2025年5月23日 (金)
[ブラジル]
5月22日、連邦政府は2025年度予算に盛り込まれた313億レアル(7,870億円)の支出を凍結すると発表した。また、税収増を目的として金融取引税(IOF)の引き上げを計画している。
歳出の凍結規模は、市場予想の約100億レアルの3倍と大きく、ルーラ大統領が300億レアルを超える調整を受け入れたことは意外感があったが、外部環境の悪化や通貨安にもかかわらず、財政目標を維持する意思を示したと考えられる。また、この歳出凍結は、政府の経済チームが、財政目標を達成できないことが通貨売りを引き起こし、2026年の選挙での当選可能性を損なうと主張していることに大統領が応じた形で実施されたが、同時に人気回復のための措置も実施しており、社会支出の増加、特に低所得の高齢者や障害者に手当を支給するBPC支援プログラムも導入している。
歳出を削減する一方で、歳入面では税収不足も財政見通しを圧迫しており、公務員のストライキにより徴収が妨げられている面もあるが、政府が最近、予算から815億レアルの特別かつ回収困難な歳入について削除したことは、財政見通しの信頼性を高めた。また、今後予定されているIOF(国際金融取引税)の引き上げ(政府は2025年に205億レアル、2026年に410億レアルの増収を見込んでいる)に加え、プレソルト油田入札などの承認でも200億レアルを超える収入を見込むなど明るい材料もある。
いずれにせよ、ルーラ大統領が困難な状況下でより厳しい措置を受け入れる用意があることは、当面は政策の信頼性を高めており、ルーラ大統領の支持率が大幅に低下しない限り、ブラジルの財政政策への懸念は幾分和らぐ方向に動いたといえる。
[米国/南アフリカ(南ア)]
5月21日、米・南ア首脳会談が実施されたが、それを受けて、各国メディアが会談内容の評価とそこから得られる示唆について報じている。英・BBCは、トランプ大統領が会談中に「南アで白人が虐殺されている」とビデオやフリップを用いて説明した内容は「虚偽」であることは明らかだが、それは「MAGA」の支持者である米国の白人向けのパフォーマンスだったと報じている。
米・NBCニュースはこのトランプ氏による「待ち伏せ」攻撃に対して、南アのラマポーザ大統領は「明らかに準備を整えていた」と評価。ラマポーザ氏は同席した南ア出身の著名な白人プロゴルファーらに自らの体験を語らせることで虐殺の事実を否定することに成功した。これはウクライナやヨルダンのように、トランプ大統領との二国間会談で攻撃を受けた場合の「対処法(プレイブック)」となり得ると報じている。
他方で、南アのDaily Maverick紙は、南ア国内ではラマポーザ大統領陣営は「うまく対処できていなかったという見方が優勢」だとし、虐殺疑惑に関して統計や数字を用いて簡潔に反論すべきだったとも報じている。
英・FT紙は社説において、各国の首脳は「待ち伏せ」される恐れがあるトランプ氏との会談を求める価値があるかをよく考える必要があると指摘。ラマポーザ氏もかねてから南アに対して攻撃的な姿勢を示してきたトランプ氏との会談を実施するか熟考したはずだが、この「屈辱」の時間はトランプ氏との対話を始めるための「代償」であり、リスクの高い「賭け」に出たものだとの意見を示している。他方で、同会談では米国が反対してきた南アによるイスラエルの国際司法裁判所(ICJ)の提訴や、中国・ロシア・イランとの親密な関係に関して批判されなかったことは、南アにとって「小さな勝利」だったとの見方を示している。
[米国/韓国]
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国政府が、約4,500人の米兵を韓国からグアムまたはインド太平洋地域内のほかの拠点へ移駐させることを検討していると報じている。この案は、現時点ではトランプ大統領に正式に提示されておらず、政策見直しを担当する高官らが検討している複数の選択肢の一つであるという。
トランプ氏は第1期政権時より、約2万8,500人が駐留する在韓米軍の体制見直しについて言及してきた。米軍内部からは、兵力削減が北朝鮮に対する抑止力を損なうのみならず、北東アジアにおいて発生し得る中国やロシアとの紛争への対応能力にも影響を及ぼすとの懸念が示されている。
韓国国防部はこの報道に対し、「韓米間でそのような議論は一切行われていない」との立場を示した。 仮に在韓米軍の一部撤退が実施されれば、韓国、日本、フィリピンなどインド太平洋地域の同盟国からも懸念の声が上がる可能性がある。また、トランプ氏は韓国に対し、在韓米軍の駐留費負担の増額を求めており、今回の撤退案がその交渉と関連づけられるかどうかも注目される。
[米国]
5月22日、下院はトランプ減税拡充法案を可決した。「賛成票215」対「反対票214」で、与党・共和党は辛うじて過半を確保した形となった。共和党からは下院議院2人が反対に回った。法案には、2017年トランプ減税の延長のみならず、チップ収入や社会保障年金に対する非課税措置などの新たな施策に加え、国境警備の強化や国防予算増も盛り込まれている。メディケイド(低所得層向け医療保険)給付条件の厳格化については、共和・民主両党において慎重論が多い。今後、法案は上院での審議を経るが、法案内容の修正は免れないとみられている。トランプ大統領は7月4日までに議会が法案を可決し、大統領署名に持ち込むことを望んでいる。
[トルコ/中央アジア諸国]
ハンガリーの首都ブダペストで、5月20~23日にかけて地域機構である「テュルク諸国機構(OTS)」の非公式の首脳会議が開催された。OTSはトルコが主導し、中央アジアやコーカサスの国々で構成されており、他にもハンガリーがオブザーバーとして2018年から参加している。OTSの主な目的は、加盟国間の協力と連携を強化することで、今回の首脳会議では、加盟国の戦略的パートナーシップや「永遠の友好」および「兄弟の関係」を構築する条約草案の準備について議論された。OTSは2025年10月、旧ソ連のアゼルバイジャンで本格首脳会議を予定しており、加盟国の連携を強化する新しい条約に署名することとなっている。
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