2026年10月6日 (火)
[燃料供給不安がEVシフトを後押し]
日本経済新聞がMobility Global(旧S&P Global Mobility)のデータを基にまとめたところ、2026年1~6月の世界新車販売で、ハイブリッド車(HEV)などを除くガソリン専焼車のシェアが初めて5割を下回った。販売台数は前年同期比▲10%の2,025万台、シェアは49%と2021年の73%から大幅に低下した。一方、EVは+12%の687万台、シェアは17%に上昇した。
地域差は大きい。世界最大のEV市場である中国では、税制優遇縮小などを背景に販売が▲3%の344万台、北米もトランプ政権による優遇措置撤回などから▲15%。一方、欧州は+32%の181万台、東南アジアは+81%の35万台、オセアニアは2.2倍の11万台に増加した。政策支援や車種拡充に加え、2026年は中東情勢を背景とする燃料価格上昇もEVへのシフトを後押ししている。
EV普及率が低い日本でも販売が急増。6月の登録乗用車EV販売は1万2,225台と前年同月の約3倍、シェアは4.9%。1~6月累計は5万1,028台と、半年で2025年通年の3万9,885台を上回った(軽EVを含まず)。日本ではガソリン補助金が導入されており、燃料高の影響は抑えられているが、EV価格低下や航続距離改善、テスラなど輸入EVの販売拡大も寄与している。
オーストラリアでは1~6月のBEV+PHEV販売が前年比+117%の15.8万台、新車の約25%に達した。同国では過去25年で製油所が次々と閉鎖され、現存するのは稼働年数の長いLyttonとGeelongの2つのみ。液体燃料の約9割を輸入に依存しているが、国内製油所トラブルも重なり、ホルムズ危機後の早い段階でその脆弱性が顕在化した。単なる燃料価格高騰だけでなく、燃料の入手可能性にも不安が生じたことがEV普及を後押しした可能性がある。
ウクライナによる製油所攻撃でガソリン不足が続くロシアでも、電動車販売が急増している。販売されるEVの大半は中国製で、西側ブランドが撤退した後の空白を埋めている。ただ、ロシアは国土が広く、寒冷地も多いため、BEVよりHEV/PHEVが有望との見方もある。
EV普及のドライバーは脱炭素政策だけでなく、燃料コストやエネルギー安全保障にも広がっている。一方、充電インフラや重要鉱物供給などは引き続き普及拡大の制約要因として指摘されている。(経済部 鈴木直美)
[イエメン/紅海沿岸の攻防激化]
イエメン内戦が再び大規模な地域紛争へ発展しつつある。イランの支援を受けるフーシ派は10月3日と4日、弾道ミサイルと無人機でサウジアラビアの首都リヤドや東部クライスにあるサウジアラムコの施設を攻撃し、火災を発生させたと発表した。
これに対し、国際的に承認されたイエメン政府の大統領指導評議会を率いるラシャード・アル=アリーミー議長は、フーシ派支配地域の奪還を目指す「イエメンの夜明け」作戦を開始した。サウジアラビア主導の連合軍は5日、戦闘機100機を投入してイエメン政府軍を支援し、紅海沿岸や首都サナアなどにあるフーシ派の拠点を空爆したと発表した。政府軍とこれと連携する部隊は、バーブルマンデブ海峡付近で攻勢を展開し、ドゥバブや港湾都市モカを奪還したと主張している。一方、フーシ派はこの発表を否定しており、戦果の全容は確認されていない
今回の反攻作戦は、フーシ派が9月にモカや紅海の島々を制圧し、10月4日にはタイズとアデンを結ぶ交通の要衝トゥルバも占領したことを受けたものである。政府軍の当面の目標は紅海沿岸の奪還だが、アリーミー議長は最終的に首都サナアの奪還を目指すと表明している。政府軍が山岳地帯にあるフーシ派の中核支配地域まで進めば、作戦が長期化し、サウジ国内の石油施設に対する報復攻撃が拡大する恐れがある。
米国はサウジ側からの空爆要請を退け、直接参戦を避ける一方、情報や攻撃目標に関するデータを提供している。さらに、サウジアラビア、トルコ、パキスタンは5日、「メッカ防衛同盟」に基づく集団防衛措置の実施を決め、合意済みの兵力や装備をサウジへ迅速に展開する方針を示した。
戦闘の拡大は、紅海の海上交通と世界のエネルギー供給を脅かすだけでなく、イエメンの深刻な人道危機を一段と悪化させる恐れがある。一方が他方を軍事的に完全排除することは難しく、戦闘が長期化した場合、最終的には双方の妥協や権力分担を含む不完全な政治解決が必要になるとの見方も出ている。(国際部 広瀬真司)
[インド/米国との貿易交渉]
10月5日、ロイター通信は、インドのニルマラ・シータラマン財務相が米国との貿易合意に向けた交渉が頭打ちであると発言したと報じた。なお10月1日には、グリア米国通商代表部(USTR)代表がインドメディアの取材に対して「差し迫った動きはない」と発言していた(CNBC、2026年10月1日付記事)。
