2026年1月14日 (水)
[イラン/米国/イスラエル]
イランでは全国規模の抗議デモが2週間以上にわたり継続しており、政府は1月8日以降、インターネット遮断を含む強力な情報統制と治安措置を続けている。直近数日間で弾圧は明らかに激化し、治安部隊は実弾発砲や監視ドローンを使用して抗議参加者を制圧している。政府高官はデモ参加者を「暴徒」や「ISISの行為に類似する存在」と非難するなど、レトリックも急速に先鋭化している。一方、SNS上ではフェイクニュースや未確認動画も拡散しており、正確な実態把握は困難な状況にある。
死者数を巡る情報は大きく錯綜している。国外の人権団体は過去2週間の死者を500人超と指摘してきたが、米紙ニューヨーク・タイムズは1月13日、イラン当局者の話として、治安当局者を含め約3,000人が死亡したと報じた。ロイター通信も同日、死者が約2,000人に達したと伝えており、犠牲者は急増している可能性が高い。逮捕者数も1万人以上に及ぶとみられるが、全容は依然として把握しきれていない。
国際社会の反応は分かれている。イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、日本などは、平和的デモに対する過剰な弾圧に深刻な懸念を表明した。一方、中国、ロシア、トルコは、外国の介入がイラン情勢をさらに不安定化させると警告し、内政不干渉の原則を強調している。
こうした中、トランプ米大統領は対イラン圧力を一段と強めている。イランと取引を行う国に対し、米国との貿易に25%の関税を課すと発表し、「最終的かつ決定的な措置」と位置づけた。さらに13日には自身のSNSで「イランの愛国者たちよ、抗議を続けろ。機関を掌握しろ!」「もうすぐ支援が届く」と投稿し、抗議を公然とあおった。ただし、その真意や具体的な支援内容については記者団の質問に答えず、詳細は不明のままである。1月2日には、イラン当局が抗議者を暴力的に殺害した場合、米国が「救出に駆けつける」とも書き込んでおり、軍事介入を示唆する発言が続いている。一方で、イラン側が水面下でワシントンに接触し、核問題を含む交渉を模索しているともされ、圧力と外交が並行して進められている。
米政権内では、制裁強化、反政府勢力へのオンライン支援、サイバー作戦、限定的軍事攻撃などを巡り議論が続いており、武力行使に慎重な意見も根強い。仮に軍事攻撃が行われる場合でも、治安機関や準軍事組織バスィージなど象徴的・限定的な標的にとどまる可能性が高いと報じられている。
イスラエルのネタニヤフ首相は、イラン政権による「無実の市民への大量虐殺」を強く非難し、「ペルシャ民族が専制から解放される日」を願うと発言したが、イスラエル政府・軍当局は現時点で体制崩壊に至る条件は整っていないとの慎重な見方を示している。
今回の抗議運動は指導者不在で、参加者が共有する明確な政治目標も乏しく、無秩序な騒乱が必ずしも望まれる結果につながるとは限らない。国際社会がどこまで実質的に関与するのか、またイラン治安部隊が鎮圧命令にどこまで従い続けるのかが、今後の行方を大きく左右するとみられる。長期化する経済危機とインフラ不全の中、体制は国民からの正当性を急速に失いつつあり、情勢は軍事的エスカレーションか外交的緊張緩和かという重大な岐路に立たされている。
[ロシア]
2025年12月31日、プーチン大統領は、ポーランド系米国の包装大手Canpack(Can-Pack LLC)とデンマークの断熱材メーカーRockwoolのロシア資産を一時管理下に移す大統領令に署名した。Canpackはロシアのアルミ缶市場で約30%のシェアを持ち、その資産はロシア国内企業StalElementの管理下に移された。老舗Rockwoolの資産は、2024年9月にモスクワに登録されたホールディング会社Construction Assets Development JSCに移管された。Construction Assets Development JSCの所有者および管理に関するデータは機密扱いとなっている。
