2026年9月15日 (火)
[米国/ガス事情]
エネルギー問題は、生産量を増やすだけでは解決しない。足元では、輸送インフラと需要側の効率が同じくらい重要になっている。
9月14日のダグ・バーガム米内務長官の発言は、その典型だ。米国には豊富な天然ガス資源があるにもかかわらず、州によるパイプライン建設規制が地域的な供給制約を生んでいると指摘した。ペンシルベニアで大量に生産できても、ニューイングランドまで十分に運べなければ、消費地にとっては「不足」と同じだ。問題は資源量よりインフラにある。サウジアラビアの東西パイプライン停止も同様だ。ホルムズ海峡を迂回するための重要ルートが攻撃で止まり、米国ではディーゼル価格が過去最高水準まで上昇した。油田に原油があっても、海峡、パイプライン、港湾、船舶が機能しなければ市場には届かない。しかもディーゼル価格の高騰は物流、農業、建設を通じて広範な物価に波及する。
一方、9月14日付The Vergeが報じたVolkswagenのEV試作車「Mission Efficiency」は、逆の方向からこの問題への回答を探っているともいえる。空気抵抗を大幅に減らし、車体やタイヤを最適化することで、巨大な電池を積まずに航続距離を伸ばすことに成功したという。つまり、エネルギーを追加で供給するのではなく、必要なエネルギーそのものを減らす発想である。
生産、輸送、パイプラインや港湾、備蓄、そして需要側の効率改善まで一体で考える必要に迫られている。(経済部 本間隆行)
[イラン/ホルムズ海峡協議の延期]
オマーンは、ホルムズ海峡の航行管理をめぐり、9月14日に港湾都市サラーラで予定されていたイランと湾岸諸国などの代表による地域会合の延期を発表した。オマーンは「建設的な対話に適した環境を整えるため」と説明しているが、新たな開催日は示していない。イラン側は、イエメン情勢を理由にサウジアラビアが延期を求めたと主張している。一方、サウジはイランとオマーンがまとめた案の修正を要求したと報じられ、バーレーンも会合への参加はイランへの「宥和」に当たるとして欠席を表明していた。
ホルムズ海峡はイランとオマーンの領海にまたがり、世界の石油・ガス輸送を支える重要航路である。米国とイスラエルによる対イラン戦争の開始後、イランは海峡を事実上封鎖し船舶に通航許可を求めており、許可を得ずに航行した船舶が攻撃対象となる事例も起きている。オマーンとイランは、商船の航行を一部再開させるため、イラン領海を通る入航ルートと、主にオマーン領海を通る出航ルートを設ける案を協議してきており、二国間では合意に近づいていたとも報じられている。任意の通行料を航行管理や環境保護、捜索・救助に充てる構想もある。ただし、イランは、この措置が海峡の全面的な航行再開を意味するものではないと強調している。
会合には、サウジアラビア、UAE、カタール、クウェート、イラクなどの参加が想定されていた。しかし、イランによる海峡管理を既成事実化することへの警戒から、地域の合意形成は進んでいないとみられる。さらに、フーシ派によるイエメン紅海沿岸への進撃やサウジアラビアへの攻撃も対立を深めている。フーシ派は、紅海とアデン湾を結ぶバーブルマンデブ海峡周辺で支配を広げ、紅海航路への影響力を強めた。米国は、フーシ派と直接対話をしていることを明らかにするとともに、米中央軍のクーパー司令官をサウジアラビアに派遣して安全保障協力について協議し、サウジ側への情報提供や攻撃目標の選定を支援する方針も示している。
ホルムズ海峡では、9月13日にイラン商船への攻撃で1人が死亡したほか、14日にはイランの革命防衛隊がMQ-1無人機を撃墜したと発表するなど、緊張が続いている。今回の会合延期により、同海峡における商船の航行を部分的に回復させる一時的な解決策は先送りされた。湾岸諸国はエネルギー輸出と経済を守るため安全な航路を必要としているが、イランによる海峡管理の権限をどこまで認めるかが大きな争点となっている。(国際部 広瀬真司)
[チリ/景気回復への正念場]
カスト大統領は、2026年3月の就任から6か月が経過する中で、経済と雇用という重要課題への対応を迫られている。9月13日に公表された世論調査によれば、大統領支持率は34%となり、就任以来の最低水準を記録した。背景には、景気の低迷や雇用環境の悪化に対する国民の不満がある。同調査では、回答者の62%が政権の実績について「期待を下回った」と評価した。一方で、カスト政権の成果としては、17%が公共支出の削減を挙げ、16%が政権の目玉政策である「国家再建・社会開発法案」の成立を評価した。しかし、政権の失策としては、就任直後の燃料価格上昇を38%が指摘しており、これに景気減速や失業率の上昇が続いていることが不満の主な要因となっている。
