デイリー・アップデート

2026年1月13日 (火)

[パナマ] 

米国が「ドンロー主義」を打ち出す中で、パナマ運河売却の行方にも注目が集まっている。パナマ運河は大西洋と太平洋を結ぶ世界有数の海上物流チョークポイントで、運河の周辺インフラ(港湾等)の権益を香港を拠点とする複合企業CKハチソンが保有していた。当初は米投資会社ブラックロック主導のコンソーシアムへ売却するとされていたが、中国の反発により、コスコがコンソーシアムに参入し交渉が続いていた。

 

交渉では、はじめCKハッチンソンが保有する世界41港の株式うち20~30%を中国の国営企業コスコに譲渡する案が検討されていた。ただし、トランプ政権が「中国の影響下にある」と主張するパナマの2港はこの協定から除外されていた。しかし、現在コスコ側はコンソーシアムの過半数株式を要求しているとされ、ブラックロックはその場合、コンソーシアムからの離脱の可能性を示唆するなど、交渉が破綻の危機に瀕している。

 

さらに、トランプ政権が、「ドンロー主義」を打ち出し、西半球における米国の優位を再確立・維持するという外交戦略を主張する中で、米国は地域における中国の影響力を抑制する圧力を強めている。米国の積極的な地域戦略は、ブラックロックとの交渉が停滞する中で、CKハッチンソンによるパナマ運河周辺の港の支配が注目される状況を生んでいる。

 

ブラックロックとの取引は当初の構想通りに進む可能性が低下しており、パナマ政府はCKハッチソンを運河港から排除するため、法的・憲法的手段に頼る可能性が高まっている。このため、ムリーノ政権は憲法違反の異議申し立てを最高裁で進めている。さらに、パナマの会計監査官は、CKハッチンソンのパナマ港関連会社が約3億ドルの税金が未納となっていると主張している。この問題は、ムリーノ政権が同社に対し友好的な解決を迫る圧力として利用する可能性がある。パナマ最高裁の判決は近々出されるとみられており、CKハッチソンの契約が「無効」とされれば、パナマ政府は中国の顔を立てつつ、実質的に運営権を剥奪し、米国系企業への「再割り当て」を行う法的な口実を得ることにもなる。

 

しかし、同社と中国政府は反撃する可能性が高い。コンセッション(港運営権)の変更は、パナマ政府を国際仲裁のリスクにさらすことになるが、米国政権が武力行使も辞さない姿勢を示す中、運河の所有権問題は依然として火種となっている。

[ウガンダ] 

1月16日にウガンダで5年ぶりの大統領選が実施される予定だ。1986年にクーデターを実施し、内戦を終結させたヨウェリ・ムセベニ大統領(81歳)が7期目の任期獲得を目指している。立候補者は与党「国民抵抗運動(NRM)」を率いるムセベニ氏を含め8人。最大の野党対抗馬は、2021年の大統領選で得票率34.8%で2位となった「国民統一党(NUP)」のロバート・キャグラニ氏だ。元ポップスターのキャグラニ氏は「ボビ・ワイン」の通称で知られ、ムセベニ氏による約40年間に及ぶ独裁色の強い政権に立ち向かう同氏の姿を描いた長編ドキュメンタリー映画は2024年のアカデミー賞にもノミネートされた。低所得者層地域で生まれた同氏は、特に人口の中央値が約18歳であるウガンダの若者らからの支持を集めている。

 

しかし、ムセベニ政権下での野党の選挙活動の弾圧や、情報統制、有権者名簿の操作といった選挙不正が組織的に行われていることから、今回もムセベニ氏が勝利するとの見方が強い。2021年の選挙時にもキャグラニ氏は逮捕され、それに抗議した参加者約50人が治安当局に殺害されたと報じられている。ウガンダの政治は軍事化が進んでおり、その中心にいるのがムセベニ氏の息子で、ウガンダ人民防衛軍(UPDF)のトップに君臨するムフージ・カイネルガバ将軍だ。同氏は将来的に高齢のムセベニ氏の後継者となることを公然と宣言しており、野党候補者を暴力的に威嚇する発言を繰り返すだけではなく、ウガンダ国内の外交官に対しても威圧的な態度を示している。英FT紙は「ウガンダにおける選挙の不正や制度の攪乱は、単なる政治的戦略ではない。(独裁)政権が自らの経済的利益とそれを守るネットワークを守るための手段だ」と、民主的な選挙を通じた構造変化は起こりえないとの見解を示している。

 

