2025年6月30日 (月)
[米国/コンゴ民主共和国(DRC)/ルワンダ]
6月27日、米ホワイトハウスで、DRCとルワンダの和平協定が署名された。DRC東部の紛争をめぐって対立が激化する両国間の対話と和平プロセスの構築を、米国が仲介・支援してきたもの。トランプ大統領は両国の外相を執務室に招き、「暴力と破壊は終わり、(紛争)地域全体が希望と機会に満ちた新たな章を開始する。今日は素晴らしい日だ」と署名を歓迎した。
和平協定には、「領土の不可侵性と敵対行為の禁止」、「非国家武装集団の撤退・武装解除」、「共同安全保障調整メカニズム」、「難民支援」、「地域経済統合枠組み」などが盛り込まれた。また各項目には実施フェーズごとのタイムラインも設けられた。例えば、ルワンダが自国の安全保障を脅かしていると主張を続けている、DRC東部の反ルワンダ系勢力「ルワンダ解放民主軍(FDLR、注1)」の中立化や、ルワンダ軍の武装解除・越境作戦の停止(注2)は3か月以内の完了が定められた。
しかし、今回の和平協定にはDRC東部を実効支配するルワンダ系武装勢力「3月23日運動(M23)」が交渉に含まれていないため、和平の実現に関して懐疑的な見方が多い。また、米国によるDRCの重要鉱物の独占的アクセスを定める鉱物協定が同時に署名されるとの観測も広まっていたが、同協定に関する具体的な発表は行われなかった。
米シンクタンクのアトランティック・カウンシルは、今回の和平協定は過去の米政権が成し遂げられなかった紛争解決に向けた歓迎すべき一歩であり、米国企業によるDRCの重要鉱物の投資を拡大させる道筋をつけるものとなったと評価している。
英FT紙はDRC東部ルバヤの世界最大級のコルタン鉱山の買収について、トランプ大統領と関係の深い実業家であるジェントリー・ビーチ氏が交渉を行っていると報じている。同鉱山はM23の重要な資金源となっており、隣国のルワンダやウガンダ経由で密輸されているとみられている。米国企業がインフラ整備等を含めた大規模な投資を行うことにより、同鉱山へのアクセスを合法的に確保したい意図があるとみられるが、M23が交渉に応じるかなど不明な点も多い。
(注1:1994年のルワンダ大虐殺を主導したフツ族系のグループが主体。大虐殺終了後にDRC側に逃れたが、反ルワンダ活動を続けている。)
(注2:数千人のルワンダ軍(RDF)がDRC国内に越境し、M23を支援していると指摘されているがルワンダ側は否定している。)
[中国]
中国の過剰生産と消耗戦は、クリーンエネルギーに不可欠な資源である銅も例外ではない。中国では国有企業を中心に大規模な銅製錬所の新設が相次ぎ、2025年1~5月の精錬銅生産量は605.3万トン(前年比+8%)。2025年通年で前年比+12%という予想もある。中国の銅製錬能力拡大は世界の銅鉱山採掘量の伸びを遥かに上回り、原料不足が深刻化。中国銅製錬はコスト競争力も高く、世界の同業他社を圧迫している。
製錬会社が鉱山から原料の銅精鉱を購入する際の買鉱条件(TC/RC:溶錬費/精錬費)は2024年に急速に悪化。TC/RCは製錬マージンの指標ともなるが、2023年末に合意した2024年の年間契約が80ドル/80セント、2025年契約が21.25ドル/2.125セントだったところ、スポット市場では2025年に入り一貫してマイナスで取引。報道によると、チリの鉱山会社Antofagastaと中国の製錬所は2025年央契約においてTC/RC「ゼロ」で合意したという。つまり、銅の製錬自体は無利益ないし赤字で、金や硫酸など副産物収入ないし政府支援で操業を継続している。この状況は持続不可能とみられているが、現状中国ではまだ減産の兆候は見受けられない。
最近では、海外銅先物の高騰を受け、中国の銅製錬会社が余剰地金を輸出する動きも報じられているが、その規模は数万トン程度と、中国の生産規模と比べると小規模でしかない。
[タイ]
