2026年1月28日 (水)
[新興国/中国/アフリカ]
1月27日、米・ロックフェラー財団の支援を受けている「One Data イニシアティブ(以下、One Data)」は、開発途上国(低・中所得国)とドナー(民間企業含む)間の金融フローに関する分析結果を発表し、2020~2024年の二国間融資の割合は全体の43%で、2010~2014年から▲6%ptとなったとした。
その理由として、中国が2014年に総額480億ドルを開発途上国向けに資金提供していたが、2024年にはその額は51億ドルまで減少し、現在は債務返済が融資を上回ることで240億ドルの「純受取国」となっていること。また、同時に多国間金融機関(マルチドナー)からの譲許的(低利率)な融資が増加しており、全体の56%を占めるまでに拡大したと見られることが挙げられている。One Dataによると、特にアフリカは2010~2014年には中国から約300億ドルの資金流入を得る最大の受益者だったが、2020~2024年には逆にアフリカ諸国から中国への資金流出が220億ドルに上っており、中国に対して最も債務返済を行う地域に急転換したと指摘している。また、二国間融資のみならず、民間資金(民間企業からの公的保証付き長期債務)も2010~14年には1,150億ドルの資金提供を開発途上国向けに行っていたが、2020~24年には73億ドルまで減少し、全体の1%に留まっている。新型コロナ禍による世界全体の経済の低迷やリスク回避の傾向が民間からの資金提供の急減に影響したとみられる。
他方で、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの多国間金融機関からの資金提供は、二国間および民間からの融資が減少する中で存在感を高めており、2010~2014年から2020~2024年の10年間で+124%増となっている。この背景には、二国間や民間企業からの資金提供の場合は、ドナーの事業優先順位の影響を強く受けることとなり、借り手は異なる貸し手のそれぞれの要求に対応する必要があるが(断片化)、多国間ではそうした煩雑さが軽減され、借り手の国の支持を集めていること。また、世銀やIMFといった従来の多国間金融機関のみならず、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や、新開発銀行(BRICS銀行)など新興国が新たに開発金融機関を設立し、資金提供を増加させていることが影響しているとの見解を示している。
ただしOne Dataは中国のようなOECD開発援助委員会(DAC)非加盟国からの資金フローは無償資金援助や技術協力が含まれていないことから、正確な資金フローの把握の難しさを指摘している。また近年、開発途上国向けの二国間資金提供を増加させているサウジアラビア、クウェート、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)などの中東のDAC非加盟国からのフローもすべてをカバーすることはできないとの実情を示している。開発途上国向けの支援の費用対効果の検証や、開発途上国側の政策決定において全世界の開発資金のフローの把握が必要であるにもかかわらず、その全体像をいまだに把握しきれていない現行のシステムの課題も示している。
[米国/イスラエル/パレスチナ]
1月26日、イスラエル軍は、ガザ地区に残されていた最後のイスラエル人の人質の遺体を回収したと発表した。2023年10月7日のハマスによる越境攻撃から843日を経ての帰還であり、これによりガザ地区にイスラエル人の人質は一人も残っていない状態になった。ネタニヤフ首相は「全ての人質が帰還した」と述べ、トランプ米大統領も成果を強調した。形式的には、2025年10月に成立したイスラエル・ハマス停戦合意の第1段階は完了したことになる。
しかし、人質問題の終結はガザ情勢の安定を意味しない。ネタニヤフ首相とトランプ大統領はいずれも、次の段階は復興ではなく「ハマスの武装解除とガザの非軍事化」だと明言しており、停戦後の焦点は急速に安全保障問題へと移行している。ラファ国境検問所の再開が調整されているものの、イスラエル軍は依然として厳格な管理を維持している。停戦発効後もイスラエル軍による散発的な軍事行動は続いており、ガザでの民間人被害は累積している。
こうした中、カーネギー中東センターは、現在進められているガザ戦後構想に対し強い警鐘を鳴らしている。同センターによれば、多くの「ガザの翌日」計画は、パレスチナ人の関与をほぼ欠いたまま欧米主導で設計されており、政治的主体性や将来に対する自己決定権を否定する統治構造を固定化する危険があるという。国連に代わる形で構想されている「平和評議会」も、同様にパレスチナ側の意思を反映しない枠組みとなる懸念がある。
