2026年10月2日 (金)
[銅/根強い供給不安]
LME(ロンドン金属取引所)の銅指標価格は現在、1トン14,000ドル台と、史上最高値近傍で推移している。AI/電化による需要拡大と構造的な供給制約を背景に、銅相場は強気ムードに満ちており、新たな供給障害が重なれば価格が既往高値を超えてオーバーシュートしかねないとの見方も増えている。
最大の銅生産国チリでは、鉱石品位低下や地質要因などの構造的な問題に加え、2026年は厳冬期の悪天候が生産を下押しした。ICSGによると、2026年1~7月の鉱山生産は前年同期比▲7%。チリ政府が10月1日に発表した統計でも、8月の銅生産は36万9,500トンと前年同月比▲12.8%となった。世界的な銅精鉱不足を背景に、製錬加工費(TC/RC)は大幅なマイナス圏に沈んだままで、下げ止まりの兆しは乏しい。
こうしたなか、足元では①エルニーニョ、②ディーゼル供給、③労使交渉という追加リスクが意識されている。エルニーニョはチリ・ペルーで豪雨、ザンビアでは干ばつによる水力発電不足をもたらす可能性がある。また、世界的なディーゼル需給逼迫を受け、米国では輸出制限案が浮上している。禁輸案は米国内でも賛否両論で、足元では欧州に備蓄放出を促す交渉材料との見方もあるが、チリ・ペルーは米国産ディーゼルへの依存度が高く、供給制約が長期化すれば鉱山操業にも影響しかねない。
さらにチリでは、Escondida、Centinela両鉱山の労働組合が労使交渉の決裂を受け、ストライキ実施を承認した。今後は法律に基づく政府調停に入り、ここでも合意できなければストライキに入る可能性がある。特にEscondidaは世界最大級の銅鉱山であり、精鉱市場が既に逼迫するなか、市場の警戒感は高い。
一方、主要取引所の地金在庫はむしろ高水準で、問題はその偏在と流通制約だ。米国では精錬銅への将来的な関税導入観測だけで大量の銅が流入し、COMEX在庫は過去最高水準に増加している。中国でも国家備蓄の積み増しが伝えられている。世界に銅在庫はあっても、市場がそれにアクセスできなければ、追加的な供給障害に対する価格反応は大きくなりやすい。
最近、一部投資銀行が、供給不足を解消するには需要破壊が必要になるとして、2027年第2四半期に2万2,000ドル超との予想を示したことが話題となった。そこまでの価格上昇が実現・持続するかは別として、足元の供給余力と自由流通在庫が薄いなか、ショートカバーなどを巻き込んだ一時的な「踏み上げ」を警戒する声は少なくない。もっとも、最近の銅価格はAI・ハイテク株との連動性を強めており、世界的な金利上昇がリスク資産売りやマクロ経済悪化につながれば、下方向の振れ幅が大きくなり得ることにも留意が必要だ。(経済部 鈴木直美)
[イラク/米軍撤退と治安の行方]
9月30日、米軍の最後の部隊がイラク北部のエルビル空軍基地を離れ、2014年に始まった対イスラム国(IS)有志連合の任務が終了した。撤退は2024年の米・イラク合意に基づくもので、米国は中東での軍事関与の見直し、イラク政府は主権回復、イランは米国の影響力後退という、それぞれ異なる理由から歓迎している。しかし、撤退が直ちにイラクの安定につながるわけではない。ISの脅威は最盛期より大幅に縮小したものの、残党は活動を続けている。
さらに大きな課題は、イランと結びつき、政府の統制外で独自の武器や指揮系統を維持する武装勢力である。これらの勢力が政府の中立方針に反して米国や周辺国を攻撃すれば、イラクが報復の標的となる恐れがある。ザイディ首相は、同勢力に対して、2027年6月末までの武装解除を求めている。計画では、まず90日間の攻撃停止期間を設け、その後、重火器の引き渡しと構成員の国家機構への統合を進める。米軍の撤退によって「外国軍への抵抗」という武装維持の根拠は弱まるが、各派閥の利害やイランとの関係は異なり、交渉の難航が予想される。早期の成果を求める米国と、段階的に進めたいイラク政府の間にも隔たりがある。
