2026年10月8日 (木)
[独政府、COSCOの買収阻止]
10月7日、ドイツ政府は、中国国有海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)によるドイツ物流企業Zippelの買収を、安全保障上の懸念から阻止したと発表した。COSCOは同社株式の80%を取得する計画だったが、ドイツ経済・エネルギー省は、買収がドイツや欧州連合(EU)の物流面での対中依存を深め、サプライチェーンの強靱性を損なう恐れがあると判断した。
Zippelはハンブルクに本社を置き、港湾と内陸部を結ぶ鉄道・トラックによるコンテナ輸送を手掛けている。ドイツ連邦カルテル庁は2026年2月、競争法上の問題はないとして買収を承認したが、政府は別途、安全保障上の観点から審査を進めていた。
ドイツ紙の報道によると、経済・エネルギー省のほか、外務省、国防省、内務省、財務省も買収に反対していた。Zippelの物流網はドイツ東部への輸送で重要な役割を担っており、ドイツ軍や北大西洋条約機構(NATO)の軍事輸送への影響も懸念された。また、中国側が物流情報を把握し、政治的対立の際に輸送網への影響力を行使する危険性も指摘されていた。
COSCOを巡っては、2023年にもハンブルク港のコンテナターミナルへの出資が政治問題となった。安全保障上の懸念から複数の省庁が反対したが、ショルツ首相(当時)が出資を支持し、最終的にCOSCOの出資比率を当初計画の35%から24.99%に引き下げ、経営上の支配権を制限する条件で認めた経緯がある。(国際部 前田宏子)
[サウジアラビア/ガス開発]
サウジアラビアは世界最大級の産油国で、豊富な石油を国内発電にも大量に使用してきた。これを国産天然ガスに置き換えれば、発電燃料を低炭素化するとともに、余剰となった原油を輸出に回すことができる。また、石油化学や製鉄、淡水化などの産業用に加え、近年ではAI・データセンター向けの新たな需要も見込まれている。
このため現在、中東最大の非在来型ガス田Jafurahの開発が進められている。2026年2月時点の進捗報告によると、Jafurahは2025年12月に生産を開始し、世界最大級のTanajibガス処理施設も操業を開始した。Aramcoは2030年までに販売用ガスの生産能力を2021年の生産水準から約80%増強する計画で、ガスと随伴液の総生産量を原油換算で日量約600万バレルまで引き上げ、2030年には2024年比で年間120億~150億ドルの追加営業キャッシュフローを見込む。
増産計画が具体化するにつれ、その先のガス事業も注目され始めた。9月22日にはロイター通信が、Aramcoが「上流」「下流」の2部門体制からガス部門を独立させる組織再編を計画し、少数株ないし部門単位の上場、リース・リースバックなどによる資金調達を検討していると報じた。さらに英紙Financial Times(FT)は10月7日、こうした動きの背景をより詳細に報じた。
課題の一つは大増産されるガスの用途だ。民間調査会社は、将来的にサウジアラビアのガス生産量が年間1,800億立方メートルに達した場合、国内需要を満たした後も最大500億立方メートルの余剰が生じる可能性があると試算する。全量をLNGに換算すれば年間3,600万トン程度の規模に相当する。AI・データセンターなど新たな国内需要が一部を吸収するとみられるが、追加の需要先が必要になる可能性がある。FTによると、Jafurah第2期のガスを原料とするLNG輸出基地の建設案が2025年に提示されたが、政府が国内需要向けの供給を優先し、現時点では棚上げされているという。
もうひとつは事業価値の最大化だ。FTによると、ガス事業を別会社に切り出す構想は「Project Gamma」と呼ばれる。ただし、新会社にはAramcoの海外LNG資産は含まれず、国内ガスは政府設定価格で販売される。サウジアラビア国内のLNG輸出基地も具体化しておらず、ガス事業の上場より、従来のリース・リースバック方式が適しているとの見方もある。
