デイリー・アップデート

2025年5月22日 (木)

[中南米] 

ラテンアメリカの左派系現職政権の低い支持率と、脆弱な財政状況が相まって、今後の選挙における右傾化の可能性が指摘されている。2025年アルゼンチンとチリがそれぞれ中間選挙と総選挙を実施し、ペルー、コロンビア、ブラジルは2026年総選挙を予定している。これらの選挙の共通点として、現政権の支持率の低さが挙げられる。ブラジル、コロンビア、チリでは、現職の左派大統領の支持率が約30%に留まっており、特にペルーのボルアルテ大統領の支持率は一桁台となっている。

 

一方、アルゼンチンの右派ミレイ大統領は依然として比較的高い支持率を維持している。 投資家にとって注目すべきポイントは、今後の財政計画とされる。ラテンアメリカの国々では公的財政は過去数年間で悪化しており、特にブラジルとコロンビアでは、政府は脆弱な公的財政の改善に明確な意思を示していないことから金融資産にも下落圧力がかかっている。

 

これらの国で右傾化が進む場合、市場に友好的な政策への転換が予想され、投資家からは歓迎され、金融資産については回復バイアスがかかるとみられる。

 

ただし、現職政府は選挙前に財政政策を緩和して候補者の支持を強化し、右傾化が実現しない可能性や、右派政権となっても財政課題解決は困難とみられる。実際、2010年代半ば以降、右派政権下でも財政リスクの拡大がみられている。今後についても、主要輸出商品の価格下落となれば、財政再建は特に困難になる。

 

これらの選挙は、地政学的な影響も重大なものとなる。先週北京で開催された中国・CELAC(ラテンアメリカ・カリブ海諸国)フォーラムでは、ブラジルとコロンビアが中国の勢力圏に近づいた。ただ、地政学的な勢力関係は流動的であり、今回の選挙の結果によって再び変化が生じる可能性も十分にある。ブラジル、コロンビア、チリの選挙で右派政党が勝利した場合、最近の中国へのシフトが逆転する可能性も高い。

[英国/EU] 

スターマー英首相とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、英国とEUのいくつかの分野での協力を強化することを目的とした合意協定に署名した。主な合意事項は防衛に関するもので、EUは、英国の企業が1,500億ユーロ(1,780億米ドル)の防衛調達のための融資プログラムであるSAFE(Security Action for Europe)に参加することを認めた。また、直前まで揉めていたEUの英国漁業水域へのアクセスをさらに12年間延長することでも合意した。また、食品と動物の規制、若者の移動、電力取引などにおいても緊密に協力をおこなう方針を示した。

 

この合意は、過去の英国政府とEUとの敵対的な関係から、相互の信頼と協力に基づく関係へと再構築するというスターマー英政権の意思を示しているが、英国のSAFEへの参加を含め、議論されたほぼすべての問題に関する詳細についてはまだ合意がなされておらず、その影響は今後の協議にかかってくる。

[米国/南アフリカ(南ア)] 

5月21日、米ホワイトハウスでトランプ米大統領と南アのラマポーザ大統領との首脳会談が実施された。トランプ氏は1月の就任後、南アでは白人農家が殺害されている等と繰り返し主張。両国間の外交関係が過去最悪の状況にある中、初めて両国首脳による直接対談が行われた形だ。

 

同会談にはトランプ氏に近い南アの実業家・ヨハン・ルパート氏のほか、南ア出身の世界的プロゴルファーらが臨席。ラマポーザ大統領は冒頭、「米・南ア関係を再構築するためにここにいる」と述べ、和やかな雰囲気で会談が開始された。

 

しかし、記者からトランプ氏に対して、なぜ米政権は南アのアフリカーナー(主としてオランダやドイツから移住した白人の子孫)を難民として受け入れるのか、との質問から会場の雰囲気は一変。トランプ氏は「白人農家が迫害を受け、虐殺されている」とこれまでの自身の主張を繰り返し、さらには部屋の照明を落とすよう命じたうえで、あらかじめ用意していた南ア白人の虐殺疑惑を示すビデオ映像を放映した。

