2026年1月26日 (月)
[日本/南アフリカ]
1月23日、日産自動車は、南アフリカ(南ア)・ロスリン(首都プレトリア郊外)にある自動車製造資産を中国の奇端汽車(チェリー)に売却すると発表した。日産は2025年5月に経営再建のために国内・海外で7つの工場を閉鎖すると発表していたことから、この内容に即したものとなった。売却額は非公表だが、同工場に勤務する日産の従業員の大半は同等の雇用条件でチェリーに再雇用される見込みだ。
アフリカで最大の自動車製造拠点である南アフリカは、年間約60万台の四輪車(商用車含む)を生産している。日系では日産のほかにトヨタ自動車、いすゞ自動車がコンプリート・ノックダウン(CDK)生産を行っており、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)、メルセデスベンツ、BMW、米国のフォードも拠点を置き、欧米への輸出拠点として南アを利用している。
過去10年にわたり平均実質GDP成長率が1%前後と経済が低迷した南アでは、チェリーや長城汽車などの廉価な中国メーカーの自動車の人気が高まっており、2024年にはじめて中国勢が市場全体の10%(約5万台)を占めるまで拡大している。これまで中国メーカーでは北京汽車集団(BAIC)が商用車のセミノックダウン(SKD)生産を行っていたが、日産からチェリーへの資産譲渡が完了すれば、中国勢として南アでは初のCKD生産を行う製造者となる。
年間約50万台前後で推移してきた南アの四輪車販売市場では、トヨタのシェアが24.9%と最大で、45年連続で首位となっている。小型車で強みを持つVWが12.9%、インドで生産した乗用車の輸入が堅調に伸びているスズキが11.6%と上位を占める中で、日産は4.3%のシェアに留まっている(2024年)。直近2025年12月の販売台数では、日産が1,011台だったのに対し、チェリーは2,249台と倍以上を売上げており勢いを増している状況だ(1月23日付、BusinessTech紙)。また、2026年1月7日の南ア自動車製造者協会(NAAMSA)の発表によると、2025年の自動車販売台数は596,818台と前年比+15.7%増と好調で、新型コロナ禍前の水準を上回った。世界的な金価格の高騰が金産出国である南アの通貨・ランドの価値を上昇させており、それに伴う輸入価格の低下により南アのインフレ率は3%前後に安定している。2024年から利下げサイクルを継続している南ア準備銀行は、政策金利を8.25%から6.75%まで引き下げており、これが消費者の自動車の買い替え・購入意欲につながっている。こうした国内全体の自動車販売台数の伸びと、中国車人気という追い風も相まって、チェリーは日産工場の買取を決定したとみられる。
自動車の販売面では好調の維持が予測されているが、生産拠点としての南アには不安要素が多い。経営再建が進められている電力公社エスコムの電力供給には改善がみられるが、電力料金は2007年時点に比べて600%増加しており、製造業・鉱業全体に大きなコストを生じさせている。これに加え、米国の通商政策の変化も自動車産業にとっても逆風となっている。トランプ政権での南アとの外交関係の悪化により、25年8月から南アに対して30%の相互関税が課されており、南アにとってドイツ、英国、フランスに次ぐ輸出先である米国向け輸出に影響が生じている。相互関税適用直後にフォードは南ア工場での約500人のレイオフを発表した。また、25年9月に失効した「アフリカ成長機会法(AGOA)」は現在米国の上院で延長法案の審議が行われようとしているが、米国との関係悪化から南アがAGOAから除外されるとの見方もあり、輸出用の自動車生産の見通しに暗い影を落としている。一方で、南アに代わって欧州市場に地理的にも近く、比較的人件費も安いモロッコが自動車生産を大きく伸ばしており、2024年の生産台数は約56万台と、南アの約60万台に迫っている。2025年はモロッコの生産台数が南アを上回るとの見方が強いことから、アフリカでの自動車生産の業界地図は転換の只中にある。
[米国/イラン]
米国はイラン情勢を巡り、軍事的圧力を再び強めつつある。1月22日、トランプ米大統領は、「万が一に備え、多くの艦艇を向かわせている」と述べ、原子力空母エーブラハム・リンカーンを含む複数の艦艇を中東に展開していることを明らかにした。米中央軍司令官クーパー海軍大将もイスラエル入りし、イラン攻撃の可能性を想定した調整を行っている。こうした動きにより、緊張の高まりを受けて欧州航空各社がイスラエル便を欠航するなど、地域への波及も生じている。
