2025年6月12日 (木)
[EU]
欧州委員会は、ロシアのエネルギー収入、銀行、軍事産業を対象とするロシアのウクライナ侵攻に対する第18次制裁パッケージを提案した。新しいパッケージには、ロシアのノルドストリームガスパイプラインや、制裁回避に関与する銀行との取引の禁止が盛り込まれている。
ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、「この戦争は終わらせなければならない」と述べている。欧州委員会は、22のロシアの銀行をSWIFT国際銀行システムから切り離し、現在のロシアの金融機関に対する部分的な禁止は「完全な取引禁止」に拡大され、第三国の銀行にも対象を拡大することを提案し、ロシア直接投資基金(RDIF)とその子会社やより広範なネットワークもリスト化されている。RDIFのキリル・ドミトリエフ代表は、フォン・デア・ライエン委員長の発言は「ウクライナでの紛争を長引かせたいというEUの願望と、ロシアと米国の関係を回復しようとするRDIFの努力に対する強い不満」を反映していると批判し、また、RDIFはロシアに拠点を置くヨーロッパ企業も積極的に支援していると反発した。
欧州委員会はまた、ロシアのエネルギー収入を削減するために、G7諸国(G7)によるロシア産原油の価格上限を1バレル60ドルから45ドルに引き下げることを提案し、フォン・デア・ライエン委員長は、石油価格の上限は来週カナダで開催されるG7首脳会議で議論されるとした。上限価格の引き下げには、EU加盟国の署名が必要だが、6月末までに合意が成立する見込みとされている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、EUの制裁パッケージを歓迎する一方で、ロシアが戦争を継続する能力は、石油を販売し、金融障壁を回避する能力に等しいとして、石油価格の上限を30ドルに引き下げ、さらなる制裁の強化を求めた。この提案は、ロシアの影の艦隊を構成する船舶として新たに77隻の船舶を追加し、合計で400隻以上のヨーロッパの港湾への入港を禁じる。加えて石油取引会社もリストアップされた。
欧州委員会はまた、ロシア産原油から第三国で生産された精製製品の輸入禁止も提案している。また機械、金属、プラスチック、化学品など25億ユーロ相当の工業原料のロシアへの輸出禁止措置は、ドローン、ミサイル、その他の兵器システムなどを、ロシアがヨーロッパの技術で近代化できなくする狙いがある。EUの制裁の効果について記者から質問されたフォン・デア・ライエン委員長は、2022年2月にウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの全面侵攻を命じる以前は、ヨーロッパへのエネルギー輸出で毎月120億ユーロを稼いでいたが、18億ユーロにまで減少したと強調した。
[原油/中東]
6月11日、原油先物相場は前日比で3ドル超値上がりし、ブレント終値69.77ドル、WTI68.15ドル。月初来では10%を超える上昇。米国政府が中東地域から米兵の家族や一部政府職員の退避を求めたと報じられ、地政学的な緊張が高まった。OPEC+8か国は4月以降に生産割当を大幅に引き上げているが、実際の供給量は生産割当ほど増えておらず、6月10日に米エネルギー情報局が、米国原油生産を2026年に減少する予想を示したのも重なり、先物の買戻しが入りやすい地合いだったと思われる。
米国・イランは4月12日以降の5回の核協議を経ても意見の隔たりは大きく、間もなくトランプ大統領が交渉期限としていた2か月を迎える。米国はイランに譲歩案を提示したとされるが、イランの最高指導者ハメネイ師は6月4日の演説で米国案は受け入れられないとの立場を表明。イランは、核濃縮は民生用だとしているが、IAEA(国際原子力機関)は5月31日にイランが濃縮度60%のウラン生産を加速したと報告しており、今週のIAEA理事会で米英仏独はイラン非難決議案を出す予定。イランはこれに反発している。イスラエルではネタニヤフ首相の連立政権が崩壊の危機に直面しており、トランプ大統領はイランと合意する自信がなくなってきたと発言。こうした状況から、イランに対する軍事行動へと発展する可能性が不安視されるが、米国とイランは第6回協議も予定している模様で、当面は交渉継続が予想される。
[アルゼンチン]
6月10日、最高裁はペロン党党首で元大統領のクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏(フェルナンデス氏)に対し、「ヴィアリアド」汚職事件における有罪判決を支持した。彼女には6年の懲役刑を科せられ、公職への立候補や政府職の就任が禁止される。
この事件は、故ネストル・キルチネル大統領とフェルナンデス元大統領が盟友ラザロ・バエズ氏に対して、公共工事契約で優遇措置を講じたとされるものだ。バエズ氏の企業は、サンタクルス州の国家公共工事契約の約80%を授与していた。この判決は、フェルナンデス元大統領の政治キャリアの終えんを意味する可能性が高い。彼女は裁判所の判断を「政治的」と非難しており、国際的な支援を求める構えを見せているが、今後判決が覆る可能性は低いとみられている。
また、ペロン党内部の対立が激化している状況下で、今回の判決により一時的にペロン党の支持者の団結が強まり、デモや集会、強い公の声明が相次ぐ可能性はある。しかし、これらの行動はミレイ大統領に大きな影響を与える可能性は低いとみられている。