その一方で、アフリカの他の国々と同様に若年層人口が増加しているウガンダでも、失業や貧困問題によりいわゆる「Z世代」らの現政権に対する不満は高まっている。実際に、ムセベニ氏の得票率は前回2021年の大統領選では過去最低の58.6%に留まった。また、隣国ケニアでは2024年以降、Z世代による大規模な反政府デモが実施され、同じく隣国のタンザニアや、モザンビークでも大統領選の際に政府の選挙不正を訴えた大規模な抗議デモが起こっていることから、周辺国での民衆蜂起の動向がウガンダの長期政権の安定性を脅かす材料にはなり得る。

 

しかし、こうした国々で起こる抗議活動を政府が暴力的に抑え込む動きは強まる一方で、国際社会の圧力は弱まる傾向にある。ウガンダとの関係が微妙な欧州連合(EU)は前回選挙同様に選挙監視団を派遣しない見込みであり、トランプ米政権も「外国の選挙のプロセスにおける公平性や当該国の民主的価値について意見を述べることを避ける」と表明している。加えて、約200万人の難民(南スーダン、コンゴ民主共和国(DRC)からの難民が大半)を受け入れているウガンダは、トランプ政権との間でも米国内の移民の強制移送の受け入れを約束している。これを受けて米国は、2025年12月にウガンダに対して17億ドル規模の保健・医療支援を約束するなど対米関係も良好である。こうした外部環境から、仮に選挙前後で大規模な民主蜂起が起こったとしても、ウガンダ政府は抗議活動を徹底的に弾圧する姿勢を緩めない可能性が高いとみられる。

[インド/ドイツ] 

1月12日、インドのモディ首相は訪印中のドイツのメルツ首相と会談を実施した。会談では、防衛・経済貿易・テクノロジー/戦略分野等における両国間の協力を進めることを確認した。防衛分野については、両国の防衛関連産業間での防衛装備品にかかる共同開発・共同生産促進を定めた共同声明を発出した。経済貿易分野においては、現在交渉中のEUとのFTA締結に向け引き続き努力すると発表した。テクノロジー/戦略分野に関し、半導体産業にかかる研究開発や重要鉱物の採掘・精錬・リサイクル事業における両国企業間の協力を促進すると発表した。

 

同国は防衛装備品に関し元来ロシアへの輸入依存度が高かったが、ロシアによるウクライナ侵攻以降は、購入した防衛装備品にかかる納入が遅延していることなどを踏まえて輸入先国を多様化させている。2025年12月に実施された印露首脳会談においても、事前に各種報道にて取り上げられていたS-400防空システムやSu-57戦闘機の購入に関しては特段合意に至らなかった。直近ではイスラエルやフランス等から防衛装備品の購入を増やしており、2025年5月に発生したパキスタンとの国境紛争においてはフランス製第4.5世代戦闘機であるラファールが戦闘に使用されていた。

 

なお同国は元来防衛装備品にかかる輸入依存度が高い傾向にあったが、国内供給能力強化を促す政策『Self-reliant India』(自立したインド)の下で足元では依存度を低下させつつある。今般発表されたドイツの防衛関連企業との共同生産を通じ、引き続き輸入依存度を低減させつつ、製造業を振興させる狙いがあるとみられる。

[イラン] 

米国がイランでの軍事行動の選択肢を検討していると報じられたこともあって原油価格はやや上昇している。1日当たり300~400万バレルの原油を生産するイランでは、経済危機の中で抗議活動が全土に拡大した。戦争研究所(ISW)は、デモは鎮静化しつつあるものの、指導部の権力を支える治安機関に亀裂が生じていると指摘している。そのレポートでは「継続的な抗議活動が、イラン治安部隊の抗議弾圧能力と意思に挑戦している兆候がある」としたうえで、「イラン革命防衛隊(IRGC)情報機関は1月10日、『離反行為の可能性に対処中』との声明を発表した。この声明は、一部の治安部隊が既に離反した可能性、あるいは政権がこの可能性を強く懸念していることを示唆している」と指摘している。ISWによれば、アルテシュ(正規軍)と呼ばれるこれらの一般兵士は、IRGCよりもイデオロギー的色彩が薄く、イラン国民をより代表しているという。これにより、市民騒乱への対応訓練を受けていないアルテシュ部隊が離反するリスクが高まり、内部治安部隊が手薄になっていることを示唆しているとしている。ISWの別の分析は、政府が抗議活動を法執行問題ではなく軍事問題として扱っていると指摘。またテヘランは「これらの抗議活動が政権に対する深刻な安全保障上の脅威であると判断したため、IRGC地上部隊を動員して抗議活動を鎮圧するという異例の措置を取った」とも述べている。

 

