停滞感漂う経済~ユーロ圏経済2026年9月
2026年09月14日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之
概要
- 欧州中央銀行(ECB)は9月10日の理事会で、政策金利(中銀預金金利)を2.5%に引き上げることを決定した。次回以降の理事会で追加利上げが予想されているものの、物価上昇については上振れ、経済成長については下振れリスクがあるため、追加利上げは状況次第といえる。
- ユーロ圏経済は、緩やかに回復している。2026年第2四半期(Q2)の実質GDP成長率(前期比年率+1.8%)はQ1(▲0.0%)から加速した。ならしてみれば上半期は1%程度の成長にとどまった。雇用環境は底堅いものの、個人消費や設備投資など内需は力強さを欠いており、生産水準の回復も鈍い。
- 先行きについて、ユーロ圏経済は、インフラや防衛投資などが下支えとなって緩やかに回復すると期待されるものの、下振れリスクが依然として大きい。中東情勢の変化などの地政学リスクに加えて、自然災害への備えを進める重要性が高まっている。
- トピック:ECB、2会合ぶりの利上げ
欧州中央銀行(ECB)は9月10日の理事会で、政策金利(中銀預金金利)を0.25%引き上げて2.5%にすることを全会一致で決定した(図表①)。6月の会合で2023年9月以来となる利上げが実施された後、7月は据え置かれていたため、2会合ぶりの引き上げとなった。7月の会合の議事要旨(8月27日公表)によると、何人かの参加者が「利上げが提案されれば反対しなかった」と述べていたことが明らかになっていたことや、8月の消費者物価指数(HICP)が前年同月比+3.3%と5月以来となる3%台まで上昇率を拡大させ、物価上昇が落ち着いていないことなどもあって、市場予想通りの利上げだった。
市場の関心は、すでに今後の動向に移っている。ECBが発表した経済見通しによると、消費者物価指数は2026年に前年比+3.0%、2027年に+2.7%と中期目標の2%を上回ると予想されている。消費者物価指数の上昇率は2027年上半期まで高止まりした後にようやく落ち着きを取り戻し、2028年に+2.1%と目標並みに戻ると見通されている。このため、中期的には物価上昇率は2%目標に回帰すると予想されているものの、それまでのかなりの期間にわたって上振れることになる。こうした見通しを踏まえると、次回以降の会合での追加利上げが実施される可能性が高いと、市場では受け止められている。
もっとも、中東情勢やエネルギー価格の動向、冬場の天然ガス備蓄状況など不透明な点が多いことは事実だ。これらの点について、ラガルドECB総裁も言及しており、物価上昇については上振れ、経済成長については下振れリスクがあると指摘した。2022年の物価高騰局面で後手に回った教訓もあり、物価抑制に慎重な対応がなされている。
- 現状の確認と先行きの見通し
【概観】 ユーロ圏経済は、緩やかに回復している。2026年第2四半期(Q2)の実質GDP成長率(前期比年率+1.8%)はQ1(▲0.0%)から加速した。ならしてみれば、上半期は1%程度の成長にとどまった。主要国を見ると、ドイツ(+1.3%)やイタリア(+0.7%)、スペイン(+2.8%)が成長し続けた一方で、フランス(+0.1%)はほぼ横ばいと力強さを欠いた。
雇用環境は底堅いものの、物価上昇率が高止まりしており、実質購買力の伸び悩みを通じて個人消費に下押し圧力をかけている。インフラ投資や防衛投資が下支えとなる中で、設備投資もAI・半導体、データセンターへの期待がある一方で、先行き不透明感から下押し圧力は根強い。内外需ともに力強さを欠いていることが、中国企業などとの競争激化やエネルギー価格の負担増などで圧迫を受けてきた生産に圧し掛かり、生産水準の回復は見通せていない状況にある。さらに、熱波に加えてライン川やドナウ川の水位が低下し、物流の遅延や発電所の稼働低下なども生産活動の重荷となっている。
また、政治面のリスクも高まっている。例えば、移民対策に加えて景気対策への不満などから、ドイツのザクセン・アンハルト州議会選(9月6日投開票)で極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が圧勝した。もともとAfDが強い地盤であったものの、圧勝した結果は今後のほかの州議会選や国政に影響を及ぼす可能性もある。追加の経済対策を発表したメルツ政権は、求心力の低下に歯止めをかけられなかったようだ。
2027年に控えるフランス大統領選でも、極右・国民連合(RN)のルペン氏の優勢が報じられている。足元のようなフランス経済の成長鈍化は、そうした勢力の伸長につながる恐れがある。AfDにせよRNにせよ、仮に政権を担う責任が生じたときに、現実路線をとる可能性がある一方で、既存の政策を否定して突き進む可能性も否定し難い。政策の連続性や持続性が損なわれるというビジネスリスクにも注意を払う必要があるだろう。
【見通し】 ユーロ圏経済は今後、インフラや防衛投資などが下支えとなって緩やかに回復すると期待されるものの、下振れリスクが依然として大きい。中東紛争に伴う不確実性に加えて、物価抑制のための利上げやライン川の水位低下による物流遅延や生産活動への悪影響なども重なり、設備投資や個人消費など内需には引き続き下押し圧力がかかりやすい。
欧州でもここ数年、熱波による高温や山火事、河川の水位低下など自然災害が経済活動の重荷となっている。暑すぎる環境は人の活動を抑制する上、河川物流を停滞させ、発電所の稼働を低下させるなど悪影響を及ぼしている。また、冬に向けて天然ガスの貯蔵なども必要であり、コスト高になることも懸念される。冬の寒さが想定以上となれば、暖房需要の拡大も想定される。自然環境への目配りの重要性もこれまで以上に高まっている。
<執筆者・アーカイブ>鈴木 将之
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