もっとも、軍事行動の有効性には懐疑的な見方が根強い。アナリストや元政府高官の間では、革命防衛隊への限定的攻撃では抗議運動の行方を左右できず、最良の場合でも弾圧を一時的に止める程度にとどまるとの指摘が多い。抗議勢力は武装・組織化されておらず、治安機関の分裂も見られない。1979年革命のように、民衆・聖職者・バザールが結集し、体制内部が崩れる状況は現時点で再現されていない。
むしろ軍事攻撃は逆効果となる可能性が高い。数百万人規模の体制支持層を結束させ、当局に戒厳令や大量処刑など、未使用の強硬手段を発動する口実を与えかねない。外国の軍事介入が独裁体制崩壊の決定打となった例は稀で、長期的な結果も必ずしも良好ではないと歴史は示している。
それでも、ユーラシア・グループは、外交努力が失敗した場合、米国またはイスラエル(あるいは両国)が4月末までにイランを攻撃する可能性を65%と評価する。トランプ氏にとって軍事行動の国内政治的リスクは小さく、脅威を実行に移さない方が威信低下につながるとの計算も働く。一方、地域的支持の乏しさや戦略目標の不明確さは抑制要因であり、最終的に武力行使ではなく長期的圧力戦術に回帰する可能性も残されている。
[ベトナム]
1月23日、第14回共産党大会が閉幕した。大会は、当初は1月25日までの実施が予定されていたが、日程が2日ほど前倒しされた形となった。
下述のとおりトー・ラム書記長の続投が規定路線であるなど、大会での審議事項に議論を要しないことがわかったからとみられる(ロイター通信、1月22日付記事)。
大会では、以下が決定された。
① 四柱ポスト(序列別に書記長、国家主席、国会議長、首相)の人事
② 党の最高指導部「政治局」構成員(全19人)の人事
③ 2026~30年の年平均の実質GDP成長率を10%以上に引き上げ
④ 2030年までの上位中所得国入り、2045年までの高所得国入り実現
①に関し、トー・ラム書記長の続投、チャン・タイン・マン国会議長の続投が決定された。
②に関し、ルオン・クオン国家主席およびファム・ミン・チン首相が構成員として選出されなかったことを踏まえ、2人の退任は決定的であるとみられている。2ポストの人事に関しては4月6日以降の会期にて開催される国会で選出されるため、後任人事については現時点では不明だが、一部の報道ではトー・ラム書記長が国家主席を兼任するとの見方もある(ロイター通信、1月20日付記事)。
③に関し、2025年通年の成長率は8.02%と高成長を記録したが、2026年の成長率に関しIMFは6.50%、世銀は6.10%に減速すると予想しており、目標との乖離(かいり)が大きい。
同国では元来、政治局員個人への権力集中・個人独裁を防ぐために四柱という形での集団指導体制を採用しているが、近年は書記長が国家主席を兼任するなど個人への権力集中に繋がりかねない動きが生じている。例えば2018年10月には、グエン・フー・チョン書記長が故チャン・ダイ・クアン国家主席の後任として兼務することが決まった。今後トー・ラム書記長が国家主席を兼任する場合、同氏に過度に権力が集中することも懸念される。
[メキシコ/キューバ]
メキシコ政府は、米国からの圧力や報復リスクを懸念しつつ、キューバへの石油供給を今後どうするか慎重に検討していると報じられている。現在、政権内では「完全停止」「供給削減」「現状維持」の選択肢が議論されているが、未だ最終決定には至っていない。
ベネズエラ政府に対する米国のタンカー封鎖や、マドゥロ大統領の拘束を受けてベネズエラからキューバへの石油輸送が停止した結果、キューバはエネルギー不足と大規模停電に苦しんでいるとされる。キューバへの石油はメキシコが主要な供給国となっており、 PEMEXによるとメキシコは2025年1~9月に日平均約17,200バレルの原油と2,000バレルの精製品をキューバへ輸送したと報告している。全体の輸出量に比べると小さいものの、キューバにとっては重要な供給源となっている。
メキシコがキューバ向け石油供給で重要な役割を果たしていることは、米国の警戒を招いている。シェインバウム大統領は、供給は長期契約に基づくものとして継続する意向を示していた。しかし政権内部では、米国側の不信感を強めることに対する懸念が高まっており、再検討されているという。
メキシコ政府は「キューバと連帯してきたことは主権的判断だ」と強調しており、政府はUSMCA再交渉に向けた準備を進めつつ、麻薬カルテル対策では十分に取り組んでいると米国を説得しようとしている。シェインバウム政権は、麻薬組織幹部を大量にアメリカへ引き渡すなど、対米協調を示す姿勢もとっている。
一方米国政府は、キューバは独自の失敗で危機に陥っていると主張し、石油供給を絶つことでキューバ政府に圧力をかける方針を明確にしている。さらにトランプ大統領はここ数週間、麻薬カルテル問題を理由にメキシコ政府への強硬姿勢を強め、軍事行動の可能性を示唆している。こうした動きは、メキシコ政府内にさらなる警戒感を生んでいる。