復興が機能する最低条件として、カーネギーは四点を挙げる。第一に、教育・医療・水・電力などの民間サービス提供機関を、イスラエルの軍事行動から確実に保護すること。第二に、ハマス統治下で働いていたガザの既存の公務員を活用せざるを得ない現実を認める必要がある。第三に、瓦礫撤去やインフラ復旧に不可欠な機材・燃料・医薬品の円滑な搬入を保証すること、そして第四に、国際安定化部隊(ISF)の展開と復興資金の本格的拠出が不可欠だとする。
人質問題は一区切りを迎えたが、ガザの統治、安全保障、復興をいかに結びつけるかという、より根源的で困難な課題が改めて浮き彫りになっている。
[インド/EU]
1月27日、モディ首相は訪印中のフォン・ディア・ライエン欧州委員会委員長およびコスタ欧州理事会議長と共同で第16回印EUサミットを主催。同日にインド外務省はEUとの共同声明の中で、両者がFTA締結に合意したと公表した。モディ首相は、「両者の貿易規模は世界のGDPの25%、世界貿易の3分の1を占める」と発言している。
EUはFTAに基づき、2032年までの7年間でインドからの輸入品目の99.5%分につき関税を撤廃または削減するほか、インドもEUからの輸入品目の96.6%分につき同様の措置を取る。品目別では、インドの対EU向け自動車の関税率を現在の110%から2030年までの5年間で10%に引き下げるほか、自動車部品についても5年間から10年間で撤廃する。EU側も、衣料品・皮革製品・宝飾品など労働集約産業における主要品目については関税を即時撤廃する。
両者ともに、大豆、牛肉、砂糖、コメ、乳製品等の農業関連品目は協定から除外されたと発表している。
また両者はICTセクターのエンジニアや研究者・学生など、高度人材の移動を促進する枠組みにも合意した。
これに加え、両者は安全保障・防衛パートナーシップに署名。海洋安全保障や防衛産業・技術、フェイクニュース・サイバー攻撃対策などの分野にて協力を深めることを確認した。
FTA交渉自体は2007年より開始されていたが、自動車関税引き下げなどの論点につき合意できず、交渉が長引いてきた。 インドは、直近ではニュージーランドや英国、オマーンとの間でFTAを締結するなど、これまでの保護主義的な方針を改めている。
[タイ]
タイでは増加する野生ゾウによる人身・農業被害の対策として、メス象への避妊薬(ワクチン)投与による個体数抑制策が実施されている。東部森林地区(バンコクの東側郊外)では2015年に330頭だった野生ゾウの個体数が年率8%程度で増加し、2025年までに800頭に急増した。食料など森林での収容力を超える増加となっている。
野生のアジアゾウは1日の大半(17~19時間)を採食に費やし、200~300kgの植物を摂取する。象は水を数日間飲まなくても生きることが可能とのことで、森林収容力では水場の有無よりも食料となる植物の供給が十分あるかが重要視される。近年では都市化や乾燥による植物の生育不足を背景に収容力が低下したところに、個体が増加したことで人間との遭遇度合いが高まり、被害も増加している。ワクチンは、受精に必要なタンパク質に対する抗体を作らせ受精を阻害する仕組みで、妊娠中・授乳中の個体にも悪影響がなく、行動・社会性(群れの構造)には影響がないとされている。また、効果は最長7年ほど続き、自然に繁殖能力は回復に向かうとされている。今回は1月25日に、野生メス象3頭に初の正式投与が実施された。これに対する反論ももちろんあり、試験個体数がまだ少ないことで長期的な群れ構造への影響は未知でもあり、そもそもの原因は人間側の土地利用にあるとの指摘もある。実務的な制約もまだ残っている。象の識別・追跡コストもあり、全個体に投与できるわけではない上、数年単位の政策であることから即効性はない。なお、日本のクマ問題が頭を過るが、人間との遭遇状況や生態が全く違うのでそのまま当てはめることはできない。
[メキシコ]
シェインバウム政権が掲げる「関税徴収強化による財政再建」は、同国の経済運営に大きな影響を与えている。政府は財政健全化を優先課題としており、その中核には税関での捕捉率を高め、貿易の入り口で確実に税収を確保する方針が据えられている。1月25日、シェインバウム大統領は2025年の関税収入が前年比25%増という大幅な伸びを示したことを公表し、その成果を踏まえて2026年にはさらに20%増の1兆5,000億ペソ(約870億ドル)の徴収を見込む強気な姿勢を示した。これは慢性的な財政赤字を是正し、持続的な財政基盤を築こうとする政策方針である。