現在、国民の最大の関心は治安対策ではなく経済問題である。調査では、79%が経済と雇用への対応を最優先課題と回答したのに対し、安全保障を重視した回答は33%にとどまった。こうした状況の中、中央銀行は需要の弱さ、天候不順による影響、鉱業生産の減少を理由に、2026年の経済成長率予測を従来の1.0~1.75%から0.25~0.75%へ引き下げた。ただし、最近承認された経済成長法案の実施によって、特に投資拡大を通じて2027年の経済活動が押し上げられるとの見通しも示している。経済の低迷に加え、国際的な原油価格の高止まりも通貨の重荷となっている。銅価格は高水準を維持しているものの、ペソは年初から約6%下落し、中南米地域の主要通貨と比べても低調な推移となっている。この状況は、カスト政権の政治的影響力を弱める可能性があり、とりわけ安全保障分野の憲法改正など、政治的な合意形成が必要な政策の実現を難しくする要因となり得る。
一方で、経済活性化を目的とした法案の一部は比較的順調に進展している。市場アクセスの拡大、資本市場制度の見直し、住宅購入支援策などを含む法案は、いくつかの修正を経て議会で承認される見通しである。しかし、雇用情勢は依然として厳しく、5月から7月の失業率は9.5%に達し、新型コロナウイルス感染症の流行期以降で最も高い水準となった。今後、景気回復と雇用創出を実現できるかどうかが、カスト政権への評価を左右する最大の焦点となるとみられる。(国際部 小橋啓)
[インドネシア/財務大臣の交代]
9月14日、プラボウォ大統領はプルバヤ財務大臣の更迭を発表すると同時に、副財務大臣であるスアハシル氏を新財務大臣に任命した。
プルバヤ氏は、スリ・ムルヤニ前財務相の辞任後である2025年9月に財務大臣に就任した。プラボウォ大統領が掲げる年間8%の実質GDP成長率達成を実現すべく、就任直後に政府資金余剰の国営銀行への注入を公表するなど、財政規律よりも経済成長を重視する姿勢が目立った。他方で、2025年の財政赤字のGDP比は2.9%と、2024年より大きく拡大したことに加え、法定上限である3%に近い水準まで達した。加えて、2026年はプラボウォ大統領肝いりの無料給食プログラム向け予算が2025年よりも3倍以上に増額したことに加え、イラン情勢を踏まえてエネルギー補助金支給額が直近で増額するなど、財政悪化への懸念が拡大している。これを受け、2026年以降はルピア安が続いているほか、10年物国債利回りも高騰するなど、金融市場が混乱している。
政府はこれまで無料給食プログラムの予算を縮小しているほか(335兆ルピア→229兆ルピア)、2026年8月にプラボウォ大統領が国会に提示した2027年国家予算案では、財政赤字のGDP比を2.4%と過去3年間で最も低い水準に設定するなど、金融市場の混乱終息に向けた取り組みを進めている。なお、ルピアの対米ドルレートは2026年7月に1米ドル=18,000ルピアまで下落したが、9月中旬にかけて回復基調が続いている。
もっとも、プルバヤ氏が財務大臣に就任した2025年9月時点では、2026年向け予算は既に国会で可決済みであったため、無料給食プログラム予算の増額や財政赤字拡大懸念の高まりは、一義的には同氏の責任とは言い難い。インドネシアでは、スリ・ムルヤニ前財務相以外にも無料給食プログラムを所掌する国家栄養庁で複数の幹部が辞任するなど、政府への反発が高まったタイミングで急な更迭や閣僚辞任が発生している。そのため、プルバヤ氏も財政悪化懸念に伴う金融市場混乱の責任を問われる形で、プラボウォ大統領に更迭された可能性がある。
なお、プルバヤ氏は2026年8月、財政赤字のファイナンシングのためにソブリン・ウェルス・ファンドであるダナンタラから120兆ルピア規模の配当を受け取ることも検討していると発言したが、ダナンタラのロサンCEOはこれに反対するなど、政権内部での調整不足が目立っていた。
スアハシル新財務相は、元インドネシア大学教授の経済学者である。2019年から財務副大臣を務め、スリ・ムルヤニ前財務相の下で財政運営を担ってきた実務家である。プラボウォ大統領をはじめとする閣僚との関係が深いとの指摘も少ない。就任直後には「政策の変化ではなく継続が重要」と表明し、財政赤字をGDP比3%未満に抑え、健全で信頼できる国家予算を運用すると宣言している。そのため、スアハシル氏の下で財政健全化が進むことも期待される。目下は、2026年8月に公表された2027年国家予算案の国会可決に向けた調整への対応が中心となる見通しだ。(国際部 土田慧)