この措置は、欧米によるロシア資産凍結への報復として、外国企業の資産接収を可能にする2023年の大統領令に基づいて行われている。ロシアでは2022年のウクライナ侵攻開始以降、企業の大規模な国有化が進んでおり、これまでに100社を超える民間資産が接収されている。接収額は累計4.3兆ルーブル(約9兆円)に達し、軍需、インフラ、食品など戦略的分野で政府の統制が急激に強まっている。接収された資産がプーチン氏の側近や関連する実業家に再配分されるケースも多く、彼らはウクライナへの軍事侵攻や欧米との対立によって大きな利益を得ている。
[アルゼンチン]
1月13日、国家統計局(INDEC)は2024年の消費者物価が前年比+31.5%にとどまったと発表した。 ただし、12月単月のインフレ率は前月比+2.8%となり、11月(同+2.5%)よりわずかに加速し、市場予想(+2.5%)も上回った。インフレ率は3月の前月比+3.7%をピークに5月には前月比+1.5%まで低下した。しかし、その後は、インフレ率の鈍化は停滞した状態が続いている。12月のインフレに寄与したものは、輸送費(前月比+4%)、住宅(同+3.4%)、食費(同+3.1%)があげられ、一方、教育は+0.4%、衣料品・履物は+1.1%にとどまった。
ミレイ大統領が就任した2023年12月に、インフレ率は年間211.4%に達していたが、ミレイ政権がペソを50%以上切り下げ、歳出削減、予算凍結などを実施した結果、2024年末には117.8%までインフレ率は鈍化した。さらに、緊縮財政により10年ぶりの財政黒字を達成し、インフレ率も2017年のマクリ元大統領時代の24.8%以来の低水準となった。ただし、その代償として購買力や雇用、消費が大きく失われることにもなった。カプート経済相は「驚くべき成果」と評価し、財政黒字の維持、紙幣発行の厳格な管理、中央銀行の資本強化がインフレ抑制の柱になると強調した。一方で、為替レートの高さが外貨準備の蓄積を妨げ、経済安定の持続性にリスクをもたらすとの懸念も強い。
中央銀行の調査によると、2026年の年間インフレ率は20%前後と予測されている。しかし、市場の焦点は、インフレ率鈍化だけでなく、インフレ率そのものが新しい為替制度や金利や債務戦略に与える影響に移っている。以前はインフレ抑制のため、ペソは毎月1%ずつ広がる狭いバンド内でのみ変動が認められていたが、2026年1月以降は、このバンドは前々月の月次インフレ率によって決まることに変更された。2025年12月の月次インフレ率は2.8%であり、2026年2月の変動レンジはより拡大することになる。
市民の間では賃金の停滞が深刻であり、インフレ率の鈍化を歓迎する一方で、購買力が下がっていることから生活は苦しいという声も多い。インフレ率の低下は確かに進んでいるが、国民生活の改善には時間がかかる見通しである。
[米国/アフリカ]
1月12日、米国連邦議会下院で「アフリカ成長機会法(AGOA)延長法案:AGOA Extension Act」が可決された。審議の迅速化のために「サスペンションルール」が適用されたことから、過半数ではなく3分の2以上の賛成が必要だったが、結果的に賛成340票、反対54票と全体の約4分の3が賛成した。
冷戦終結以降、米国の対アフリカ政策が「援助から貿易へ」とシフトする中で、AGOAは対アフリカ向け経済政策の旗艦として2000年に法制化された。超党派の支持を得てきたAGOAは、これまで南アフリカやナイジェリアなどアフリカの32か国の受益国に対して、約6,900品目の米国向け輸出品に無税のアクセスを与えてきた。しかし、2025年9月30日に法律の失効期限が迫る中、3度にわたり改正法案が下院、上院に提出されたもののいずれも院内での可決にすら至っていなかった。
今回下院で可決された延長法案は、AGOA失効後の12月9日に共和党のジェイソン・スミス下院議員が提出したもので、対米関係が悪化する南アフリカも含め、既存の受益国に一律3年間の延長(2028年12月30日まで)を認める内容となっている。同法案は、12月10日に下院で強い権限を持つ歳入委員会で賛成多数で承認されていたことから、下院通過の可能性は高いとみられていた。今回の投票でも民主党議員が191票、共和党議員が149票の賛成票を投じており、反対票は民主党が11、共和党が43との結果になったことからも、AGOAが引き続き超党派の支持を得ていることを示している。今回の下院での可決を受けて法案を提出した共和党のスミス議員は、「アフリカにおける中国やロシアがもたらす米国の戦略的・経済安全保障上の脅威に対抗する上で重要だ。特に、わが国のサプライチェーンと重要鉱物へのアクセスを確保する上で重要だ」とAGOAの延長の必要性を主張している。