キューバの石油が輸入に依存する体質は深刻で、米国の制裁と経済危機により調達が困難となっているため、同国は少数の同盟国に頼らざるを得ない状態にある。ベネズエラの供給が止まったことで、他国が代替供給する見込みは薄い。メキシコ政府内では、米国の圧力でキューバの石油供給が完全に断たれれば、重大な人道危機が発生し、その影響がメキシコに波及する恐れがあるとの懸念もある。大量移民の発生はメキシコにとって大きな負担となり得るため、供給継続を支持する声も根強い。
[米国/ロシア/ウクライナ]
1月23~24日にかけて、ロシアのウクライナ侵略後初の米国・ロシア・ウクライナによる実務者レベルの3か国協議がアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで行われた。ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)を巡る領土問題を協議したものの、ロシアとウクライナの立場の隔たりは埋まっていない。ロシアはドンバス地方の完全制圧を目標とし、外交で解決しなければ戦闘を継続するという主張を変えていない。ウクライナはドネツク州の2割ほどを維持し、激しい攻防を続けている。米国はウクライナに同州からの撤収を迫るが、ウクライナは拒んでいる。3か国は2月1日に和平を巡って再協議する予定である。次回協議もアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで開かれる予定。
[中国]
1月24日、中国国防部は中央軍事委員会副主席の張又侠氏と、中央軍委連合参謀部参謀長の劉振立氏について、重大な規律・法律違反の疑いで立件・調査を進めると発表した。昨年(2025年)10月には、中央軍事委員会の何衛東副主席や苗華委員を粛清したばかりであり、2022年の第20回党大会で任命された中央軍事委員会メンバーのうち、習近平氏を除くと張昇民(現・中央軍事委副主席)氏1人しか残っていないという異常事態になっている。
張又侠氏は中央軍事委員会副主席として習近平国家主席に次ぐ軍のナンバー2に位置し、共産党中央政治局委員も務めていた。劉振立氏は中央軍委連合参謀部参謀長として、軍の作戦計画の中枢を担ってきた。両人は本来出席するはずの会議に姿を見せなかったことから、数日前から異変の噂が広がっていたが、前述の何衛東氏や苗華氏らのケースと比べると、噂が出てから政府の正式発表までの期間が非常に短かった点が注目される。
失脚の理由については、さまざまな憶測が飛び交っているものの、真相は不明である。人民解放軍の官営メディア『解放軍報』は、両人が「中央軍事委員会主席責任制を重大に損なった」と批判しており、単なる汚職だけでは説明できない政治的要素の存在が指摘されている。事実は中国の政治体制が変わらない限り明らかになりにくく、「これが真実だ」と断定する言説には注意が必要だ。
一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は関係者の話として、張又侠氏が米国に核兵器関連の機密情報を漏洩(ろうえい)した疑いがあるとも報じている。ただし、こうした情報は中国側が意図的に「理由」としてリークした可能性もある。報道では贈収賄や軍内部での勢力形成といった疑惑に関する推測についても記述されている。
張又侠氏は1950年代生まれのベテラン将校で、1979年の中越戦争に従軍した経験を持つ。張氏と習近平氏の父親は親しい関係にあり、張氏は2022年に本来であれば退役する年齢だったが、習近平氏が事実上の軍トップとして続投させていた。たとえ自身が抜擢した人物や古くからの知己であっても、処罰の対象外にはしないという習近平氏の姿勢があらためて示された格好となった。
今後の影響については、短期的には人民解放軍内で高官の粛清が続いていることで、作戦遂行能力への影響が避けられないとの見方が強い。張又侠氏は習近平氏よりも年上で、長年にわたる信頼関係もあったが、その張でさえ粛清されたことにより、今後登用される若い将校が率直に専門的意見を述べることは難しく、指揮系統の硬直化や対外政策の強硬化が進むとの懸念もある。習近平氏による長期的な軍統制強化の中で、軍内部の専門性よりも政治的忠誠が優先される傾向が強まれば、長期的な軍事的意思決定の柔軟性に深刻な停滞が生じ、危機管理能力の低下や誤算のリスクが一段と高まる可能性が指摘されている。
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