[EU/カナダとの関係強化]
1.概要と政治的背景
9月13日、カーニー首相は、欧州連合(EU)との間で「固有の同盟(unique alliance)」の構築に向けた協議を開始する意向を表明した。これはEUへの正式加盟を目指すものではなく、共通の価値観や相互補完的な新たな協力枠組みを模索するものであるとされる。この戦略的転換の背景には、対米貿易関係の急速な悪化などがある。第二次トランプ政権以降、米加間の貿易摩擦は深刻化しており、カナダ政府は、貿易および経済パートナーの多角化を急務としており、EUとの連携強化をその軸に据えている。
2.戦略的協定および構造的協力の主要項目
報道によると、EUおよびカナダ双方の当局者の間では、新設の「准加盟国(associate member)」ステータスを含めた協力形態が議論されているとされる。具現化が検討されている主な協力分野には、戦略的サプライチェーンの統合、デジタル・エネルギーインフラの整備、人的交流の促進などが挙げられている。
3.欧州議会によるオタワ連絡事務所の設置決定
こうした二国間関係の強化の流れを受け、欧州議会は9月14日、カナダの首都オタワに新たな連絡事務所(antenna office)を開設することを決定した。本設置決定の主要な目的および特徴は以下の通りである。
・議会外交の強化: EU・カナダ間の政治対話および議会交流の活性化、ならびにカナダ国内における欧州議会の認知向上を図る。
・北極圏(Arctic)戦略への対応: 当該事務所の管轄地域は北極圏まで拡張され、安全保障や環境課題など大西洋・北極圏における戦略的重要課題に対する協議プラットフォームとして機能する。
・海外拠点の拡張: 欧州議会は既にワシントン、ロンドン、キーウなどに9か所の管外拠点を有しており、オタワ事務所の開設はこれに続く大西洋統合の重要な拠点となる。
4.今後の要人往来
カーニー首相は欧州訪問を予定しており、2026年9月17日にはストラスブールの欧州議会にて演説を行うほか、フォン・デア・ライエン欧州委員長による一般教書演説に出席する予定である。また、マクロン仏大統領との首脳会談も設定されている。
一方で、連携深化に向けた懸念材料も存在する。加EU包括的経済貿易協定(CETA)は、署名から10年以上、仮適用から9年が経過した現在においても、一部のEU加盟国による批准が完了していない。欧州域内における対外協定への政治的抵抗は、今回の新たな包括的連携の構築においても解決すべき構造的課題として残されている。(国際部 濱嵜隆吏)
[中国/支払遅延の規制]
9月10日、中国国務院は「中小企業の代金回収困難問題への対策強化に関する通知」を発表し(文書上の日付は9月3日)、14日に工業情報化部、中国人民銀行、国有資産監督管理委員会(国資委)など5部門がこの通知について記者会見を行った。通知の内容は、大企業に支払期間の短縮や現金払いを促すもので、背景には、景気低迷や企業間競争の激化のなか、大企業が資金繰りの負担を取引先の中小企業に転嫁する問題がある。
中国では以前から支払遅延が問題となってきた。政府は2018年以降、政府機関や国有企業などの未払い債務を清算する政策を進め、2020年には中小企業への支払いを保障する条例を制定した。2025年の条例改正では、大企業にも原則60日以内の支払いを求めるなど規制を強化した。しかし実際には、検収や精算を遅らせて支払期限の開始を先送りしたり、現金の代わりに商業手形や電子債権証書を渡したりすることで、中小企業が現金を受け取るまでの期間を長期化させるケースが残っている。
今回の対策は、こうした抜け道を塞ぐことに重点を置いている。業界ごとに支払期限の起算点、支払方法、検収・精算期限、最長支払期限を明確にし、大企業、特に業界大手には、商品やサービスの引き渡しから60日以内に現金で支払う「60日現金払い」を率先して約束するよう求める。政府機関の調達は全額現金払いとし、中央政府所管の国有企業には中小企業への現金払いを徹底させる。違約や延滞は発見するたびに解消し、未処理案件を累積させない「動態的ゼロ」を目指す。
また、現金を十分保有しながら多額の買掛金を抱える大企業を重点的に監視し、悪質な支払引き延ばしには行政処分を科すとしている。上場企業や社債発行企業には平均支払期間や手形利用状況などの開示を求める。一方、支払期間や買掛金を大幅に減らした企業には融資や社債発行で優遇する。