今後、同法案は上院に送付され、審議されることとなる。しかし、超党派の支持を得ているとはいえ、上院外交委員長のジム・リッシュ共和党議員は、南アを米国の「敵対国」と公言していることもあり、南アを含めた延長法案が速やかに上院で可決されるか懐疑的な見方もある。上院でもトランプ氏支持者が多い共和党議員は53人と、民主党議員の47人を上回る過半議席を有しており、「フィリバスター(議事妨害)」に必要な60人の賛成が得られるかは定かではない。さらに、仮に上院で可決されたとしても、南アフリカでは白人が虐殺されていると根拠のない主張を続けるトランプ大統領自身による署名が最終的に必要であることもAGOA延長のハードルを高くしている。
下院での法案可決を受けて、南アのパークス・タウ貿易産業競争相は安堵する声明を出しているものの、依然として米国との外交的な緊張状態は続いている。南ア政府は、他のアフリカ諸国が1月3日のベネズエラへの米国の軍事介入に対して批判的な態度を示すことを控える中で、国連憲章違反だと米国を即座に非難した。また、1月9日から南ア国軍がホストする形で、ケープタウン沖で「BRICSプラス」による合同海自演習が行われており、米国が警戒している中国やロシアも参加している。さらには反政府デモを弾圧するイラン政府に対して米国が武力介入の可能性も示唆している中で、合同演習にはイラン海軍に加え、米国がテロ組織に指定している「イラン革命防衛隊(IRGC)」所属の軍艦も演習に参加しようとしたと報じられている(1月11日、米WSJ紙)。南アは、AGOAの延長という南アにとって重要法案の審議が米国で進む中で、トランプ氏をこれ以上刺激しないよう、イラン海軍に撤退とオブザーバー参加を求めたとの報道もある。しかし、南アが重視する国際法の遵守と同時に、BRICSとの同盟関係も重視せざるを得ない南アの一連の行動が、米国に対する挑発と取られかねない状況が続いている。
[米国]
1月13日、米国エネルギー情報局(EIA)が2026年1月の短期エネルギー見通し(STEO)を公表した。今回の予測から2027年予測が開始されている。内容としては、2026年は一時的に米国需給は安定する一方、2027年は特に米国天然ガス市場の需給環境が変化すると見込まれている。
2026年は、米国天然ガスは供給が需要を上回り、Henry Hubスポット価格は年間平均で3.50ドル/MMBtuを下回る水準で推移すると予想。米国原油生産は過去最高水準から微減程度にとどまり、世界の石油供給はOPEC+の増産が牽引するため、ブレント原油価格は69ドルから56ドルへ▲19%下落する見込み。米国電力消費は前年比+1%増と緩やかに成長し、太陽光発電が+21%増と拡大する一方、石炭火力は▲9%減少。米国のLNG輸出はPlaquemines LNGなど新施設の稼働により16 Bcf/dへ+9%増加する見通し。
2027年は米国天然ガス市場のタイト化を見込んでいる。LNG輸出は18 Bcf/dへ+11%増加し、総需要が供給を上回ることで在庫は過去5年平均を下回る見通し。価格は年間平均で4.60ドル/MMBtu近くまで+33%上昇。米国原油生産は前年比▲2%減少に転じ、世界の供給増は南米諸国が主導する。米国電力消費は+3%増へ加速し、データセンター需要や産業部門の拡大が背景となる、としている。
[EU/メルコスール]
1月9日、EU理事会はメルコスールとの包括的パートナーシップ協定(EMPA)および暫定貿易協定(iTA)の署名承認を決定した。両協定は1月17日に、2026年上半期のメルコスール議長国を務めるパラグアイの首都アスンシオンで署名される予定。
EMPAが発効するためには欧州議会の同意と、全EU加盟国での批准が必要となるが、それまでは、EMPAの大部分が盛り込まれているiTAが適用される。交渉開始から27年が経過していた。