つまり、サウジアラビアではガス増産が進むとともに、増産後のガスを「どこで消費し、どう収益化するか」が新たな論点となりつつある。世界有数の産油国であるサウジアラビアが将来的に天然ガスの輸出国となる可能性も含め、今後の動向が注目される。(経済部 鈴木直美)
[アフリカ/格付け機関発足]
10月7日、モーリシャスの首都ポートルイスで、「アフリカ信用格付け機関(AfCRA)」の発足式が開催された。同機関の設立は2018年のアフリカ連合(AU)総会で決定されていた。
これまでAUやアフリカ開発銀行(AfDB)、アフリカ各国政府は、ムーディーズ、フィッチ・レーティングス、S&Pグローバルの大手格付け3社がアフリカのリスクを過大評価し、いわゆる「アフリカ・プレミアム」を課していると批判してきた。また、2023年の国連調査では、アフリカの実情への理解を欠いた不正確・不公平な信用格付けによって借入コストや利払い負担が増加し、アフリカ諸国が年間745億ドルの損失を被っている可能性が指摘されている。
さらに、大手格付け機関はアフリカ55か国のうち23か国を、政情不安などを理由に格付け対象としていない。格付けが付与されていない国は国際金融市場での資金調達が困難となることから、アフリカ諸国の間では、地域の実情を反映した独自の格付け機関の設立を求める声が高まっていた。
AUによると、AfCRAは独立性を確保するため、AUや各国政府による出資を受けない民間企業として運営される。信用格付けや市場分析に当たっては、南アフリカの調査・情報企業であるPlus94から技術支援を受けるほか、AfDBや各地域経済共同体(RECs)とも協力していく方針だ。格付け対象はアフリカ各国のソブリン債、地方政府、公的機関、民間企業に加え、アフリカ域外の事業体にも及ぶとしている。
発足式に出席したAU委員会のユスフ委員長は、AfCRAの本部としてモーリシャスが選ばれたのは偶然ではなく、同国がアフリカ域内の主要な金融ハブとして機能しているためだと説明した。また、AfCRAが評価プロセスにアフリカのデータや専門知識、地域特有の現実をより適切に反映することで、既存の格付け機関が抱える情報・分析上のギャップの解消に貢献するとの期待を示した。
一方で、同委員長は、AfCRAが信頼を獲得するためには独立性を維持し、国際的に認められた基準を順守することが不可欠だと強調した。実際、発足したばかりのAfCRAが国際金融市場から高い信頼を得るのは容易ではないとみられている。仮に大手格付け機関よりも寛容な格付けを行った場合には、アフリカの借り手に対して批判的ではない「アフリカのための格付け機関」に過ぎないとの評価を受ける可能性もあると指摘されている(10月7日付FT)。
もっとも、大手格付け会社も近年、アフリカ市場への関与を強めている。ムーディーズは2024年に南アフリカの格付け会社GCRを買収し、アフリカ域内での情報収集ネットワークを拡充したほか、S&Pも2026年2月にナイジェリアの地場格付け会社の過半数株式を取得した。こうした動きを通じて、大手各社もアフリカ市場に対する知見を蓄積し、より実態に即した評価を行う体制を強化している。
AfCRAの発足は、アフリカ諸国が長年抱いてきた既存格付け機関への不満を背景とする象徴的な取り組みである一方、その成否は国際市場から信頼される独立性と分析能力を確立できるかにかかっている。今後、AfCRAが既存の大手格付け機関との差別化を図りながら、どのように信頼性を構築していくのかが注目される。
(国際部 髙橋史)
[米国/インフレ期待の高まり]
NY連邦銀行の9月の「消費者期待調査」によると、1年先の期待インフレ率は3.9%となり、8月(3.6%)から上昇した。2023年5月(4.1%)以来3年4か月ぶりの高水準だった。3年先の期待インフレ率は3.3%と、8月から0.1ポイント拡大し、6~7月と同じになった。また、5年先は3.0%であり、2025年9月以降、横ばいを維持している。いずれも連邦準備制度理事会(FRB)の2%目標を上回っている。