特に不安が強いのはクルディスタン地域である。同地域はドローンやミサイル攻撃を繰り返し受けており、米軍の防空設備撤去による防衛力低下を懸念している。攻撃対象にはイランのクルド系反体制派やエネルギー施設も含まれるため、米軍が去っても脅威がなくなるとは限らない。クルド自治政府には、イラク中央政府との防空・治安協力を深める必要がある。米国は撤退後も訓練や情報支援を続ける方針で、地域の同盟国が自ら防衛できるよう、装備供与を重視している。イラクもフランスとの防衛協力やトルコとの基地引き渡し交渉を進め、協力先を広げている。ただし、米国は石油収益を通じた経済的影響力も持ち、撤退後もイラクへの圧力は続く。
今後の焦点は、イラク政府が武装勢力を統制し、クルド地域の安全を確保しながら、米イラン対立への巻き込まれを防げるかである。撤退は主権回復の機会であると同時に、自国で安全保障を担う能力を問う試練でもある。(国際部 広瀬真司)
[インドネシア/内閣改造・新予算]
10月1日、プラボウォ大統領は内閣改造を実施した。主要な人事は以下のとおり。
・外務相の交代:スギノオ氏の辞任、ナシル副大臣の新任
・バフリル・エネルギー・鉱物資源相が下流化・エネルギー転換担当調整相(新設ポスト)を兼務
・産業相の交代:アグス大臣の辞任、ムハンマド氏の新任
今回の内閣改造で特に注目されたのは、下流化・エネルギー転換担当調整相ポストの新設だ。これまで、ニッケル・アルミニウム精錬やバイオ燃料への加工などの下流産業育成策は投資・下流産業省や産業省が担ってきた。両者はこれまで経済担当調整大臣府が管轄してきた。現時点では不確定ではあるが、今回の改造を受け、両省および関連するほかの省庁は下流化・エネルギー転換担当調整大臣府の所管になると考えられる。政府は、今回の内閣改造を機に下流産業政策を加速することを目指していると考えられる(Pasadarna、2026年10月1日付記事)。
今回はプラボウォ政権誕生以降約2年間で7回目の内閣改造となるが、ジョコ前大統領政権と比べて頻度が高い。閣僚が頻繁に交代することで、財政・産業・外交政策の変更リスクが高まり、投資家の慎重姿勢を強めると懸念される。また、短期間での組織再編やトップの入れ替えが相次ぐことで、省庁内の事務手続きや現場での政策実行、公務サービスの立ち上がりに遅れが生じることが懸念される。
加えて、プラボウォ政権は閣僚数や省庁数が増えており、それにより歳出が高止まりしていると批判されてきた。背景には、プラボウォ大統領が閣僚ポストと引き換えに野党を与党連合へ取り込む手段としてきたことが挙げられる。プラボウォ大統領の所属するグリンドラ党の国会での議席数は86議席と、全議席数(580議席)の15%に満たないが、プラボウォ政権はこれまで野党を与党連合に取り込むことで、与党連合の議席比率を全体の8割まで高めてきた。他方で、省の数は34から49に増加し、136人が閣僚ポストに政治任用された。これに伴い、省庁・閣僚間の調整役となる調整相のポストもジョコ前政権の4ポストから8ポストまで増加している。省庁が増える分、配賦すべき予算も増加することになる。例えば、NGO「Center of Economic and Law Studies(Celios)」は2024年、閣僚・省庁増加により、5年間で約2兆ルピアほど歳出が増加する可能性があると試算している。
また今回の改造では、ジョコウィ前大統領の側近とされる人物(リストヨ・シギット警察長官、プラティクノ前PMK調整相など)を重要ポストから外すなど、プラボウォ大統領自身の権力基盤固めとも見なされかねない人事もあった(The Jakarta Post、2026年)。