政府は税収強化に向け、三つの施策を同時並行で進めている。第一に、AIを活用した貨物スキャニングの導入やデジタル化の推進など、税関システムの近代化によって過少申告や密輸を防ぎ、また税関運営に軍を関与させ、透明性を高めることで、過去の課題であった汚職による税収の流出を食い止め、適正な関税徴収を徹底すること。第二に、自由貿易協定を結んでいない国、特に輸入が増加している中国など非協定国に対して物品税を引き上げ、産業保護と歳入確保の両立を図ること。第三に、鉄鋼やアルミニウム、繊維などの戦略品目に対し、関税そのものを引き上げることである。これらは国庫収入の安定化と、外部環境の変化に左右されにくい経済構造の構築を意図している。新たな税金を導入することなく、財政赤字を削減し、社会保障プログラムの財源を確保するねらいもある。
しかし、関税収入への依存には構造的なリスクもある。関税は貿易量や世界景気の影響を強く受けるため、景気が後退すれば税収が急減する可能性がある。また、関税や物品税の引き上げは輸入品の価格上昇を招き、最終的には国内物価の上昇につながるため、生活コストの上昇という副作用を生む懸念もある。シェインバウム政権はこうしたリスクを踏まえ、必要があれば歳出削減を実施する方針を示しているが、公共サービスや社会保障、教育などの重要分野に負担が及ぶ可能性も否定できない。政府は「歳入増加」と「支出の適正化」という難しい均衡を取らなければならない状況にある。
今回の取り組みはメキシコが短期的に財政を改善するものだが、その実効性は国際経済の動向、米国との貿易関係、そして国内の景気変動といった不確実性に大きく左右される。長期的に安定した税収基盤をどのように確立し、財政再建のシナリオが持続的な成長への原動力となるかが問われている。
[ロシア]
ロシア国内の最新世論調査によると、ロシア国民の多くは「和平」を望むが、妥協には消極的であることがわかった。独立系世論調査機関レバダセンターが実施した最新の世論調査では、回答者の約3分の2が直ちにウクライナとの和平交渉を開始すべきだと答えている。しかし、多くの人は「プーチンの条件下での和平」しか受け入れないと回答し、ウクライナ占領地域からの撤退は60%が反対している。抗議の抑圧や反戦派の国外流出により、大都市では強硬的・国家主義的な態度が主流化しており、レバダセンターのセンター長によると、首都モスクワでは「帝国思考」が強まり、反戦派の影響力は低下しているもよう。そして、9割以上の国民が「ロシアは敵に囲まれている」と考えているが(1994年以来での最大の数字である)、これは国家プロパガンダの影響が大きいと分析されている。他方、トランプ米大統領の再選がロシアの利益にかなう和平をもたらすという、外部要因への期待感が高まっている点も特徴的であると指摘されている。
[中国]
欧州連合(EU)が導入を進めてきた炭素国境調整メカニズム(CBAM、いわゆる炭素関税)が、2026年1月から正式に施行された。CBAMは、EU域内外の製品に同等の炭素コストを課す仕組みであり、「欧州グリーン・ディール」および、2030年までに温室効果ガスを1990年比で55%削減する政策パッケージの中核を成す。
中国の経済誌『財新』は、CBAMが中国産業に及ぼす影響について、初期の負担は軽微である一方、今後は重大な影響を及ぼす可能性があるとする記事を掲載した(1月28日付)。CBAMは2023年からの移行期間を経て本格実施段階に入り、現在は鉄鋼、アルミニウム、セメント、化学肥料、電力、水素の6分野が対象となっている。2026年は排出量算定の年と位置づけられ、実際の炭素コストの精算は2027年から始まる。現時点でCBAMの影響を受ける中国の対EU輸出は全体の約3.5%にとどまり、初期負担は限定的とみられるが、政策がもたらす不確実性は外貿企業全体に広がっているという。
なかでも深刻なのが鉄鋼分野である。CBAM関連輸入の約7割を鉄鋼が占め、中国は最大級のCBAM証書購入国になる可能性がある。問題視されているのは、EUが設定した中国製品向けの「炭素排出デフォルト値」が、実態よりも高い点だ。EUに認められた実測・検証データを提出できない場合、企業は高いデフォルト値に基づいて課税され、2026~28年には年10%の上乗せ措置も適用される。試算によれば、中国産鋼材1トン当たり約144ユーロのCBAMコストが発生するとされ、その競争力への影響は無視できない。
さらにEUは、2028年以降、機械、自動車部品、家電など約180品目の下流製品へ対象を拡大する構想を示している。これに対し、中国商務部は、気候対策としての合理的範囲を超えた一方的措置であるとして強く反発しており、CBAMは中欧関係における新たな摩擦点となりつつある。
もっとも、CBAMは単なる関税措置ではなく、炭素市場を通じて価格シグナルを発する制度でもある。中国企業にとって今後の鍵は、低炭素投資の加速に加え、排出データの精緻化と国際的な信頼性の確保にある。短期的な影響は限定的であっても、CBAMが示す「グリーン貿易秩序」は着実に定着しつつあり、中国産業の構造転換を促す外圧として作用していく可能性がある。
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