デイリー・アップデート

2026年10月7日 (水)

[イスラエル/総選挙展望] 

イスラエルでは10月27日の総選挙を前に、ネタニヤフ首相率いる「リクード」と、元軍参謀総長ガディ・アイゼンコット氏の新党「ヤシャル」が接戦を繰り広げている。10月4日に公表されたイスラエル公共放送「カン(KAN)」の世論調査では、ヤシャルが23議席、リクードが21議席を獲得するとの予測が示された。また、ネタニヤフ支持派は51議席、主要野党で構成される「変革派」は52議席で、いずれも過半数の61議席に届かない。アラブ系2党の計13議席などが、選挙後の連立交渉を左右する可能性がある。全国得票率3.25%の最低基準を下回る政党が出れば、議席配分が大きく変わることも考えられる。

 

アイゼンコット氏は、イスラエル国防軍で41年間勤務し、2015年から19まで参謀総長を務めた。戦時内閣のオブザーバーを務めていた2023年12月には、ガザ地区での戦闘で息子を失っている。選挙戦では、10月7日の攻撃をめぐる政治的責任、独立調査委員会の設置、司法制度や兵役制度の改革を訴え、ネタニヤフ氏にテレビ討論を要求している。首相にふさわしい人物を問う一部の世論調査でもネタニヤフ氏を上回っているが、立場の異なる野党をまとめ、連立政権を樹立できるかは不透明な状態である。

 

一方、ネタニヤフ氏は、長年培ってきた「安全保障に強い指導者」というイメージを前面に出している。しかし、10月7日の攻撃を防げなかったことへの政治的責任や、その後の戦争の長期化をめぐり、厳しい批判を受けている。中央選挙管理委員会は4日、公的施設や軍関連行事を選挙宣伝に利用したとして、同氏の行為5件を選挙運動に関する法律への違反と認定し、関連動画の全部または一部を削除するよう命じた。

 

政権交代が実現すれば、極右政党への依存度が低下し、米国や周辺国との外交、ヨルダン川西岸におけるユダヤ人入植者の暴力への対応、ガザ復興への協力などで、より柔軟な姿勢が取られる可能性がある。ただし、イラン、ヒズボラ、ハマスに対する脅威認識や、パレスチナ国家の樹立に慎重な姿勢では、主要候補間の差は小さい。このため、外交・安全保障政策が根本的に転換するとは限らない。10月7日の攻撃から3年を迎えるなか、今回の選挙は、責任の所在と今後の国家統治の在り方を問う重要な機会となる。(国際部 広瀬真司)

[中東/原油輸出状況] 

中東からの原油輸出は回復しているが、それには莫大なコストを伴っている。ロンドンで開催中のエネルギー業界会合で、参加者からその現状に関する報告が相次いだ。

資源商社Vitolによると、直近7~10日間に中東から輸送された原油は日量1,200万バレル、石油製品は同200万バレルの計1,400万バレル。またサウジアラビアのエネルギー相によると、9月10日の攻撃で停止した東西パイプライン(Petroline、輸送能力700万バレル/日)も日量580万バレルまで復旧した。Kplerによると、ホルムズ海峡を通過する石油は依然として戦前の3分の2程度だが、迂回輸送を合わせれば中東からの供給量は日量2,000万バレル近くに回復している計算だ。

ホルムズ海峡の通航リスクが低下したわけではない。英国海運貿易オペレーション(UKMTO)によると、ホルムズ海峡周辺では9月最後の2日間に4件、10月入り後も既に9件のタンカーへの攻撃が報告され、むしろリスクは高まっている。Vitolのラッセル・ハーディCEOは、7か月に及ぶ混乱で世界の原油・石油製品在庫が減少しており、現在の輸送量が維持できなければ原油価格は1バレル=200ドルに達しかねないとして、フロー継続の重要性を強調。一連の混乱は「原油危機」から「石油製品危機」を経て、現在は「海運危機」に移ったとの見解を示した。

