デイリー・アップデート

2026年1月20日 (火)

[米国/エチオピア/エジプト] 

1月16日、トランプ米大統領はTruth Social(SNS)上でエジプトのエルシーシ大統領宛の書簡を公開し、「エジプトとエチオピアの間でのナイル川の水資源分配問題を解決するため、米国は仲介を再開する用意がある」と述べた。同書簡のCCにはサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領、エチオピアのタィエ大統領、スーダンのブルハン暫定主権評議会議長が含まれている(記載順)。同書簡においてトランプ氏は「米国は、この地域のいかなる国家も、ナイルの貴重な資源を一方的に支配し、その過程で近隣諸国に不利益をもたらすべきではないと断言する」と強い言葉で述べている。このトランプ氏の仲介提案に対してエチオピアと対立するエジプトとスーダンは歓迎の意を示しているが、エチオピア政府からの声明は出ていない(米NBC News等)。

 

トランプ氏が言及している水資源問題とは、エチオピアが「一方的に」建設したとエジプトが非難している青ナイル川上流の「グランド・ルネッサンスダム(GERD)」だ。5,000MWを超える発電容量を持つ同ダムは、電力不足に悩むエチオピアにとっての国家プロジェクトとして進められ、2025年9月に開所式が行われた。しかし、ナイル川に水資源の90%以上を依存している下流のエジプトは、国家の安全保障上の問題に直結するとエチオピアを非難し、また、国際条約違反だとして長年にわたり建設・稼働に反対をしていた。第1期政権時からノーベル平和賞受賞への意欲を示していたトランプ氏は、中東における米国の重要な同盟国であるエジプトとの関係にも鑑み、当時からエジプト、エチオピア、スーダンの3か国の仲介を幾度も続けてきた。しかし、2020年7月に3か国の交渉は決裂し、エチオピアは米国やエジプトを無視する形でGERDへの注水を開始した。これに憤慨した米国は、2020年10月にエチオピア向けの1億ドルの対外援助の停止を発表。トランプ氏は「エジプトがダムを爆破するだろう」と発言するなどエチオピアに対する不快感をにじませたが、当時「米国のアフリカにおける外交上の最大の失敗」と評されていた(英・BBC)。

 

第2期トランプ政権においても、同氏は依然としてノーベル平和賞受賞への固執を隠さず、自身が終結させた「8つの戦争」の一つにこのエジプトとエチオピアの問題解決を実績として主張していた(米・ワシントンポスト紙)。しかし、開所式から4か月以上経過した後にトランプ氏が「仲介」を名乗り出た背景には、トランプ氏の発言の前日に、米国との同盟関係を強めるサウジアラビアが、エジプトとソマリアとの3か国での新たな軍事同盟に関する合意を最終化していると米・Bloombergが報じたためとの見方がある(1月17日付、Addis Standard紙)。サウジアラビアはイエメンの内戦をめぐって、分離独立派「南部暫定評議会(STC)」を支援しているUAEとの関係が悪化している。また、サウジアラビアはソマリア国内の国連未承認国家であるソマリランドをイスラエルが国家承認したことをソマリアや他のアラブ諸国と同様に主権侵害だと非難しているが、ソマリランドと経済的関係が深いUAEにも警戒の目を向けているとみられる(1月16日付、Middle East Eye紙)。内陸国のエチオピアも海洋へのアクセスを確保する意欲を強く有しており、2024年にエチオピアがソマリランドを国家承認しようとした動きはソマリアやエジプト等アラブ諸国との緊張を招いた。こうした状況から、サウジアラビアがトランプ氏を通じてUAEとエチオピアに圧力をかけようとした意図は、ナイル川の水資源問題に関する内容であるにもかかわらず、トランプ氏の書簡のCCのトップに直接水利問題に関係しないサウジアラビア、次にUAEが記載されていたことに表れているともみてとれる。

 

現時点でトランプ氏が具体的にエジプト、エチオピアに対してどのようなアクションを取るかは明らかになっていないが、中東・北アフリカ・「アフリカの角」地域の地政学的動向に新たな変数が加わることになりそうだ。

[フランス] 

1月19日、ルコルニュ仏首相は、2026年予算を投票なしで議会に通すための憲法第49.3条の特別権限を行使する予定であることを発表。フランスでは2024年の選挙以降議会が分裂し、どの勢力も過半数を持たず、予算協議が難航していた。現在の政府予算は昨年末に可決された緊急措置によって質的に2025年の予算を引き継ぐ形で賄われている。

 

ルコルニュ首相は就任に際して、憲法第49条第3項を使用しない旨表明していただけに野党関係者の反発は必至であり、極右勢力は不信任案の提出を表明している。 もっとも、ルコルニュ首相は税制と支出措置で譲歩したこともあり、左派勢力は不信任案への棄権を示唆しており、ルコルニュ首相は、不信任決議を乗り切るのに十分な支持を確保したと判断したとみられる。

[インドネシア] 

1月19日、インドネシア大統領府のプラセティオ・ハディ国務長官は、インドネシア中銀のジュダ・アグン副総裁が辞任する意向を示したと発表した。ジュダ・アグン氏の任期は2022年1月から5年間であったが、任期途中で辞任する形となる。辞任理由は明かされていない。副総裁の後任選定につき、手続き上は大統領が最低3人の候補者を記名した指名書簡を国会(下院)に提出し、適正審査を経て選出されることになる。ハディ氏は後任の一人に、現財務副大臣でありプラボウォ大統領の甥であるトマス・ジワンドノ氏が指名されたことを明かした。