貿易障壁の撤廃(特に関税)、商品やサービスの市場アクセスの改善、公共調達の問題、商品の産地に関する規則、環境および社会基準への共同コミットメントを規制している。
本協定は、欧州産業にとって戦略的に重要であり、自動車、機械、化学製品等への関税が段階的に廃止されることにより競争力が強化され、EUからメルコスールへの輸出が最大39%増加することが見込まれている。また、欧州の視点からは、重要原材料のサプライチェーンを多様化するという重要な側面もある。一方、欧州農業界は、南米産の安価な製品の流入を懸念しており、これまでの交渉では欧州内で足並みの乱れも目立っていた。
[パキスタン/インドネシア]
1月12日、ロイター通信(英通信社)は、インドネシアのシャフリ・シャムスディン国防大臣がイスラマバード訪問中にパキスタンのザヒール・シドゥ空軍司令官と面談し、パキスタン製の戦闘機やドローン売却に向けた協議を実施したと報じた。具体的には、中国・パキスタン間で共同開発したJF-17戦闘機の売却が検討されたもよう。インドネシア空軍は従来米国・仏製戦闘機を中心に輸入していたが、直近ではトルコ製・中国製戦闘機の購入を発表するなど調達先を多様化させている。
パキスタンは元来F-16など米国製の戦闘機を輸入していたが、1990年に核兵器開発を進めていることを理由に米国がF-16の引き渡しを中止して以降、防衛装備品にかかる海外依存度を低減させるべく戦闘機の自国生産を目指してきた。本戦闘機は1999年にパキスタン・中国間で共同開発が合意され、2003年に初飛行が実施された。
本戦闘機は米国製F-35など最新鋭の戦闘機に比べてレーダーや赤外線センサーにより探知されやすい4.5世代戦闘機に分類される。1台あたりの機体価格(推計値)は約2,500~3,000万ドルと、仏製ラファールなど海外製の4.5世代戦闘機に比べて安価である点が魅力となっており(ラファールの機体価格(推計値)は約1.2億ドル)、これまではミャンマー(2015年)、ナイジェリア(2021年)、アゼルバイジャン(2024年)が購入している。
2025年5月に発生したインドとの国境紛争においては、JF-17が空対地ミサイルによりインド側のロシア製S-400地対空ミサイルを破壊したとパキスタン空軍が報道した。このような戦績も踏まえ、直近ではインドネシアに加えてサウジアラビアやバングラデシュ等の国々も購入を検討しているとの報道もなされている。
[米国]
労働省によると、2025年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.7%となり、市場予想と一致した。上昇率は、政府閉鎖前の9月(+3.0%)から縮小した。10月分は政府閉鎖の影響で非公表、11月(+2.7%)とは同じだった。また、食品とエネルギーを除くコア指数は+2.6%であり、市場予想(+2.7%)を小幅に下回った。これも11月と同じだった。
内訳を見ると、食品(+3.1%)、エネルギー(+2.3%)と上昇した。エネルギーでは、ガソリン(▲3.4%)が減少した一方で、電気(+6.7%)やガス(+10.8%)が上昇した影響が相対的に大きかった。それらを除く 財は+1.4%だった。トランプ政権発足前の2024年12月(▲0.5%)に比べると、関税などの影響が表れており、上昇率が拡大している。財のうち、新車(+0.3%)よりも中古車・トラック(+1.6%)の上昇が目立っており、医療ケア商品(+1.5%)の上昇率も比較的大きかった。
一方で、サービス(+3.2%)は財よりも高い上昇率であり、物価上昇のけん引役だった。そのうち、家賃(+3.2%)や医療ケアサービス(+3.5%)が引き続き高めの上昇率を維持していた。
政府閉鎖後の11月分のCPIでは調査方法・期間などが変更されたため、歪みが含まれているとみられていた。そのため、通常の調査方法・期間になった12月分のCPIで物価動向を確認したいという考えが市場には広がっていた。こうした中で、物価上昇率が足元にかけて連邦準備制度理事会(FRB)の目標の2%を上回っているため、市場ではFRBが利下げを急がないという見方が改めて確認された。
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