インド政府にとり、貿易合意後に追加関税を課されるリスクがあることが、貿易合意の障壁となっている。現在、米国通商代表部は通商法301条に基づく過剰生産能力調査を進めているが、インドも調査対象となっている。調査結果次第では、税率が現行水準(10%)から引き上げられかねない。加えて、今年9月に成立した対ロシア制裁法も懸念材料だ。本法は、ロシア産原油または天然ガスの輸入量上位5か国に対し最大100%の追加関税を課す権限を大統領に付与する。インドは中国に次ぐロシア産原油の第2位の輸入国であるため、今後トランプ大統領により関税を課される懸念も存在する。足元ではインドは、ロシアに代わり米国・ベネズエラ産原油の購入量を増やしている。例えば8月時点での原油購入先の約1割は米国・ベネズエラである。他方でロシア産原油は依然として国別で最大であり(原油購入先の約4割を占める)、中東からの供給が逼迫している中でロシア産原油を完全に代替することは難しいことを踏まえると(CNBC、2026年8月26日付記事)、今後もロシア産原油購入は避けられない。インド政府としては、貿易協定締結後に新たな関税を課さないことを米国側に求めているため(ロイター通信、2026年7月13日付記事)、両者の歩み寄りが困難となっている。
農業品の市場開放も、両国間で妥結できていない論点だ。米国はトウモロコシ、大豆、乳製品、遺伝子組み換え作物、豆類、ドライフルーツなどのアクセスを要求しているが、インド側は農業団体がこれによる所得減少に懸念を表明している(DW、2026年6月29日付記事)。直近では、エルニーニョ現象の影響を受けて南西モンスーンによる降雨量が平年より減少している。特にインドの中でも小麦、トウモロコシ、大豆、豆類を生産する中央部は灌漑設備が十分に整備されていないこともあり収穫量がモンスーンに左右されやすいため(JETRO、2026年7月27日付記事)、上記夏作物の収穫量減少が懸念されている。そのような中で米国産の農産品が流入することで農家の収入減少に拍車がかかることが懸念される。
なお、インドが貿易合意を急ぐ理由も少ないとの指摘も存在する(Eurasia Group、2026年9月9日)。インドの米国向け主要輸出品にはスマホなどの電子機器・医薬品が挙げられるが、いずれも現行の10%関税の対象外となっている。かつ、足元ではルピーの対ドルレートは中東情勢も受けて1ドル=96ルピー台と減価が続いている。これらも追い風となり、米国向け輸出は2025年後半以降増加し続けている。現行の税率(10%)も、ベトナムやフィリピンなどの5%よりも低い水準だ。そのため、インド政府としては追加関税課税のリスクを見極めつつ、貿易合意について米国側と交渉すると考えられる。(国際部 土田慧)
[FBI、中国の対台監視摘発]
10月4日、米連邦捜査局(FBI)は、中国政府の指示を受け、米国内で台湾政府高官の近親者を監視したとして、カリフォルニア州アーバイン在住の不動産業者、張婉瑩容疑者をロサンゼルス国際空港で逮捕した。容疑者は上海へ出国する直前だった。中国政府の代理人として活動しながら米司法長官に届け出ていなかった疑いが持たれている。米司法省は監視対象を「台湾政府高官の近親者」として匿名にしているが、FBIや米メディアは頼清徳総統の息子、頼廷與氏と報じている。
FBIの刑事訴状などによると、張容疑者は2025年1月以降、中国政府関係者と中国国内で複数回接触した。6月末には長沙で別の中国政府関係者と会い、米国にある住宅に関する任務を持ちかけられたとされる。8月にも杭州で同人物と面会した後、9月1日、男性の協力者とラスベガスからシアトル方面へ移動した。
張容疑者らは頼氏の家族が住むとされる住宅付近で車内から待機し、帰宅した男性や妻、子どもを撮影。住宅や車両の映像、ナンバープレート番号などを中国側に送ったとされる。同行者には後日、撮影した写真を通信アプリではなくAirDropで渡すよう指示するなど、発覚を避ける行動も取っていたという。
台湾総統府は事件を「典型的な越境弾圧」と位置づけ、人権や国家主権を無視し、自由や民主主義を支持する人々や家族を威嚇する行為だとして強く非難した。台湾外交部も米国などとの情報共有や安全対策を強化すると表明した。一方、中国外務省は事件について「状況を承知していない」とした上で、「いわゆる中国スパイ」を利用して中国を中傷することに一貫して反対していると反発した。(国際部 前田宏子)
[エチオピア/首相再選]
