2026年4月15日 (水)
[アルゼンチン/インフレ率への懸念]
3月の消費者物価指数(CPI)は前月比3.4%上昇し、市場予想の3.0%および2月の2.9%を上回った。これは2025年3月以来で最も高い月次インフレ率となっており、物価上昇圧力が根強いことを示している。
原油価格の上昇を背景に燃料価格が前月比7.1%上昇しており、交通費も前月比4.1%上昇しているが、物価上昇は一部の品目に限られず、幅広い分野に及んでいる。また、為替の変動幅も5月には3.4%拡大することから、輸入物価の上昇を通じて全体のインフレ率を押し上げる可能性もある。
ミレイ大統領は最新データの公表後、2025年後半からインフレ率低下の鈍化を認めながらも、インフレ再加速には明確な要因があり、将来的には再び低下軌道に戻ると説明できるとも強調した。しかし、今回のデータは、ミレイ大統領による慢性的なインフレ抑制の取り組みが、足元で停滞感を強めていることを示す。インフレ率の低下ペースは2025年5月に前月比1.5%まで下がった後、再び上昇に転じ、2026年1月と2月には2.9%、3月には3.4%に達している。
現在の年間インフレ率は約33%と、過去の約300%というピークからは大きく低下したものの、依然として世界でも最悪水準の一つとなっている。特に、イランを巡る戦争など国際情勢の緊張によってエネルギー価格が上昇し、物価構造に新たな圧力が加わっている点が懸念されている。
2025年4月に国際通貨基金(IMF)との合意の一環として為替の自由化を進めたことも、インフレを再び上向かせた要因とされ、明確な為替アンカーを失ったことで、物価抑制の軸が弱まっており、インフレ抑制は行き詰まっているとの見方も多い。
生活面への影響も大きく、3月にはアルゼンチンの肉価格が単月で約7%上昇し、食品価格全体も前月比3.4%上昇した。賃金上昇率は2月時点で月約2%にとどまり、インフレに追いついていない。その結果、貧困率は就任直後のピークからは低下したものの、実質的な生活水準は悪化してきている。
こうした状況は世論調査にも表れ始めている。最近の調査では、賃金の停滞や失業への不安が有権者の最大の関心事となっており、ミレイ大統領の支持率は36.4%まで低下している。IMFや世銀は中南米の中では、アルゼンチンの高成長は続くとの見方は崩していないものの、以前よりも成長率を引き下げている。
[IMF/世界経済見通し]
4月14日、IMF(国際通貨基金)は、世界経済見通しを公表した。今回は、通常のベースライン予測とは異なる「参照予測(reference forecast)」という位置づけになった。2026年4月1日時点で入手可能なデータに基づいている。ただし、必ずしもすべてのケースにおいて最新の公表データを反映しているわけではなく、完全版レポートが4月30日までに公開されるとしている。
参照予測の前提条件として、中東紛争期間・深刻度・範囲は限られ、混乱は2026年末までに収束すると仮定された。紛争は今後数週間続くものの、混乱は次第に減衰し、生産や輸出は2026年末までに正常化する。それらを織り込んでいた3月10日時点の商品先物価格や金利と整合的という条件の下で作成されている。
2026年の世界経済成長率は3.1%、2027年は3.2%と予測されている。これらは、2024~25年の3.4%から減速しており、前回1月時点の見通しに比べて2026年は▲0.2ptの下方修正、2027年は据え置きになった。また、2000~2019年平均(3.7%)を下回る低成長が続く見通し。世界の物価上昇率は2026年の4.4%、2027年の3.7%となる。
なお、中東紛争がなかったら、2026年の世界成長率は3.4%と、前回時点から0.1ptの上方修正だった。紛争開始までは、想定以上の成長を見せていたことが主因だった。例えば、デジタル・AI関連投資や貿易が増加していた。米国の設備投資が増加、アジアの輸出が増加した。欧州では、インフラ投資など公的支出が増加したドイツ経済の持ち直しが、下支えになった。中国では内需が弱かった一方で、米国向け輸出が減少したものの、アジアやEU向けが増加した。日本も、消費や投資などの内需が底堅かった。これらの上方修正分も相殺して、中東紛争によって経済成長に下押し圧力がかかっている。
また、混乱が長期化した場合を想定した悪化シナリオと深刻シナリオも試算された。その場合には、世界経済成長率は不況の目安とされる2%まで鈍化する見通し。もちろん、こうしたショックの最終的な大きさは、紛争の期間と規模、エネルギー生産・輸送の正常化に依存していることには注意が必要だ。
[イスラエル・レバノン/約40年ぶりの直接会談の実施]
4月14日、イスラエルとレバノンは米国の仲介のもと、約40年ぶりとなる直接会談をワシントンで実施した。両国は1948年のイスラエル建国以来、形式上は戦争状態にあり、今回の会談は極めて異例のものである。協議はルビオ米国務長官が主導し、両国の駐米大使らが参加、米国が仲介役を担った。米国からは、ウォルツ国連大使およびイッサ駐レバノン大使も出席した。会談は約2時間以上にわたって行われ、今後の直接交渉開始に向けた枠組みづくりが議論された。
