2026年1月6日 (火)
[米国/デンマーク]
グリーンランドをめぐって、米国・デンマーク関係の緊張が更に高まっている。2026年1月、トランプ大統領はベネズエラでの軍事介入とニコラス・マドゥロ大統領の拘束に踏み切ったが、1月4日にトランプ大統領は改めて「国防のためにグリーンランドが絶対に必要だ」と述べ、同島がロシアや中国の船舶に囲まれている現状を強調した。さらに、ミラー米大統領次席補佐官の妻が、星条旗の色に塗られたグリーンランドの地図とともに「間もなく(SOON)」という言葉をSNSに投稿したことも、大きな波紋を広げている。
これに対し、デンマークのフレデリクセン首相は、同国が歴史的に米国の緊密な同盟国であり、グリーンランドが「売り物ではない」と明確に表明していることを述べつつ、米国による脅迫を直ちに停止するよう強く促す旨発言。また、駐米デンマーク大使も領土保全の尊重を求めており、フランスやスウェーデンをはじめとする欧州諸国の指導者たちもデンマークへの連帯を表明している。
米国がグリーンランドに高い関心を寄せる背景には、北極圏の戦略的重要性と豊富な天然資源があると考えられている。米国はすでに同島のピトゥフィク宇宙軍基地に拠点を置いているものの、未開発の鉱物資源やエネルギー資源、そして商業的な機会に関心を寄せているともいわれている。
[ベトナム]
1月5日、ベトナム統計局は、2025年第4四半期及び通年の実質GDP成長率を発表した。第4四半期の成長率は8.46%と4四半期中最も高い値となり、通年の成長率は8.02%と過去3年間で最も高い値を記録した。通年の成長率につき、支出別の内訳に関しては1月6日時点では未公表であるが、産業別では農林水産業(第1次産業)が3.78%、製造業・建設業(第2次産業)が8.95%、サービス業(第3次産業)が8.62%を記録した。特に第2次産業に関し、2025年の対米貿易輸出が前年比で約28%増加したことからもわかるように、米国による関税(20%)の課税にも関わらず堅調に推移している。
ベトナムでは、2024年に逝去したチョン元書記長に代わりトー・ラム新書記長の下で地場・外資系企業による投資を後押しする構造改革が進むほか、2024年は鈍化していた公共投資も直近では回復傾向にある。
前者に関し、政府は2025年3月に、企業による設備投資を所管する計画投資省を日本の財務省に当たる財政省に統合するなど、中央省庁を18省4機関体制から14省3機関体制に統廃合する計画を公表した。また7月からは、これまで存在した63の行政単位を34に集約させた。同国ではこれまで行政機構の非効率性や各種行政手続きの煩雑さが企業活動や設備投資を阻害する要因となってきたため、統廃合によりこれらを解消する狙いがあるとみられる。平行して5月には、党指導部は「民間経済開発に関する政治局決議68号」を公布。民間部門の活性化・起業促進などをテーマとし、現在約94万社存在する民間企業の数を今後5年間で200万社まで増やすこと等を目標と定めている。
後者に関し、チョン元書記長時代より継続していた党内・省庁における反汚職運動が行き過ぎたこともあり、2024年における公共投資の伸びは鈍化傾向にあったが、直近では同運動も沈静化していることもあり、2025年には回復傾向にあった。
1月19日からは共産党大会が開催されるが、トー・ラム書記長は続投するもよう。今後も同氏の下で企業活動・投資を後押しする改革が実施されるか注目される。
[資源]
Eurasia Groupは、年初恒例の『Top Risks』レポートのなかで、2026年の世界はこれまでにない地政学的な転換点に立たされていると指摘。今日の地政学的不確実性の根源は大国間の紛争ではなく、世界で最も強力な国家である米国が国内の政治革命の渦中にあり、自らが築き上げた世界秩序を自ら解体していることにある、と述べた。米国と中国の直接衝突は回避される見通しだが、欧州でのハイブリッド戦争の激化や、中国のデフレ輸出による経済的混乱が大きな懸念材料。また、北米貿易の停滞やAI企業の暴走、さらには水資源の兵器化など、多岐にわたるリスクが予見されている。米国による内向的な外交政策への転換は、世界の安全保障に巨大な空白を生み出し、各国の政治・経済に深刻な影響を及ぼす。