今後は、新内閣による財政運営が注目される。9月29日には、2027年予算が国会で可決・成立した。歳入は今年の見通しから7%、歳出は4%増やし、財政収支は6,712億ルピアの赤字と、財政赤字のGDP比を法定上限(3%)以内である2.4%に抑えることを目指している。無料給食プログラムの予算は240兆ルピアと今年に比べて5%増やすものの、今年の当初予算である335兆ルピアからは縮小させている。他方で、本予算の前提条件が実態と乖離しているのではないかとの指摘が存在する。例えば、原油価格の前提値は年平均1バレル=75ドルと、現在の水準よりも低いほか、為替レートも1ドル=17,500ルピアと、現在よりもルピア高となることが想定されている。原油価格が高止まりし、かつルピアの対米ドル相場が現在から回復しない場合、歳出の約6%を占めるエネルギー補助金が増加し、財政赤字を拡大させかねない。今後、新内閣の下で財政規律を乱すことなく予算を執行できるかどうかが注目される。(国際部 土田慧)
[EUと中国の通商協議]
欧州連合(EU)が、中国製品の輸入急増への警戒を強めている。欧州委員会は昨年、トランプ米政権の対中関税により、米国向け中国製品が欧州へ流入する「貿易転換」を監視する組織を設置した。今年6月にはこれを「輸入バロメーター」に改組し、過剰生産能力を背景とする持続的な輸入増加を監視する仕組みに転換した。
最新の分析では、2025年7月から2026年6月までに、輸入量が増える一方で価格が低下した品目が902に上った。内訳は機械141品目、繊維116品目、基礎金属110品目、化学107品目などで、中国が輸入増加の最大の要因となっている。EUの最高貿易執行責任者デニス・ルドネ氏は、EU輸入の約4分の1で「潜在的に懸念される傾向」がみられると欧州議会で説明した。
EUの2025年の対中輸入額は5,710億ユーロ、貿易赤字は約3,600億ユーロであった。域内企業から通商防衛を求める声も強まり、欧州委員会が開始した反ダンピングなどの新規調査は2024年33件、2025年32件、2026年は9月までで27件に上っている。
欧州委員会は輸入バロメーターの結果を、反ダンピング、反補助金、セーフガードなどの発動判断に活用する方針で、企業や加盟国からの要請を待たず、職権で調査を始める可能性もある。さらに、一部加盟国からは米通商法301条に似た新たな対抗措置を求める動きも出ている。
9月30日、中国商務部は、こうした「欧州版301条」を保護主義的措置と批判し、中国企業や製品への差別的な規制が導入されれば「断固として対応する」と警告した。EUは今月、中国側との通商協議を続ける一方、欧州理事会でも合意に至らなかった場合の対中政策を議論する予定で、中国の過剰生産能力と貿易不均衡への対応が焦点となる。(国際部 前田宏子)
[ロシア/長期戦継続を前提に戦時体制を強化]
ロシアは依然としてウクライナ戦争の早期終結よりも軍事的圧力の継続を優先しているとみられる。プーチン大統領は10月1日、モスクワで開かれた国際有識者会議「バルダイ・クラブ討論会」で、ウクライナがロシアの製油所への攻撃を停止する代わりに、ロシアがウクライナの船舶や経済的重要施設への攻撃を停止するという考えを拒否した。エネルギーインフラへの攻撃を停止する意向を示しておらず、ウクライナへの軍事侵攻を継続する意欲を示した。
こうした姿勢は、9月30日にロシア政府が下院に提出した2027~2029年予算案にも表れている。2027年の国防費は17.1兆ルーブル(約32.5兆円)と、ウクライナ侵攻開始後で最大規模となる見通しで、2026年予算比で約4割増加する。一方、社会保障、教育、保健医療分野の支出は削減される見込みであり、政府が軍事分野を最優先課題として位置付けていることがうかがえる。また、財政赤字や債務残高の拡大が見込まれるなかでも、防衛・安全保障支出が連邦予算全体の約3割を占める水準は維持される方向である。
さらにプーチン大統領は9月28日、ロシア連邦軍の定員を現在より1万5,500人増やし、244万1,630人とする大統領令に署名した。2026年に入って4回目となるロシア軍の定員増員で、3月、6月、7月にも軍の定員を拡大する大統領令に署名している。これを受け、2026年に大統領令によって増えたロシア軍の定員は、計4万7,860人となった。
