2026年9月18日 (金)
[米国・南ア/外交問題]
9月15日、米国務省は、南アフリカ(南ア)における補償なき土地収用、人種差別、少数の人種集団に対する暴力の扇動を可能にする法律・政策の制定と実施に加担している南ア人に対して、米国渡航にかかるビザの発給制限を行うと発表した。
米国の移民国籍法は「米国にとって潜在的に深刻な外交上の悪影響を及ぼす恐れがある」外国人に対して、国務長官権限でビザ制限を課すことを可能としている。マルコ・ルビオ米国務長官は自身のX上で「南ア国民は、アフリカーナー系少数派(オランダ系白人)に対する人種的不満に執着し、経済を破壊している政府に見捨てられている」と南アにおける人種差別を非難した。親トランプ大統領派として知られるレオ・ブラント・ボゼル駐南ア米国大使も、同じくX上で、ビザ制限措置は「(米国による)一連のエスカレーション措置の第一歩」であるとして、ルビオ氏に追随している。
第二期トランプ政権は、発足直後の2025年2月に「南アへの悪質な行為への対応(Addressing Egregious Actions of the Republic of South Africa)」と題した大統領令を発令し、南ア向けの資金援助の停止や、G20の南ア代表団の参加を拒否するなど、南アへの外交的圧力を強めている。
南ア政府は米国が主張する白人農家に対する強制的な土地収用や暴力について事実と異なると一貫して否定しているが、両者の溝が埋まらない状況が続いている。今回の国務省の発表後、南アのロナルド・ラモラ外務相は、「米国による一方的な措置ではなく、双方の対話によって解決を求める」との声明を発表した。また、米国の主張は「自らをアフリカーナーの代表であると誤って称する(南アの)過激派グループによる歪曲した解釈と一致している」とし、暗に「アフリフォーラム」らアフリカーナー系ロビイング団体を非難している。同団体のカリー・クリエル代表は今回の米国の決定を称賛すると表明している。
米国内では第二期トランプ政権発足以降、上院・下院のそれぞれで「米国・南ア二国間関係見直し法」が提出され、南ア政府高官や最大政党「アフリカ民族会議(ANC)」のメンバーに対する制裁を求めていた。どちらの法案も可決に至っていないが、今回の国務省によるビザ制限の実施は、二国間関係の悪化以降、初の個人を対象とした制裁となる。対象者のリストは非公開扱いとされ、対象者は米国のビザ申請を行おうとした段階で初めて対象者であることを知るとみられている(9月16日、Daily Maverick)。
米国による非難の的となっている「土地収用法」や、黒人の経済格差を是正するアファーマティブ・アクションである「黒人経済強化政策(BEE)」などは主に左派のANCによって進められてきたことから、イブラヒム・ラソール前駐米南ア大使は「ビザ制限に加え、ANC指導者に対象を絞った制裁が課されるだろう」との見方を示している(9月17日、EWN)。ANCのベテラン党員であるラソール氏自身が、反米的な発言があったとして、2025年3月にルビオ国務長官から「ペルソナ・ノン・グラータ(好まざる人物)」として米国から追放された人物だ。
ユーラシアグループも、ANCや極左政党「経済的開放の闘士(EFF)」や「民族の槍(MK)」党の個人を対象とした金融制裁を課す可能性があると予測。11月4日に5年ぶりの統一地方選を控える中、金融制裁はこれらの党の選挙活動に影響を及ぼす可能性はあるが、南アのマクロ経済への影響は限定的との見方を示している。サブサハラ33か国に米国への特恵関税を与える「アフリカ成長機会法(AGOA)」は2028年末までの延長が決定したが、南アは引き続き受益国に含まれている。(国際部 髙橋史)
[日本/消費者物価指数(8月)]
9月18日、総務省は8月の消費者物価指数(CPI、2025年=100)を発表した。総合指数は102.2で前年同月比+1.9%となった。変動の大きい生鮮食品を除く総合(コアCPI)は102.0で+1.7%となり、7月の+1.8%から0.1ポイント上昇幅が縮小した。上昇幅の縮小は4か月ぶりで、2026年1月から8か月連続で1%台となった。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は102.5で+1.9%。
