2026年4月23日 (木)
[エリトリア・米国/関係修復か]
米WSJ紙は、トランプ政権がエリトリアとの関係修復に向けて同国への制裁解除を検討していると報じている(4月22日付記事)。1993年のエチオピアからの独立以来、イサイアス大統領による長期独裁政権が敷かれているエリトリアは、強制徴兵や人権侵害、反対派の弾圧などの国際的な批判を集めてきた。米国はバイデン前政権下の2021年に、エチオピア北部でのティグライ紛争において、エリトリア軍(EDF)や、エリトリア唯一の政党・民主主義と正義のための人民戦線(PFDJ)、PFDJのビジネス部門などが人権侵害に関与したとして同機関などに経済制裁を課した。
しかし、イラン情勢を受けてホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、代替ルートとして紅海~バーブ・エル・マンデブ海峡の航路の重要性が高まる中、米国は紅海に面するエリトリアとの関係修復に動いているとの見方をWSJは示している。
仏Jeune Afrique誌の姉妹紙であるAfrica Reportは、イラン情勢が緊迫する前から、米国がエリトリアへのアプローチを進めていたことを報じている(2025年10月1日付記事)。同紙によると、2025年9月にトランプ政権のアフリカ担当上級顧問のマサド・ブーロス氏がエリトリアのオスマン・サレー外相との会談を実施。トランプ政権第1期ではエリトリアとの関係改善が進められていたことから、再びトランプ政権となったことを受け、関係修復を試みているとの見方を示している。エリトリアはかつてアラブ首長国連邦(UAE)がイエメンのフーシ派対策のために軍事基地として利用していたアッサブ港を有するほか、金、銅、亜鉛、カリウムなどの鉱物資源にも恵まれているが、これまで米国企業の投資は限定的だった。
また、ロンドンに拠点を置くMiddle East Eye紙によると、エジプトがエリトリアとサウジアラビアとの連携強化のために仲介に乗り出しているとのこと(2月6日付記事)。同紙によれば、エジプトはナイル川上流にある巨大ダム建設をエチオピアが一方的に続けていることに反発しているため、ティグライ紛争終結以降、エチオピアとの関係が悪化しているエリトリアを自陣に引き込もうとしているとの見解を示している。エジプトは、紅海周辺の情勢安定化を望むサウジアラビアを巻き込むことで、豊富な資金を持つサウジアラビアからエリトリアに対する支援を期待しているとみられる。トランプ政権はナイル川問題でもエチオピアではなく、エジプトを支持する姿勢を取っており、イスラエル・ガザ紛争でも米国はエジプトとサウジアラビアを重要な同盟国として位置づけている。そのため、エチオピアと、経済・軍事面でエチオピアを支援するUAEをけん制するためにエジプトとサウジアラビアがエリトリアとの関係強化に動く中で、米国がエリトリアとの関係修復を進めようとする動きは理にかなっているともいえる。
なお、ティグライ紛争ではエリトリアと、反エチオピア勢力の「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」は武力衝突した。しかし、1991年にエチオピアの社会主義政権を打倒した際には、TPLFと、PFDJの前身である「エリトリア人民解放戦線(EPLF)」は共に戦った同士である。人口約350万(2024年、世銀)のエリトリアの多数派はティグライ人であり、イサイアス大統領もティグライ人だ。1991年にエリトリアが分離独立した際にEPLFは解散、PFDJに改変されたのち、現在に至るまでイサイアス大統領が統治を続けている。一方で、TPLFもエリトリア分離後のエチオピアを2018年まで主導的な立場で統治してきた。しかし、その間、両者は1998年~2018年まで国境線確定をめぐる紛争で衝突(エチオピア・エリトリア国境紛争)。その一方で、ティグライ紛争後には再びTPLFとエリトリア(イサイアス政権)は協力関係に転じ、エチオピア政府と対立するなど、両者は過去数十年にわたり協力と敵対を繰り返す不安定な関係が続いている。
[アルゼンチン/選挙制度見直し]
ミレイ大統領は、国家の抜本的改革の一つとして、選挙制度の見直しを打ち出しており、4月22日にコスト削減、透明性の向上、党の規則強化、特に予備選挙(PASO)の廃止を含む法案を提出した。ミレイ政権が問題視しているのは、現在の選挙制度が既存政党に有利に働き、政治の硬直化が生まれている点や、公費の無駄遣いがおきている点となっている。
現行制度では、下院議員は州単位の比例代表制によって選出され、政党が作成した名簿の順位によって当選者が決まる。この仕組みについてミレイ大統領は、党内の力関係が政治家の命運を左右しているとして、比例代表制から小選挙区制へ移行させる構想を打ち出している。ただし、この制度変更については与野党間で意見の隔たりが大きく、現時点では構想・提案段階にとどまっている。
一方、PASOについては、すべての政党が同じ日に予備選挙を行う独自の制度だが、運営に多額の公費が必要となり、2023年の選挙の際には3,000万ドル以上が費やされていた。ミレイ政権はこれを費用対効果の低い制度と位置づけ、財政赤字削減の観点から廃止を目指している。また、各政党が独自に印刷・配布してきた投票用紙の代わりに、政府が発行する単一の投票用紙に一本化する案も提示されている。これにより、不正防止とコスト削減の両立を図る狙いがある。