 

同国ではプラボウォ氏が大統領に就任して以降、財政政策への大統領個人の影響力を拡大しうる動きが続いている(Fulcrum〔シンガポールのシンクタンク〕、2025年10月27日)。国会議員への住宅手当増額に対するデモ発生の責任を踏まえ、プラボウォ大統領は昨年9月にスリ・ムルヤニ財務相(当時)を解任した。ムルヤニ氏は2005年よりユドヨノ元大統領の下で財務大臣を歴任したほか、2010年には世界銀行の理事に選任されるなど、長らく同国の財政政策運営を担う「キーパーソン」として見られていた。財政政策に関しては、海外投資家からの信認維持を優先していたこともあり財政規律を重視するタカ派として知られており、積極財政を掲げるプラボウォ大統領とは財政政策にかかる方向性に関し対立が存在していたと指摘されていた(Nikkei Asia、2024年3月8日付報道)。

 

同国の中央銀行法では中銀による国債の直接引き受けが禁止されているが、コロナ禍の際には2020年・2021年の2年間にわたる時限的な措置として国債引き受けが認められた。また2023年1月に発効された金融オムニバス法の中では、大統領が「緊急事態」と認めた際に限り国債の直接引き受けを認められるようになったほか、ロイター通信の2025年9月16日付報道では、本法改正を通じ総裁を含む理事会の構成委員を政府が解任する権限を付与することも国会にて議論されているとのこと。財政政策に加え金融政策に関しても、政府・大統領の意向を反映しやすいような制度が策定されることが懸念される。

[世界/米国/日本] 

1月19日、IMFは世界経済見通し(WEO)を発表した。世界経済成長率は、2026年に前年比3.3%、2027年に3.2%とそれぞれ予想された。前回10月時点の見通しに比べると、2026年は0.2pt上方修正された一方で、2027年は据え置かれた。IMFはこれらの成長を、「堅調に推移する見通し」と表現した。ただし、2024年と2025年はともに3.3%であり、2026年から2027年にかけておおむね横ばい傾向が続くと予想されていることに変わりない。なお、2025年4月の米国の相互関税の発表直後に参照予測として下方修正され、7月以降は上方修正が続いている。

 

関税や不確実性は2026年、2027年にかけて薄れる見通しとされている中、米国の2026年の成長率は2.4%(+0.3pt)への上方修正され、その理由としてデータセンターやAI半導体、電力などインフラ投資が挙げられた。日本の成長率は2026年が0.7%(+0.1pt)であり、これは高市政権の政策などを考慮した結果の小幅上方修正だった。食品価格が落ち着くにつれて、物価上昇率は鈍化し、2027年には政府と日本銀行の目標の2%近づくと予想された。

 

また、見通しのリスクは、依然として下振れ方向に傾いている。地政学リスクに伴う供給網や市場の混乱、貿易摩擦の激化、AIなどが下振れリスクに挙げられている。このうち、AI投資の増加が成長を押し上げるという期待がある一方で、その期待が修正されると、投資が減り、金融市場で急激な調整が起きうると懸念されている。また、財政赤字と公的債務の赤字は、長期金利を圧迫して、広範な金融環境に圧力をかけるようになることもリスクとして指摘されている。

[ブラジル] 

ブラジルの農業部門で信用不安が高まっている。2025年第3四半期の農業関連延滞率は8.3%となり、前年同期比で0.9pt上昇した。前期からも0.2pt増加しており、悪化傾向が続いている。延滞率は180日以上支払いが滞っている農業関係者を対象に、最低1,000レアル以上の債務があることを条件に算出されている。

 

背景要因として、まず国際的な農産物価格の変動が挙げられる。2024年から2025年にかけて、穀物価格は不安定であり、収益性が低下した。また、ブラジル国内では高金利政策が続いており、農業融資の負担が増している。

 

年齢別では、30~39歳の若年層生産者が最も高い延滞率を示しており、12.7%に達した。これは、若年層が積極的に借入を行い、事業拡大を試みる一方で、経験不足や資金繰りの脆弱性が影響していると考えられる。所有規模別では、農地登録情報を持たない生産者の延滞率が10.8%と高く、土地賃借や家族経営の不安定さが背景にある。

 

今後のリスクとして、延滞率の上昇は農業向け融資の引き締めを招く可能性が高い。信用リスクが高まれば、金融機関は貸出条件を厳格化し、金利をさらに引き上げることが予想される。その結果、資金調達が困難になり、作付けの遅れや生産縮小が発生する恐れがある。また、経営統合の加速も懸念される。小規模農家が資金難に陥り、大規模事業者や投資ファンドによる買収が進むことで、農業構造が大きく変化する可能性がある。

 

さらに、司法再生申請は2025年第3四半期に628件に達した。これは、経営破綻リスクが顕在化していることを示している。加えて、地域格差も広がっており、北部や北東部では延滞率が高く、社会的・経済的な不安定要因が集中している。

 

2025年のブラジル農業は、生産コストは高いままで、販売価格が下がり、さらに借金の利息だけが膨らむという、極めて厳しい経済環境に置かれている。特に、過去数年の好景気時に強気な設備投資や規模拡大を行っていた農家ほど、この急激な環境変化に対応できず延滞に陥ったと考えられる。信用不安の拡大は農業生産と輸出競争力に深刻な影響を与える可能性がある。

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