デイリー・アップデート

2025年6月9日 (月)

[米国] 5月雇用統計は、市場の事前予想ほど悪化しなかった。しかし最近では、連邦政府予算・職員削減の影響で経済指標の精度の劣化が指摘されており、FRB当局者からもそれを懸念する声が挙がっている。 市場では「TACO」なる言葉が出回り、トランプ大統領は最終的に経済や市況に決定的打撃を及ぼす前に政策を緩める、といった楽観があり、賭けサイトでは米国の景気後退確率は大きく低下している。 これに対し、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のFRB担当記者は週末、「米国経済は不快な夏に向かっている」と題した記事を掲載。トランプ政権の政策のブレが原因で、企業は事業計画や投資判断ができない/雇用統計は悪くないが、企業は少し前に人手確保に苦慮したため現在は解雇にも慎重で、すぐにも引き下げられるかもしれない関税のために値上げを行い取引先との関係を損ねることにも消極的だが、需要不振に耐えられず、同業他社が解雇を始めたり、在庫が尽きて仕入れ値上昇に直面したりすれば状況は急変し得る、と指摘。消費者がどこまで耐えられるかも焦点だが、低所得の借り手の財政状況は悪化している。今後の市況はトランプ大統領の政策次第だが、大統領本人が次の一手を決めておらず予測が困難だとして、市況急変に警鐘を鳴らしている。

[タイ/フィリピン/台湾/中国] 2025年5月のアジアの消費者物価統計によると、物価の低下基調が続いている。タイの消費者物価は前年同月比▲0.57%となった。これは政府が電気料金の引き下げや石油価格の下落の影響といった指摘はあるが、果物・野菜の下落のほか、衣料や医療、運輸などの非食品分野での下落も目立っている。フィリピンの消費者物価は前年同月比+1.3%と2019年11月以来の低水準にとどまっている。住居や水道、電気・ガスなどが押上げに寄与した一方で、主食のコメが▲12.8%となった。台湾の5月の消費者物価は前年同月比+1.55%となった。果物が供給不足により18%以上の上昇となり、肉や外食など食品関連が押し上げたが、野菜が2024年の反動で大きく下落、鶏卵価格も低下した。衣料は▲0.58%と下落基調が強い品目となっている。そして、中国では▲0.1%となった。自動車用燃料▲12.9%、食料品▲0.5%と低下した一方で、衣料品は+1.7%。中国からのデフレ輸出や米国の関税措置による影響との指摘もあるが、食品や燃料の安定供給と当地の需要の弱さがまずは影響しているとみられる。

[米国] 労働省によると、5月の非農業部門雇用者数は前月から13.9万人増加し、市場予想(13万人)を上回った。また、5月の失業率は4月と同じ4.2%にとどまり、市場予想どおりだった。これらを踏まえると、労働市場は底堅く推移していると言える。 ただし、非農業部門雇用者数は3月に6.5万人、4月に3万人の計9.5万人分が下方修正された。底堅さが維持されているものの、二転三転する関税政策の不確実性もあり、企業は採用活動に慎重になっているため、雇用環境には変化の兆しも見えている。 産業別に雇用者数を見ると、教育・ヘルスケア(+8.7万人)や娯楽・接客業(+4.8万人)、金融(+1.3万人)などで増加した。その一方で、専門・ビジネスサービス(▲1.8万人)、製造業(▲0.8万人)、小売業(▲0.7万人)などで減少した。なお、政府部門は▲0.1万人だったものの、連邦政府(▲2.2万人)が減少したのに対して、地方政府(2.1万人増)が増加した。これまで連邦政府の人員削減計画が発表されており、その影響も表れている。また、5月の平均時給は前年同月比+3.9%で、1月以降同じ上昇率が続いており、上昇率は4%を下回っていることから、賃上げは落ち着きつつある。 このように労働市場の底堅さから、利上げを急ぐ必要がなく、FRBが7月会合でも政策金利を据え置くという見方が強まった。