資源・コモディティの文脈で10大リスクを整理すると、主に4点に集約される。
①エネルギー:中国は「電子」(EV(電気自動車)、バッテリー、再生可能エネルギー、スマートグリッドなど)、米国は「分子」(化石燃料)と、戦略が二分。各国は双方への対処が必要になる。日本はロシアとの緊張関係の中でもエネルギー安全保障の観点からサハリン2からのLNG(液化天然ガス)輸入を維持せざるを得ない。自動車業界はハイブリッド車やガソリン車に注力し、EVで先行する中国に市場を奪われるリスクがある。
②資源:単なる原材料ではなく、国家安全保障の武器としての側面を強めている。重要鉱物争奪戦に加え、「水資源の武器化」もリスクに挙がる。水不足は水力発電能力も低下させる。
③中国:世界最大のコモディティ消費国である中国の経済状況が市場全体に影を落とす。中国のデフレが深まり、ブラジルの鉄鉱石など、主要な対中輸出資源に影響。過剰生産の安値輸出により他国の製造業が圧迫される。
④食料と農業:地政学的な対立が食料生産の基盤を揺るがす。ブラジルに関する章では、ロシアとNATOの紛争の副次的影響としてロシア産肥料の供給リスクを指摘。また、中国が日本の水産物に対する輸入禁止措置、カナダのカノーラに対する関税など、貿易を政治化する傾向もある。
資源に対するリスクは「突発的なイベントリスク」ではなく常態化しつつあり、各国・企業はその対応を迫られている。
[ウクライナ/米国]
2025年12月28日、訪米したゼレンスキー大統領はトランプ米大統領と和平交渉を行ったが、最大の焦点となっている領土や安全保障の問題について合意に至らなかった。安全保障の期間をめぐり、米国は15年案を提示したが、ウクライナは最長50年を求めている。領土割譲や特別経済区の設置については国民投票に付すべきとウクライナ側は主張し、ロシア側の停戦が前提条件となっている。 交渉が続く一方で、ロシアとウクライナ間の空爆が2026年年初から激化しており、今後は1月6日にパリで開催予定の欧州諸国を含む「有志連合(ウクライナ支援国連合)」会議で、安全保障面の最終調整が行われる予定となっている。
[中国/韓国]
2026年1月4日から7日にかけて、韓国の李在明大統領が中国を公式訪問した。訪中には韓国企業関係者200人以上が同行した。
1月5日に北京で行われた中韓首脳会談では、両国首脳が関係改善に向けた意欲を示した一方で、重視する課題の違いも浮き彫りになった。
会談後に中国側が発表した声明によると、習近平国家主席は韓国について「周辺外交の重要な位置を占める」と述べ、「対韓政策の連続性と安定性」を強調した。これは、米中対立の長期化や日中関係の冷却化を背景に、韓国を不安定要因にしたくないという中国側の意図を反映している。特に「核心的利益への配慮」という表現には、台湾や安全保障問題を念頭に、韓国に戦略的自制を求める姿勢がうかがえる。また、「両国は大きな民族的犠牲を払って日本軍国主義との戦いに勝利した。今日こそ、両国は手を携えて第二次世界大戦の勝利の成果を守り、北東アジアの平和と安定を守らなければならない」という、対日共闘を呼びかける記述もあった。台湾については、「一つの中国」に韓国が同意したとしつつ、「『一つの中国』原則」という表現を避けたのは、意見の相違を目立たせないためと推測される。
一方、韓国側の発表で中国側のそれと共通していたのは、①関係改善への意思、②経済協力の重要性、③人的交流の促進、④多国間協調への言及などである。さらに、14件のMOUや産業団地、サプライチェーン、デジタル経済、中小企業協力などを詳細に列挙し、李在明大統領が経済・実務協力の再活性化を重視していることを示している。