今回の措置は、単に「滞納した代金を払わせる」段階から、支払条件そのものを規制し、中小企業への資金負担の転嫁を防ぐ方向へ対策を広げた点が特徴的である。(国際部 前田宏子)
[BRICSサミット/アフリカ]
9月12~13日、インドのニューデリーで「第18回BRICSサミット」が開催された。同サミットにはアフリカから、2010年に加盟した南アフリカ(南ア)のほか、2024年に加盟したエチオピア、エジプトの各大統領が出席。また、2025年に「パートナー国(注)」として認定された10か国のうち、ナイジェリア、ウガンダの各副大統領が参加した。
9月12日に採択された共同声明「ニューデリー宣言」ではアフリカに直接関係する言及は少なかったものの、エチオピアの世界貿易機関(WTO)加盟および2027年のCOP32主催への支援のほか、中国が(エスワティニを除く)アフリカ53か国に対してゼロ関税措置を拡大したことを評価する内容が盛り込まれた。
BRICSは2010年の発足以降、加盟国・招待国の拡大により加盟国内の利害が一致しないケースも散見されるようになった。アフリカでも、南アは2011~2023年までBRICSおよびG20の両方に正式加盟する唯一の国だったが、2023年にアフリカ連合(AU)がG20に加盟、2024年にエジプト、エチオピアがBRICSに加盟するなど、南アがアフリカの声を代弁してきたような時期は過去のものとなりつつある。2025年にブラジルで開催されたBRICSサミットでは、南アの国連常任理事国入りに関する提案を、同じアフリカ域内のエジプト、エチオピアらが反対。2026年にG20議長国を務めている米国は、対米関係が悪化している南アの参加を拒むなど、国際社会におけるアフリカ各国の存在感、立ち位置も変化を続けている。
BRICS加盟国の中でもイラン・アラブ首長国連邦(UAE)間などで衝突が続くなか、引き続きアンゴラ、ケニア、セネガルなどがBRICSパートナー国加盟に向けた申請・関心表明を行っている。その背景には、①西側諸国との関係を維持しながら、経済的パートナーシップを多様化する、②公正なグローバル・ガバナンスにおける議論において影響力を発揮する、③BRICS加盟を通じた国内政治的利益、といった各国の利益に基づく判断があるとの見方がある(9月11日、Africa Report)。
特に経済的利益については、BRICS初期メンバー5か国によって設立された「新開発銀行(NDB)」の存在感は小さくない。ニューデリー宣言では、ロシアらが提唱したBRICS共通通貨創設に向けた具体的スケジュールは盛り込まれなかったものの、加盟国に現地(自国)通貨建てでのインフラ融資が可能なNDBの重要性が強調された。NDBは別名「BRICS銀行」とも呼ばれてきたが、BRICSの加盟国とNDBの加盟国が一致している必要はない。NDBにはアフリカでは南ア、エジプト、アルジェリアが正式メンバーとなっており、ほかにもエチオピア、アンゴラ、ジンバブエが加盟に必要な拠出金の支払いにかかる国内での議論を進めている。
現状、NDBによる融資のうち自国通貨建ては約3割程度にとどまっているが、中国やインドが資金拠出国となっている信用の高さから、同銀行の格付けは「AA+(S&P)」と極めて高く、市場から低金利での資金調達が可能だ。NDBを活用してすでに南アは南ア道路公社(SANRAL)を通じた道路拡張・補修プロジェクトで70億ランド(約7,000億円)の自国通貨建て融資を受けている。これらは金利や返済の負担が自国通貨で可能となるため、ドル建てに比べて自国通貨の下落リスクをヘッジできる利点がある。
仮にドル建て融資の場合でも、NDBの信用力はアフリカ開発銀行(AfDB)の「AAA(S&P)」には劣るものの、アフリカ金融公社(AFC)の「A+」やアフリカ輸出入銀行(Afreximbank)の「BBB+」といったアフリカを代表する多国籍金融機関より高いため、国際債券市場から低利でドルの調達が可能だ。南アは、8大都市圏の水道などのインフラ改修プロジェクト(10億ドル、26年6月)、リンポポ州などでの上水供給・病院プロジェクト(26年8月)に関してNDBからのドル建て融資に署名している。インフラをはじめ国内の資金調達ニーズが高いものの、債務返済や信用不安から金融市場からの調達が難しいアフリカ諸国にとっての新たな選択肢として定着していく可能性がある。(国際部 髙橋史)
(注)サミットには参加できるものの、共同宣言への署名権は与えられていない。
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