10月5日、エチオピア人民代表議会(下院)が招集され、現職のアビィ・アハメド首相の再選が決定した。2018年から与党「繁栄党(PP)」の党首を務める同氏は、2031年まで首相職を継続する見込みだ。6月1日に実施された下院総選挙では、PPが547議席中438議席を獲得して圧勝しており、アビィ氏の再選は確実視されていた。
アビィ氏は再選後の議会演説で、「エチオピアの近代化は海へのアクセスなしには完全には成功しない。アクセスはエチオピア文明にとって重要だ」と述べ、内陸国であるエチオピアの紅海アクセス確保への強い意欲を改めて示した。一方で、隣国エリトリアなどとの緊張の高まりを意識し、「平和的な手段でそれを獲得する決意だ」とも強調した(10月5日、Le Monde)。また、北部ティグライ州で反政府勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」との軍事衝突が継続する中、「国内の反逆者と国外の敵が結託している」と非難しつつ、「森」から出て和平プロセスに参加するよう呼びかけた。
北部ティグライ州では、エチオピア国防軍(ENDF)の支援を受ける親政府派民兵組織「ティグライ平和軍(TPF)」が州都メケレをTPLFから奪還した。TPLFおよび「ティグライ防衛軍(TDF)」は、エリトリア国境に近い主要都市アディグラート方面へ撤退したとみられる(10月5日、ACLED)。これに前後して、ティグライ州北部のアドワやシラロではドローン攻撃が発生し、民間人の死傷が報告されている(10月5日、ロイター通信)。TPLFを支援しているとされるエリトリアは既に国境地帯へ部隊を展開しており、今後ENDF・TPFがさらに北進した場合、エチオピアとエリトリアの国家間衝突へ発展するリスクが高まっている。
アビィ政権による紅海アクセス確保やナイル川水資源利用権を巡る強硬姿勢に対し、周辺国の警戒感も強まっている。10月4日には、エジプトのシシ大統領、エリトリアのイサイアス大統領、スーダン国軍(SAF)のブルハン将軍、ソマリアのハッサン大統領による4か国首脳会合がエジプトのエル・アラメインで開催された。同会合では、国家主権と領土保全の尊重、およびナイル川を含む越境水資源管理に関する協力をうたう「エル・アラメイン宣言」が採択され、エチオピアをけん制する姿勢が鮮明となった(10月5日、New Arabなど)。
エチオピアは欧米諸国、中国、UAE、トルコなど域外国との関係を維持している一方、紅海アクセスやナイル川問題を巡って周辺国との関係は悪化している。今回の4か国首脳会合は正式な軍事・政治同盟の形成には至っていないものの、エチオピアをけん制する地域的な連携強化の動きを示すものであり、アビィ政権は今後、ティグライ情勢への対応と並行して、地域外交上の圧力にも直面することになりそうだ。(国際部 髙橋史)
[独EU/水レジリエンス強化]
(1)概要および背景
10月5日、EU及びドイツ政府はドイツにおける水レジリエンス強化に関する共同声明に署名した。本共同声明は、欧州委員会委員長フォン・デア・ライエンが一般教書演説において強調したEUの水レジリエンスに対する取り組みを具体化するものである。
本年発生した深刻な熱波は、熱中症による死亡者の増大、サプライチェーンの分断、農作物の不作、過去に例を見ない森林火災などを引き起こし、ドイツにおける水レジリエンス対応の緊急性を浮き彫りにした。EUは2050年までに水レジリエンス目標の達成を目指しており、全レベルでの構造的変革が不可欠とされる。
(2)構造化対話の成果
ドイツは、欧州委員会が2025年11月に開始した全加盟国を対象とする「構造化対話プロセス」を最初に完了した国家となった。今回の共同声明は、欧州委員会による「第3次流域管理計画」及び「第2次洪水リスク管理計画」の評価と、専門技術レベルでの協議に基づき策定された。これにより、水法制の迅速な実施と改善が求められる具体的な領域が特定された。
EUは2025年11月から加盟国と水の管理体制について個別に協議する取り組み「構造化対話プロセス」を始めていたが、ドイツがその最初の完了国となった。今回の共同声明は、これまでの河川管理や洪水対策に対する評価と専門家による技術協議に基づいて作成されたものである。
(3)重点分野
ドイツは自国の「国家水戦略」に基づき、水循環の回復及び保護、水レジリエンスを意識した経済体制の構築、安全で手頃な価格の水と衛生へのアクセス確保を推進する。共同声明に盛り込まれた主な施策領域は以下の通りである。
●水質汚染への対処と環境保護:鉱業による過去の汚染の軽減及び持続可能な農業への移行支援を最優先課題とする。さらに、自然な保水機能の向上、持続可能なレベルでの取水管理、水利用効率の改善、水資源管理の厳格化を図る。
