダ系移民)の虐殺疑惑を吹聴しているアフリカーナーのロビー団体「Afriforum」が望むような結果にはならなかったとし、同団体を批判した。

 

また、ンシャベニ氏は、米国との貿易協定については5月21日に米国に改訂案を提案し、現在最終合意待ちだとしたうえで、南アの重要鉱物開発における協力、米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入(10年間、年間10億ドル規模)に加え、南アから米国向けの完成車(年間4万台)、自動車部品、鉄鋼、アルミニウムの輸出について免税枠を設定する方向で準備を進めていると述べた。

[バングラデシュ] 

5月22日、ユヌス首席顧問が職務遂行に困難を感じ、辞任を考えたと述べたと報じられた。同首席顧問は選挙制度改革を実現するため、2026年6月までに選挙を行う意向を述べているが、最大野党BNPら主要な政治勢力は早期の選挙実施を求めている。その後、政権高官が辞任の可能性を否定したと報じられた。ユヌス首席顧問は5月28~31日で訪日し、日経フォーラムへの出席や、石破首相との会談も予定している。

[米国/シリア] 

5月23日、米国政府は対シリア制裁解除の具体的な手続きを開始する中、財務省は、シリア暫定政府、中央銀行、国有企業との取引を許可することを発表。また国務省は、2019年に発効した「シーザー・シリア民間人保護法(シーザー法)」を180日間停止する制裁免除措置(ウェイバー)を発表した。このウェイバーにより、「電力、エネルギー、水、衛生設備などの提供が促進され、シリア全土でより効果的な人道支援が可能になる」とのこと。「シーザー法」は法律として議会で制定されたものであり、これを撤回するには議会での可決が必要となるため、トランプ政権はウェイバーという形で一時的にこれを免除する措置を取った。

 

対シリア制裁の解除に関しては、5月13日にサウジアラビアのリヤドで開催された「米・サ投資フォーラム」で、トランプ大統領が突然発表したもの。翌14日には、トランプ大統領はシリアのシャラア暫定大統領との電撃会談を実施した。その後20日には、EUも対シリア制裁の全面解除を発表した。

[日本] 

日本銀行によると、4月の企業向けサービス価格は前年同月比+3.1%となった。上昇率は3月(+3.3%)から縮小したものの、7か月連続で3%台を保っており、上昇傾向にある。上昇率は、2024年3月(+2.4%)から4月(+2.8%)へと拡大した後、6月以降、3%台(9月の+2.8%を除く)を維持している。

 

上昇率+3.1%の内訳(寄与度)をみると、諸サービスが+1.62pt、情報通信が+0.52pt、運輸・郵便が+0.46ptであり、これらが物価上昇のけん引役だった。諸サービスのうち、宿泊サービス(+17.2%)や、プラントエンジニアリングなどのその他技術サービス(+8.6%)、土木建築サービス(+7.2%)の上昇が目立った。産業用機械器具修理などの機械修理(+6.1%)や廃棄物処理(+4.3%)は3月から上昇率を縮小させたものの、上昇傾向を維持した。情報通信では、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスなどが上昇した。運輸・郵便では、外航貨物輸送(▲12.1%)が3月(▲6.0%)からマイナス幅を拡大させた一方、鉄道旅客輸送(+2.0%)が3月(+0.3%)から上昇率を拡大した。

 

また、高人件費率サービスは+3.5%であり、3月(+3.6%)並みと高めの上昇率を維持した。低人件費率サービスは+2.7%、3月(+3.0%)から上昇率を縮小させた。

 

企業向けサービス価格は、いわゆるBtoBの川上の価格であるため、この価格の上昇が今後消費者物価に転嫁されることになる。また、サービスであるため、特に賃金動向との関連が強い。この中で、高人件費率のサービス価格の上昇が目立つということは、賃上げとその販売価格への転嫁が続いていることが示唆される。2025年度の春闘でも高めの賃上げで妥結したことを踏まえると、これから1年程度は高めの企業向けサービス価格の上昇になると予想される。

[ロシア] 

5月26日、プーチン大統領は、国内のビジネスパーソンや起業家と会合を行い、国内産業の発展や強化のために、政府として引き続き支援をしていく姿勢を明らかにした。会議への出席者からは、外国企業がロシアに復帰した場合の、税負担の軽減と制限条件に関する提案が多くみられた。プーチン大統領は米国のマイクロソフトやビデオ会議サービスのズームなど、ロシアの利益に反する外国のサービスは「抑制される」べきという認識を示した。国産のソフトウェアソリューション開発が重要とも強調した。

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。

26人が「いいね!」と言っています。