さらに、政党に対する公的資金援助を縮小し、政党運営や選挙活動を民間寄付により近づける方針も示されている。ミレイ大統領は、税金によって既存政党が温存されてきた状況こそが特権階級(カースト)を生み出してきた原因であると主張しており、選挙制度改革はその解体を目的とするものだとしている。
もっとも、これらの改革には明確な利点と同時にリスクも存在する。小選挙区制が導入されれば、有権者と議員の距離が縮まり、説明責任が強まる可能性がある一方で、小規模政党や少数意見が議会に反映されにくくなるとの懸念がある。また、予備選の廃止や公的助成の削減は財政効率を高める反面、資金力や知名度のある候補者が有利になる。特にペロン派を中心とする野党連合は、意見を一本化するための公的な調整の場を失い、組織力の高い与党が有利になるとして強く反発している。
2026年現在、下院では改革推進に向けた追い風があるものの、上院では依然として過半数を確保できていない。そのため、PROなどの中道右派勢力や地方政府との妥協と合意形成が、法案成立の条件となっている。
[スペイン/外国人材による労働力確保]
スペインでは各地の政府窓口に長蛇の列ができていると米CBSが報じている。これは、50万人の不法滞在者が合法的な地位を得ると見込まれる新たな恩赦プログラムの申請受付が開始されたためだ。既に国内経済を支える労働者として定着している実態を踏まえ、合法的な就労と社会保障の枠内に組み込むことで、労働力不足と高齢化に対応する狙いがある。一方、議会審議を経ない制度導入となっていることや、さらなる移民流入を誘発するプル効果への懸念から、国内での政治的な対立は激しく、EU内でも政策評価は分かれる。
例えばイタリアでは農業や介護などの分野限定で正規化を進め、入国枠を拡大している。ポルトガルは政権交代があったことでビザ要件は厳格化へと方針転換が図られた。ドイツでは熟練労働者の受け入れを加速させるなど長期滞在者の段階的救済を進めている。経済活動へ貢献できる層には門戸開放し、それ以外の外国人労働者には厳しく対応という方針を取っており、スペインの政策は独特だ。いずれにしても、外国人材への対策はこれまでのような「取り締まり」か「包摂」か、といった二択の局面は過ぎ去っており、既存労働力の実態把握と制度統合をどのように設計するかが課題となっている。日本でも国内労働力だけでの人手不足対応には限界があるため、スペインをはじめとした欧州の事例は現実的選択肢を設定していく上で示唆に富む。
[中国/鉄鉱石契約交渉妥結]
中国で鉄鉱石の集中購買を担う国有企業・中国鉱産資源集団(CMRG)と資源大手BHPの鉄鉱石契約交渉がようやく妥結した。契約期限は2027年6月までで、供給量と価格体系を定めているもようだが、詳細は非公表。
西オーストラリア州の主要鉱山では鉱床の老朽化に伴い、採掘される鉱石の平均的な品位(鉄含有率)が低下傾向にある。これを受け、鉱山会社や価格情報会社は品質基準を従来ベンチマークとされてきた鉄分62%から順次引き下げている。また、中国企業が出資するギニアの大型鉱山が稼働を開始したこと、中国の粗鋼生産が減少傾向にあることも重なり、鉄鉱石契約を巡る交渉は複雑なものとなった。
中国は価格引き下げや人民元建て決済などを求め、2025年9月以降、BHP製の特定鉄鉱石ブランドの購入を非公式に停止するなどして圧力をかけていたとされる。しかし4月に入り、BHP幹部の訪中後に「雪解けの兆し」が報じられており、今回の合意発表に至った。
BHPの生産報告によると、中国向け販売が減少した鉱山からの出荷量は減少したが、他の鉱山の増産で相殺し、2026年度通期の生産ガイダンスは据え置いた。他国への値引き販売で実現価格が低下することも懸念されたが、2026年1-3月期の販売価格も小幅高となった。
4月23日現在、シンガポール商品取引所(SGX)で鉄鉱石先物は1トン106ドル台で堅調推移。BHPブランドの価格も堅調に推移している。
[ロシア/出版大手に対する取り締まり]
ロシア最大の出版グループ「エクスモ(Эксмо-AST)」の経営陣が「過激主義組織の活動組織化」を理由に刑事捜査の対象となった。2026年4月21日、ロシア連邦捜査委員会はエクスモ社CEOエフゲニー・カピエフら幹部を、刑法282.2条(過激主義組織の活動組織化)に基づき取り調べた。問題とされたのは、同社傘下の出版社Popcorn Booksが刊行した若者向け恋愛小説で、当局はLGBTテーマを理由に「過激主義的内容」と判断。Popcorn Booksは2026年1月に閉鎖されている。直ちに国有化や事業接収に至る公算は大きくないものの、刑事責任リスクの顕在化により、出版・文化産業における自己検閲と政治リスクは一段と強まる可能性が高い。業界関係者の見方では、今回の動きは出版事業そのものの接収というより、2025年に立件された事件を「結果を伴って終結させる」ための捜査エスカレーションと位置づけられている。エクスモはロシア書籍市場で約2割のシェアを持つが、事業構造が複雑で、直接的な国有化は現実的でないとの指摘が多い。
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