生鮮食品を除く食料は+2.7%と、7月の+3.0%から下落した。価格高騰していたコメ類は▲15.7%となった。5月▲4.8%、6月▲8.3%、7月▲11.6%から4か月連続でマイナスとなり、さらに下落幅を拡大させた。また、猛暑の影響で生育不良となり値上がりしていたキャベツ(+45.0%)などにより生鮮野菜が+5.5%、海外の抹茶ブームにより品薄となった緑茶の価格高騰(+31.5%)などにより飲料が+6.0%、ポテトチップスの値上げ(+10.6%)などにより菓子類が+5.0%上昇した。外食は、すし(外食)の+11.2%などにより+2.1%上がった。
エネルギー価格は▲0.7%と、7月の+0.6%からマイナスに転じた。ガソリンは▲2.6%(7月▲1.8%)、電気代は▲2.4%(7月▲0.1%)、都市ガス代は▲0.8%(7月▲1.1%)と、いずれも下落幅が拡大した。ガソリンの旧暫定税率の廃止や7~9月の使用分を対象とした電気・ガス料金支援により、8月の物価上昇は0.62ポイント押し下げられた。
また、住居に関しては、塗料値上げの影響もあり外壁塗装費が+6.4%と引き続き上昇した。そのほか、任意の自動車保険料が+5.9%、携帯電話機の値上げで+10.2%、洗濯用洗剤が+10.9%上昇した。
コメ類の価格下落やエネルギー価格への政府支援により、8月のコアCPIの上昇幅は7月から小幅に縮小したが、コメ類以外の食料品価格の上昇や、生活に必要な財・サービスの価格の上昇がみられた。財・サービス分類では、財が+2.6%、サービスが+1.2%。今後、川上の価格上昇が川下の販売価格に転嫁されるとともに、賃上げがサービス価格へ波及していくかが注目される。(経済部 菊井彩乃)
[スウェーデン/政権交代見込み]
1.総論
9/13に行われたスウェーデン議会選挙(一院制・349議席)について、暫定集計結果によると、アンデション前首相率いる中道左派連合が176議席を獲得し、クリステション首相率いる与党・中道右派連合(173議席)をわずか3議席差で破り勝利した。
クリステション首相は敗北を認め辞任を表明し、政権交代に向けた連立交渉が開始された。政権交代を決定づけた主因は、与党を閣外協力してきた極右・スウェーデン民主党(SD)の得票率低下。欧州全域では極右が躍進する傾向にあるが、それとは逆の流れとなった。
2.極右・スウェーデン民主党(SD)の低迷要因
2010年の国会進出以来拡大を続けてきた極右・スウェーデン民主党(SD)は、前回の2022年選挙から得票率を約3ポイント落とし、初の後退を記録した。これまで右派連合政権を率いてきたクリステション首相は、選挙勝利時のSD入閣を約束していたが、SDの失速が右派連合全体の過半数割れに直結した。SD後退の背景には、強硬な排外主義的政策が反対派の危機感をあおり、有権者動員につながった点がある。イスラム教のヒジャブ着用禁止案や帰国助成金制度などの提案に対する反対意見は強く、特に都市部の移民比率が高い地区(ストックホルム郊外リンケビーなど)では投票率が上昇し、9割以上が左派連合を支持したとのこと。
3.今後の連立政権樹立に向けた課題
アンデション前首相は連立に向けた交渉を開始したが、左翼党が閣僚ポストを要求する一方、リベラル派の中央党は左翼党の入閣を拒否しており、政策協定の調整は難航が予想される。連立枠組みの安定性が今後の焦点となる。(国際部 濱嵜隆吏)
[韓国/李在明大統領の記者会見]
9月18日、韓国の李在明大統領は、青瓦台(大統領府)で就任後7回目となる記者会見を開いた。就任記念日や特定の政策発表などの節目ではないにもかかわらず、臨時に行われた会見で、大統領府は、主要な国政懸案について大統領自身が国民に説明することが目的だとしている。韓国メディアは、不動産政策や株式市場の混乱、閣僚人事をめぐる論争などで、支持率が就任後最低の水準に落ち込む中、国民との意思疎通を強化し、政権運営の立て直しを図る狙いがあると分析している。