背景には、米国とイランの間で成立した不安定な停戦や、深刻化するレバノン情勢がある。会談に臨むにあたり、双方は著しく異なる優先事項を示した。イスラエルは停戦問題の議論を避け、代わりにレバノン側に対してヒズボラの武装解除を強く求めた。一方、レバノンは、これまでに2,000人以上の死者と100万人を超える避難民を生んだ戦闘の即時停止と、人道危機の緩和を強く訴え、両国の立場の隔たりが鮮明となった。
それでも両国は会談を「建設的」と評価し、今後も協議を継続する意向を示した。ただし、次回協議の具体的な日時や場所については言及されなかった。ルビオ米国務長官も、「我々は、数十年にわたる歴史と複雑な事情に向き合っていることを理解している」と述べ、今回の協議を単発のものではなく、長期的なプロセスの一環として位置づけ、和平への足がかりとしたい考えを示した。もっとも、今回の会談では具体的な合意には至らず、実質的な進展には相応の時間を要する見通しである。
一方、現地では依然として戦闘が続いている。ヒズボラは交渉に反対する姿勢を示しつつ攻撃を継続し、イスラエルも空爆を続けている。トランプ政権がイスラエルに対し、レバノンへの攻撃を縮小するよう促しているとの報道もあり、ルビオ国務長官の今回の会談への出席は、米国政府が事態の進展を望んでいる姿勢を示すものと受け止められている。ただし、専門家の間では、今回の会談が実質的な和平につながるかについては懐疑的な見方も根強い。中東情勢は依然として緊張が高く、今後の追加協議の行方が注目される。
[サブサハラ/経済見通し]
4月14日、国際通貨基金(IMF)は「世界経済見通し(2026年4月)」を発表し、サブサハラ・アフリカ(以下、サブサハラ)の2026年の実質GDP成長率は4.3%との見通しを示した。中東紛争発生前の1月時点の4.6%の予測から、0.3pt引き下げられた。2027年の成長率については4.4%で、0.2ptの下方修正となった。サブサハラは依然として新興国平均の3.9%(2026年)の上回る成長が見込まれているが、中東情勢の緊張が長期化するほど経済への悪影響は拡大するとみられる。
成長率を国別にみると、域内最大の経済規模を持つ南アフリカ(南ア)の2026年の成長率は1.0%と、1月時点の1.4%から0.4pt下方修正された。南アは原油・石油の純輸入国であり、約7割を中東諸国から輸入しているため(2024年国連貿易統計)、ホルムズ海峡封鎖の長期化はエネルギー価格の高騰を招き、経済の押し下げ圧力となる。域内2位の経済規模を持つナイジェリアの2026年の成長率は4.1%と、1月の4.4%予測から0.3pt減となった。産油国のナイジェリアは油価高騰により原油・石油輸出の恩恵を受ける一方で、2023年に燃料補助金を廃止したことにより国内のガソリン等エネルギー小売価格が世界的な市況に連動するため、インフレ圧力になるとみられる。
南アとナイジェリア以外のサブサハラの国々のデータは、2025年10月のIMF発表データが直近の比較指標となるが、2026年の成長率が上方修正された国には金輸出が好調なエチオピア(9.2%、2.1pt増)、産油国のアンゴラ(2.3%、0.2pt増)、リチウム輸出が拡大するジンバブエ(5.0%、0.4pt増)、ダイヤモンド依存経済からの多角化を図るボツワナ(4.7%、2.5pt増)などがあった。
しかし、下方修正された国々が全体の約6割を占め、内戦が続くスーダン(0.7%、▲8.8pt)、スーダン内戦の影響により原油生産の回復が遅れている南スーダン(4.1%、18.2pt)、内陸国のため油価高騰が銅などの鉱業生産に悪影響を及ぼすとみられるザンビア(4.3%、▲2.1pt)、液化天然ガス(LNG)開発と財政再建が遅れるモザンビーク(0.5%、3.5pt)、そして非開示債務の発覚により債務返済に苦しむセネガル(2.2%、▲0.8pt)となった。全体的に、エネルギーの純輸入国であり、中東産の石油輸入の依存度が高い東アフリカでは、主要国のケニア(4.9%、▲0.4pt)、タンザニア(5.9%、▲0.4pt)、ウガンダ(7.5%、▲0.1pt)などを含め下方修正が目立った。
また、サブサハラのインフレ率については、2026年が8.8%、2027年も8.8%と、2025年10月時点のそれぞれ10.9%、8.9%から引き下げられた。しかし、中東情勢の緊張が長期化すれば、エネルギー価格や食料、肥料価格の高騰を招き、サブサハラ全体のインフレを加速させる恐れがある。IMFによる「サブサハラの地域別見通し」については4月16日に発表される予定だ。
[シンガポール/マクロ経済情勢]
4月14日、シンガポール貿易産業省は、2026年第1~3四半期の実質GDP成長率が4.6%であったと公表。2025年第4四半期の5.7%から大きく減速した。またBloombergが公表したコンセンサス予想(5.8%)からも大きく減速した形となった。特にGDP全体の約20%を占める製造業の伸び率が5.0%と、2025年通年の8.7%から大きく減速したことが響いた。特に製造業の中でも、石油・精密化学やバイオ医薬品産業が低迷した。