ロシア当局は今回の増員の具体的な背景を明らかにしていない。ただ、ロシアが2022年2月に開始したウクライナへの軍事侵攻が4年半以上続き、双方の人的被害が増えている状況と関係があるとの見方が出ている。(国際部 ゴロシニコフ アントン)
[日銀短観(9月)]
10月1日、日銀は9月の全国企業短期経済観測調査(短観)を発表した。大企業製造業において景況感の改善が続いており、長引く中東情勢の不透明感や自然災害の多発などの影響が懸念されるなかで堅調さを維持した。
今回の回答期間は8月26日(調査表発送日)から9月30日までで、対象企業の99%が回答した。企業の事業計画の前提となる2026年度想定為替レートは、全規模全産業で1ドル=154円23銭と、前回6月調査の152円57銭から円安に修正された。日銀が金融政策決定会合で政策金利を1.25%へ引き上げた9月18日は回答期間中だったものの、回収基準日の9月9日には大半の企業が回答しており、利上げ決定の影響は今回の回答にすべて反映されてはいないとみられる。
大企業・製造業の業況判断指数(DI、景況感が「良い」と回答した企業の割合から「悪い」と回答した企業の割合を引いた値)は24となり、前回6月調査から+2ポイント改善した。好調なAI・半導体需要もあり、改善は6四半期連続となった。業種別で6月調査時からの改善が大きいのは、鉄鋼が6(+12ポイント)、非鉄金属が45(+9ポイント)、石油・石炭製品が36(+27ポイント)、窯業・土石製品が22(+11ポイント)。一方、悪化したのは木材・木製品が▲7(▲14ポイント)、食料品が3(▲6ポイント)、紙・パルプが36(▲4ポイント)、造船・重機等が36(▲3ポイント)、自動車が11(▲1ポイント)。
一方、大企業非製造業の業況判断DIは35と、▲2ポイント悪化した。業種別では、建設は56(+4ポイント)、電気・ガスは6(+4ポイント)と改善したものの、不動産は52で横ばい、そのほかは悪化した。宿泊・飲食サービスは38(▲8ポイント)、小売は29(▲4ポイント)、卸売は30(▲3ポイント)などとなった。値上げによる需要の押し下げや、熊本地震や豪雨など自然災害の影響による外出機会減少に伴う売上の減少に加えて、人件費上昇による企業の費用負担増加などにより景況感の悪化につながったとみられる。
先行きの業況判断DIは、大企業製造業が21(▲3ポイント)、大企業非製造業が30(▲5ポイント)と、いずれも悪化した。長期化する中東情勢の影響など、先行きに対する下押し圧力への懸念がみられる。
また、全規模全産業における2026年度の設備投資計画は前年度比+7.6%と、前回調査を+0.8ポイント上回った。全規模製造業では+8.3%(+0.7ポイント)となった。AI関連投資のほか、建設資材コストの上昇なども投資額を押し上げた要因とみられる。なお、8月の鉱工業出荷指数(速報、季節調整値)において、設備投資の一致指数として注目される資本財出荷指数(除く輸送機械)は、中東情勢の不透明感により2026年1月の前月比+6.1%から、2月▲5.5%、3月▲1.1%、4月+4.8%、5月▲6.1%と変動がみられたが、6月の+5.1%から、7月+7.7%、8月+0.7%と3か月連続で増加しており、今後もこの増加傾向が継続するか注目される。
資金繰りに関しては、資金繰り判断DI(「楽である」と回答した企業の割合から「苦しい」と回答した企業の割合を引いた値)は11で前回6月調査から横ばいとなり、大きな変化はみられなかった。今後、利上げに伴う支払金利の負担増加、また、新たな借入時の金利負担増加が事業運営の足枷になる可能性もある。(経済部 菊井彩乃)
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毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2026年10月6日号に、当社チーフマーケットアナリスト 鈴木 直美が寄稿しました。