 

これに対してラマポーザ氏は冷静さを保ちながら、「南アフリカでは残念なことに殺人犯罪が起きている。しかし殺害されている人の多くは白人農家ではなく黒人だ」と説明。その上で、南ア政府がアフリカーナーを迫害・虐殺していない事実は、ここにジョン・スティーンハイゼン農業省らアフリカーナーの人々がいることからも明らかだと反論した。

 

それでもトランプ氏は納得する様子を見せないまま、約1時間の公開対談が終了した。主要メディアはトランプ政権による「待ち伏せ(Ambush)」だと報じる一方で、トランプ氏による挑発を受けても、ウクライナのゼレンスキ-大統領との対談時のような激しい口論を避けたラマポーザ氏の手腕を評価する声が多い。

 

その後、ラマポーザ氏はプレス向けブリーフィングにおいて、南ア出身の実業家・イーロン・マスク氏も参加したトランプ氏主催の昼食会等を通じて、両国の貿易や投資に関する協議が進展したことから、自身の訪米は成功を収めたと締めくくった。

[インドネシア] 

5月21日、インドネシア中銀が政策金利を0.25%引き下げて5.5%とした。利下げは1月以来5会合ぶり。CPI上昇率は中銀の目標レンジ(1.5~3.5%)の低い水準で安定的に推移し、通貨ルピアも4月初めの米国の相互関税の発表後、対ドルで増価傾向となっている。タイ、フィリピンなど他の東南アジアの主要国も利下げサイクルを続けており(それぞれ1.75%、5.5%)、マレーシアは5月8日に据え置きを決定したが(3%)、今後、利下げに踏み切る可能性が高いとみられる。

[EU/シリア] 

5月20日に開かれたEU外相理事会で、EUのカラス外交安全保障上級代表は、シリアの再建を支援するため、シリアに対する制裁を全面的に解除することを発表した。EUは2月に、エネルギーや復興に関連する金融取引に関する一部制裁の緩和・一時停止を発表していたが、シリアの経済回復のためには不十分とみられており、シリア暫定政権は欧米からの制裁の解除を切望していた。ロシアに亡命したアサド前大統領に対する制裁などは維持される。

 

5月13日にサウジアラビアを訪問していたトランプ米大統領が、米国の対シリア制裁全面解除を発表し、シリアのシャラア暫定大統領との電撃会談を実施したことも大きく影響したとみられる。

 

シリアのシャイバニ外相は、EUが制裁解除を発表したことに対し、「制裁解除はシリアを支援する地域・国際的な意思を示すものだ」として謝意を表明。現在シリア国内では、アラウィー派やドルーズ派など少数派と新しい暫定政権の治安部隊との間で衝突などが起きている不安定な状態ではあるが、今後シリアの復興が加速度的に進む可能性が出てきた。

[米国] 

米内務省はスタートアップ企業Impossible Metalsの要請に応じて深海鉱業リース権の販売プロセスを開始していることを明らかにした。米国領サモア沖の海域での鉱物リース販売の可能性を評価する予定であるとしている。同社は、クレーンで海底に降ろされる水中自律走行型車両(UAV)を開発しており、ロボットの爪(クロウ)を使って鉱物に富むノジュール(団塊)を収集する計画だ。彼らは多くの企業が使用しているバキューム方式よりもUAVの方が脆弱な深海生態系への影響が少ないと主張している。これは「深海での探査や収集について、深海生物の成長が遅く、生態系が破壊されてしまうと回復までには何十年もかかる」との多くの学者からの警告に対するコメントでもある。バーガム内務長官は、「重要鉱物は米国の強靭性を高め、国益を守るために不可欠である」「深海鉱物資源へのアクセスを政府が責任を持って機会を提供することで、米国の経済成長と国家安全保障の双方を支援している」と述べている。この手続きには、官報への掲載とパブリックコメント募集が必要とされているが、内務長官の声明のトーンからは、リース権の販売は既定路線とも読み取れる。

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