供給回復を支えているのは、高リスク・高コストな非常運用だ。湾岸で原油を積んだタンカーがホルムズ海峡を通過し、海峡外で別の船に船舶間積み替え(STS)する輸送が拡大している。同じ原油を運ぶために必要な船腹や日数が増え、世界的なタンカー不足を招いている。危険海域を航行する船社は限られ、船主が報酬を引き上げて船員を確保している。船員は新興国の低所得コミュニティ出身であることが多いという。FTによると、船長には月10万ドルに加え、1航海当たり5万ドルを支払う事例もある。

この結果、ペルシャ湾~中国航路の運賃は昨年の2万~5万ドル/日から過去最高の130万ドル/日に急騰した。これは原油1バレル当たり約30~35ドルで、ブレント原油価格を120ドル程度とすると、輸送費だけで到着コストの3割弱に相当するといった試算もある。これとは別に、戦争保険料も船体価値の6~10%、1航海当たり最大2,000万ドルに達しているという。

湾岸産油国からは、迂回パイプラインや域外備蓄への投資について、輸入国にも負担を求める声が挙がっている。中東原油の供給量が戻り、原油指標価格の上値は抑制されていても、ホルムズ危機の長期化を前提とした非常時の輸送体制が常態化し、そのコストが膨らんでいる構図といえる。(経済部 鈴木直美)

[世銀/アフリカ成長予測] 

10月6日、世界銀行グループ(世銀)は『アフリカ経済アップデート(2026年10月)』を発表し、サブサハラ・アフリカ(以下、サブサハラ)の2026年の経済成長率を4.3%と予測した。前回4月の発表では、イラン情勢の緊迫化に伴う原油価格の高騰やサプライチェーンの混乱による影響を織り込み、同地域の成長率見通しを4.1%へ下方修正していたが、今回は0.2ポイント引き上げられた。世銀は見通し引き上げの背景として、原油やAI開発に必要な銅などの資源価格の上昇が資源輸出国の経済を押し上げているほか、非資源輸出国でも農業生産の回復や堅調な内需が成長を支えていると説明している。


今回の発表では、サブサハラ48か国のうち27か国で2026年の成長率見通しが上方修正された。特に、産油国アンゴラの成長率予測は2.1%から4.5%へ、経済改革が進むエチオピアは8.0%から9.2%へ引き上げられた。エチオピアは、内戦後の復興需要が見込まれる南スーダン(20.3%)に次いで、2026年にサブサハラで2番目に高い成長率を記録する見通しである。これに続き、鉄鉱石輸出の拡大が見込まれるギニア(8.1%)、経済の多角化が進むベナン(7.8%)、情報通信・金融などのサービス産業が好調なルワンダ(7.5%)が高成長国として挙げられている。


一方、大規模資源開発プロジェクトの遅延が続くモザンビーク(0.6%)やウガンダ(6.4%)など9か国では、4月時点の予測から成長率見通しが下方修正された。サブサハラ最大の経済規模を有する南アフリカの成長率予測は1.0%で据え置かれた。世銀は、南アフリカの構造的課題による低成長が、地域全体の成長率を押し下げていると指摘している。


また、サブサハラ全体の1人当たり所得の伸び率は1.8%にとどまり、依然として貧困削減を大きく前進させる水準には達していないとの懸念を示した。見通しに対するリスクは引き続き下方に傾いており、中東紛争の激化に伴う燃料・食料・肥料価格の上昇によるインフレ圧力の高まりや、地政学リスクの上昇を受けた中東諸国からの投資・資金流入の減少、さらにエルニーニョ現象の影響(南部アフリカ・サヘル地域での干ばつ、東アフリカでの多雨)などを挙げている。世銀は、サブサハラの平均インフレ率について、世界的な燃料価格の上昇などを背景に、2025年の3.7%から2026年には4.1%へ上昇すると予測している。


さらに世銀は、AIの普及・活用が、サブサハラの低い生産性や人的資本の不足、脆弱な公共サービス提供体制といった課題の解決に貢献する可能性があると指摘した。電力不足やブロードバンド網の未整備、デジタル人材の不足といった制約はあるものの、地域の実情に即した低コストのAIアプリケーションの導入・活用が進めば、その恩恵は地域全体に広がるとの見方を示している。(国際部 髙橋史)