しかし、中国側発表にあった台湾問題や歴史問題での対日共闘に関する記述は、韓国側発表には含まれなかった。逆に韓国側は、西海(黄海)の構造物問題、不法操業、朝鮮半島の安定などについて中国側に申し入れたとしているが、中国側発表にはこれらの点は記載されていない。
今回の会談は、中国が戦略環境の安定化を、韓国が経済・実務関係の正常化を主目的としつつ、互いの優先順位の違いを曖昧にしたまま関係改善を進める「現実的な妥協の会談」であったと評価できる。
[イラン]
2025年12月28日、イラン通貨リアルが急落したことを直接の引き金に、首都テヘランの商店主らが物価高と通貨安に抗議して市場を閉鎖し、抗議デモが発生した。デモはその後、中部イスファハンや北東部マシャドなど全国各地に波及し、学生を含む市民が街頭抗議に参加した。参加者は「自由」「独裁反対」といった体制批判のスローガンも叫び、経済的不満が政治体制そのものへの抗議へと発展している。
リアル相場は2025年末にかけて下落ペースを速め、闇市場では1米ドル=約141万リアルという過去最安値を更新した。心理的節目とされる135万リアルも突破し、過去1年間で7割以上の下落となった。国連制裁の復活以降、インフレと輸入コスト上昇が深刻化し、食料品価格は過去1年で平均66%以上、品目によっては70%超も上昇して家計を圧迫している。
各地では治安部隊との衝突も起き、西部ロレスタン州などで死者が確認された。人権団体によれば、2026年1月4日までに少なくとも19人が死亡したとされる。政権側は沈静化を急ぎ、ペゼシュキアン大統領は「デモ代表者との対話を通じ、国民の正当な要求に耳を傾けるよう内相に指示した」と表明した。一方、最高指導者ハメネイ師は「経済的抗議は正当」と一定の理解を示しつつ、「暴徒はしかるべき場所に追いやられなければならない」と強硬姿勢も崩していない。
リアル急落の責任を取る形で中央銀行総裁が2025年12月29日に辞任し、後任が任命された。さらに大統領は2026年1月1日、生活必需品輸入向けに設定されていた1米ドル=28万5,000リアルの「優遇レート」を廃止すると発表した。市場レートとの乖離(かいり)が大きく「腐敗の温床」とされてきた制度だが、廃止により物価上昇が一段と加速する可能性もあり、国民の不満はさらに高まる恐れがある。
対外的には、トランプ米大統領が「平和的抗議者への発砲があれば米国は救出に向かう」とSNSで発信し、介入を示唆した。もっとも、抗議運動は依然として明確な指導部を欠き、規模も2022年の反スカーフ・デモには及ばないとの見方が強い。制裁の影響が大きい中、反政府運動だけで経済問題が解決する可能性は低く、最高指導者の権力継承を控える体制が、安定を最優先にどのような統治判断を下すかが最大の焦点となっている。
[イスラエル/ソマリランド/エチオピア]
12月26日、イスラエルのネタニヤフ首相は「ソマリランド共和国」を独立主権国家として正式に承認すると発表した。
ソマリア北西部のアデン湾に位置するソマリランドの人口は約600万人。 1960年にソマリランドを含む英領ソマリランドと、東部・南部のイタリア領ソマリランドが併合される形で「ソマリア共和国」が独立した後も、ソマリランドは首都モガディシュが置かれている南部のソマリア連邦政府からの分離・独立を一貫して希求してきた。 軍事独裁政治を続けてきたバレ元大統領が追放された1991年にソマリランドはソマリアからの独立を宣言。独自の軍や議会、通貨などを有するなど事実上の自治を行っているが、国連から独立国家として承認されていない。今回の発表によりイスラエルはソマリランドを初めて国家として正式に承認した国となった。ネタニヤフ首相は今回のソマリランドのアブドラヒ大統領とイスラエルのサール外相との間で調印された「共同相互宣言」は米・トランプ大統領が主導した「アブラハム合意」の精神に基づくものであり、イスラエルはソマリランドの農業、保健、経済分野等への協力関係を拡大すると述べている。サール外相は大使の派遣や大使館の設置を行う意向を示している。
