2026年1月15日 (木)
[米国]
1月14日、連邦準備制度理事会(FRB)は「地区連銀経済報告(ベージュブック)」を公表した。前回2025年11月から米国の経済活動は「わずかまたは緩慢に拡大した」と総括された。12地区のうち8地区で「わずかまたは小幅に拡大」、3地区で「変わらず」、NY地区のみ「小幅に縮小した」だった。前回まで3回の報告で、大半の地区が「ほとんど変わらない」としていた状況から改善した。
多くの地区で、年末商戦もあって、個人消費がわずかから小幅に増加した。ただし、「K字型の消費」の傾向が続いており、低中所得層は、ますます価格に敏感になっており、非裁量的支出に慎重になっていると報告された。クレジットカードローンなどの債務の拡大も懸念される。先行きは、今後数か月で小幅から緩慢な成長が予想されており、緩やかで楽観的な見方が大半の地区で見られた。
雇用は大半の地区でおおむね変わらなかった。8地区では採用に変化がなかった。ただし、複数の地区で、一時雇用が増加した。不確実なときに柔軟な態勢を維持するためと説明されている。採用といっても、新たなポジションを作るというよりも、欠員を埋めるものが大半だった。一方で、エンジニアやヘルスケアなどで熟練労働者を見つけることが引き続き難しいと報告された。AIが雇用に及ぼす影響は現在、限定的であるものの、今後複数年にわって影響が予想されている。また、複数の関係者が、賃金上昇が「通常の水準(normal level)」に戻ったと報告した。
物価は大多数の地区で緩やかに上昇している。ただし、2地区はわずかな上昇を報告した。この中で、関税コストの上昇は、全地区で一貫したテーマだった。関税コストを自社内で吸収していた企業は、関税前の在庫がなくなり利益維持圧力が高まるにつれて、顧客に転嫁している。しかし、小売や飲食店など顧客が価格上昇に敏感な業界では、価格転嫁に躊躇(ちゅうちょ)する動きも見られるなど、価格転嫁は一様には進んでいない。先行きについて、企業は価格上昇がやや緩やかになる一方で、コスト増から価格が高止まりすることも予想されている。
[ロシア]
ウクライナ戦争が長期化する中、シリア、イラン、キューバ、ベネズエラなどの「権威主義的同盟国」がロシアの支援不足に強い不満を抱いていると報じられている。特にベネズエラのマドゥロ大統領(当時)の米国による拘束は象徴的事件とされ、ロシア・キューバの諜報網が脆弱で守れなかったと当局者が不満を示している。また、ロシア製防空システム(S-300、Buk-M2)が十分に機能せず、技術支援も不十分だったとの指摘がある。シリアでは2024年末、ロシアの軍事支援が弱まり、アサド政権の立場が不安定化した。一方、イランは2025年、米国の空爆後もロシアから実効的な後ろ盾を得られず、国内の不満と抗議が拡大した。総じて各国には、「ロシアは重要な局面で頼りにならない」という認識を強めており、ロシアの影響力は、ウクライナ戦争長期化によって明確に低下している。
[ペルー/中国/米国]
2026年4月12日に予定されているペルーの大統領選挙、および約30年ぶりの復活となる二院制議会選挙(上院60議席、下院130議席)は、単なる一国の政権交代に留まらず、中国がインフラと資源を通じて影響力を強める中南米において、米国が依然として主導権を発揮できるかを問う地政学面での試金石ともなっている。
現在、ペルーの政治舞台は、ボルアルテ前政権(2025年10月に罷免)への不信感と深刻な治安悪化により、極めて不安定な状況にある。大統領選には約35人が名を連ねており、票の分散により6月の決選投票までもつれ込むことが確実視されている。犯罪組織による候補者への脅迫や攻撃が相次いでおり、候補者が防護具を着用して活動することが議論されるほど治安は悪化しており、「治安維持」は国民にとって最大の関心事となっている。この背景から、強硬な法執行を掲げる保守系候補が有力視されているものの、決定的なリードを保つ候補は現れていない。
このような中、中国は、ペルーにとって最大の貿易相手国としての地位を固め、国家の「生命線」とも言えるインフラ分野などを掌握しつつある。メガプロジェクト「チャンカイ港」は、中国国営企業COSCOが主導する約35億ドルの巨大プロジェクトであり、上海との間をわずか23日で直結するこの港は、南米の物流拠点を一変させる可能性を秘めている。また、首都圏の電力配電の大部分を中国系企業が支配し、世界有数の銅鉱山「ラス・バンバス」も中国資本の管理下にある。これらは有権者の直接的な議論にはなりにくいものの、ペルーの経済構造を根底から中国依存へと変容させている。
