デイリー・アップデート

2025年9月2日 (火)

[アルゼンチン] 

9月1日、中央銀行は預金準備率を最大53.5%に引き上げる金融引き締めをおこなった。経済の安定を図る目的で実施されたものの、経済的・政治的なリスクを高める要因となっている。今回の引き締めは、ミレイ大統領の妹であり首席補佐官でもあるカリーナ氏に関連する汚職疑惑の浮上により、為替レートがさらに下落したことを受けて実施された。

 

金融引き締めの影響はすでに景気回復を妨げている。経済活動は5月に前月比0.2%減速し、6月には0.7%の減速を記録した。これは2024年4月以来初めて2か月連続の減速となった。実質賃金の停滞と失業率の上昇による民間消費の鈍化、ならびに通貨高が響いた。民間予測では、7月もこの傾向が続いたとされている。急激な通貨安はインフレ抑制の取り組みに逆風となる。金利の上昇はミレイ大統領の経済政策の柱にもなっている財政黒字を阻むことになる。また、経済状況の悪化は政策を実行する上でのリスクを高め、税制・労働・年金改革の進展を阻む可能性もある。

 

中央銀行は過剰流動性がドル需要やインフレを助長すると懸念し、短期貸出金利を6月の32.6%から8月末には74.6%へと引き上げた。しかし、選挙を控えた不確実性の中で、金利引き上げは金融資産の売り圧力を抑えることができず、為替レートは1米ドル=1,377ペソまで上昇した。

 

8月13日の国債入札では、政府が15兆ペソの借り換えを試みたが、ロールオーバー率は61%にとどまり、投資家の信頼回復には至らなかった。中央銀行はさらに預金準備率を引き上げ、現金預金は45%から50%、マネーマーケットファンドは40%から45%へと変更された。準備金の計算方法も変更され、未達成時には罰金が科されることとなった。

 

銀行は新規発行の政府証券を活用して準備率を引き上げたが、これにより流動性を減少させたことから、民間向け融資の拡大とは逆行する結果となった。

 

金融引き締めの影響で、8月第3週までに民間M2(現金通貨と預金通貨の合計)通貨供給量は前月比10%減少した。企業が利用する短期貸出金利は86.36%に急騰し、民間向け貸出は実質的に減少している。

[ケニア] 

8月22日、格付け大手・S&Pグローバルはケニアの長期ソブリン信用格付けを「B-」から「B」に引き上げた。見通しは「安定的」で、短期ソブリン信用格付けは「B」に据え置かれた。

 

S&Pは2024年6月に発生した反増税大規模デモを受けて政府が増税を見送ったことから同国の格付けを「B-」に格下げしたが、約1年で「B」に再び引き上げた形だ。S&Pは格上げの理由として、短期的な対外流動性リスクが低下したためと述べている。主要農産品であるコーヒー輸出の拡大と在外ケニア人(ディアスポラ)からの海外送金の流入により経常赤字は2023年の対GDP比2.6%から、2024年には同1.3%に縮小。外貨準備高は2023年末の66億ドルから、2025年7月には112億ドルに達し、過去最高の水準にあると国際収支の改善を評価した。

 

ケニア政府は2月に2027年満期の5億8,000万ドルのユーロ債の買戻しのために、15億ドルのユーロ債を起債(クーポン9.5%)した。これにより対外債務返済総額は2026年6月末で27億ドル、2027年末で38億ドルに減少したことから、S&Pは返済リスクが低下したとしている。

 

S&Pの格上げの発表を受けて、ケニアの2018年起債の10年物ユーロ債(10億ドル)の利回りは7.42%から6.86%に低下。米経済誌Forbesはケニアのユーロ債はロンドンとアイルランドの債券市場で総額74億ドルが取引されているが、この利回りの低下により2億2,000万ドルの債務返済コスト削減効果が生じたと報じている。

 