[中国、独仏提案を批判] 

10月5日、フランスとドイツは、EU経済に打撃を与える国への対抗措置を大幅に強化する共同提案を欧州委員会に提出した。市場を歪める第三国に対し、必要ならEU市場へのアクセスを即時に遮断できる新制度の創設や、反ダンピングなど既存措置を迅速に発動できるようにするための変更を求めている。中国を名指ししていないが、補助金や過剰生産、貿易不均衡などを念頭に置き、中国製品の流入による「China Shock 2.0」への対応という性格が強い。一方で、関税を外交手段として用いるトランプ米国政権への対抗手段という側面もある。共同提案は、従来、対中貿易規制に慎重だったドイツがフランスと共同歩調を取った点が特に注目されている。


翌日(10月6日)、中国商務部は、「保護主義では競争力を高められず、デカップリングは双方を傷つける」と反発する声明を発表した。独仏に対し、EUに保護主義的手段の使用を促したり、経済・貿易問題を政治化・安全保障化したりせず、「最終的に自らに跳ね返る」道を避けるよう求めた。中国外交部も、中欧のサプライチェーンは深く融合しているとして、対話による問題解決を主張した。


中国側には、ドイツの姿勢転換により、EUの対中政策が強硬化することへの警戒がある。中国の識者らの間では、今後、EV、化学製品、太陽光、鉄鋼などでEUが規制措置を講じれば、中国は農産物やワインなどを対象とした対抗措置で報復し、双方が損失を受けた後に交渉へ戻る展開を予想する見方が強い。一方、レアアースなど、より強力な切り札については、簡単には使用しないとの見方がある。


中国側にはさらに、「China Shock 2.0」論が欧米から新興国・途上国へ広がることへの警戒もある。中国商務部や外交部は、こうした議論が「南方国家の発展空間を中国が圧迫している」という認識と結びつくことへの警戒を示している。米欧市場が同時に狭まり、途上国でも中国製品への防衛措置が拡大すれば、中国の輸出主導型産業に一段の調整圧力がかかるとの懸念が背景にある。(国際部 前田宏子)

[インド/金融政策決定会合] 

10月5日から7日まで、インド準備銀行(RBI)は金融政策決定会合を開催している。地場経済メディアなどは25bpsの利上げを見込んでいる(Mint、2026年10月4日付記事)。

 

2026年以降、インドの実質GDP成長率は順調に推移している。第1四半期・第2四半期の成長率は各々8.6%・7.8%と、潜在成長率である7.0%程度(世界銀行、2026年10月レポート)を上回る状況が続いている。なお、潜在成長率に関し、世界銀行は2023年のレポートの中では6~6.5%程度と推計していた。潜在成長率引き上げの背景には、公共投資・民間投資ともに堅調に推移したことが挙げられる。官民の有形資産投資を示す固定資本形成は2025年より加速しており、第2四半期には前年比12%増加した。これが経済の供給能力向上につながったもよう。

 

他方でインフレ率は足元で上昇している。2026年5月の3.9%から8月に4.8%へ上昇した。6月以降は、RBIのインフレ目標である4%を超過し続けている。なお、インフレ率以上に懸念されるのが卸売物価指数(WPI)の動向だ。WPIの前年比上昇率は、中東情勢悪化前までは2%台で推移していたが、足元の8月には9.9%を記録した。特に、燃料・電力価格が22.9%と急騰した。卸売物価の上昇が、今後、消費者物価のうち食料・エネルギー以外の幅広い品目のさらなる上昇につながることが懸念される。経常収支赤字拡大や株・債券売りに伴うルピー安も続いている。経常収支に関し、イラン情勢による原油高や金価格上昇が輸入増加につながった。株・債券に関し、6~8月は流入超であったが、米国との金利差縮小も受けて、9月は25日までに33億ドルの流出超に転じた。これらも踏まえ、ルピーの対米ドルレートは4月の1米ドル=93.2ルピーから9月の95.9ルピーと、2026年度に入って2.8%下落している。