李氏は冒頭演説で、6月の地方選挙後、国民の失望や懸念に直面して戸惑ったと認め、「すべて私の至らなさによるものだ」と謝罪した。経済回復や改革の成果を重視するあまり、国民生活上の苦痛や、改革に伴う対立に十分配慮できなかったとの反省を示した。今後は経済成長と同様、国民生活の改善に力を注ぐと表明した。さらに、与党支持層内部の対立についても自身の責任を認め、対話と統合を進める考えを示した。
政策面では、検察の捜査権と起訴権を分離する検察改革を着実に完遂すると強調した。不動産問題に関しては、住宅価格の安定に向け、供給拡大や規制、税制を組み合わせるとともに、首都圏への一極集中を是正し、ソウルを経済首都、世宗を行政首都とする構想を推進すると述べた。
大統領の再選を可能にする憲法改正については、制度改革そのものには従来どおり賛成する一方、自身の再選は憲法上不可能であり、再選する考えも全くないと明言した。米国が求めるホルムズ海峡への韓国軍派遣をめぐっても、戦争に介入するための派兵は行わないとの立場を示した。(国際部 前田宏子)
[インド/電子決済事情]
インドの銀行間即時決済基盤UPI(Unified Payments Interface)が大きな転換点を迎えている。9月17日付Al Jazeeraによると、インド決済公社(NPCI)は10月15日から、2,000ルピーを超える加盟店向けUPI決済に0.4%の加盟店手数料(MDR)を導入する。個人間送金や少額決済は引き続き無料で、消費者ではなく加盟店側が負担する仕組みである。
UPIはインドのキャッシュレス化を支えてきた代表的なデジタル公共インフラである。銀行口座を直接つなぎ、スマートフォンから即時に送金・決済できる利便性と、手数料ゼロを武器に急速に普及した。2026年8月には月間取引件数が245億件を超え、すでに一民間サービスというより社会インフラに近い存在となっている。
一方、無料でも運営費がなくなるわけではない。銀行や決済事業者は処理コストを負担し、政府補助も制度を支えてきた。利用が巨大化するほど、サイバーセキュリティやシステム増強にも資金が必要になる。今回のMDR導入は、普及を最優先してきたUPIを持続可能な収益モデルへ移行させる意味合いが強い。
市場もこの点を評価した。制度発表翌日の9月16日には、Paytmを運営するOne 97 Communicationsが一時7%超上昇し、52週高値を更新した。MobiKwikも5~6%程度上昇したほか、Yes Bankは一時4%超高となった。Axis Bankも同日1.9%上昇した。市場は、これまで収益化が難しかったUPIから新たな手数料収入が生まれることを好感したとみられる。特にCitiやMorgan StanleyはYes Bankなどを恩恵が大きい銀行として挙げている。ただし、0.4%のMDRを銀行、決済アプリ、決済処理会社、NPCIがどのように分配するかはまだ明確ではなく、収益効果には差が出る可能性がある。
加盟店側には新たなコストが発生する。UPIはすでに日常決済として定着しており、手数料導入だけで現金へ大きく逆戻りするとは考えにくい。実際、デリーの商店主からも「もはや現金には簡単に戻れない」との声が出ている。むしろ薄利の小売・サービス業で負担が積み上がることや、その一部が価格に転嫁される可能性が焦点となる。さらに通商面では、UPIやインド独自カードRuPayがVisaやMastercardより有利な競争条件にあるとの米国側の不満もある。野党は今回の制度変更に米国の圧力が影響した可能性を指摘するが、インド政府は否定しており、現時点で因果関係は確認できない。
今回の焦点は単なる「UPI有料化」ではない。無料化によって利用者を増やす段階から、巨大化したデジタル公共インフラを誰が維持し、誰が収益を得て、誰がそのコストを負担するのかという次の段階に入った。株式市場の反応は、UPIが公共インフラであると同時に、巨大な収益基盤にもなり始めたことを示している。(経済部 本間隆行)
[ブラジル/重要鉱物戦略]
2026年9月16日、ブラジルのルラ大統領は、重要鉱物および戦略鉱物に関する国家政策を定める法律を承認するとともに、国家重要・戦略鉱物工業化評議会の運営を規定する法令に署名した。これにより、ブラジル政府はリチウムやニッケル、レアアースなどの重要鉱物を単に採掘・輸出するだけでなく、国内での加工や製造を促進し、産業競争力の強化につなげる方針を明確にした。
