2025年6月16日 (月)
[中東/エネルギー]
6月13日の原油市場では、イスラエルによるイラン攻撃の一報を受けてアジア時間に前日終値から約8ドル値上がりし、ブレント先物は78.5ドルを付けたが、同日終値は74ドル台。原油供給に影響は生じておらず、中東地域の海上輸送リスク増大とエスカレーションのリスクを織り込む動きとなった。週末、イランとイスラエルの報復の応酬のなか、攻撃対象が両国のエネルギー資産にも拡大し、週明けの原油相場は78ドル台で取引を開始したが、イスラエルはイラン国内のエネルギー供給に直結するガス処理施設や油層所などを狙っており、国際市場への影響が大きくなる原油輸出ターミナル等は今のところ攻撃を受けていない。このため一方的な上昇とはならず、実需給への影響を注視する局面となっている。
国際エネルギー機関のビロル事務局長は、6月13日にXで「市場には十分な供給があるが、必要なら緊急石油備蓄がある」と発信したところ、OPECは、「現在不必要な措置が正当化される状況ではない。無駄な警告は市場を混乱させる」とIEAを批判する投稿を行った。
イスラエルは6月13日に全土に非常事態宣言を発令し、予防的措置としてLevathan・Karishの2つのガス田の操業を一時停止。これによりエジプト・ヨルダンへのガス供給が減少し、エジプトは発電にガス供給を優先すべく、肥料工場への供給を削減した。中東産LNGの供給を巡るリスク増大を受け、アジアのスポットLNG価格は13ドル/mmbtu台前半に値上がりした。
[中国/アフリカ]
6月11~13日、湖南省長沙市で「中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」のフォローアップ・行動会議が開催された。2024年9月に北京で開催された第9回FOCACサミット後の具体的成果と今後の計画を確認するもので、中国と国交のないエスワティニ(旧スワジランド)を除くアフリカ53か国から約100人の閣僚級が出席した。
中国側は貿易、産業、開発協力など「10のパートナーシップ」に沿って35分野で具体的な進捗があったことを強調。そのうえで王毅外相は、習近平主席からの書簡を代読し、中国はアフリカと国交を結んでいる全53か国からの輸入関税を免除する用意があるとの旨を示した。
第9回FOCACサミットでの合意により、2024年12月からアフリカの後発開発途上国(LDC)33か国からの中国向け輸出における全ての品目が免税対象となったが、今回の発表により南アフリカやケニア、モロッコなどアフリカの中所得国からの輸入品も免税となる見込み。中国政府は実施の具体的日時は明らかにしておらず、今後個別に交渉・署名を行う意向を示している。「米国は互恵を目的に関税を乱用し、世界秩序を著しく混乱させている」と公式文書で、名指しで批判していることから、今回の免税の発表は米国に対するけん制と、グローバル・サウスの連帯を示す政治・外交的な狙いがあったとみられる。
2024~27年までFOCACの共同議長国を務めるコンゴ共和国のジャン=クロード・ガコソ外相は、ドゥニ・サス・ンゲソ大統領からの書簡を代読。「習主席が提唱した「10のパートナーシップ行動」はグローバル・サウスのための革新的開発モデルを推進し、現代化への道を共に進める決意を示している」と述べ、中国とアフリカ諸国の連帯を強調した。第10回FOCACサミットは、2027年にコンゴ共和国で開催される予定。
[イラン/イスラエル]
イランの現地時間6月13日の早朝3時頃に、イスラエルがイランに対する攻撃を開始した。イスラエルは今回の作戦を「Rising Lion(立ち上がるライオン)」作戦と名付け、ネタニヤフ首相は今後数日間にわたって同作戦を継続すると宣言している。イランに対する攻撃は3日間にわたって続いており、既に224人が死亡し(うち70人は女性や子ども)、1,481人が負傷している。また要人の暗殺も行っており、シャムハーニ最高指導者顧問、バーゲリ軍参謀総長、サラーミ革命防衛隊(IRGC)司令官などの最高指導者に近い要人や軍・IRGCの指導層、また元原子力庁長官を含む多くの著名な核科学者も殺害された。
イラン側も報復として、イスラエルに向けてドローンやミサイルなどで反撃しており、ドローンはほとんど迎撃されたものの、ミサイルは一部が迎撃をすり抜けてイスラエルに着弾しており、イスラエルでは14人が死亡(子ども2人を含む)、390人以上が負傷している。