今後のリスク要因としては、中東情勢悪化やエルニーニョ現象の影響、先進国における金利上昇によるルピー安圧力の高まりなどが挙げられる。いずれもインフレ率を上昇させる要因だ。 特にエルニーニョ現象の影響に関し、2026年の南西モンスーンによる累積降雨量は8月末で平年比14%、8月単月では16%少なかった(RBI、2026年9月レポート)。これにより、6月に播種し9月以降に収穫する夏作物(コメ、大豆、サトウキビなど)の収穫量低下が懸念される。 世界気象機関などはエルニーニョ現象が2027年2月まで持続すると見込んでいるが、これにより小麦など10月に播種し翌年4月ごろに収穫する冬作物の収穫量低下が懸念される。

前回8月の会合では、インフレ率が4%を超過したばかりであり、かつルピーの対米ドルレートも7月に1米ドル=95.4ルピーと現在よりもルピー高であったことから、RBIは政策金利を5.25%で据え置いた。他方で、実体経済が堅調に推移している一方でインフレのアップサイドリスクが上昇していることを踏まえると、RBIは今回の会合にて利上げを実施する可能性が高い。政策金利のピーク(ターミナルレート)の見通しに関し、金融機関ごとに見通しが分かれている。野村證券やバークレイズ、インドステイト銀行は利上げ幅が最大50bps程度に収まるとする一方、バンク・オブ・アメリカやゴールドマン・サックスは最大100bps利上げすると見込んでいる。ターミナルレートは、今後のインフレ率動向やルピーの対米ドルレートの推移に左右されると考えられる。(国際部 土田慧)

[EU/新規加盟国の適格性担保] 

(1)概要および背景
欧州委員会は10月6日、モンテネグロ、アルバニア、ウクライナ、モルドバなどの新規加盟を見据え、拡大に伴う政治的・経済的リスクを制御するための改革案を提出した。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、EU加盟拡大に対する地政学的要請が高まる一方、加盟拡大に対して既存加盟国が有している財政負担や意思決定の機能不全上の懸念を回避することが主眼とされている。特にハンガリー(オルバン政権)などに見られた加盟後の民主主義の後退や拒否権乱用を踏まえ、加盟国の適格性を厳格に担保する制度設計が提示された。

 

(2)改革案の主要な柱
●加盟後15年間のセーフガード措置(試用期間制度):新規加盟国に対し、加盟後15年間にわたり「法の支配」やEU基本価値、誠実協力原則に対する深刻な違反が確認された場合、EU資金の削減や理事会での投票権停止を迅速に発動できる新手続きを創設する。これは発動に時間を要する現行のEU条約第7条手続きを補完するものである。また、北マケドニアに対するブルガリアの事例のように、二国間対立を理由とした拡大プロセスへの拒否権行使を自制する規定や、単一市場保護規定の適用期間延長も盛り込まれた。
●段階的統合の制度化:仏独の提唱に基づき、改革基準を達成した分野(エネルギー、交通、デジタル、防衛、単一市場、Erasmus+やHorizon Europeなどのプログラム)から段階的にEUシステムへ早期参加させる仕組みを体系化する。本措置は完全加盟の代替ではなく、改革を進展させた候補国に早期の利益を提供するインセンティブ構造として機能する。
●加盟前の執行能力検証等:国境管理、単一市場監督、食品安全、公共調達などの執行能力を加盟前に実地検証するとともに、年次「法の支配報告書」の対象範囲を拡大する。深刻な不備が認められる場合は加盟時期の延期措置が講じられる。さらに、ウクライナの大規模農業分野に対する財政支援制限や、労働力移動に関する個別過渡措置も設定される。


(3)今後の見通しと課題
本提案の全容決定には全27加盟国の承認を要する。現在最も交渉が進展しているのはモンテネグロ(2026年末までの交渉完了を目指す)であり、欧州委員会は11月初旬の対モンテネグロ交渉方針に本セーフガードを組み込む方針である。一方、アルバニア、モルドバ、ウクライナの加盟実現には依然として数年単位の期間を要する見通しとされている。(国際部 濱嵜隆吏)