エネルギー市場は、世界第3位の確認埋蔵量を誇る主要OPEC加盟国・イランにおける政情不安の影響を消化しているところだ。実際、反政府抗議活動は既に石油部門へ波及しており、大規模な精製・石油化学複合施設の労働者がストライキを行ったと報じられている。高まるリスクは既に石油市場の地政学的プレミアムを押し上げつつある。世界的な供給過剰にもかかわらず、短期的な価格急騰を招きかねない。中長期的に、仮にイランと西側の関係改善により制裁緩和が進むことで価格が安定し、貿易フローも再編される。これにより欧州やインド、日本の石油精製業者が恩恵を受けるだろうとされる一方、ほかの中東産油国は競争激化に直面する可能性があるとの見方が浮上している。

[米国] 

労働省によると、12月の非農業部門雇用者数は前月比+5.0万人となり、2か月連続で増加した。

 

10月は▲10.5万人から▲17.3万人へ、11月は+6.4万人から+5.6万人へそれぞれ下方修正された。10月は連邦政府職員の早期退職プログラムで9月まで給料が支払われていたため、それが終了した10月に雇用減が反映された。産業別に見ると、製造業(▲0.8万人)は8か月連続で減少、輸送・倉庫(▲0.7万人)は4か月連続で減少した。また、卸売(▲0.2万人)と小売(▲2.5万人)は3か月連続で減少した。その一方で、教育・ヘルスケア(+4.1万人)や娯楽・接客業(+4.7万人)、その他サービス(+0.5万人)などが増加した。

 

12月の失業率は4.4%(▲0.1pt)へ低下した。なお、11月は4.6%から4.5%へ修正された。

 

平均時給は前年同月比+3.8%となり、11月と市場予想(+3.6%)を上回り、8月以来の高い伸び率となった。前月比は+0.3%であり、11月(+0.2%)からやや加速した。

 

雇用環境は大幅に崩れておらず、底堅さを見せている。ただし、労働需要は軟化しており、労働供給の伸び悩みもあって、労働需給が均衡を保っている奇妙なバランスに状態が続いているようだ。そのため、連邦制度理事会(FRB)に利下げを急がせるような内容ではなかったと言える。

[中国/日本] 

中国中央電視台(CCTV)の公式ブログで民族主義的傾向の強い「玉淵譚天」が、中国による「軍民両用(デュアルユース)物資」の対日輸出規制について、規制対象は特定の機関や企業に限定されず、「すべての軍民両用物資」「産業体系全体」を対象であると強調するコラムを掲載した。コラムは、規制の対象品目は900品目以上に及び、材料だけでなくソフトウェア、技術、部品まで含まれるとしており、軍需産業に限らず幅広い産業チェーンに影響が及ぶと主張している。

 

中国政府は、表向きには「民生用途は影響を受けない」とし、中国商務部も「正常な民間貿易に懸念は不要」と説明している。しかしコラムは、末端水酸基ポリブタジエンや、タングステンなどのレアアース関連物資は民生・軍事の境界が極めて曖昧であり、実際には自動車、電子機器、エネルギーなどの民生部門にも広範な影響が及ぶ可能性が高いとしている。日本は民生品を装った調達により軍事転用を行ってきたと批判しており、その結果、民間企業全体を規制リスクにさらすと責任転嫁を図る論調となっている。

 

またコラムは、三菱重工や三菱電機など日本の大手企業名を具体的に挙げ、日本の「軍民融合」体制を強く批判している。これらの言及は、特定の物質や企業が将来的に制裁・規制対象となり得ることを示唆する「脅し」の性格を帯びている。企業が最終用途管理を怠り、日本の軍事拡張に関与すれば法的責任を追及すると明言している点も特徴的である。

 

全体として、このコラムは安全保障を名目に日本の産業構造そのものを問題視し、対日経済圧力を正当化する内容となっている。単なる輸出管理の説明を超え、政治的メッセージと威嚇を前面に押し出し、日本社会の分断を狙った内容といえるが、名前が挙げられた物品や企業は、特に対応策を急ぐ必要がある。

[ロシア/アルメニア] 

1月12日、アルメニア外務省は、ロシアの著名司会者ウラジーミル・ソロビヨフ氏が国営テレビでアルメニアへの軍事侵攻の可能性を正当化する発言をしたことに関し、「容認しがたい主権侵害だ」として、アルメニア駐在のロシア大使を呼び出し抗議した。ウラジーミル・ソロビヨフ氏は1月10日放映の自身の討論番組で、ロシアは自国の重要地域で利益を確保する必要があると主張し、旧ソ連構成国であるアルメニアを失えば「重大な問題だ」と指摘した。安全保障上の理由で、ウクライナで特別軍事作戦を開始する必要があったならば、ほかの影響圏でも作戦を開始できない理由があるだろうかと発言した。

 

アルメニアは隣国アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフを巡る紛争でロシアから軍事援助を受けられなかったことから、近年ロシア離れの動きを加速させている。

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