商品別では、1年先のガソリン価格が+4.8%と、8月(+4.6%)から拡大、5月(+5.0%)以来の高い伸びとなった。食料品は+5.5%(+0.2ポイント)、医療費は+9.2%(+0.1ポイント)、大学教育は+7.5%(+1.4ポイント)、家賃は+6.8%(+0.2ポイント)へと、いずれも上昇率を拡大させた。先行きの価格上昇が広範に及ぶと予想されている。
一方で、失業確率は13.5%(▲0.3ポイント)へ低下し、6月以降、緩やかな低下傾向がみられている。今後1年で失業率が上昇する確率は43.9%(▲0.5ポイント)へ低下した一方で、失業後3か月以内に職を見つけられる確率は46.1(+0.7ポイント)へ上昇するなど、雇用環境の見方はやや改善した。
雇用環境の改善は消費者マインドの下支え要因となっている一方で、今後の物価上昇見通しが重荷となっている。(経済部 鈴木将之)
[ベネズエラ/エネルギー事情]
ベネズエラのエネルギー部門では、原油輸出が回復する一方、国内の精製・電力インフラの脆弱さも残っている。
OPECの統計によるとベネズエラの原油生産は2026年1月の日量92.4万バレルから8月には120.1万バレルへ約30%増加しており、原油生産そのものは明確な回復基調にある。Bloombergが報じたところでは、インドのベネズエラ産原油輸入が10月に日量約46.5万バレルと、約7年ぶりの高水準に達する見込みだとしている。その輸入の中心となっているのはReliance Industriesとみられ、重質油を処理できるJamnagar製油所がメレイ(Merey)原油を受け入れていると伝えている。
一方、ベネズエラ国内の精製能力の稼働状況は不安定だ。10月6日には国内第2位の規模となるベネズエラ西部のカルドン(Cardón)製油所で爆発・火災が発生し、操業を停止した。同製油所の処理能力は日量約31万バレルとされる。PDVSAは大きな人的被害や深刻な設備損傷はなかったとしているものの、同施設では原料不足や停電による停止も度々繰り返されている。
電力では、ANOVA Policy Researchの調査によると2026年にベネズエラの62.8%の世帯が毎日の停電を経験し、常時電力供給を受けている世帯は6.9%にとどまるという。
政府は頻発する停電をエルニーニョによる水力発電低下を理由の一つに挙げている。しかし、老朽設備、投資不足、管理不全といった構造的な原因との指摘があり、これまでの経緯からはこちらのほうが妥当だとみられる。また、原油生産が1月から足もとまで約30%増えているように、油田・輸送・精製設備向けの電力需要増が住宅・商業部門への配電制約を強めている可能性もある。
ベネズエラでは原油の生産・輸出は回復している一方、国内の精製や電力供給はなお脆弱だ。外貨獲得につながる原油輸出の回復と、国民生活を支えるエネルギー供給の弱さが同居している。(経済部 本間隆行)
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2026年10月29日(木)
15:00~17:00、新社会システム総合研究所主催『SSKセミナー』で当社シニアアナリスト 宮之原 正道が講演いたします。会場・オンラインのハイブリッド開催。 - 2026年10月2日(金)
『日本貿易会月報』2026年9・10月号(No.836)に、当社チーフエコノミスト 鈴木 将之が登壇した日本貿易会ゼミナール特別企画について掲載されました。 - 2026年10月1日(木)
一般社団法人 日本経済調査協議会より、当社経済部長 本間 隆行が委員として参画した「第二次地政学委員会」の報告書が公表されました。 - 2026年9月29日(火)
『日本経済新聞』に、当社経済部長 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2026年9月28日(月)
毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2026年10月6日号に、当社チーフマーケットアナリスト 鈴木 直美が寄稿しました。