シンガポールは原油・ガスについては純輸入国である一方で、石油は純輸出国である。原油は約5割を湾岸諸国から輸入しているほか、ガスは約15%を依存している。また電力供給の9割以上を天然ガスに依存している。ガスについては、これまでの調達先多様化努力もあり湾岸諸国への輸入依存度が特段高くはない。そのため供給途絶リスクは高くないと考えられるが、市況価格高騰が電力価格高騰に繋がることでインフレをもたらすほか、輸出産業の競争力低下に繋がることが懸念される。4月1日には、政府系の電力ガス企業であるSPグループが家庭用電力料金を2.1%引き上げたほか(1キロワット時当たり27.27Sセント(約34円)、産業用電力料金も1.6%引き上げた(小口需要家向けが1キロワット時当たり24.16Sセント、大口需要家向けが23.94Sセント)。
これにより、シンガポールの全電力需要の約7%を消費するデータセンター事業や半導体製造装置事業などエレクトロニクス産業(製造業全体の約4割を占める)の競争力が低下することが懸念される(The Business Times、2026年4月6日付記事)。
シェルやエクソンモービル、ペトロチャイナとシェブロンの合弁会社であるシンガポール石油精製会社(SRC)などが主にシンガポール南部のジュロン島に石油精製施設を保有しており、輸入した原油を精製している。また石油の主要輸出先としてインドネシア、マレーシア、オーストラリア、中国、ベトナムなどアジア大洋州諸国が挙げられる。そのため、湾岸諸国からの原油輸入途絶が石油製品生産低下に繋がり、それが最終的にはアジア諸国への供給途絶に繋がることが懸念される。
例えばオーストラリアは精製能力不足より国内の石油消費量の約8割を輸入に依存しているが、輸入の約2割をシンガポールに依存している。かつ同国はガソリン・軽油・ジェット燃料の備蓄日数がそれぞれ38日分・31日分・28日分とIEA加盟国の中でも圧倒的に低く、石油製品の供給途絶が懸念される。既に国内のガソリンスタンドでは、人口の特に多いニューサウスウェールズ州を中心に多数のガソリンスタンドにおいてレギュラーガソリンの在庫が不足するなど、影響が顕在化している。
これらを踏まえ、4月10日にローレンス・ウォン首相はオーストラリアのアルバジーニー首相と会談を実施し、オーストラリアからシンガポールに対して液化天然ガス(LNG)を(シンガポールはLNG輸入の約3割をオーストラリアに依存)、逆にシンガポールからオーストラリアに対しては軽油など石油を安定供給し続けることを確認するなど、シンガポール産原油の供給確保に向けた動きを加速させている。
4月14日、金融通貨庁(MAS)はシンガポールドル名目実効為替レートの政策バンドの実勢上昇率(傾き)をやや急にすると公表した。これは、実質的な金融引き締め政策である。引き締めの理由に関し、MASは原油・石油・ガス価格高騰によるインフレ懸念を挙げた。
[中国/資源系国有企業の行動変化]
2026年3月、中国政府は電力・石油石化・石炭などの資源系央企(中央国有企業)に対し、納税後利益の上納比率を従来の20%から最大35%へ引き上げた。これは2007年の制度再開以降で最大の調整であり、国有資本の回収強化と企業の経営効率改善を狙う措置と位置付けられる。この変更に伴い、現場の企業には大きな影響が出ていると中国紙『経済観察網』が報じている。
まず投資面では、可処分利益の減少により投資余力が縮小し、従来の規模拡大路線から収益・効率重視への転換が迫られている。国内のエネルギー安全保障や低炭素分野など戦略性の高い案件は維持される一方、海外の非中核的プロジェクトや収益性の低い事業は延期・中止の対象となる。投資判断はより厳格化し、四半期ごとの見直しや社会資本の導入など、資金調達の多様化も進められる。
海外M&Aでも変化がみられる。これまで主流だった資源権益の経営支配権獲得のための株式取得や大規模投資は見直され、キャッシュフロー重視の観点から、少数出資や提携、技術輸出など資本負担の軽い形態へシフトし始めている。実際に、インドネシアの大型石炭プロジェクトが取締役会直前で延期されるなど、意思決定は一段と慎重化している。
財務面では、利益上納の増加で手元資金が減り、借入を活用した投資拡大が難しくなる。負債率には上限があり、収益性や財務安全性を満たす案件に投資は絞られる。実務上は「上納後の残余利益の範囲で投資する」という規律が強まり、企業は投資を抑えるか、制約の中で借入を増やすかの選択を迫られることになる。
政府側は、こうした措置を通じて央企の無秩序な拡張や多角化を抑え、主業への集中と資本効率の向上を促す考えである。一方で上納額の「一律引き上げ」の負担も認識しており、高負債企業への配慮や戦略投資への補完など、差別化・動態的な調整制度の導入も検討されている。今回の政策の主な目的の一つは、央企の経営モデルを量的拡大から質的成長へ転換させることにある。
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