2025年6月6日 (金)
[ブラジル/フランス]
ブラジルのルーラ大統領は、6月4日から9日までの日程でフランスを公式訪問している。マクロン大統領との首脳会談をはじめ、フランスとの防衛および環境分野での連携強化、デジタル空間の規制とソーシャルメディアのガバナンス強化について議論した。
一方で、ルーラ大統領とマクロン大統領は、EUとメルコスール間の自由貿易協定を巡る対立が鮮明となった。南米のメルコスールと欧州連合(EU)の間での貿易協定は、1999年に交渉が開始されてから2025年12月にようやく合意に達したが、発効にはフランスを含む加盟国の承認が必要だ。フランスなどの農業国は現行の合意に反対しているため、発効の目途は立っていない。
ルーラ大統領は、南米のメルコスールの輪番議長職を間もなく引き継ぐことから、その任期中に発効させるとの意欲を改めて示した。また、フランスとブラジルの農家が協力して対立を解決し、合意をまとめるよう提案している。
マクロン大統領は自由で公正な貿易には賛成だが、現在の合意は南米との競争を余儀なくされるフランスやほかの欧州の農家にとっては不利であると指摘し、現行の合意文書を改訂する必要があるとした。フランスは以前からの主張を繰り返し、輸入急増がEU市場を不安定化させる場合、輸入を制限する緊急停止条項の挿入を求めている。
フランスの農業団体は、マクロン大統領に対し、メルコスール協定に反対する組織を形成するため、パートナー国を結束させるよう求めている。彼らは、この協定が牛肉、鶏肉、砂糖産業に壊滅的な打撃を与え、EUの食料主権を損なうと主張している。
そのほか、ロシアとウクライナ間の戦争についても議論が行われた。マクロン大統領は、ブラジル、中国、インドがロシアに戦闘終結を求める圧力をかけるべきだと述べた。ルーラ大統領は、ロシアとウクライナ間の和平仲介にコミットしていると表明した。マクロン氏は、誰もが平和を望んでいるが、ロシアが侵略者であり、その事実が戦闘終結の判断に反映される必要があると強調した。
[カナダ]
6月3日、ゲイリー・アナンダサンガリー公共安全大臣(オンタリオ州選出)によって提出された「強固な国境法(Strong Borders Act)」が大幅な移民制度の変更となっており波紋を広げている。骨子は①カナダ沿岸警備隊の権限拡大、②捜査目的での郵便物検査の強化、③麻薬対策、④資金洗浄対策として1万カナダドル以上の取引や他人名義の口座への現金預金に対する制限、⑤カナダに1年以上滞在している人の難民申請を禁止(2020年6月24日以降に入国した人に遡及適用)することによる難民申請の制限し、政府が申請の受理を一時停止・取消・変更できる権限を持つ、などとなっている。大臣は米国との関係強化を認めつつも主目的は国民の安全確保と説明している。これに対し、自由の侵害、国際的な難民保護義務に反している、米国の移民政策を模倣している、といった懸念が広がっている。また、寛容さが失われるといった国際的なカナダに対するイメージの喪失も指摘されている。他方で、不法移民への対応、薬物の密輸阻止、移民の増加で都市部での住宅・医療・教育などの社会インフラへの圧力が軽減されると期待する声もある。
[ECB]
6月5日、欧州中央銀行(ECB)は理事会で、政策金利を0.25%引き下げることを決定した。利下げは2024年6月に開始し、7月に据え置かれた後、9月以降7会合連続で実施され、合計8回の利下げとなった。中銀預金金利は、利上げ開始前の4%から2%へ半減した計算だ。今回の理事会では、メンバーのうち1人だけが0.25%利下げを支持しなかった。
物価について、声明文では「物価上昇率は現在、理事会の中期目標の2%付近を推移している」という文言になった。前回の「ディスインフレのプロセスは想定通り」という表現から変更された。先行きについても、ECBスタッフの見通しでは、エネルギー価格の低下とユーロ高などによって、2025年と2026年の物価見通しは3月時点からそれぞれ▲0.3pt下方修正され、2.0%と1.6%になった。
ラガルドECB総裁は記者会見で、「金融政策の周期として終わりが近づいている」という認識を示した。しかし、貿易政策を巡る不確実性に対する警戒感が強いこともあって、政策判断はデータ次第で会合ごとに判断するのであり、特定の道筋を事前に確約しないという従来通りの姿勢を維持した。
市場では、次回7月理事会は据え置き、9月もしくは10月に0.25%引き下げるという見方が広がっている。それによって中銀預金金利は1.75%になり、そこが今回の利下げ局面の終了地点になると予想されている。
[ロシア]