米政権は、当初ルビオ国務長官が「米国は今回の攻撃に一切関与していない」と発言したが、その後トランプ大統領は、事前にイスラエルから通告を受けていたことや、イスラエルの攻撃に米国製の武器が効果的に使われたことなどを称賛するSNSの投稿を行った。
[米国]
ミシガン大学の「消費者調査」によると、6月の消費者信頼感指数(1966年Q1=100)は60.5となり、5月から8.3pt上昇した。消費者マインドの改善は6か月ぶりのことだった。5月の米英貿易合意や米中閣僚級協議の結果などから、過度な警戒感が後退したようだ。
内訳を見ると、足元の状況を表す現況指数は63.7へ5月(58.9)から上昇し、市場予想(59.4)を上回った。また、先行きを表す期待指数も58.4へ5月(47.9)から10.5pt上昇し、市場予想(49.0)を大幅に上回った。
一方、 1年先の期待インフレ率は5.1%となり、5月(6.6%)から低下した。また、5年先の期待インフレ率は4.1%で、5月(4.2%)から小幅に低下した。米国の関税政策への過度な警戒感が後退し、将来的な物価上昇予想がやや軟化した。ただし、足元の中東情勢の緊迫化や、それに伴う原油価格の上昇などは調査時点では織り込まれておらず、それらの動向次第ではあるものの、一時的な改善になる可能性がある。
[ロシア/米国/中東]
6月14日、プーチン大統領がトランプ米大統領と電話で会談した。イスラエルとイランが攻撃の応酬を繰り広げる中、両首脳は戦闘停止を求めることで一致した。プーチン大統領はイスラエルによるイラン攻撃を非難し、両国間の仲介役にも意欲を示した。一方、ウクライナ情勢を巡っては、プーチン氏が6月22日以降にウクライナとの間で代表団レベルの直接協議を行う予定だと伝えた。トランプ氏は、ロシアとウクライナの間で捕虜交換が行われるとの見通しを示した。
イスラエルによるイラン攻撃は、イランとの軍事関係を深めてきたロシアにとって打撃となりかねない。ロシアはイラン、シリア両国との友好関係を中東戦略の基軸としてきたため、イラン情勢が混乱すれば、2024年12月のシリア・アサド政権崩壊に続く誤算となる。
[中国/米国]
6月12日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国企業が米国によるAI半導体の輸出規制を回避するため、中国国外にデータを持ち出し、Nvidia製半導体を搭載した他国のサーバーを用いてAIモデルを構築した事例について詳細に報じている。
2022年以降、米国は国家安全保障上の観点から、先端AI半導体の対中輸出を厳格化しており、中国企業はこれに対処するため、以下のような代替手段を講じている。すなわち、①国内製半導体の活用、②第三国を経由した密輸、③海外にデータを移転し、米国製半導体を用いてAIモデルの訓練やテストを行う方法である。近年では、米国の規制強化を受けて③の手法が拡大しており、東南アジアや中東が新たなAI開発拠点として台頭している。
ある中国企業がマレーシアのサーバーを利用した事例では、データの移送はインターネット経由ではなく、物理的手段によって実施された。持ち込まれたデータおよび訓練プログラムは、事前に数週間をかけて最適化されていた。また、Nvidiaによる監査体制の強化を受け、当初予定していたシンガポール子会社ではなく、マレーシアに新たに現地法人を設立し、地元住民3人を名義上の取締役として登記した。
このような規制回避の手法が合法か違法かの判断は困難である。バイデン政権末期には、国別の購入上限を設ける案も検討されたが、トランプ政権はこれを撤回した。
一方、東南アジアでは、AI向けデータセンター市場が急速に拡大している。不動産総合会社のジョーンズ・ラング・ラサールによれば、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアの4か国において、合計2,000メガワット分のデータセンター容量が稼働しており、これは欧州最大級のロンドンおよびフランクフルト両都市の合計に匹敵する規模である。
さらに、中東地域もAI開発の新たな拠点として注目を集めている。2025年にトランプ大統領が中東を訪問した際、Nvidiaはサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)と数十万基規模のAI半導体販売契約を締結した。
中国企業は米国製半導体の直接輸入を回避しつつ、東南アジアおよび中東を活用してAI開発を継続しており、米国の輸出管理体制は重大な試練に直面していると同紙は報じている。
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