一方でS&Pは、ケニアの公的債務総額(2024年時点で790億ドル、IMF)のうち過半を占める対外債務(同410億ドル)は依然として大きいと指摘。国際通貨基金(IMF)や世界銀行からの譲許的な融資提供が停止している中で、対外債務返済のために非譲許的なアラブ首長国連邦などからの融資(5億ドル、金利8.25%)や金利の高い国内資金調達(利下げサイクルにあるものの政策金利は9.5%)に依存せざるを得ない点を指摘。政府の歳入に占める利払いの割合は2025年会計年度で34%に上り、S&Pがソブリン信用の格付けを行う国の中でもっとも高い水準だと警鐘も鳴らしている。

 

なお、ケニアは8月20~22日に横浜で開催された「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」のタイミングにあわせ、日本貿易保険(NEXI)との間で最大250億円の円建て融資(サムライローン)のクレジットライン設定に関する合意を締結した。ケニア政府として低金利融資の調達多様化を進めたい狙いがうかがえる。

[米国/パレスチナ] 

米紙ニューヨーク・タイムズは8月31日付で、パレスチナ・パスポート保持者に対するほぼすべての種類の米国訪問ビザの発給が包括的に停止されたと報じた。新たな措置は、医療目的、大学留学、親族や友人訪問、ビジネス出張など多岐にわたるビザに影響を及ぼす。元米国当局者は、この措置は実質的にパレスチナ人のビザ申請を全面的に拒否するに等しいと指摘している。パレスチナ自治政府のアッバス大統領は、深い驚きと遺憾を表明し、トランプ政権に対し措置の再考と撤回を求めた。

 

背景には、7月以降にフランス、カナダ、ポルトガルなど複数の国が、9月下旬にニューヨークの国連本部で開催される第80回国連総会の場でパレスチナを国家として承認すると表明したことがある。これに対し、イスラエルとその支持国である米国は公然と反発しており、両国がパレスチナ人に国連総会での発言機会を与えず、イスラエル批判や国家承認の機運を抑え込もうとしているのではないかとの見方が広がっている。

 

現在までに国連加盟国147か国がパレスチナを国家として承認しているが、G7を含む主要先進国は一貫して承認を拒んできた経緯がある。その中で、カナダやフランス、英国などが一部条件付きとはいえ国連総会でのパレスチナ国家承認に言及したことは、象徴的かつ意義深い動きといえる。

[米国] 

9月2日より、夏季休会を終えた連邦議会の審議が再開する。上下両院において多数党を占める共和党が、まず優先して取り組むべき案件は、2026年度予算の可決である。だが、10月1日の新年度開始までに、すべての歳出法案を可決できる可能性はほぼ無いため、前年度予算をベースに歳出を継続するつなぎ予算を可決し、連邦政府閉鎖を回避する必要がある。現在、下院においては、共和党219議席、民主党217議席という構成で、与野党勢力は拮抗している。さらに9月には空席を埋めるための補選が二つ予定されており、いずれも民主党有利とみられ、下院共和党の立場はさらに厳しくなる見込み。議会は、歳出法案のほかに、エプスタイン事件情報公開、犯罪対策法案、議員による株取引規制などにも取り組むことが期待されている。

[上海協力機構(SCO)/ロシア] 

8月1日、プーチン大統領は、中国・天津で開かれたSCO首脳会議で演説し、SCOが「真の多国間主義」を体現しており、「時代遅れの欧州中心モデル、欧州大西洋モデルに取って代わるものだ」と主張した。ロシアによるウクライナ侵略についても、危機を招いた責任は欧米諸国側にあるとして改めて正当化した。

 

プーチン大統領は、ウクライナ危機の責任は、同国の親ロ派政権を崩壊させた2014年の「クーデター」を支援した欧米諸国と、この「クーデター」を支持しなかった親ロ派住民らを武力で鎮圧しようとしたウクライナにあるとの持説を展開した。また、欧米諸国がロシアの安全を無視し、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させようとしたことも「危機の第2の要因」になったと主張した。

 

プーチン大統領は、SCO首脳会議への出席のほか、インドのモディ首相やトルコのエルドアン大統領などとの2国間の首脳会談も行った。天津での日程を終えた後、北京に移動し、9月2日に習近平国家主席と5月以来となる本格的な会談に臨む予定。

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