[日本/実質賃金(8月速報)] 

10月7日、厚生労働省は8月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)を発表した。名目賃金(基本給や残業代、賞与などを合わせた1人当たりの現金給与総額)から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比+1.5%増加し、2026年1月から8か月連続のプラスとなった。

 

実質賃金の計算に用いられる消費者物価指数(持ち家の家賃換算を除く総合)は、7月と横ばいの+2.2%。2025年の最低賃金の引上げや2026年の春闘による賃上げの反映により名目賃金が上昇し、物価の上昇率を上回った。

 

名目賃金は31万1,364円で+3.8%。名目賃金の前年同月比が7か月連続で3%以上となったのは34年5か月ぶり。このうち、基本給に当たる所定内給与が27万7,861円で+3.8%と、名目賃金を押し上げた。所定内給与の前年同月比が8か月連続で3%以上となるのは33年10か月ぶり。また、賞与などの「特別に支払われた給与」は1万3,006円で前年同月と同水準になった。

産業別の所定内給与の上昇率では、金融業, 保険業の+10.7%、電気・ガス業の+6.6%が目立った。

 

就業形態別では、一般労働者の現金給与総額は39万9,849円で前年同月比+3.7%。所定内給与は35万3,346円で+3.8%。パートタイム労働者の時間当たり給与(所定内給与)は1,472円で+4.3%と、62か月連続のプラス。

 

総実労働時間は129.8時間(+0.5%)。就業形態別では一般労働者が153.4時間(+0.6%)、パートタイム労働者が77.7時間(▲0.2%)。

 

実質賃金は、賃上げの波及により上昇基調にある。ただし、全国の先行指標とされる東京都23区の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合、2025年=100)の9月中旬速報値は+2.8%と、足元で物価上昇率が拡大している。今後、電気・ガス代の上昇に対する政府補助が9月使用分で終了することなどにより、さらなる物価上昇が見込まれる。一方、賃金については、2026年度の最低賃金の引き上げが各都道府県で10月1日以降順次発効予定だが、賃上げを上回る物価上昇により、実質賃金がマイナスとなる可能性もある。(経済部 菊井彩乃)

 

[米国・日本/AIデータセンター事情] 

10月1日、JERA、Dell Technologies、RHAELMは、日本でAIデータセンターと電源を一体開発する構想を発表した。第一弾は千葉で最大400MW、2028年ごろの稼働開始を目指す。JERAが電力と用地、DellがAI計算基盤、RHAELMが案件開発・統合を担い、Apollo Global Managementが資金調達・投資面を支える。特徴は、送電網への接続待ちを避け、JERAの既存発電所を活用して電力を直接確保する点にある。

 

TechRadarはこれを「speed to power」と表現しており、AIインフラでは電源確保に加え、巨額投資を迅速に実行できる金融力も競争力になっている。
米国では半導体側の供給基盤も拡大している。TSMCはアリゾナ州での累計投資計画を2,650億ドルまで拡大し、複数の先端半導体工場や先端パッケージ拠点を整備する。台湾もフェニックスに新たな台北経済文化弁事処を開設した。これは外交上の象徴だけではなく、TSMCを中心に進出する台湾企業、人材、サプライヤーを支える制度インフラの整備でもある。

 

一方、GoogleはConstellation Energyと長期契約を結び、米国内の既存原発を改修して合計890MWの追加出力を確保する。新規原発の建設ではなく、既存設備の出力増強によって2028年以降の電源を確保する考えだ。日本ではLNG・ガス火力、米国では既存原発と手段は異なるが、共通するのは「AI用電力を待つのではなく、自ら押さえる」という発想である。

 

これらからは、AIの競争単位が半導体単体から、より広いインフラ全体へ広がっていることが改めて確認できる。GPUや先端半導体に加え、それを製造する工場、計算を行うデータセンター、24時間稼働を支える電力、送電網、土地、人材、さらに資金調達まで含めた総合力が問われている。