一方、米国にとって、ペルーは伝統的なパートナーであり、中国依存のリスクを低減させる戦略的要衝になっている。米国は「サプライチェーンの強靭化(ニアショアリング)」を掲げ、民主主義の価値観を共有する政権への経済的メリットを提示することで、間接的に有権者の選択に働きかけるとみられる。特にEVシフトに不可欠な銅などの「重要鉱物」の安定確保は、米国のエネルギー安保上の最優先事項にもなる。また、ペルーがコカイン生産の主要拠点であることから、米国は麻薬対策を通じてペルー軍や警察と強固な協力関係にあり、治安維持を最優先する候補者にとって、米国の支援や機材供与は極めて強力な政治的資産となり得る。
[サブサハラ・アフリカ(サブサハラ)]
1月13日、世界銀行は「世界経済見通し」を発表し、サブサハラの2026年の実質GDP成長率は4.3%、2027年は4.5%に加速するとの予測を示した。世銀は前回2025年6月の予測時点から、それぞれ0.2%上方修正した。その理由としてサブサハラ域内での投資と輸出の拡大を挙げている。
国別では、域内最大の経済規模を持つ南アフリカの2026年の成長率は1.4%と前年の1.3%から緩やかに回復すると予測。長年にわたり経済活動のボトルネックとなっていた電力、物流分野への新規インフラ投資が進展していることと、それによる供給の改善を見込んでいる。
南アに次いで経済規模が大きいナイジェリアについても2026年は前年の4.2%を上回る4.4%成長との見通しを示した。サービス部門(金融、通信事業)、農業の緩やかな回復、ダンゴテ製油所の本格稼働による石油精製品の輸出等が経済をけん引しているとした。ナイジェリアに次ぐ1億3,000万以上の人口を有する人口大国のエチオピア経済は、依然として債務危機問題に直面しているものの、2026年の成長率は7.1%と堅調な成長が続くと予測している。今回の世銀の発表では、内戦からの復興を仮定した南スーダン(48.8%)のほか、シマンドゥ鉄鉱石プロジェクトの本格稼働が見込まれるギニア(9.2%)、農産品・鉱物輸出が堅調なルワンダ(7.2%)、綿花依存経済からの脱却と多角化を進めるベナン(7.0%)で7%を超える経済成長が見込まれている。
一方で世銀は、サブサハラでは引き続き新興国平均(2026年:4.0%、2027年:4.1%)を上回る経済成長が予測されているものの、サブサハラの一人当たりの所得の成長率は2%程度に留まっており、新興国平均を下回っていると指摘。これは貧困削減に十分な成長率ではなく、サブサハラの急速な労働人口の増加を吸収する雇用の創出も限定的であるため、世界の貧困層の7割がサブサハラに集中していると警鐘を鳴らしている。また、世界的なエネルギー価格や食料価格の低下を受けてサブサハラ各国のインフレ率は低下傾向にあるものの、食料価格は輸送上の制約や気候変動の影響などにより高止まりが続いていることから、人口の約4分の1が食料不安に陥っているとの問題意識も示している。
また、サブサハラの経済成長の見通しは下方リスクが優勢であるとし、(米国の通商政策による)貿易障壁の不確実性の高まる場合、暴力・紛争が拡大する場合、商品価格がさらに下落する場合などは、成長が予測を下回る可能性があるとの見解を示している。なお、米国の相互関税や「アフリカ成長機会法(AGOA)」の失効といった米国の通商政策の変化については、サブサハラの大半の国々は対米輸出依存度が低いため影響は限定的としながらも、米国向け縫製品を輸出するレソト、ケニア、マダガスカルや、自動車を輸出する南ア経済には悪影響をもたらすとしている。
[米国]
1月14日、トランプ米政権は、2025年から実施していた半導体と重要鉱物の232条調査の結果と対応策を発表した。一部の先端半導体および半導体製造装置の輸入には25%の関税を賦課する一方、重要鉱物については供給網の脆弱性を解消するため諸外国との交渉を早急に進めるよう関係当局に指示。交渉が不調な場合、関税導入や輸入価格の下限設定など市場規制措置を検討する方針。
重要鉱物を巡る232条調査は2025年2月に開始され、同年10月24日に商務省が報告書を提出。「加工済み重要鉱物及びその派生製品(PCMDP)」の米国への輸入量や状況において、米国の国家安全保障を損なう恐れがあると結論付けた。PCMDPは米国の防衛産業基盤や軍事技術の優位性、さらに化学・通信・エネルギーなど16の重要インフラ分野に不可欠とされる。
報告書は、外国産資源への過度な依存、信頼性の高い供給網へのアクセス不足、価格変動の影響、国内加工能力の弱体化など、重大な脆弱性を指摘。2024年時点で、米国は重要鉱物12鉱種で100%輸入依存、29鉱種で50%以上輸入依存の状況にある。国内で資源を採掘しても、加工が外国依存では、国家安全保障は護られない。
大統領は商務長官と通商代表に対し、協定交渉開始を指示。重要鉱物取引における最低価格設定などの貿易制限措置も検討対象とした。180日以内に交渉状況を報告し、必要に応じ追加措置(輸入調整や価格規制など)を実施する方針。最終目的は、外国勢力による供給遮断のリスクを低減し、米国内の資源自給体制と産業基盤を再構築することにある。
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