[ベトナム] 6月3日、ベトナムの国会常務委員会が夫婦の子どもを2人までとする長年の産児制限(二人っ子政策 )を撤廃する法令改正案を可決した。ベトナムでは人口増大を抑制するため1988年に二人っ子政策が導入されたが、11年から高齢化社会(65歳以上の人口が7%以上)に入り、その後は急速に高齢化が進み、2025年には16%を超えると予想されている。女性1人が生涯に産む子どもの数に当たる合計特殊出生率は2201年の2.11から、2022年は2.01、2023年は1.96、2024年に1.91と急速に低下している。

[米国] 6月7日、トランプ大統領は、連邦職員の安全確保と職務執行を可能にするべく、州兵を動員する行政命令に署名した。6月6日、カリフォルニア州ロサンゼルス市における国土安全保障省による不法移民の摘発への抗議活動が始まり、拘留施設などにおいて一部が暴徒化したことを受けたもの。トランプ大統領は州兵2,000名を60日間にわたって動員することを指示し、国防長官はカリフォルニア州兵300名を派遣し、連邦庁舎の警備にあたらせている。 ワシントンD.C.を除く53の州兵部隊は、平時においては州政府・地方政府の管轄下にあるが、外国からの侵略、内乱などの脅威がある場合は、合衆国大統領の指揮に服する。今回、トランプ政権は、ロサンゼルス市における抗議活動が連邦政府の権威に対する反乱に相当すると認定している。これに対して、カリフォルニア州知事は、現地の状況は市警が統制できており、連邦政府の介入は過剰反応であると反発している。国防長官は、事態に応じて、州兵のみならず、米海兵隊の投入も辞さないと述べている。

[ロシア] 6月6日、ロシア中央銀行は理事会を開き、主要政策金利を2024年10月から続いてきた歴史的高水準の21%から20%に引き下げると決定した。利下げは2022年9月以来で約3年ぶり。中銀は声明で「インフレ圧力は引き続き低下している。国内需要の伸びが供給力を上回っているものの、ロシア経済は徐々に均衡の取れた成長軌道に戻りつつある」と述べた。中銀によると6月2日時点のインフレ率は9.8%で、10%を上回った3~4月と比べて鈍化した。一方、ロシアの成長率は2025年1~4月期に前年同期比で1.5%にとどまり、2024年の4.3%から減速している。また、通貨ルーブルは2025年に入って対ドルで約40%上昇し、輸入品の価格低下に寄与してきた。会合後の記者会見で、中銀のナビウリナ総裁は、インフレが再燃した場合の今後の利上げの可能性も排除しなかった。

[米国/中国] 中国政府は、何立峰副首相が6月8日~13日にかけて英国ロンドンを訪問すると発表した。米中経済貿易協議メカニズムの初会合が、6月9日に開催される予定となっている。米国からはベッセント財務長官、グリア通商代表部(USTR)代表、ラトニック商務長官が出席する見通し。 5月にスイスで実施された米中経済貿易協議では、両国は互いに課していた追加関税を3か月間、115%引き下げることで合意し、経済摩擦は一時的に緩和されたかにみえた。しかしその後、米国は半導体に関する新たな輸出規制や中国人留学生のビザ取り消しなどを発表し、中国はレアアースの輸出規制を強化するなど、再び緊張が高まっている。 6月5日には、トランプ大統領と習近平国家主席が電話会談を行い、経済貿易協議の再開に合意した 。今回の協議では、前回の関税引き下げに続き、米国側は中国に対し、レアアースおよびそれを含む磁石の輸出再開を強く求める方針である。一方、中国側は、ジェットエンジンや先端技術を含む対中輸出制限の解除を要求するとみられている 。 また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、米政府がHuaweiのAIチップ「Ascend」の使用に関して警告を発した件について、一部の米政府関係者も驚いたとしている。財務省およびUSTRの当局者は、商務省産業安全保障局(BIS)が発表したHuawei製品に関する通知が、通常の省庁間調整プロセスを経ていなかったと指摘している。

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