このイスラエルの発表に対し、ソマリアのハッサン大統領は、国連憲章の基本原則である「国家の主権と領土の一体性の尊重」を侵害する重大な違反だと強く非難。ソマリアと軍事・経済面での関係が深いトルコのほか、エジプト、ジブチ、アフリカ連合(AU)、アラブ諸国連合などもイスラエル批判に回っている。イスラエルの一方的な承認を受けて12月29日に緊急会合が開催された国連安保理では、理事会構成国のうち15カ国中14カ国がイスラエルを非難。中国は「ソマリランドはソマリア領土の不可分の一部だ」と強く抗議し、台湾が中国の不可分な領土であるとの従来からの主張を発言の中に滲ませた。
一方で、共和党議員の中にもソマリランド独立支持派が複数いる米国は、国連安保理の場で唯一イスラエルの立場を擁護した。米国としてソマリランドの独立を承認するとの立場は示していないものの、イスラエルには他の主権国家と同様に外交関係を樹立する権利があるとの見解を示している。トランプ大統領は米タブロイド紙『New York Post』に対して、「(米国は)すぐにイスラエルに追随しない」とした一方で、「(米国としての国家承認については)検討する」と述べている(12月26日)。
今回のイスラエルによる突然のソマリランドの国家承認の理由は、パレスチナへの連帯を示し、イスラエル領土や船舶の攻撃を行っているイエメンの反政府組織・フーシ派への攻撃を強化するためと広く見られている。イエメンの対岸にあるソマリランドには、未活用の滑走路や港湾施設があり、イスラエルにとってフーシ派対策のための重要な軍事拠点として利用できる可能性がある。また、ソマリアのハッサン大統領は、「イスラエルがガザ地区の住民をソマリランドに強制移住させる意向を有している」とも主張しているが、ソマリランドのアブドラヒ大統領は「純粋に外交関係を強化する狙いである」と否定している(1月1日付、アル・ジャジーラ)。他方で、フーシ派の代表は、「ソマリランドにおけるいかなるイスラエルの存在も、我々の軍隊にとって『軍事目標』と見なされる」とソマリランド側を警告。フーシ派はソマリアのイスラム系過激派組織・アル・シャバブとの連携も指摘されていることから、今後ソマリランドが同組織の標的となるリスクもある。
国際社会の大多数がイスラエルを非難し、ソマリアを支持する中でも、現状、「様子見」をしているのがアラブ首長国連邦(UAE)と、ソマリランドの隣国のエチオピアだ。UAEの政府系港湾運営会社・DPワールドはソマリランドのベルベラ港(50万TEU/年)でコンテナターミナルを運営している。また、「アブラハム合意」でモロッコ、スーダン、バーレーンと並んでイスラエルの外交関係を樹立した数少ないアラブ系の国だけにイスラエルと足並みを揃えているとの見方がある(12月31日、英BBC)。一方のエチオピアは内陸国で、海上輸送の9割以上を隣国のジブチ港に依存していることから、アビィ少将は「紅海へのアクセス」を渇望する発言を繰り返してきた。2024年1月にエチオピア政府とソマリランドが発表したベルベラ港の軍事利用とソマリランドの国家承認に関する協力覚書は、ソマリアからの強い反発を招き、最終的にトルコのエルドアン大統領の仲介(アンカラ宣言)により、事実上撤回された形となった。しかしエチオピアは「ソマリア主権下での商業的利用」を定めたアンカラ宣言の合意を維持するか、新たにイスラエルやUAEの立場に軸足を移すか、選択に直面しているとの見解もある(12月31日、仏Africa Report紙)。
エチオピアの海洋進出への強い意向は、紅海に面する隣国エリトリアとの緊張関係も高めているだけに、今回のイスラエルのソマリランド国家承認の動きは「アフリカの角」地域に新たな火種をもたらすものになりうる。
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