6月6日、ロシア中央銀行は、2か月ぶりに金融政策決定会合を行う予定。昨年末から据え置きにしてきた21.0%の主要政策金利について、今回は利下げに踏み切る可能性があると一部の関係者が予測している。物価上昇は鈍化し始めたものの、足元のインフレ率は2025年3月に前年同期比10.3%、4月に同10.2%、5月末に9.7%と減速している。一方、2025年1?3月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比+1.4%だったので、四半期ベースでみると、前四半期となる2024年10?12月(4.5%)と比べて成長率は鈍化した。中央銀行は、2025年の成長率が最悪で0.5%に低下する可能性があると予測している。また、高金利で資金調達に苦しむロシア企業からも不満の声が出ており、企業が成長のために資金を借りることが難しい状態が続いている。
[米国/中国]
6月5日、中国の習近平国家主席と米国のトランプ大統領が電話会談を行った。中国外務省は、会談は米国の要請によるものであったとしており、政治紙ポリティコは、トランプ氏は習氏との会談に「執着」していたと報じている。
会談後にトランプ氏は「非常に良い会談だった」と述べ、「レアアース製品の複雑さに関して、もはや疑問の余地はないはずだ」と自身のSNSトゥルー・ソーシャルに書き込んだが、中国側が実際にレアアース輸出規制の緩和に同意したかどうかは不明である。
中国外務省の発表した文書では、習氏は5月にスイスで行われた米中経済貿易協議について肯定的に評価しつつ、中国がその内容を遵守しているのに対し、米国がそうではないことを批判し、台湾問題への米国の介入をけん制している。
少なくとも両国の発表を見る限り、会談の成果は、米中経済貿易協議の再開についての合意と、トランプ氏が中国留学生の米国留学を歓迎すると述べたことだけのように見える。中国側の文書は米国に対してよそよそしく、また中国の方が優位に立っているかの印象を与えるような文面となっている。また首脳の相互訪問について、トランプ氏は自身と夫人の訪中を習氏が歓迎し、習氏も米国を訪問すると述べたが、中国側は習氏の訪米については一切触れていない。
具体的成果に乏しい会談ではあったが、両国が経済貿易協議を再開すると発表したことで、米中の関係悪化が歯止めなく進むことへの懸念はひとまず緩和された。5月のジュネーブ協議では、米国からはベッセント財務長官とグリアUSTR代表が参加したが、今後はラトニック米商務長官も協議に参加するとトランプ氏は明らかにした。そのことについて、バイデン政権でNSC中国・台湾担当副上級部長を務めたジョージタウン大学准教授のラッシュ・ドーシ氏は、米国の輸出規制が交渉テーブルの上にあるということを意味しており、トランプ氏は第1期において、習近平の要求に応じてファーウェイとZTEの輸出規制を解除し、貿易協定を結ぶことを提案したが、今度は、トランプ氏は何を解除すると申し出たのだろうか、とコメントしている。
[イスラエル/レバノン]
6月5日夜、イスラエルはレバノンの首都ベイルートの南部郊外ダーヒエ地区に対する激しい空爆を実施した。同地区はヒズボラの拠点があった場所で、昨年ナスラッラー指導者がイスラエルの空爆によって殺害された地域。イスラエル軍は、この場所にヒズボラがドローン製造に使用している地下施設があるとして、今回の空爆を実施した。イスラエル軍は、空爆の1時間前に、同地の民間人に早急に退避するよう警告を発したとのこと。ヒズボラ側は、同地にドローン製造施設があることを否定している。
イスラエル軍は、2024年11月の停戦合意に違反して、レバノン南部における軍の駐留を継続している。レバノンのアウン大統領は、「イスラエルの侵略を断固として非難する」との声明を発表。サラーム首相もイスラエルによる攻撃を非難する声明を発表し、国際社会にイスラエルによる侵略の継続を抑止し、レバノン領土からの完全撤退を強制するよう求めた。停戦合意前の約14か月間で、イスラエルの攻撃によりレバノンでは4,000人以上が死亡。停戦合意以降も、イスラエルによる攻撃でレバノン人約190人が亡くなっている。
[米国]
6月4日、トランプ政権はアフリカや中東など12か国からの入国禁止措置と、7か国に対する査証発給を制限することを発表した。指定された12か国は、アフガニスタン、イラン、リビア、イエメン、ミャンマー、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、エリトリア、ハイチ、ソマリア、スーダン。これに加えて、キューバ、ベネズエラ、ラオス、トルクメニスタン、ブルンジ、シエラレオネ、トーゴの7か国については観光・就学査証の発給が制限される。ただし、米永住権保持者や、国際スポーツ大会に参加する選手などは規制措置の対象外となる。
第1次トランプ政権では、イスラム系諸国からの入国規制を実施した経緯があり、数度にわたる制度修正を経て、最終的に当該措置の合法性を連邦最高裁も認めている。2021年にバイデン政権が発足した際に、それら入国禁止措置は撤廃されていたが、トランプ大統領の再登板となり、この度、対象国を拡充する形での再導入となった。永住権保持者に対する例外措置など、第1次政権での法廷闘争の教訓が活かされていると分析されている。
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