新たに設置された評議会は三層構造のガバナンスを採用している。技術的な審査や個別プロジェクトの判断は下位組織が担当し、省庁横断の調整や政策判断は上位組織が担う仕組みである。これにより、案件ごとの審査手続きの効率化と迅速化が期待されている。一方で、新制度では政府が国家安全保障の観点から案件を再検討できるため、投資家にとっては承認プロセスの不透明さや予見可能性の低下につながる可能性もある。また、プロジェクトの認定や分類、優先順位付けを担う執行委員会は、開発・産業・貿易・サービス省の主導下に置かれる。この体制は、重要鉱物開発を資源採掘にとどめず、国内の製造業や先端産業の育成に結び付けるという政府の狙いを反映したものである。
もっとも、この制度の根底には資源ナショナリズムの色彩が強く残っている。法制度には、国内生産と連動した税制優遇や研究開発要件、政府支援による保証基金の設置に加え、重要鉱物資産を保有する企業の支配権変更について議会が関与できる仕組みが盛り込まれている。これらの措置は、重要資源を国家戦略上の資産として管理し、国内産業への波及効果を最大化することを目的としている。
一方、今後の政権交代によって政策が見直される可能性もある。フラビオ・ボルソナロ候補が大統領に当選した場合、政府の関与を縮小し、企業活動への規制を緩和する方向へ政策転換が進む可能性がある。その場合、議会による企業取引への介入権限が制限されるなど、現在の制度の一部が修正されることも考えられる。
今回の制度改革は、ブラジルが重要鉱物を国家戦略資源として位置付け、資源開発と産業政策を一体的に推進するための枠組みである。一方で、投資促進と国家管理の強化という二つの目的を同時に追求しているため、今後は制度運用の透明性や投資環境への影響が重要な焦点となる。(国際部 小橋啓)
[ロシア/下院選18日から投票開始 与党の圧勝が焦点]
ロシアでは9月18~20日、国家院(下院)選挙が実施される。定数450議席のうち、225議席を比例代表、225議席を小選挙区で選出し、任期は5年。同時に8地域における直接投票による首長選挙、39地域の地方議会選挙なども行われる。今回の選挙はウクライナ侵攻長期化後初の下院選であり、政権交代の可能性よりも、プーチン政権の政治基盤と与党「統一ロシア」の求心力を測る機会として注目される。
事前情勢では統一ロシアがほかの政党を大きくリードし、共産党、自由民主党、「公正ロシア」、新しい人々がこれを追う構図。焦点は統一ロシアが勝利するかではなく、憲法改正に必要な3分の2(300議席)以上を維持できるかにある。300議席超を確保すれば、政権の安定性が改めて確認され、軍事・防衛産業支援、輸入代替、国家主導の産業・インフラ政策、アジア・グローバルサウス重視の外交路線も基本的に継続する公算が大きい。(国際部ゴロシニコフ アントン)
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2026年10月29日(木)
15:00~17:00、新社会システム総合研究所主催『SSKセミナー』で当社シニアアナリスト 宮之原 正道が講演いたします。会場・オンラインのハイブリッド開催。 - 2026年10月2日(金)
『日本貿易会月報』2026年9・10月号(No.836)に、当社チーフエコノミスト 鈴木 将之が登壇した日本貿易会ゼミナール特別企画について掲載されました。 - 2026年10月1日(木)
一般社団法人 日本経済調査協議会より、当社経済部長 本間 隆行が委員として参画した「第二次地政学委員会」の報告書が公表されました。 - 2026年9月29日(火)
『日本経済新聞』に、当社経済部長 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2026年9月28日(月)
毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2026年10月6日号に、当社チーフマーケットアナリスト 鈴木 直美が寄稿しました。