●水処理インフラの高度化:既存の水処理施設に対し、微小汚染物質(医薬品残留物、農薬、PFASなど)を除去するための追加処理工程を導入・改修する。
●生態系と水源地の保護:水生生態系の復元、飲料水取水域における水質リスクの特定及びリスク削減のための予防的措置を強化する。
●地方自治体・州との連携強化:渇水や水不足への備えとして連邦州との連携を加速させるとともに、市町村や地域レベルの能力向上及び支援を行う。
(4)欧州委員会による支援枠組み
欧州委員会は、「欧州水レジリエンス戦略」の下でドイツの取り組みを支援する。具体的には、研究開発及びイノベーションの推進、デジタル化の加速、人材スキルの向上、並びにグリーン・ブルーインフラストラクチャーに対する官民投資の円滑化といった支援策が提示されている。
(5)今後
本合意は、欧州全体の水危機に対処し、住民、企業、自然環境の双方に十分かつ高品質な水を供給するための改善計画の第一歩となる。2050年目標の達成に向け、EU水法制及び水レジリエンス戦略の完全な履行が主軸であり、今後はほかの加盟国への構造化対話の順次拡大が焦点となる。(国際部 濱嵜隆吏)
[日本/消費者マインド(9月)]
10月5日、内閣府は9月の消費動向調査を発表した。今後半年間の暮らし向きの見通しなどに関する消費者マインドを捉える消費者態度指数(2人以上世帯、季節調整値)は35.4で前月比▲0.1ポイントと、5か月ぶりに低下した。基調判断は、「消費者マインドは持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。今回の調査は9月2日~24日に実施された。
指数を構成する4項目の意識指標に関して、「収入の増え方」が+0.1ポイント、「雇用環境」が+0.1ポイント上昇した一方、「暮らし向き」が前月から▲0.3ポイント、「耐久消費財の買い時判断」が▲0.2ポイント低下した。所得と雇用への見方は改善したものの、生活実感と購買意欲は悪化した結果となった。
さらに、中東紛争前の水準と比べると、「暮らし向き」(2月39.5→9月33.8)と「耐久消費財の買い時判断」(2月33.7→9月27.3)が、「収入の増え方」(2月42.3→9月40.5)と「雇用環境」(2月43.3→9月40.0)に比べて回復が遅い。賃上げや底堅い雇用環境が消費者マインドを下支えするも、生活の豊かさや高額品の購入意欲にはつながっておらず、個人消費の本格的な持ち直しにはまだ時間を要するとみられる。
日頃よく購入する品目の価格に関する1年後の見通しについて、「上昇する」と見込む割合は90.6%で+1.6ポイント上昇した。8月は89.0%と、2026年2月(85.6%)ぶりに90%を割ったが、9月は再び90%を超えた。そのうち「5%以上上昇する」と見込む割合は47.6%で+1.5ポイント上昇した。一方、「低下する」と見込む割合は3.3%で▲1.3ポイント低下した。8月はインフレへの警戒感が若干和らいだが、8月以降の豪雨により野菜などの食料品の値上がりが懸念され、9月は再び警戒感が強まったとみられる。(経済部 菊井彩乃)
[中央アジア「南への出口」へ/ カザフ・ウズベク・UAEがCASA鉄道構想]
カザフスタン、ウズベキスタン、UAEは9月30日、中央アジアと南アジアを結ぶ「Central Asia-South Asia(CASA)」鉄道回廊の実現に向けた協力覚書を締結した。構想はカザフスタンからウズベキスタン、アフガニスタンを経てパキスタンに至り、同国港湾を通じてアラビア海・インド洋へのアクセスを確保するもの。3か国は今後、技術・経済調査や事業性評価を行い、資金調達を含む実施スキームを検討する。現段階では建設決定ではなくFS段階だが、内陸国である中央アジアにとって、ロシア、中国、カスピ海経由に加え、新たな「南への出口」を確保し、物流ルートを多角化する意義は大きい。
従来のウズベキスタン主導のTrans-Afghan Railway構想にカザフスタンとUAEが加わることで、より広域的な物流構想へ発展する可能性もある。特に、国際物流・大型インフラ投資の経験を持つUAEの参画は注目される。一方、実現にはタリバン政権下のアフガニスタンの安定やアフガニスタン・パキスタン関係の改善が不可欠で、政治・治安リスクは依然として大きい。(国際部 ゴロシニコフ アントン)
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毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2026年10月6日号に、当社チーフマーケットアナリスト 鈴木 直美が寄稿しました。
