2025年6月5日 (木)
[ドイツ]
欧州では右派勢力台頭が注目されているが、ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進が象徴的となっている。5月に中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)による新政権が発足したが、連立与党は、現在最大野党となっているAfDの勢力を抑えることに腐心している。メルツ首相は非正規移民の取り締まり計画を示している。しかし、法的・政治的な反発も強く、計画の実現が難しいことや、世界経済の不確実性、連立与党間の政策の違いを考慮すると、短期的に経済が大幅な回復を示す可能性は低いとみられ、世論のAfDへの傾倒を逆転させることは困難な状況とみられる。
AfDは、2013年に設立され、当初はユーロ危機時にユーロ離脱を掲げていたが、現在では移民問題やEU懐疑主義を中心に据えた政策を展開している。特に、2015年、当時のメルケル政権が難民の受け入れを決定したことへの反発から党勢を強め、移民政策に対する厳しい批判を通じて、国民の不安や不満を代弁する存在として支持を集めてきた。さらにAfDは、欧州議会でも影響力を拡大しており、2024年には新たな極右会派「主権国家の欧州(ESN)」を発足させ、EU懐疑主義を掲げるほかの極右政党と連携を強化している。この動きは、EU全体における極右勢力の再編成を象徴している。今後の動向は、ドイツ国内だけでなく、欧州全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。
[メキシコ]
6月1日、メキシコで初となる司法選挙が実施された。2024年9月に承認されたオブラドール前大統領の司法改革に基づくもので、メキシコ市民は連邦職の全ポストと州・地方裁判官の半数(合計881ポスト、候補者3,000人超)を選出することとなった。残り半分の地方裁判官(約850人)は、2027年の中間選挙で選出される予定。司法機関の全職を選挙で選出する制度を採用している国は、現在ボリビアのみである。シェインバウム大統領は今回の司法選挙を「完全な成功」と称賛し、メキシコを「世界で最も民主的な国」と評価した。
一方で、大統領選挙や中間選挙では実施される国立選挙研究所(INE)による速報発表は、今回の司法選挙では経費削減のため実施されず、開票完了を待って結果を発表する形式がとられた。このため、選挙結果の確定にはもうしばらく時間を要する見込み。野党側は支持率が低く、投票自体の棄権も呼びかけていたことから、与党が司法ポストを実質的に支配する可能性が高い。実際、最高裁判所については、すでに結果が発表されたが、 9 議席のすべてに与党と密接な裁判官が選ばれた。投票率にも注目が集まっていたが、INEは投票率を13%程度と推計している。これは、中間選挙の平均40%超や大統領選挙の平均60%超と比べ、相当低い水準となっているだけでなく、与党の目標である15~20%にも届かなかったことから、司法の独立性や正当性に対する疑問が残る結果といえる。
[米国]
6月2日、農務省は、米国の農産物貿易予測に関する四半期報告書を発表した。今回の報告書は5月29日付で、分析に関する記述がなく、数表のみが掲載されている。
米国は農業大国だが、2023年度に農産物貿易は赤字に転じ、赤字額は2023年度172億ドル、2024年度318億ドル。2025年度は、2024年11月時点で455億ドル、2025年2月時点で490億ドルと予想されていたが、今回さらに495億ドルまで赤字額が上方修正された。内訳は、輸出1,705億ドル(24年度1,744億ドルから減少)の予測は据え置いたが、内訳は微調整されており、アジア向け輸出は下方修正。他方で、輸入は2,195億ドルから2,200億ドル(24年度2,062億ドル)に上方修正された。
米国ではメキシコ産アボカドをはじめとする果物・野菜や、コーヒー・カカオ・オレンジジュース・スパイスなど熱帯産品、酒類などの輸入に加えて、牛肥育頭数の落ち込みや鳥インフルエンザ流行で肉類・乳製品・鶏卵輸入も増加。人口・移民増加で食品需要が多様化しているとの指摘もある。他方で、輸出は大豆などの単価下落と南米との競争激化により2022年度の1,961億ドルをピークに減少。トランプ氏はこの農産物貿易赤字について、バイデン前政権が農産物輸出促進に十分対応しなかったためと批判していた。
農務省は報告書遅延と内容変更の経緯について「内部承認手続きが滞ったため」と説明。米Politicoは、今回の報告書の内容がトランプ政権の関税政策が貿易不均衡を是正するというストーリーと合致しないため、分析部分を非掲載とした可能性があると報じ、長年の信頼を損なう事態だと指摘している。
[中国/メキシコ]
800台の電気自動車(EV)を含む3,000台の車両を、中国・煙台からメキシコのラサロ・カルデナスへ輸送していた貨物船で火災が発生した。乗組員は救助されたが、火災の制御が不能となり、船舶はアリューシャン列島沖で放棄された。ロンドンに本拠を置く船舶オペレーターは、昨日発表した声明で、自動車運搬船モーニングミダスで、EVが積まれたデッキから大量の煙が上がっているのを初めて確認したと述べた。
[日本]
厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、4月の名目賃金(現金給与総額)は前年同月比+2.3%であり、3月と同水準だった。プラスは40か月連続で、賃金上昇傾向が続いている。内訳を見ると、基本給(所定内給与)は+2.2%と、3月(+1.4%)から伸びが拡大した。そのうち、一般労働者(フルタイム労働者)は+2.7%で、3月(+2.0%)から拡大した。一方、パートタイム労働者の時間給は+3.6%、3月(+4.0%)から縮小した。また、 残業代(所定外給与)は+0.8%、2か月ぶりのプラスだった。残業時間は3月と同様に▲2.8%であり、残業代単価の上昇がうかがえる。ボーナス等の一時金(特別に支払われた給与)は+4.1%と、3月(+14.5%)から縮小した。ただし、ボーナス等については、支給時期が会社によって異なり、調査対象の変更なども影響していると考えられる。共通事業所ベースの名目賃金は+2.6%で、3月(+2.7%)並みの上昇率を維持した。
また、注目されている実質賃金(持家の帰属家賃を除く総合の消費者物価指数)は▲1.8%で、3月と同じ水準。マイナスは4か月連続となり、実質購買力の低下が続いている。食料品など生活必需品の価格高騰と相まって、個人消費に下押し圧力をかけている。
2025年度の春闘では、2年連続で5%超の賃上げで妥結された。それが今後、夏場にかけての賃金に反映されてくるだろう。
[オーストラリア]
6月4日、2025年1~3月期の実質GDP成長率について、前期比+0.2%、前年同期比+1.3%だったと発表された。前期(前期比+0.6%、前年同期比+1.3%)から減速し、市場予想(ロイター前期比+0.4%)を下回った。民間消費は伸びているが、公的部門の支出と投資の縮小が成長率を押し下げた。さらに、自然災害が国内需要と輸出を抑制し、特に鉱業、観光、海運への影響が顕著だった。インフレは落ち着いており、中銀は2月と4月に政策金利を計0.5%引き下げ、3.85%としている。
[米国/シリア/トルコ]
6月2日、バラック駐トルコ米国大使兼シリア担当特使は、シリア国内にあった8か所の米軍基地のうち7か所から撤退し、1か所に統合する、とトルコメディアとのインタビューで述べた。発言によると、米軍は装備と人員の移動を開始しており、すでに5か所の基地からは撤退を完了したもよう。最終的にはシリア北東部のハサカにある基地に集約する見通し。現在、シリアには2,000人の米兵が駐留しているとされるが、この体制も再調整される可能性がある。
また6月4日、トルコのギュレル国防相は、シリアに駐留する2万人以上のトルコ軍の撤退や移転の可能性について、議論するのは時期尚早と発言した。トルコ軍は、シリア北部のクルド勢力に対抗するため、トルコ国境沿いの地域に数十の基地を設置し、軍隊を駐留させている。同氏によると、トルコ軍はシリアの防衛能力を高めるため、新たに組織されたシリア国軍に対し、訓練や助言の提供を行っているとのこと。
[米国]
6月4日、米議会予算局(CBO)は、現在議会で審議中のトランプ減税拡充法案が財政に及ぼす影響についての試算を発表した。それによると、2025年から2034年までの10年間で、減税規模は4.2兆ドル、歳出削減は1.8兆ドルとなり、その差額である2.4兆ドルが連邦債務に回る見通し。また、低所得層向け公的医療保険(メディケイド)の改革により、1兆ドルの歳出削減が見込まれる一方で、同時に1,100万人が医療保険を失うことになるとCBOは試算している。
法案は5月に下院で可決済みで、上院にて審議が始まっているが、一部の与党・共和党議員は、財政への悪影響や医療保険受給者の減少に懸念を示し、法案に対して懐疑的な立場を表明している。これに対し、トランプ政権は、「CBOは政治的に偏った組織であり、その試算内容は信用できない」と批判を強めている。トランプ減税拡充法案が連邦債務の増加を招くとの見方については、他の民間研究機関からも同様の分析が発表されているが、トランプ政権は7月4日までに法案成立を図りたい意向で、共和党内からの造反を抑止する必要がある。
[ブルガリア]
6月4日、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会と欧州中央銀行(ECB)は、ブルガリアが2026年1月から通貨ユーロを導入することを承認した。2023年にクロアチアが加わって以来のことで、ブルガリアが21か国目となる。声明では、欧州委はブルガリアが物価や財政、為替レートの安定性などの基準を満たしていると指摘し、「ユーロを導入する準備が整った」と述べた。ブルガリアは2007年のEU加盟以来、自国通貨レフからユーロへの移行に取り組んできたが、ユーロ導入については、国内世論が分かれている。2025年5月の調査では、ブルガリア国民の5割がユーロ導入に否定的な姿勢を示していることが明らかになった。野党勢力、ユーロ導入計画に抗議するデモの実施を呼びかけている。 ブルガリアのラデフ大統領は5月初め、ユーロ導入の是非を問う国民投票実施を提案したが、議会の多数派を占める親EU派がこれを拒否した。
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