フェルナンデス氏が同情票を獲得する可能性はあるものの、世論調査では65%が彼女を支持せず、過半数が有罪判決に賛成していた。また、今回の判決で公職への立候補が不可能となるため、フェルナンデス氏の影響力はさらに低下すると考えられる。2025年9月に行われるブエノスアイレス州の議会選挙に出馬すると表明していたが、その可能性もついえた。仮に判決が遅れ、地方議員になっていれば、フェルナンデス氏が汚職の罪を免責されていた可能性もあった。
ペロン党の内部では、ブエノスアイレス州知事のキシルロフ氏を含め、フェルナンデス氏を党再建の障害とみなして離反する動きを強めており、この傾向は今後さらに加速するとみられる。今後の影響としては、フェルナンデス氏が大統領に復帰したり、政治的影響力を強めたりする可能性は事実上なくなり、またペロン派は今後の地方選挙で競争力のある候補者を欠くことになる。一方で、ミレイ大統領のLLA党の党勢が強まり、ミレイ大統領の追い風になる可能性が高いとみられる。
[米国]
労働省(BLS)によると、5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+2.4%だった。上昇率は4月(+2.3%)から拡大したものの、市場予想(+2.4~2.5%)並みにとどまった。内訳を見ると、家賃(+3.9%)が上昇したのに対して、ガソリン(▲12.0%)などエネルギーが低下したことで、全体の物価上昇が抑制された。物価の基調を見る上で重視される食品とエネルギーを除く総合、いわゆるコア指数は+2.8%となり、市場予想(+2.9%)を小幅に下回った。
また、足元の物価変動を示す前月比の上昇率は、総合指数、コア指数ともに+0.1%だった。総合指数は4月(+0.2%)から小幅に減速し、市場予想(+0.1~+0.2%)並みだった。また、コア指数も4月(+0.2%)から小幅に減速、市場予想(+0.3%)を下回った。内訳を見ると、4月から25%の追加関税が課せられている新車(▲0.3%)は3か月ぶりに低下した。中古車・トラック(▲0.5%)も3か月連続で低下していた。
これまでのところ、関税引き上げによる消費者物価指数への影響は明確に見えていない。関税引き上げ前に企業が在庫を積み増したことや以前から緩やかに価格を引き上げていたなどが、結果的に物価上昇を抑制していると考えられる。しかし、在庫がなくなれば、高い関税がかかった商品が店頭に並ぶため、今後の一段の物価高が懸念されている。
今月の消費者物価指数の結果を受けて、短期金利先物市場では、9月までの利下げ確率が前日の約57%から約70%へ上昇した。市場では、9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利下げが実施される見方が強まったようだ。
[ポーランド]
6月11日、ポーランド下院は、トゥスク首相率いる親欧州連合(EU)の連立政権の信任投票を実施し、賛成多数で可決した。6月1日の大統領選でトゥスク氏が推す候補が、反EUのナブロツキ氏(42歳)に敗れたことを受けた投票だった。大統領と首相の政治的立場が異なる「ねじれ」による困難な政権運営が予想される中、親EUのトゥスク首相は内外に権力基盤を示した格好となった。しかし、連立を組む政党からトゥスク首相の責任を問う声もくすぶっており、今後さらなる難しい政権運営を迫られる。同氏は7月、よりスムーズな政権運営を狙うために内閣改造を行うと思われ、政権の求心力回復を急ぐ方針とみられる。
[フィリピン]
6月10日、上院は、下院がサラ・ドゥテルテ副大統領の弾劾訴追案を可決したことを受け、弾劾裁判を開廷したが、7月に召集される次期議会にあらためて判断させるため、下院に差し戻す決議を18対5の賛成数で可決した。却下はしないが、次期議会まで判断を先送りするという折衷的な決定となった。
[米国]
環境保護庁(EPA)は、バイデン前政権が2024年に導入した火力発電所による温室効果ガス排出規制を撤廃する方針を示した。ゼルディンEPA長官は 「この規制は経済を窒息させている。米国のエネルギー支配を取り戻すための大きな一歩で、規制撤廃により年間10億ドル以上のコスト削減が見込まれる。排出量は現状より増えることはない」と主張している。改正対象となっているのはクリーンエア法で発電所の排出基準を定めており、新設や改修された火力発電所への炭素回収・貯留技術の導入を事実上義務付けたり、既存発電所向けの排出ガイドラインの策定を求めているものだ。
この規制の当初の目的は 2047年までに13.8億トンのCO2排出削減や、有害大気汚染物質(PM、NOx、SO2など)の削減だ。これにより想定された排出削減量は「ガソリン車3億2千万台が1年間走行するのに等しい」と当時は試算されていた。
この規制緩和案については、環境保護団体が反発しているほか、研究者などからはCCS技術はすでに実用化されており、既に複数の研究機関や企業が商業規模での運用を開始しているとの反論もある。EPAは現段階では「提案」にすぎず、今後はパブリックコメントを集め、正式な手続きを経て決定するとしているが、ゼルディン長官は30以上の環境規制の撤廃を計画しているとされ、これらを「史上最大の規制緩和」と位置づけているようだ。政治色の強いこの規制撤廃は、現政権のエネルギー優先・脱気候変動政策の一環であり、今後の州政府の対応や反対派からの訴訟などに注目が集まることになるだろう。
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