 

こうした方向性自体は新しいものではないが、今回の案件はその構図を一段と具体化している。今後のAI競争力を測るうえでは、チップ性能だけでなく、「何GWの電力と計算能力を、どの資本で、何年で実装できるか」が重要になる。AIはデジタル産業でありながら、その成長を左右する制約は、電力、製造設備、土地、人材、資本といった実物経済側にあることが、より明確になっている。(経済部 本間隆行)

[米国/貿易赤字の拡大] 

商務省によると、8月の貿易・サービス赤字は1056億ドル(前月比+13.7%)と2025年3月以来の高水準だった。貿易赤字が1,366億ドルへ増加したことが主因であり、サービス収支は310億ドルの黒字だった。

 

輸出は3,152億ドル(+1.4%)へ増加した。財輸出は2,057億ドル(+44億ドル)へ増加。内訳を見ると、非貨幣用金(+23億ドル)や原油(+20億ドル)、燃料油(+12億ドル)など工業用資材・原材料(+63億ドル)が増加した。また、半導体(+10億ドル)や電算機(+9億ドル)など資本財(+13億ドル)が増加した一方で、医薬品(▲24億ドル)など消費財(▲22億ドル)が減少した。サービス輸出は1,095億ドル(+1億ドル)へ小幅増にとどまった。知的財産権等使用料(+2億ドル)やその他のビジネスサービス(+1億ドル)の受取が増加したのに対して、旅行収支(▲2億ドル)や金融サービス(▲1億ドル)などの受取が減少した。

 

一方、輸入は4208億ドル(+4.3%)と、過去最高を記録した。財輸入は3,422億ドル(+5.3%)へ増加。原油(+33億ドル)や非貨幣用金(+31億ドル)など工業用資材・原材料(+91億ドル)が増加した。半導体(+24億ドル)や工業機械(+13億ドル)など資本財(+62億ドル)も増加した。サービス輸入は785億ドル(+1億ドル)へ小幅に増加した。輸送サービス(+4億ドル)の支払いが増加した一方で、知的財産権等使用料(▲2億ドル)や旅行収支(▲1億ドル)の支払いは減少した。

 

貿易相手国・地域別に見ると、メキシコ(▲277億ドル)やベトナム(▲240億ドル)、台湾(▲183億ドル)、中国(▲164億ドル)、EU(▲110億ドル)などで収支は赤字だった。これまで関税措置を実施してきたものの、貿易赤字は狙い通りに縮小していない。その理由として、半導体やデータセンター投資などが進んでいるため、その関連資材などの輸入が増加していることが挙げられる。また、カナダに対して、8月末に200億ドル相当のカナダ製品に対する50%の関税を発動したこともあって、発動前の駆け込み需要などがあったとみられている。(経済部 鈴木将之)

[米ロ首脳は近く電話会談 トランプ氏、ペスト疑惑で74歳のプーチン大統領と協議へ] 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月7日、74歳の誕生日を迎えた。四半世紀近くにわたりロシア政治の中枢に君臨する一方、私生活や家族に関する情報は極めて限られており、「世界で最も知られているが、同時に最も知られていない指導者の一人」とも評される。


各国首脳から祝意が寄せられる中、近く予定されるドナルド・トランプ米国大統領との電話会談では、イルクーツク州で浮上した「肺ペスト疑惑」が主要議題の一つとなる可能性がある。


発端は、シベリア・極東対ペスト研究所に勤務する28歳の女性研究員の急死だった。当局は約200人の接触者を隔離し、医療機関で検疫措置を実施したが、死因については「原因不明の肺炎」と説明し、ペスト発生説を否定している。一方、大規模な隔離措置や病院の封鎖を受け、地元では不安が広がり、抗生物質やマスクの買い占めも発生した。


ロシア当局は「ペスト流行の事実はない」と強調するが、死亡原因の最終特定は継続中という。74歳を迎えたプーチン氏にとって、今回の事案は国家の危機管理能力と情報統制を問う新たな試金石となっている。(国際部 ゴロシニコフ アントン)

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