6月28日、バンコクでぺートンタン首相の辞任を求める大規模デモが開かれた。タイ警察によると計約2万人が集まった。2023年にタイ貢献党の政権が発足してから最大規模となる。同首相はカンボジアとの国境紛争について同国のフン・セン前首相と6月15日に電話会談を行ったが、その音声が流出し、タイの軍を批判して同前首相に取り入るかのような発言をしたことが問題視され、国民の不満が高まった。タイの国家開発行政研究所(NIDA)が6月29日に発表した世論調査では、ペートンタン首相の支持率が前回3月の調査時の30.9%から、9.2%に急落した。
[米国]
商務省によると、5月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比+2.3%だった。上昇率は、4月(+2.2%)から小幅に拡大し、3か月連続で2%台前半になった。
物価の基調を把握する上で注目される食品・エネルギーを除くコア指数は+2.7%で、これも4月(+2.6%)を小幅に上回った。ただし、3月と同じ伸び率であり、2%台後半を保っていた。また、エネルギーと家賃を除くサービス(スーパーコア)は+3.1%となり、4月と同じ伸び率だった。サービスの基調は、3か月連続で3%台前半に落ち着いている。市場ベースのPCE物価指数は+2.1%となり、4月(+1.9%)から拡大、3か月ぶりに2%台に戻った。このように、関税引き上げの影響が財を中心に表れ始めたようだ。
内訳を見ると、財(+0.1%)は、3か月ぶりのプラスに転じた。耐久財(+0.5%)が、2023年5月(+0.4%)以来、24か月ぶりにプラスに転じた影響が大きかった。そのうち、自動車・同部品(+0.5%)は、3か月連続のプラス、4月(+0.6%)から小幅に縮小したものの、上昇が続いた。家具・家庭用耐久財(+0.7%)は、26か月ぶりのプラスに転じた。娯楽用財・乗り物(▲0.1%)は、4月(▲1.7%)からマイナス幅を縮小させた。一方、非耐久財(▲0.2%)も、2か月連続のマイナス。4月(▲0.4%)からマイナス幅を縮小させた。食品(+2.0%)は4月(+1.9%)から小幅に拡大、3月と同じ上昇率だった。ただし、衣服・履物(▲1.1%)は2か月連続のマイナス、原油価格の低下の影響が反映されたガソリンなど(▲12.0%)は4か月連続のマイナスと価格が低下する品目も目立った。エネルギー全体(▲4.6%)は4か月連続のマイナス、4月(▲5.7%)からマイナス幅を縮小させた。
5月の物価指数では、関税引き上げの影響が表れ始めた段階なのだろう。パウエルFRB議長は、ヒアリングなどに基づいて、夏ごろに関税の影響から物価上昇率が拡大すると予想している。実際にどの程度物価が上振れるのかが注目される。
[ロシア/イラン/ミャンマー]
6月27日、ロシアが主導し旧ソ連5か国でつくるユーラシア経済同盟(EAEU)の首脳会議が、ベラルーシの首都ミンスクで行われた。オブザーバー国イランのペゼシュキアン大統領もオンラインで参加し、2025年のEAEU議長国ベラルーシのルカシェンコ大統領は「あなたの抵抗は孤独ではない」と述べ、イスラエルや米国と対立するイランとの結束を強調した。今回の会議では、新たにEAEUとモンゴル及びアラブ首長国連邦(UAE)との自由貿易協定(FTA)に署名した。また、首脳会議に先立つ6月26日の経済フォーラムには、ミャンマー軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官が参加し、EAEUとの協力拡大に意欲を示した上で、オブザーバー国としての資格承認に支持を求めた。ミャンマーはEAEUに農業や資源での投資・貿易の振興を期待している。6月26日、ミンアウンフライン氏はミンスクで、ミャンマーで不足する医薬品の工場を視察した。6月28日にはロシアに移動し、東シベリアのブリヤート共和国にあるヘリコプター製造工場なども視察した。
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